| パァン・・・・・・・
遠くまで響き渡る鋭い音と共に、白く細い硝煙が立ち上る。 それと同時か、それともそれよりも早いのかは定かではないが、目の前の巨体が血飛沫をあげて前のめりに倒れこんだ。
あっという間に広がる赤い水溜りを冷たい目で見つめ、踵を返す。 もうこんな穢れた場所に用事も興味も無い、とでもいう風なそぶりだ。 白いシャツに赤い水玉模様を付けたまま、『彼女』は歩き出す。
そこの持ち主だった人が長身だったからなのか、そういう趣向なのかは別として、大きなドアを開けて蒸し暑い廊下に出る。 先刻繰り広げた戦闘のお陰で、廊下一帯の窓ガラスはほとんど残らず割れ、壁には小さな穴が無数に残っていた。 所々、白い壁に赤い模様がつき、人が数人倒れているが、既に息は途絶えている。
廊下のまだ汚れていない壁に寄りかかると、酷く疲れた様子でズボンのポケットから携帯を取り出した。 何度かピッ、ピッ、という電子音を響かせながら、電話をどこかへと掛ける。 プルルル・・・・という音が4回ほど鳴った時に、相手がようやく電話に出た。
『もしもし?』
電話越しには、だるそうな女性の声がする。暑くてばてているのか、何かを中断させられて苛立っているのか。 バサバサと音がするあたり、多分書類整理か何かをしているところに掛けた様だ。
「もしもし。ボスですか?たった今、任務を終わらせて帰ります」
『ご苦労。早く戻って来い』
「はい、ボス。仰せのままに・・・・・・・」
電話を右手に持ったまま、本人がいるわけではないのにお辞儀をする。 相手が電話を切るのを待つと、再び携帯をしまって歩き出す。
廊下には、『彼女』が履いている黒のパンプスの音しかしなかった。
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