| ミドリが、とにかく、 「すごかった、すごかった」 って言うし、滅多にそういうのを薦めたりしない理香までが、 「あれは一度体験すべきよ」 なんて言うから、それなら、と来てしまった。 工学部の一室。 ドアには、 「TSI」 とだけある。 「ああ、これはトランス・セクシュアル・インスティテュートの頭文字なんです」 応接間のソファで白衣の女性は言った。 「ヴァーチャル空間での異性体験を通じて人間の性行動を研究するのが目的なんです」 「はぁ……」 「簡単に言うと、ゲームの世界で男性になって女性を誘惑してみるってことですよ」 「ゲームの世界……」 「そうです。ただ、強烈な磁気で脳に直接作用しますから、感覚や記憶はすべて現実と変わりません。女性にない器官、有り体に言えばペニスですね、その感覚もしっかりあります。なぜ自分にないものの感覚があるのか、その仮想感覚の研究もしているんですよ」 「ないものなのに、感じるんですか」 「不思議でしょ。だからとにかく、被験者の数が欲しいんです。まだ表に出してる研究でもないので、大学の中で、被験者を探してるの。ところで……」 女性は私の目をしっかり見て、 「あなた、男性経験は?」 いきなり、なに? 「はぁ、それなりに……」 「セックスは?」 「一応……」 「何人と?」 「二人、ですけど」 「その男性経験がヴァーチャルでも反映されてくるけど、大丈夫? 嫌な思いなんてしてないわよね?」 女性の口調はラフになり、言いにくい部分にもズカズカ踏み込んできた。 「嫌な思い……別に、ただ……」 「良いと思わなかった?」 「はい」 「その年じゃ、それが普通だから大丈夫よ。じゃ、この誓約書にサインして」 細かな文字がビッシリ書き込まれた紙に、私はよく読みもせずサインした。 「はい。じゃ、こっちに来て」 カーテンで仕切られた向こうにはベッドがあり、冷蔵庫のような機械とモニターが枕元にあった。 枕の上には黒いヘルメットが無造作に置かれている。 「横になってヘルメットを被るだけ。スイッチを入れたら、あなたは男性になってホテルの一室にいるはずよ。あとは現れる女性を口説くだけ。今の、現実のあなた自身が女性に興味なくても大丈夫。向こうの世界のあなたは女性とやりたくて堪らないはずよ。男性の焦燥感とかそういうのもしっかり味わってきて」 私は半信半疑でベッドに横になり、ヘルメットを被った。 女性がスイッチを入れると…… 私はホテルの一室にいた。 けれど、これは、普通のホテルじゃない! 悪趣味な内装の、SM仕様のホテル! しかも私は裸でベッドに大の字に縛り付けられてる! なんなのこれは!(続くよ。感想待ってるね)
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