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Nomal 魅せられて /t.mishima (05/02/15(Tue) 02:55) #1590
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Nomal Re[1]: 魅せられて /asaka (05/02/21(Mon) 01:48) #1684
│└Nomal asakaさんへ /t.mishima (05/02/21(Mon) 22:08) #1690
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Nomal 椿様o(;・。・;)o /茜 (05/03/12(Sat) 04:29) #1816
│└Nomal 茜さんへ /t.mishima (05/03/13(Sun) 01:19) #1818 c78850_2130_nmfyn.jpg/8KB
Nomal 魅せられてE−1 /t.mishima (05/03/13(Sun) 01:22) #1819
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│    └Nomal 魅せられてE−4 /t.mishima (05/03/13(Sun) 01:26) #1822
│      └Nomal 魅せられてE−5 /t.mishima (05/03/13(Sun) 01:27) #1823
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Nomal 魅せられてF−1 /t.mishima (05/03/26(Sat) 22:56) #1867
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│          └Nomal 魅せられてF−7 /t.mishima (05/03/26(Sat) 23:01) #1873
Nomal NO TITLE /茜 (05/04/10(Sun) 23:30) #1905


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■1590 / 親階層)  魅せられて
□投稿者/ t.mishima 一般人(12回)-(2005/02/15(Tue) 02:55:03)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/04(Fri) 19:32:42 編集(投稿者)

    S.E(序章)

    --------------------------------------------------------------------------------
     ステージに降り注ぐ光たちは獲物を追うジャッカルのように聖(ヒジリ)を追う。赤や青に脚色された刃を時に剥き出しにしながら。
     マイクスタンドを蹴り、時に強烈なシャウトを発する聖からは小さな体躯等予想出来ない。女性とはいえ、鍛えられた腹筋に支えられる歌声は男性のボーカリストに負けない力強さと奥深さがある。そして相反するかのように女性にしか持ち得ない危険な妖艶さをも醸し出している。
     如何に普段、彼女が幼顔で可憐な容姿をしていようと、アイラインを濃く引き黒いステージ衣装に身を包めば、彼女は王だった。メンバー四人の演奏はそれを支える大地であり、風でしかない。まさにぐいぐいとひっぱっていくリーダー。凶暴な野生の獣だ。
      大仰なパホーマンスと派手なメイクで女性のファンのみをターゲットに絞ったインディーズの音楽シーンに蔓延する一般的なヴィジュアル系のボーカリストの域を、彼女は既に越えていた。聖・・・橘聖が地方から大都会に殴り込みをかける様に上京しバンド結成してから早五年。ライブハウスの動員を次々と塗り替えて来たこの人気バンドに加入してからたったの半年。昔からのこのバンドのファンをしていた者達の脳裏に聖の前にボーカルを勤めていた者の姿は、もはや一瞬たりとも浮かび上がる事は無くなっていた。
     「ヒジリー!」
     アンコールのラストソングを歌い終わった聖に男達が女達が狂ったように声をかける。
     聖は飛び散る汗すら自分を飾る宝石に変えて、ニヤリと笑み、背中を向け、ステージ上から消えた。尚も観客席から聖を追い続ける怒涛のような歓声。聖に代わってマイクを持ち、「またな」というギタリストの顔も声も観客達の眼中にはない。

     そんな聖のワンマンステージを食い入るように見、声を嗄らす観衆の中に、長身の18、9の少女・・・否、少年といった方が少女は喜ぶのだろうか・・・は、居た。
     「見つけた・・・。今度は逃がさない。」
     楽しそうに呟いて、少女もまた、踵を返した。

    (STAGE1へ続く)
[ □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1590 ] / ▼[ 1592 ]
■1591 / 1階層)  魅せられて@−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(13回)-(2005/02/15(Tue) 02:56:04)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/15(Tue) 02:56:49 編集(投稿者)

