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1月、まだ年が明けたばかりの頃、私は地元の成人式に参加していた。 自分も、久しぶりに会う友人たちも、みな一様に振袖を着ておめかしをしている。 色とりどりの振袖が市内中に溢れ、真冬だというのに道が明るく賑やかだ。 久しぶりに会う友人たちとは話しても話しても話題が尽きず、笑顔も尽きない。 前日までは緊張していたのに、今では時間が止まればいいとさえ思っている。
市内の中心部に位置するイベント用ホールでの式典が終わり、外へと出る。 同い年の男女で溢れかえったホール前は大変騒がしく、人ごみで酔いそうだ。 私は出る際にはぐれた高校の時の友人たちを探し、懸命に辺りを見渡す。 みんな同じような髪型におなじような格好で、意外となかなか見つからない。 香水や化粧品、振袖や袴の新品の匂いなんかに若干胸焼けを起こしながら歩く。 記念撮影の邪魔にならないように歩いていたら、人ごみを抜けてしまった。 久しぶりに吸い込む透き通った冷たい空気に、無意識に深呼吸を繰り返した。
「あの〜、ちょっとよろしいですか?」
声がした方に視線を移すと、地元のテレビ局が男女のグループを囲んでいた。 みんなはしゃぎながらインタビューに答えているが、多分私には向かないだろう。 テレビ局の人に見つからないように注意しながらも、友人探しを再開した。
その数分後、少し離れたところに見知った顔を発見し、安堵した。 私を探しているらしい彼女たちの方へ行こうと、歩く速度をあげる。 振袖姿で走れないのがもどかしいが、せっかくの振袖が乱れても困る。 私自身は振袖どころか、浴衣の着付けさえも自分でできないからだ。
「すいませ〜ん、ちょっといいですか〜?」
慣れない振袖で一生懸命急いでいた私に、背後から女性が声をかけてきた。 振り返ると、パンツスーツを身にまとった細身の穏やかそうな女性が立っていた。 たれ目で俗に言う癒し系であろう彼女は、人の良さそうな笑みを浮かべている。 隣には少しキツそうな印象を受ける女性が、カメラを手に持って立っていた。
「雑誌の取材をさせて頂いているんですけど〜・・・・・・」
テレビ局からだけかと思っていたら、女性誌の記者も取材に来ていたのか。 その女性は話を聞くだけで写真は任意だと、緩い口調で説明してくれた。 テレビとは違い、自分の姿が公表されないのであれば、答えてもいいかな・・・。 一瞬そんな気持ちになり、つい取材に応じる旨を伝えてしまっていた。
「よかったぁ〜!実はあなたが今日1番最初なのよ〜」
「ここじゃあ賑やか過ぎるから、少し離れた場所で伺いますね」
手を叩いて全身で喜びを表現する記者とは裏腹に、落ち着いたカメラマン。 カメラマンの女性に誘導され、少し離れた場所に行くことにした。 2人に断りを入れ、友人には携帯で取材に答えてくることを伝えておく。
「こっちの方が落ち着いてお話を伺えるかしら〜」
正直、成人式の取材なんて、そこまで時間がかかるようなものではないと思う。 有名人であれば別だが、私は何の取り柄もない一般人なのだから、余計に。 しかし、2人は静かな場所を求めて歩いて行き、当然私もそれについていく。 人ごみを抜け、ホールの裏の方に位置する場所まで歩いて行き、ベンチに座る。 確かにそこは人が1人もおらず、落ち着いて話すにはもってこいの場所だ。
「ごめんなさいね、実は彼女、少し耳が悪くて・・・・・・」
カメラマンが言うには、記者の女性は生まれつき少し耳が悪いという。 確かに髪の毛の隙間から見える耳には、補聴器らしきものが見える。 ならば静かな場所で取材をしたがるのは当たり前のことだ。 右側にメモを持った記者が座り、カメラマンは左側の方に立っている。
取材内容は名前や職業から始まり、今日の感想などを尋ねられた。 私はプライバシーに気を付けながら、答えられる範囲で答えていく。 それを記者はメモに書き込み、カメラマンは黙ってそれを眺める。 一通り質問に答え終わると、記者がメモをカバンにしまい、立ち上がる。
「取材を受けてくれてありがとう〜!これで怒られずに済むわ〜」
私も記者の後にベンチから立ち上がり、友人のもとに向かおうと―――――
「あ・・・れ、?」
一瞬のことだった、一瞬のうちに背後から口元に手が回され、口元を布が覆う。 女性らしい匂いがする布の匂いを吸い込むと、なぜか足元がふらついた。 途端に全身に上手く力が入らなくなり、目も開かず、視界が徐々に暗転する。 必死に抗おうとしたが抗えるわけがなく、あっという間に意識を失った。
「・・・やっと、やっと捕まえたわぁ・・・」
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