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■5737 / inTopicNo.21)  鎮雛・21
  
□投稿者/ 葉 一般人(35回)-(2009/04/24(Fri) 10:23:19)
    枕元に、沙耶は刀だけは置いていた。
    「私がこれを抜いたら、体に布団を巻きつけなさい。危ないから…」
    そう言われても、怖くはなかった。私は沙耶の肩に頭を預け、昼間の続きの唇を額から頬、頬から唇の順に受け入れた。
    沙耶は私を壊れ物のように扱った―――キスを繰り返しては私の目を覗き込み、これ以上進んでいいのかと目で尋ね、決して性急な動きはしなかった。
    「―――お願い…」
    首筋に唇が降りた時、こらえ切れずに私は両腕で沙耶の背中を抱え込む。着慣れぬ浴衣の生地の下、下着を着けていない素肌は既に火照りきっていた。
    「…あっ……」
    首筋を唇と舌で丹念になぞりつつ、沙耶の手が生地の上から乳房を包んだ。手の平でやんわりと撫でさすられ、糊のきいた生地が乳首をこすり、その快さに私は身をよじる。
    「あ……あぁ…」
    「―――大丈夫?」
    気遣わしげに顔を上げて沙耶が聞く。私はしきりに頷き、両膝を立てて沙耶の身体を挟み込んだ。
    「おかしく…なりそう…」
    これまで経験してきた露骨な快楽優先の愛撫とは違い、優しく穏やかな愛撫であるが故に、私は早くも乱れ始めていた。
    「ああ―――こんなの……あ…」
    首筋や耳の後ろに吐息と唇を感じ、浴衣の生地を押し上げる乳首に指を感じる。そこを軽く指が往復するだけで、体が芯からとろけ出す。
    「……んっ…ああ…あ…」
    浴衣の襟元が緩められ、そっと開かれる。沙耶はそこに顔を埋め、熱く張りを持つ乳房を口に含んだ。
    「ああっ―――」
    舌先が乳首を捉え、ゆっくりと転がす。それを左右交互に繰り返し、濡れそぼった乳首をさらに敏感に、硬くする。
    「……あっ、あっ、あ……はあ…ん」
    「―――可愛い」
    沙耶は体をずり上げて私の顔を覗き込み、唇を塞ぐ。
    私も夢中になってそれに応え、舌と舌を絡ませる―――泣きたいほどの切なさが胸を締めつけ、涙がにじむ。
    「どうしたの」
    沙耶は唇を寄せて涙を吸い取り、しがみつく私をゆったりと抱え込んだ。
    「…分からない」
    両腕と両膝で沙耶を放すまいと強く抱き締めながら、私は喘いだ。
    「分からないけど…」嬉しいのだと答える前に、再び唇を塞がれた。
    浴衣の腰紐が解かれ、脇をすくい上げられ、同じように身を起こした沙耶の膝に乗せられる。
    「………あっ!」
    沙耶の肩に頭を預け、私は身体をこわばらせる。はだけた裾に手が滑り込み、潤んだそこに指が触れた。
    「ああ―――ふ……」


    (携帯)
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■5739 / inTopicNo.22)  鎮雛・22
□投稿者/ 葉 一般人(36回)-(2009/04/24(Fri) 15:53:39)
    濁った音を聞くまいと、私は沙耶の首筋に顔を埋めた。沙耶の片手が髪を撫で、もう一方が体の芯の周りを探り、溢れる蜜をすくい上げる。
    「……あ、あっ―――」
    腰が震え、じっとしていられない。体の芯が弾けんばかりに膨れ上がり、強く脈打つのが分かる。
    「ああ……」
    身体を反らして沙耶の頭を抱き締めると、乳首を唇に含まれ甘く噛まれる。
    「駄目―――もう…」
    この姿勢でいられないと体で訴えると、優しく布団に降ろされ乳房に顔を埋められた。
    乳首と秘部を同時に愛撫され、私は無意識に膝を開く。沙耶は唇を滑らせながら身体をずらし、熱い息が下腹の、さらに下に降りていく。
    「―――ああ……」
    内腿を手の平で撫でられ、優しく開かれる。私は自分から腰を浮かせて愛撫を求めた。
    「あっ!―――や…」
    熟しきった芯に唇が触れ、離れてはまた触れる。
    「……あ…はあ…あ…いい…」
    唇に包まれ、軽く吸われ、舌でゆっくり撫でられる。
    激しく責め立てられるのとは全く違う。とろけてしまう―――蝋燭の蝋のように、自分が溶けてなくなってしまうような感覚だった。
    「や……いやぁ…」
    私は身をよじり、腰をくねらせる。沙耶の舌が熱いのか、絶えず溢れる自分のそこが熱いのかもう分からない。
    「―――っ……!」
    叫んだつもりだが声も出ず、全身を仰け反らせて私は果てた。


