| 「はい、次の方お入りください」 簡易壁で区切った診察室から凛とした女医の声が聞こえた。 同時に、看護婦が由美子に声をかける。 「田崎さん、どうぞ」 由美子は立ち上がり、診察室の中に向かう。
田崎 由美子、24歳。 県の福祉協議会の事務を担当している。 職員は毎年必ず健康診断を受診しなければならず、別館のフロアに 設けられたスペースで、身体測定、採血などを済ませた後、最後に 問診を受けるようになっている。 職員は、由美子の他にも数十人在籍しているが、皆午前中早くか、 あるいは別の日に診察を済ませていた。由美子は他部局からの電話 対応で遅れをとり、午前ぎりぎりに診察に向かったのだ。そのため、 待合椅子に待っていたのは由美子だけであった。
由美子は、決して目立つタイプではないが、職場では同性、異性 を問わず憧れの目で見られていた。鎖骨まである清楚な色素の薄い髪 が、きめの細かい白い肌を一層引き立たせていた。ぽてりとした薄い ピンクの唇、すっと筋の通った首筋、やわらななラインを描く鎖骨。 小柄ではあったが、同性であっても一度触れてみたいと思わせる不思 議な魅力があった。 本人はそんな自分の魅力を全く意識せずに、仕事に熱心に取り組む タイプで、それがまた周囲を魅了する一因でもあった。
「田崎さん、どうぞおかけ下さい」 看護婦に促され、由美子は中に入り、丸椅子に腰掛け、前の肘掛椅子に 座っていた女医に軽く会釈をした。 「先生、田崎さんで最後です」 看護婦の声にうなずく女医の顔を見上げた由美子は 少し息をのんだ。 (きれいな人・・・) 由美子とは異なるタイプであるが、女医は凛とした美しさを兼ね備えた 女性であった。 長くスラッとした足を組み、白衣に身を包んではいるが、メリハリの ある体のラインが見てとれた。何よりキリっとした黒い瞳の輝きは、 吸い込まれそうな輝きを放っていた。 「田崎由美子さん で間違いありませんね」 女医は、カルテと由美子を交互に見ながら、肘掛け椅子を回し、由美子の 方に体の正面を向けた。 「はい」 由美子は、一瞬女医の美貌に見とれた自分を少し恥じ、頬を赤らめながら 壁の方に目をやった。 女医は、由美子を見ながら口角を上げて微笑んだ、そして由美子に椅子ごと 少し近づきながら そっと両手を上げ、由美子の首筋から顎のラインにかけて 両手を沿え、ゆっくりと由美子の顔を正面に、女医の方に向けさせた。 「はい、検診をしますので、こちらを見てください」 ・・・ゴクリ・・・ 由美子は無意識に口内の唾液を飲み込み、首筋を緊張させた。 女医の指先が、頬の後ろから顎の下にかけての首筋の敏感なラインに、触れて いたからである。 まるで女医の指に自分が感じているような気がして、また それを女医に悟 られやしないかと 由美子はあらぬ心配をした。なぜか心臓が少し高鳴る。
|