| ―――――ザァザァと、雨が降っていた。 どんよりと重い雲が空全体を覆い隠し、通りを歩く人はいない。
「・・・・ッ、ハッ、ハッ・・・・!!!」
そんな中、バシャバシャと水を跳ねさせ、必死の形相で走っている少女がいた。 背後を何度も何度も振り返る、何かを確認しているようだ。 彼女は膝上の白いワンピースに裸足という格好だった。
ある程度走ったところで、もう走る必要は無いと感じたのだろう。 徐々にスピードを緩め、そして足を止め、コンクリートの壁を背に座り込んだ。 アスファルトで切ったらしい右足の親指を、ぼうっと眺める。
どのぐらいそうやってぼうっとして過ごしていただろうか。 突然、今まで身体を打っていた雨が途切れた。 何事だ、といきおいよく警戒した顔で少女は見上げる。 そこには、少女に傘を差し伸べる美しい女性がいた。
「そのままじゃあ風邪を引いてしまうわよ?」
胸元が大きく開いたトップスとタイトなミニスカートを身につけたその女性は、 同性である少女の目から見ても、充分色気がある女性らしい女性だった。 バッチリメイクをした顔で微笑まれ、少女は少し恥ずかしくなった。
「・・・・・・」
「・・・・何か訳ありのようね」
何も喋ろうとしない少女に溜め息を吐いてみせた女性は、少女の腕を掴んで立ち上がらせた。 見た目に反して結構な力で腕を持ち上げられた少女は、簡単に立ち上がる。
「うちへ来なさい。せめてこの雨が止むまでは」
茶色っぽい大きな瞳に見つめられて、少女は不思議なぐらいたやすく頷いた。
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