    「―――大丈夫…?」
    思いのほか柔らかい胸に抱き込まれ、額に唇を感じながら私は頷いた。
    腰から下は、甘く痺れたままで感覚がない。再び愛撫されたらすぐに逝ってしまえるほどにまだ息づいている。
    「あなたは……」
    ほとんど裸の私に反してあまり着乱れていない沙耶の胸元に手を添えると、彼女は小さく笑ってそれを押さえた。
    「…私はこれでいい性質なんで。それより―――」
    忘れていたでしょう、と沙耶は言った。
    身を起こし、私に向ける背中に赤い染みができていた。
    「……私が?」
    私は動転し、その襟をはだけて飛びつく。左の肩の少し下に、5センチほどの深い掻き傷ができていた。
    「あなたはそこまで激しくなかった」
    沙耶は悪戯っぽく笑い、浴衣を直した。
    真弓か、他の何かか分からないが、何かが来ていた…


    それから三日間は何もなかった。
    その間に私は土地や建物の登記を済ませ、俊江尼に伴われて村の主だった人々への挨拶回りや義理事について聞き回り、慌ただしく過ごした。
    沙耶は夥しい収蔵品の分類と記録を殆ど済ませ、目録の清書に入っていた。

    (携帯)
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■5740 / inTopicNo.23)  鎮雛・23
□投稿者/ 葉 一般人(37回)-(2009/04/24(Fri) 23:28:42)
    沙耶は手が空くと仏事の準備(母の一周忌が近いのだ)や心得について私に教え、私では捌き切れない法的な手続きについて説明し、助言してくれた。
    「何か分からなくて庵主さん達に聞きづらい事があれば、連絡してくれればいいから」
    そう言われた時、私はひどく安心した。このまま仕事を終えて帰ってしまったら、二度と会えないような気がし始めていたからだ。


    そんな折に、来客があった。
    「袋師の高岡と申します」
    沢山の荷物と共に丁寧に頭を下げたのは、まだ二十歳前にしか見えない華奢な少女だった。
    「白藤堂はんに呼ばれて参じました―――おられますか?」
    「ああ、六」
    奥から出てきた沙耶は『りく』と呼びかけた。


    「―――お寺さんに納めはるとお聞きして、なるたけおとなしいのんを選って来ましたが…」
    畳に並ぶ生地―――古代裂と呼ぶそうだが―――を見て私は溜め息を漏らした。
    色の濃淡さまざなな布地に金糸銀糸で花や紋様を縫い留めた生地はどれも華麗で、それでいて華美ではなかった。
    「……お高いんでしょうね」
    思わず本音が口をつく。これは振袖や打掛でなく、能狂言の装束に使われる類いの生地ではないのか。
    「とんでもない」
    若い職人の少女は笑って首を振る。
    「吉崎はんのお友達からお金を頂くわけには参りまへん。うちの姉が、日頃からお世話になってますし」
    「…お姉さん?」
    「へえ、しがない物書きですけど、仲良うして頂いてます」
    私は傍らの沙耶を振り返った。
    「PS3の……?」
    「それはまた、別の―――」
    沙耶が肩をすくめると、少女がにっこり微笑んだ。
    「PS3て、映画みたいに画像が綺麗ですなあ。おかげで姉はん、一緒に帰って来るつもりが名古屋に居残りで」
    「―――は?」
    沙耶はぽかんと口を開いた。
    「まさか、そっちにまで電話…」
    「はあ、佳乃はん困っといやしたから。ちょうど姉はんも締め切り済んで、暇してはったし」
    「たかがゲームの接続に、京都から名古屋まで?」
    「へえ、青春18きっぷ使て―――これ、二十歳過ぎでも使えるんどすなあ」
    沙耶は力が抜けたように首を振った。
    何だか分からないが、初めて見る表情だった。
    「―――あ、吉崎はん」
    少女は思い出したように畳に置いたショルダーバッグからA4サイズの茶封筒と、それからもう一つ、長い筒型の袋から取り出したものを沙耶に差し出した。
    「お店の人から預かって来ました。書類は、今朝早うに届いたそうどす」


