| ――その日も、雨が降っていた。
7月ももう下旬だというのに1週間以上、すっきりと晴れない日が続いていた。 「あーっもう!いい加減に晴れてくれよ!」 大学から少し離れた、大きな公園の脇に立つマンション。 そのエントランスの前で、長身の女の子がたたんだ傘をぶんぶん振りながら叫んでいた。
彼女は佐久間 空。 名は体を表す、とはよく言ったもの。 「天気のいい日にはほとんどいつも外にいる」と知人からからかわれるくらい青空と戸外を好んでいる。 そして、中途半端な天気の日が続くと、天然パーマのショートヘアに変なクセがつくこともあり、分かりやすく機嫌が悪くなる。 まあつまり、気分屋だ。
マンションのエントランスに敷かれている泥除けにスニーカーをこすりつけ、郵便受けの部屋番号をちらりと確認した。 「えーっと、306?だっけ」 たどたどしく、オートロックの操作盤の数字キーを押し「呼び出し」を押してしばらく待つ。 「はい?」とすぐに声が聞こえた。 「空です」と短く答えると、すぐに目の前の自動ドアが開いた。
|