    STAGE1 邂逅

    --------------------------------------------------------------------------------
     午後10時5分前、シーケーサーとマイクを黒いバッグに仕舞い、聖はスタジオスピリッツのAスタジオを出た。彼女が寝床を構える中野から態々此処大塚のスタジオへ通うのは、音響器具がボーズで統一されている事の他にスタジオの店長とウマが合うからだと言って良い。メンバーは聖と同じ中野区の者、池袋、目黒、埼玉の者が居てバンド練習はいつも此処を使うとは限らなかったが、個人連で週6日、最低でも1日2時間、聖はスピリッツに篭って個人練習する。早朝起きて腹筋50回、バイトのある日は歩きながら出来る呼吸練習をしながらバイト先に向かう電車に乗り込み、帰りにスタジオといった具合にだ。
     「おつかれ。」
     店長やスピリッツで働く金髪のお兄さんに声をかけられ、少々疲れていた表情を聖は清涼感漂う笑顔に変えた。
     「うぃす。」
     バンドマンならではの受け答えなのだが、聖の幼さの残った端麗な顔には合いも変わらず似合わない。
     「店長、三日振りですね?」
     「あ、もう片方の仕事が忙しかったんや。橘さんは今日も四時間、頑張ったな。」
     「いえいえ。とんでもないっす。まだまだ下手なので。」
     動員500となったバンドのボーカリストの言葉だが、そう言う聖から嫌味等微塵もなかった。
     若さ故に恋に狂った時期もあった、音楽を辞めようと迷った時期さえあった。上京して五年経った。どれだけ幼く見えようと聖はもう24歳になっていた。早い者は、もうとっくにメジャー路線で、メジャーを選ばない者でもメジャーばかりが使うような有名なホールでライブしをているからだ。
     「そやな。けど頑張れ。」
     スタジオ代の御釣を出しながらの店長の言葉に一瞬弾かれ、聖はきらきらした瞳でもう一度笑い、「では、また明日。」とスタジオスピリッツを後にした。

     外気は凍えそうな程寒かった。東京は聖の故郷と違い雪等殆ど降らないし冬の寒さは易しかったが、寒がりの聖にはコートを着ていても冬の夜気は十分身に凍みる。おまけに小雨がぱらついて来た。
     「早く帰ろう・・・。」
     一人ごちて駅へと続く下り坂を駆け下りようとした時、コートのポケットから携帯の着メロが鳴り出した。
     (ト単調だから桃生さんか。)
     「はい、聖です。」
     やれやれと思いつつ、電話に出るとバッハの彼の名曲とは不釣合いの無駄に元気な大声が聖の耳を劈いた。
     「聖ちゃん! もう、何度も電話したのよ!」
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1591 ] / ▼[ 1593 ]
■1592 / 2階層)   魅せられて@−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(14回)-(2005/02/15(Tue) 02:57:36)
http://pksp.jp/mousikos/
     「そうですか。私、個人連に励んでたんです。・・・で、マネージャーさんの用件を簡潔に述べて下さい。」
     聖は、ボーカルを務めるバンド・INSOMNIAはメンバー含め曲も全て好きだったが、唯一マネージャーの桃生美沙だけは苦手だった。
     聖はバンド内では途中加入の新参者ではあったが今やINSOMNIAの特攻隊長と呼ばれる程意見の発言も多いし、人脈を広げる大物のライブの打ち上げにも精力的に参加している行動派ではあるが、それ以外のプライベートは・・・音楽鑑賞は別として結構静寂を好んでいる。単刀直入に言うと、用件もある時はあるが、用も無い電話の方が絶対的に多いこのマネージャーは苦手というより、もはや嫌いの仲間に片足突っ込んでいる状態だった。
     「もう、合コンの誘いとかじゃないのよ。・・・聖ちゃんに事務所に来て欲しいの。」
     「まさか今から?」
     美沙のきつすぎる香水の匂いを嗅いでしまったかのように、聖は不機嫌な表情をする。
     「そうよ。」
     「申し訳ないですが、私、銭湯行かなきゃならないので。」
     風呂無しアパートに住んでいるから、と電話を切ってやろうと思ったものの、
     「バンドの用事なのよ。お風呂位貸すわよ。」
     バンドの用事という一言で、ウンザリしつつ、聖は「苦手」な桃生美沙の待つ、アクアレーベルの事務所に向かった。

     吉祥寺の駅から10分程歩いたアクアレーベルの事務所で聖はうんざりしていた。
     「用件って、新しいスタッフの紹介ですか。こんな夜中に。」
     どっと落ち込む聖。無理もない、スタッフは大切だが、新人スタッフの紹介など後日ゆっくりいつでも出来ることなのだから。
     「そうよ。人手多い方が良いし、アンケート用紙はわざわざ業者に頼みたくないけどカッコイイ方が良いじゃない? だから、そういうの得意な人を募集してたら、良い人材が居るのに気がついて・・・演劇やってるから、駄目もとだったんだけど。」
     「はあ。」
     「演劇馬鹿のこの子がたまたまこの間のナルキッソスでのライブを気紛れで見ていて・・・。」
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1592 ] / ▼[ 1594 ]
■1593 / 3階層)   魅せられて@−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(15回)-(2005/02/15(Tue) 02:58:06)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/19(Sat) 10:05:12 編集(投稿者)