    (携帯)
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■5742 / inTopicNo.24)  感想
□投稿者/ 美夏 一般人(1回)-(2009/04/25(Sat) 00:08:52)
    一気に読んでしまいました。
    すごく面白いです!
    ぜひ続きをお願いします^^
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■5743 / inTopicNo.25)  鎮雛・24
□投稿者/ 葉 一般人(38回)-(2009/04/25(Sat) 00:34:22)
    だが、次に沙耶が長い包みから取り出したのが刀だと分かった途端、私はそちらに気を取られた。
    何となく持ち方で分かる。これは、沙耶の刀だ。
    「銃刀法違反させて悪いね、六」
    「退屈しませんでしたわ。姐はんも御機嫌やったし」
    少女はにこにこ笑っている。沙耶は見つめる私に笑いかけ、
    「やっぱり、自前のでなきゃ勿体無くて」
    と呟いた。
    「青江次吉作 通称『女斬り』……これが八代山田浅右衛門吉亮の最後の刀です」
    「えっ……?」
    私は息を飲んだ。
    「お伝姐はん、やる気満々どすえ」
    少女が口を添える。
    私は呆気に取られ、沙耶の持つ刀―――先に検分して貰ったものよりずっと地味な拵えの―――に目を落とした。
    「じゃあ、最初から分かってたのね?」
    「村井鑑定士の面目もありますから」
    沙耶は刀を袋にしまい、席を外した。


    雛人形を目にした少女は、「うわあ…」と無邪気な感嘆の声を漏らした。
    「きれいなお雛様どすなあ…こんな綺麗なの、初めて見ますわ」
    そうやなあ―――と少女はひとりごち、「桜がええかなあ…出家しはる言うたかて女雛様やし、おはなむけやし…」
    と呟きながら数枚の生地を選び出す。
    その手先をぼんやり眺め、私は尋ねた。
    「……分かるんですか?」
    何も説明はしていないが、彼女が雛人形を一目で理解したように感じた。彼女は小さく首を振り、
    「吉崎はんほどには―――ただなんや、そんな気がするだけで」
    と、控え目に答えた。
    淡い桜色の生地に雪月花の刺繍が施された生地を二人で選ぶと、彼女は人形の箱の寸法を取り始めた。
    「―――普段は袱紗とか仕覆(しふく)とか、お茶の道具作りをしてましてん」
    少女の柔らかい語り口に釣られ、私は尋ねる。
    「仕覆というのは、どんな物なんですか」
    「はあ、お茶道具を入れる袋ですわ。このお人形の箱も、同じ作り方で縫わせて頂きますの」
    底を真円にして、生地の裏に薄い綿を入れてまた裏地をつけて、袋の口は生地に合わせた飾り紐で結ぶようにして…と、彼女は唄うように説明した。
    「半日あれば十分どす―――18きっぷが今日までやし」
    泊まっていくわけにはいかない、という気遣いを私は感じた。
    「あの刀には―――」
    「へえ、最後に斬られたおなごはんが入っておいでです」
    何事でもないように彼女は言った。
    「別に何も悪い事せえへんのに縁起悪いゆうて売られて売られて、落ち着きはったのが吉崎はんのお店やそうで」

