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■6322 / inTopicNo.1)  Rain
  
□投稿者/ くるみ 一般人(1回)-(2011/06/10(Fri) 22:43:36)
    ―――――ザァザァと、雨が降っていた。
    どんよりと重い雲が空全体を覆い隠し、通りを歩く人はいない。



    「・・・・ッ、ハッ、ハッ・・・・!!!」



    そんな中、バシャバシャと水を跳ねさせ、必死の形相で走っている少女がいた。
    背後を何度も何度も振り返る、何かを確認しているようだ。
    彼女は膝上の白いワンピースに裸足という格好だった。



    ある程度走ったところで、もう走る必要は無いと感じたのだろう。
    徐々にスピードを緩め、そして足を止め、コンクリートの壁を背に座り込んだ。
    アスファルトで切ったらしい右足の親指を、ぼうっと眺める。



    どのぐらいそうやってぼうっとして過ごしていただろうか。
    突然、今まで身体を打っていた雨が途切れた。
    何事だ、といきおいよく警戒した顔で少女は見上げる。
    そこには、少女に傘を差し伸べる美しい女性がいた。



    「そのままじゃあ風邪を引いてしまうわよ?」



    胸元が大きく開いたトップスとタイトなミニスカートを身につけたその女性は、
    同性である少女の目から見ても、充分色気がある女性らしい女性だった。
    バッチリメイクをした顔で微笑まれ、少女は少し恥ずかしくなった。



    「・・・・・・」


    「・・・・何か訳ありのようね」



    何も喋ろうとしない少女に溜め息を吐いてみせた女性は、少女の腕を掴んで立ち上がらせた。
    見た目に反して結構な力で腕を持ち上げられた少女は、簡単に立ち上がる。



    「うちへ来なさい。せめてこの雨が止むまでは」



    茶色っぽい大きな瞳に見つめられて、少女は不思議なぐらいたやすく頷いた。
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■6323 / inTopicNo.2)  Rain:2
□投稿者/ くるみ 一般人(2回)-(2011/06/10(Fri) 22:54:57)
    女性に連れてこられたのは、いかにも高級そうなマンションだった。
    本来びしょ濡れの身体、しかも裸足で入っていいような場所ではない。
    しかし女性はそんなことを気にしない素振りでキーを解除すると、エレベーターに乗り込んだ。



    高級マンションの最上階の1番奥の部屋に入ると、女性はすぐにバスタオルを持ってきた。
    真っ白いフワフワのタオルで濡れた髪や身体を拭いてもらう。
    そして、温かいシャワーを浴びてくることを勧められ、少女は素直に浴室へと向った。



    少女がシャワーを浴び終わると、濡れたワンピースは洗濯機にかけられていた。
    代わりに着ろ、ということだろう、カゴの中に服が置いてあった。
    広げてみるとそれは、女性のものらしき黒いワンピースだった。
    着てみるとちょっと大きく、膝下まであったが、そこはしょうがない。



    リビングへ行くと、女性が温かいココアを入れてくれていた。
    両手でマグカップを持って飲んでいるのを、女性も同じものを飲みながら見つめている。



    「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は菅野秋佳、よろしくね」



    スガノアキカ、スガノアキカ、と何回か頭の中で名前を反復してみた。
    『秋佳』なんて、あんまりいる名前じゃないな、と思った。



    「あなたの名前は何?」



    優しい微笑みと共にそう聞かれた。
    少女は少し躊躇ったが、口を開いた。



    「わたしは・・・・紺」


    「紺?変わった名前ね・・・・名字は?」


    「・・・・大谷」



    オオヤコンね、と、女性は微笑んだまま頷いた。



    雨は、まだザァザァと五月蝿く降っていた。
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