| 冷蔵庫から取り出してから少しだけ時間が経ち、水滴がついたペットボトルに口を付ける。 冷たい水がペットボトルを掴む手につき、手が濡れる。喉を冷たくて美味しい水が通るこの感覚が昔から好きだった。
お風呂あがりに水を飲むのは、詩織の幼い頃からの習慣のようなものだ。 お風呂あがりと寝起きに毎日ペットボトルの水を飲む。母親と父親がしていた事で、自然と娘である詩織にも身に付いた。 それは、大人になって一人暮らしをする今も変わらない。
テーブルの上に置きっぱなしにしたままであった黒い携帯を開け、メールと電話を確認する。特に入っていない。 1件だけメールボックスに入っていた新着メールがあったが、それは登録してある雑貨店からの広告だった。 そういえば、最近はあまり雑貨店やカフェに行っていない。仕事が忙しく、行く暇がない。
深く長い溜息をつくと、携帯を閉じた。 その瞬間に、突然携帯が電話を知らせるメロディーを鳴らせた。 ディスプレイを見ると、そこには『香織』と表示されて点滅している。
「はい、もしもし、詩織です」
『しーちゃん?久ぶりね、元気だった?』
ちょっと低い詩織の声とは反対に、明るく甘い女性らしい声で電話越しにはしゃいでいるのは、友人の香織。 高校生のときに知り合い、今も連絡を取り合っている。 高校の入学式の時に、名前が似ているという理由で友人になった。名前は似ていても、性格や容姿は正反対なのだが。
『あっ、あのね!そういえば、今度の月曜日空いてるかなあ?』
「ああ、明後日?・・・・・仕事も休みだし、一応空いてるけど、何で?」
『お姉ちゃんが結婚式を挙げるんだけどね・・・あ、招待状届いてるよね?』
「うん。ピンクのやつでしょ?」
『それそれ♪当日、一緒に行かないかなあって思って電話したんだ♪』
確かに、香織のお姉さんとも親交があった詩織の下には、一昨日、既に招待状が来ていた。 もう着る予定である自前のドレスもクリーニングに出して、明日取りに行く予定だ。 準備は整えていた。
「いいよ?じゃあ・・・8時半に迎えに行くから待ってるんだよ?」
『うんっ!ありがと〜、しーちゃん大好きっ♪じゃあ、待ってるね?バイバイっ』
「うん、待ってて。バイバイ」
結婚式は午前10時から。しかし、結婚式を挙げる教会まで結構離れており、かなり前に出発しないと間に合わない。 詩織だけならもうちょっとゆっくりでもいいが、香織も一緒に、となると話は別だ。
はしゃぐ香織に別れを告げ、携帯を切って充電器と繋げて充電をする。 香織とはもう半年ぶりぐらいに直接会う。電話やメールはしていたが、忙しくて会えなかったのだ。
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