    (携帯)
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■5744 / inTopicNo.26)  鎮雛・25
□投稿者/ 葉 一般人(39回)-(2009/04/25(Sat) 02:23:15)
    少女は手早く不要な生地を片付け、裁縫道具を取り出した。
    「講談や芝居ではめちゃくちゃに悪く描かれてますけど、怖いお方やないですよ―――江戸前の、粋筋の、きっぷのいい姐はんです」
    そのまま作業に集中したそうに見えたので、私も席を外そうと立ち上がり、ふっと思い出してもう一つ尋ねた。彼女の名前を。
    「六道いいます。高岡六道」
    少女はまた、にっこり笑った。
    「地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天―――仏教で言う、その六道みたいどすな」


    沙耶は仏間にいた。
    「………どうしたの?」
    どこかしら沈んだ様子に思わず声が出る。沙耶はファイルに納められた書類を私に差し出し、
    「彼女は収監されてる―――ひと月前に」
    と呟いた。
    「えっ?」
    私は目を見張り、無意識にファイルを受け取った。
    「読んでみれば分かるけど…」
    沙耶はもの憂げに言った。
    「三年前にあなたがいなくなってから、十件くらい同じような傷害沙汰や監禁未遂を起こしてる…ほとんどが不起訴になってたけど、ひと月前に未成年者略取、監禁、殺人未遂の容疑で逮捕―――拘置所で精神鑑定待ち」
    「そんな―――」
    私は畳に座り込み、冷静に読めないと分かっていながらファイルを手繰った。
    …クラブやバーで誘った女を連れて帰り暴行、といった記述が日付を変えて続き、最後の相手が女子高生、となっている。
    私が真弓に最初にされた事―――それを繰り返したのだとすぐに分かった。
    誰も従わなかったのだ、と私は思った。私のように従順に玩具になる女がいなかった。だから真弓は苛立ち、さらに容赦なくなってゆき、悪循環の中で壊れていったのか。
    「でも……」
    私は怯えた目で沙耶を見た。
    「でも、村役場に私の事を尋ねたのは誰? 蔵にいたのは、あなたに傷をつけたのは……?」
    「……彼女かも。ただ―――」
    沙耶は低く呟き、腕を伸ばして私を引き寄せた。
    「精神鑑定が必要なほどにもう理性が無いのなら、現実の彼女には無理でも、執着心だけが……」
    「―――生霊、って事…?」
    沙耶の肩に預けた身体が震える。現実の真弓が私を追えず、意志だけが追ってくるのなら、そう呼ぶしかないではないか。
    しかし沙耶は、少し違うと呟いた。
    「憎いとか復讐したいとか言うのは、物への執着心とは違う―――何かに執着するから憎いとか、恨めしいとか感じるんだから」
    その言葉を胸の中でしばらく繰り返し、私はうっすらと理解した。真弓はもう、私を私と思っていないのだ。

    (携帯)
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■5745 / inTopicNo.27)  鎮雛・26
□投稿者/ 葉 一般人(40回)-(2009/04/25(Sat) 04:04:48)
    日が傾きかけた頃、桜色の包みを縫い上げた少女は帰って行った。


