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目を開けると、そこは知らない場所でした――――― なぁんてことは、AVやマンガ、小説の中でだけだと思ってた。 実際、そういう話って非日常的だから興奮するし。 1人で歩いていると、突然知らない人に布で鼻と口を覆われて、さらわれて。 意識を取り戻すと、どこか知らない場所にいて、混乱する主人公。 そんな主人公の前に現れた容姿が整った男なり女なりが、こう告げる。
『あなたはこれから、犯される』
ペットとか奴隷にしてやる、とかって言われる場合もあるけど。 まあ基本的には、突然さらわれた主人公は、強姦されちゃう。 最初は嫌がって抵抗するくせに、徐々に抵抗できなくなる主人公。 強制的に与えられる快楽に溺れて、理性が失われていく。 最終的には自分から快楽を求めたりもして、最後は完全に堕ちる。 そして主人公は、もとの生活には戻れないと思うのでした、みたいな。
大抵こういう話に出てくる人ってテクニシャンで、経験も豊富。 ありとあらゆるテクニックや道具を使って、主人公を攻め立てる。 そんなのを相手にした純情な主人公は、最後まで抗える術を知らない。 何度も何度も無理矢理にでもイかされて、快楽を叩きこまれる。 そうかと思えば、しばらくイかせずに焦らされたりもして。 気がおかしくなってしまいそうなほどの快楽を、一方的に享受する。
まあ、話によっては苦痛を伴う攻めとかも出てくるけど。 でも快楽を伴う攻めが1番基本的というか、なんというか。
ありふれた話、ありふれた設定、ありふれた話の流れ、ありふれた結末。 そんな“ありふれた”非日常的な話に興奮し、オカズにする人は少なくないはず。 そう、自分だってそういう話を読んで、ドキドキして、興奮したりもした。 だけど、他の大半の人たちとは違って、自分を慰めるようなことはしたことない。 人に触られれば敏感な反応を示す部位も、自分で触れば大したことない。 耳も、首も、横腹も、友達が冗談で触ってくるとビクッ、となってしまうのに。 いざ自分で触ってみると、横腹以外はどこも大した反応を示さない。
胸も、勿論下の方も、興味本位で触ってみたりしたことはある。 しかし、他の人が示すであろう反応を、自分の身体は示さなかった。 声も出なければ、濡れもしない、特に気持ちがいいというわけでもない。 それゆえ、男女ともに経験がない自分は、“イく”という感覚を知らなかった。 自分で自分をイかせようとしても、そもそもそんなに気持ちよくない。 だから、きっと自分は病気ー――――不感症なんだな、って、思っていた。 それが理由でなければ、いったい何が理由で感じられないというの、みたいな。
いわゆる“いかがわしい”ものを見たり読んだりすると、ある程度は濡れる。 だからといってナカに指を入れて出し入れを繰り返しても、感じない。 指は2本までなら飲み込むのだが、声も出てこない、気持ちよくもない。 で、結局イく、という感覚を経験できず、ということの繰り返しだ。 調べてみると、不感症は、濡れるけどイけない場合も不感症に入るらしい。 まさに自分がそのタイプだったので、ますます自分は不感症だと思った。
そういう行為について、自分は否定的な思いを抱えている。 男性嫌いで、男性に触られるのも嫌なので、男性との行為なんてもってのほか。 気持ち悪いとか、嫌だとか、したくないとか、そんなことしか思ってなくて。 恋人ができても、性欲なんてものは、全然出てこなかった。 ヤりたいとか、ヤられたいなんて、これっぽっちも思わなかった。 不感症には心理的原因もあるみたいだから、これも原因かと思っていた。
そう、『あの日』まではー―ー――
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