| ―――姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉を吐く。 ひとり地獄に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き……
他にする事もないから、覚えてしまった。 あたしは気付いたら、狭いのか広いのか分からない、深い深い真っ暗闇の底にいた。
ぼんやりと思い出した事を順序立てて繋ぎ合わせると、どうやらあたしは死んだみたいだ。
あの人はいない。いないって事は、死んだのはきっと、あたし一人だ。火の勢いが強くなった途端に分からなくなったけど、突き飛ばしたあの人は死ななかったんだ。
良かった。
描きかけの絵を燃やしちゃったけど、あたしはこれでいい。あの人が生きていれば、それでいい。
……暗いなあ。ここは暗い。 ずうっと上の方には、仄かに青く揺らめく光がある。今なら分かる。あれは水面だ。 どこかから、木の軋るような音。舟を漕ぐ音かな。死んだら舟に乗って、川を渡るんだったっけ。
―――別に、乗らなくてもいいや。 川を渡るより、海の底にいると思ってる方が気持ちいい。あたしはあの人が描こうとしてた舟の女の人みたいに綺麗じゃないけれど、海の底にいるみたいだったあの女の人に、なれるような気がするから。
それに確か、川を渡るにはお金がいるよね。 あたし、持ってないし。
(携帯)
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