    「…きれいな娘ね」
    「母親が祇園の名妓で、画家や彫刻家のモデルだったし」
    沙耶は何気なく答え、それからふと口調を変えた。
    「ロリの気はないから―――あれには怖い姉貴がついてるし」
    「あの娘にも、いろいろ見えるのね?」
    「―――ああ…」
    沙耶は少し考え、頷いた。
    「私より強いと思う、そういう方面は」
    「…あの娘はあなたの方が上だと言ってたけど」
    沙耶は首を振った。
    心なしか、投げやりな仕草だった。
    「…ああいう物を見るには、私は性格が悪すぎる」
    視線の先に、少女が届けた刀があった。
    沙耶はグラスにビールを注いで刀の前に置き、
    「翻訳してみようか」
    と呟いた。
    ―――何?と思って首を傾げると、沙耶の口から思いもよらない言葉が流れ出す。
    『……やっと思い出しておくれかい。こっちゃ根が生え茸が生える心地だ―――おや、情けの一献。おかたじけ』
    ぽかんとする私に、沙耶は刀を指差した。
    『エエ辛気臭い。男はいないのかい男は―――久し振りやの娑婆なのに、ロクな野郎を見てないよ。それに黙って聞いてりゃあ、色は色でも男っ気のない色事たあ担がれた。ただでも初心な八代目も、これじゃ出るに出れねえよ』
    歯切れのいい啖呵に気を取られ、もう一度刀を指差されて私はぎょっとした。
    たった今満たして置かれたグラスが、空になっている。
    「まあしばらくは、この調子」
    沙耶は再びグラスを満たし、もう一つ満たして口をつけた。
    「今のが……?」
    「そう。明治の毒婦、高橋お伝」
    沙耶はちろりと舌を出した。
    「見てると減らないよ」
    刀に供えたグラスをまじまじと見つめる私に、沙耶は笑い声で言った。
    「毒婦と呼び名は残るけど、実際は難病の夫を最後まで看取り、その後で情人に尽くし続けた情の濃い女―――確かに金貸しを殺したし、口も悪いけどね」
    「……もう一人…いるの?」
    「八代目浅右衛門?滅多に喋らないけどいるよ。真面目な御仁で、とてもからかえた人じゃない」
    私は再びそちらを見る。グラスの中身は減っていない。
    「……とまあ、そんな感じで」
    沙耶は声を落とし、少し寂しげに呟いた。
    「こういう相手と喋る方が気楽なのは、私には何か良いことには思えなくて」


    私は静かに、沙耶の手のグラスにお代わりを注いだ。
    「ありがとう」
    沙耶はちょっと笑い、おもむろに背後を指差した。
    刀に供えられたグラスは、空になっていた。

    (携帯)
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■5747 / inTopicNo.28)  鎮雛・27
□投稿者/ 葉 一般人(41回)-(2009/04/25(Sat) 23:32:04)
    「はい、これ」
    沙耶は握った手を私に差し出し、手渡した。
    「―――可愛い」
    私は声を上げた。雛人形の包みと同じ雪月花の衣を着けた、小さな布地蔵だ。
    「それが袋師・六道の名刺代わり。気が利いてるでしょう」
    小さな布地蔵は笠を被り、赤いよだれかけを首に巻き、ほっこりした笑みをたたえてビーズの数珠を下げて合掌している。
    包みは人形と共に永久に寺に行ってしまうが、縁は残る。それは素直に嬉しかった。
    しかし、私はふと考え込んだ。
    「私は………」
    ―――次の瞬間に何が起こるか分からないという危惧はある。だが、少なくとも真弓が拘禁されている事実は私を安堵させていた。
    (でも、それを喜ぶ資格があるかと問われたら―――)
    それは否ではないだろうか。結局私は逃げ出したが、それがもっと早ければ、真弓は拘禁されるまでには至らなかったのではないか。
    「私は……」
    真弓も酷かったが、私も酷かった。快楽だけで続けられる関係ではなかった。どちらもそれに気付いていなかった―――今でなければ分からなかったと片付けるのは、結果論だ。
    私はそこで我に返り、こちらを見ている沙耶に気付いた。
    「善悪を問うてもきりがない」
    静かな口調で、沙耶は言った。
    「選びたい方を選ぶだけ…今はもう、あなたの方が強い。物には執着心を拒めないけど、人には出来る」


