| ぴしゃぴしゃと細い雨が窓ガラスを叩いて濡らす。空は一帯灰色で、雲は分厚い。 こんなに中途半端に振るぐらいなら、もっと思い切り降って欲しいと思う。 風も無く、ただ湿気の多い、重くて暗い感じがする空気の中に私はいた。 教室の窓際の席で、机の中に入っている教科書やノートが湿気で柔らかくなる。 授業中に何度苛々していたのか、この教材たちは知るはずも無い。 髪の毛も上手くまとまってはくれない。もう何度鏡を持ち出して直した事だろう。 ついこの間切ったショートヘアーの毛先が、ぴょこっと外側にはねてしまう。
「も〜和音!そんなに苛々しないでよねっ!」
そうやって隣のクラスメイトがいない事をいい事に、その机に座っているのは友達。 友達であり、クラスメイトでもある安森佳奈。学年で多分1番可愛い子だ。 よく手入れされている綺麗なロングヘアーに、ピンクの小さなリボンがついたカチューシャ。 お姫様のような可愛らしい外見。しかも性格もまたお姫様のように可愛らしいのだ。 明るくて気配りが出来て優しいし、お人よしで頭もいいし。人懐っこい。 この女子ばかりいる、いわば女子校でも学年関係なく好かれている人物である。 私とは正反対の容姿と性格だ。
「別に・・・・・雨が嫌いなんだよ」
私は女に生まれながら、何故か外見が生まれつき男性寄り。中性的なのだ。 前は後ろを多少は伸ばしていたものの、蒸し暑い時期になったために短く切った。 性格も人見知りだし毒舌だし素直じゃないし。可愛くも何ともない性格だ。 でも、周りの生徒達は、そんな私をかっこいいだの何だのともてはやす。 一切興味が無いため、そういう類の言葉は無視しているが。
「もー・・・・・・あ、ごめんねぇ、桃ちゃん。机借りてまーす」
何処に行っていたのか、私の隣の席の金山桃が4人ほどで教室に帰ってきた。 可愛く憧れの的である佳奈が小首を傾げて言うと、4人とも顔を赤らめた。 そんな佳奈とは正反対に、私は机の上の世界史の教科書とノートを整えていた。
「はいっ、もう授業始まるわよ?早く席に着きなさい」
ちょうど次の授業の世界史の担当教師が教室へ入ってきて、ざわつく生徒達を促して席へ座らせた。
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