    私はそっと頷いた。
    何を思い惑っても、答えはもう出ているのだ。

    (携帯)
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■5753 / inTopicNo.29)  鎮雛・28
□投稿者/ 葉 一般人(42回)-(2009/04/27(Mon) 00:33:21)
    「…風が出てきた」
    庭に面した硝子戸を閉めながら沙耶が呟く。
    「桜ももう終わりだな―――雨戸、閉めようか?」
    「いいの」
    私は沙耶に歩み寄り、吹き込んでその肩に止まった花弁を摘み取り、頭を寄せた。
    「…傷、痛くない?」
    「大丈夫」
    そのまま身を預ける私を片腕で支え、沙耶は後ろ手に障子を閉めた。
    「―――怖くない?」
    私の髪を撫で、顔を仰向かせながら沙耶は尋ねた。
    「少し怖いけど…」
    自分から顔を寄せ唇をねだり、私は答えた。
    「怖いけど、それよりも」
    唇が触れると、言葉は忘れた。
    ほんの三日前に抱かれたばかりなのに、その三日がとてつもなく長かった。私は待ち望み続けた身体の重みと温もりを逃すまいと沙耶の背中に腕を巻きつけ、迎え入れた舌に舌を絡ませる。
    「―――ん……ふ…」
    沙耶の唇が首筋に降り、手が浴衣の胸元を緩めて入り込む。乳房をぎゅっと鷲掴みにしたかと思うとやわやわと揉み、親指の腹で執拗に乳首を撫で上げられて私は喘いだ。
    「あっ……ああ…」
    立ったまま、沙耶は私を責めたてる。肩からずり落ちた浴衣はかろうじて腰紐の所で止まり、崩れそうな身体は沙耶の片脚に跨る形でようやく支えている。それでも沙耶が片腕で腰を抱いていてくれなければ、とても立ってはいられない。
    「ああ……あっ、あっ……いい…」
    首筋を舐められながら乳首を弄られる快さに私は仰け反り、バランスを崩しかけては引き戻される。最初の時より少し手荒く、それが更に私を狂わせた。
    「ああ―――わ、私……」
    沙耶の脚に跨る腰が無意識にうねり、逃がすまいとする沙耶の太ももにすくい上げられる。
    「………熱い」
    潤んだ秘部を塞がれ顔を背ける私の耳に、溜め息混じりの沙耶の声が切なく響く。
    「熱くて―――溢れてる……」
    「いや………っ」
    私は羞恥の叫びを上げたが、腰はひとりでに動いて密着したまま上下した。
    「ああ……いい……凄い……」
    両腕を沙耶の首に回し、腰を落として秘部を擦りつける。沙耶の滑らかな太ももは私の愛液に濡れ、硬さと敏感さを増したクリトリスをいやらしく擦り上げた。
    「……だめ―――もうだめ……あっ…嫌!―――」
    腰をがくがくと揺らして果てた身体をふわりと抱えられ、夢うつつのまま布団に寝かされる。
    「―――好き……」
    不自然な体勢から解き放たれ、身体の芯から溶けてしまったけだるさの中で私は呟く。
    「あなたが、好き………」


    (携帯)
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■5754 / inTopicNo.30)  鎮雛・29
□投稿者/ 葉 一般人(43回)-(2009/04/27(Mon) 03:10:43)
    うわごとのように繰り返す唇を優しく塞がれ、私は不自然な体勢から解放された安らぎと身体にかかる重みに涙さえ浮かべ、沙耶の背中を抱き締めた。
    「―――私も」
    長く深く唇を貪り合い、耳元で囁かれたのが何への答えかもすぐには分からず、理解した頃には膝を開かれ、秘部を指で愛撫されつつ乳首を吸われていた。
    「あ……っ、ああ……」
    全身が甘く痺れて快感以外の何もなく、このまま死んでもいいとさえ思えた。
    唇を割って入る指を吸い、軽く噛む。それに呼応するように乳首が噛まれ、舌でくすぐられる。指先がクリトリスを撫で回し、逡巡を繰り返しながらさらに奥、無尽蔵に溢れる場所に滑り込む―――
    「あああ………」
    私は腰を浮かせて身体を仰け反らせ、クリトリスと内奥を巧みに探る指を呑み込む。
    「……あっ、あ―――いい…ああ…」
    乳首も唇と舌に絶え間なく愛撫され、秘部を指で容赦なく責められ、私はあられもなく叫び続けた。
    「いい―――気持ちいい……ああ、凄い―――」
    指は淫らに緩急を使い分け、激しく擦り上げたかと思うとわざとゆっくり撫でてタイミングを外し、快楽を長引かせる。
    「嫌ぁ―――いや…お願い……ああ…苛めないで…」
    腰を振り立て駄々っ子のようにねだる秘部から指が離れ、私は目尻に涙を溢れさせた。
    「苛めたりしないから……」
    沙耶は優しく涙を吸い取ると私を抱き起こして膝の上に抱えあげ、再び指を秘部に当てて囁いた。
    「おいで」
    私はこらえ切れずに沙耶の首を抱え込み、激しく、うねるように腰を動かした。
    「ああっ―――あっ、あっ、あ……」
    秘部に沙耶の指を感じ、その動きより更に強い快楽を求めて腰をくねらせる。
    「ああ―――ん……はぁ…あっ、あ―――」
    沙耶も私をあやすように膝を揺すり、指だけでなく責め立てる。器具などなくても、下から貫かれているような感覚が私に我を忘れさせた。
    「あっ―――あ……」
    痛いほどの快感が背筋を駆け上り、全身を引きつらせて私は果てた。


    物音に気付いたのは、沙耶にもたれかかったままで束の間の放心から覚めた時だった。
    (廊下が軋む音……)
    ギシッ、ギシッという幽かな音―――足音だ。
    「分かってる」
    沙耶は静かに呟くと私の身体を布団に下ろし、掛布団を被せて自分の背後に回らせた。
    ギシッ、ギシッ……
    (近づいてくる―――)
    私は沙耶の背後から、閉ざされた障子を凝視する。
    「怖かったら、目をつぶっておいで」
    振り返らずに沙耶が言う。

    (携帯)
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■5755 / inTopicNo.31)  鎮雛・30
□投稿者/ 葉 一般人(44回)-(2009/04/27(Mon) 03:55:52)
    怖かった。でも、だからこそ目を閉じられなかった。
    沙耶は、いつの間にか刀を掴んでいた。
    (そう言えば…どこに置いてたんだろう?)
    どうでもいいような疑問がよぎる―――そうでもしていなければ、耐えられない。
    ギシッ、ギシッ…
    足音が障子のすぐ外までやって来て、しんと途絶えた。


    突然、大きな音と共に障子が破られた。
    私は悲鳴を上げた。障子の一角から、五本の指が突き出している。
    「いや………!」
    私は後ずさり、次の瞬間に声すら出なくなった。
    障子に、はっきりと人影が映っていた。


    視界の隅に、棒のような物が飛んだ。
    私には、沙耶が刀の鞘を払った所は見えなかった。青白い光を見たと思った瞬間、障子は袈裟掛けに斬り倒されていた。
    『―――舐めるんじゃないよ』
    視界いっぱいに飛び散る血潮を見たと思った時に、沙耶とは違う、鞭のような女の声がした。
    『年季が違うんだよ、年季が』


    障子の向こうには誰もいなかった。
    床や障子を染めたと思った血潮もなく、廊下にはただ庭から吹き込んだいくひらかの桜の花弁が散っているだけだった。


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■5757 / inTopicNo.32)  感想
□投稿者/ momo 一般人(1回)-(2009/04/27(Mon) 14:58:15)
    今まで感想を書くのは無粋かと思ってましたが・・・。

    お話とても楽しく読ませてもらっています。
    世界観を大切にこれからも頑張ってください。
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■5760 / inTopicNo.33)  鎮雛・31
□投稿者/ 葉 一般人(45回)-(2009/04/27(Mon) 22:06:50)
    俊江尼が住持をつとめる禅寺は、私の家から歩いて十分ほどの場所にある。
    「―――まあまあ、綺麗なべべ着せて貰うて…」
    母と同年ならば六十半ばだが、仕草や表情にどこか童女めいた所のある俊江尼は雛人形の包みを見ると目を見張り、いそいそと手を合わせた。
    「娘時分にこさえた晴れ着やなんかも祥子はん、みぃんな処分してしもて……まさか居んようになってから、手放しなさった娘さんにこないにして貰えるやなんて、夢にも思うておりませなんだやろなぁ…」
    俊江尼は愛おしげに目を細め、衣の袖でちらりと目尻を拭う。
    「あんじょう承りました。私も独りですよって、祥子はんと昔語りする気持ちでお預かり致しましょ―――時に羽希はん、吉崎はんは…?」
    「…はあ、あの」
    私はちょっと口ごもる。
    「今ちょっと、障子貼りを…」
    「へ?」
    俊江尼はぽかんとした。
    「少し前に新調したばかりどっせ」
    「はあ…ちょっと、色々…」
    私は首をすくめ、恐れ入る。
    「器用な人ですなあ…」
    俊江尼は感じ入ったように頭を振り、またひとしきり人形の包みをあちこちから眺めて感嘆し、はたと顔を上げて呟いた。
    「お蔵の方は、もう…?」
    「はい」
    私は頷いた。
    「さっき司法書士さんがいらして、目録をお渡ししました」
    「ほな、手続きもぼちぼち終わりですなぁ」
    少ししんみりした表情で、俊江尼は頷いた。
    寺はなだらかな山の中腹にあり、通された庵室は竹林に面している。言葉が途切れると葉ずれの音が波のように響き、胸を浸した。
    「―――本当に、よろしいんやな…」
    「はい」
    一度だけ、短いやりとりが交わされた。
    どちらの声も、穏やかだった。


    「どうだった?」
    縁側に新しい紙を貼り替えた障子戸を立てかけて、足を投げ出して煙草を吸っていた沙耶が顔を上げた。
    「喜んで下さってた―――それで袱紗とか、ぜひお願いしたいって」
    「ああ、それが一番喜ばれる。職人は仕事が増えてナンボだから」
    沙耶は小さく笑みを漏らし、生乾きの障子を振り返る。
    「枠とかは、接着剤でくっつけただけだから…」
    「気をつけるから大丈夫よ」
    そして並んで縁側に座り、庭とその向こうに広がる景色をぼんやり眺めた。
    「……供養塔に花、供えたんだ?」
    「ええ」
    「お仏壇のと同じだ」
    「そう」
    時間が、ゆっくり過ぎていく。

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■5761 / inTopicNo.34)  鎮雛・32
□投稿者/ 葉 一般人(46回)-(2009/04/27(Mon) 22:39:50)
    「見てきたけど…」
    私は背後の座敷を振り返る。
    「空になってたわ、一升瓶」
    「日本酒派だから……でも、飲ませ出したらキリがないよ」
    「明日、二日酔いで電車に乗るのかな」
    私の呟きに沙耶はちらりと視線を向け、再び煙草に火をつけた。
    「……あれ、置いていっていい?」
    「え?」
    沙耶は肩をすくめる。
    「からかわれるから……昨夜の……」
    私もつられて赤くなり、背中を丸めた。
    「大事な物なんじゃないの?」
    「売り物にならないし、もし盗まれても自力で戻って来るし……」
    また顔を出すから、と言って沙耶は俯いた。
    私はひどく安心した。
    「―――いつかは来るかもしれないよ、彼女」
    低い声で沙耶が呟く。
    「懲役になるかどうかも分からないし、懲役を終えた後かもしれない。それは彼女次第なんだけど―――」
    「……そうね」
    私は頷き、沙耶にならって足を投げ出した。
    「その時はまず、お茶でも出すわ」
    不意に、沙耶が弾かれたように笑い出す。
    私はちょっと驚き、そして笑った。


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■5762 / inTopicNo.35)  ありがとうございます
□投稿者/ 葉 一般人(47回)-(2009/04/27(Mon) 22:50:08)
    長々しい話を読んで下さった方やコメントを下さった方々に、今さらながらどうもありがとうございました…

    恥ずかしいやら、何とお礼を言えばいいのか、いやもう本当にお見苦しくてすみませんでした…汗しか出ません。

    ありがとうございましたm(_ _)m

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完結!
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