     事務所に着いてからさっさと用事とやらを済ませたい一心だったし、ライブの案内の葉書に宛名の書かれたシールを貼るという作業をしていた人も何人か居た事も手伝って、美沙の口から「紹介」という言葉が発せられるまで聖は今まで面識のない人間などその場に居ないと決め付けて居た。だが、「この子」という言葉に美沙以外の人間に礼を損じてはならないと普段の冷静さが蘇り、注意深く辺りを見回す。
     だが、注意深くというのは不要だった。
     「夜中に失礼しました。はじめまして。」
     件の「この子」は、女にしては長身で175センチはあるだろうか、ずば抜けて端正なその顔立ちが少し美沙に似てなくもないが、厚化粧の美沙とは正反対の爽やかな印象の、だが、少々風変わりの印象を与える少女だった。
     「那智です。」
     ややボーイッシュではあるもののライブ以外でもナチュラルメイクは欠かさない派の聖と違い、ノーメイクの那智の面(オモテ)は中性的というより性別を感じさせないという表現の方がしっくりとくるだろう。ギリシャ神話のアポロンの彫刻のような堀の深い端麗な顔を人の良さそうな笑顔で華やがせ聖に握手を求めてくる。
     が、何処かしっくりと来ない。風変わりというか、何か妙な印象を那智と名乗った少女から自分が感じた訳が、聖にはすぐに思い当たった。
     「いえ、スタッフの皆様は大切ですから。こちらこそ、はじめまして、橘聖です。」
     精一杯取り繕いながら、差し出された手を握りながら、聖は彼女を何気なく見遣った。
     はじめましての挨拶と一緒にとられた皮のハットは、那智のマイブームなのか男物だったのだ。ビンテージものと思われるジーンズも、ニットも全部が、だ。
     「ごめんなさいね、聖ちゃん。この子、舞台でいつも男役ばっかりやっている所為かちょっと変わっているのよ。」
     取り繕う美沙の声に、ついつい那智をまじまじと見てしまった自分に気付き、聖は頭を振る。
     「いえいえ、よくお似合いですし、服装等個人の自由ですから。」
     男装の麗人というわけか・・・と納得する聖には、偏見とか迫害という辞書が殆どなかった。
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1593 ] / ▼[ 1595 ]
■1594 / 4階層)   魅せられて@−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(16回)-(2005/02/15(Tue) 02:58:46)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/15(Tue) 02:59:02 編集(投稿者)

     聖は上京して間もない頃一時期モデルのバイトをやっていたこともあって、おかまと呼ばれる人や同性愛者にも関わって来たし、ましてバンドをやっていれば、自分のコスプレをする輩にも遭遇するし、先人のメジャーの貴公子の姿形、口調や声色まで真似る者も目の当たりする機会も多い。その経歴によるかはどうかは別として、人の迷惑にさえならなければ、後は個人の自由、他人の趣味に口を出す輩の方が失礼・・・というのが、聖の到ってシンプルな考えだ。
     「しかし、演劇をなさっているとか。倶楽部にせよ、そちらに支障は出ませんか?」
     「いえ、大丈夫です。学生もしていますが、舞台稽古に入っても、PC位操れますし。」
     (位、ね。ちょっとした、気紛れという訳か。)
     聖は、まあ、役に立ってくれるなら良いやと思い、
     「では、宜しくお願いします。もう遅いですし、私はこれで失礼します。」
     室内の時計を一瞥するなり、今夜は流しでシャンプーかなと舌打ちしつつ、踵を返そうとする。が、そんな聖に美沙は、待ったをかける。
     「聖ちゃん、ごめんなさい。銭湯間に合わないでしょ? うちのマンションすぐ其処だから、泊まってきなさいよ。」
     一見申し訳なさそうに言う美沙だが、どこかその瞳は嬉々としている。多分、数々の浮名を流す美沙のことだから、新しい男の話・・・どこどこのボーカルと付き合い出しただの、そういう自慢話をしたいのだ。勿論、そう分かっていて付き合う義理など聖にはない。
     「いえ、ご心配には及びませんよ、マネージャー。流石にメンバーとはいえうちの猛者どもに借りれませんが、流し位ありますので。」
     冷淡に切り返して、事務所を出ようとしたのだが、突然腕を掴まれて足を止めざるをえなかった。
     微々たる驚きを孕んだ瞳に怒気を絡めて、美沙だろうと思い、腕の主に視線をやったが、聖のアーモンドアイに映し出されたのは、今しがた紹介されたばかりの新人スタッフ・那智のものだった。
     「姉さん、貴女のように煩い女がいるマンションなんかじゃ聖さんが嫌がりますよ。・・・聖さん、桃生の実家は広いので、是非そこの客間をお使い下さい。」
     礼節の欠かない流麗な声音で那智はそう言うが、振り解こうにも流石に演劇馬鹿と称された事はある。しっかり鍛錬されているのだろう、彼女の腕はぴくりともしない。
     だが、それ以上に・・・、
     (今、なんて言った?)
     「・・・ね、姉さん?」
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1594 ] / ▼[ 1596 ]
■1595 / 5階層)   魅せられて@−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(17回)-(2005/02/15(Tue) 03:02:14)
http://pksp.jp/mousikos/
     何処のどなたがだよ?・・・聖は聖らしくない裏返った声で、那智と美沙を交互に見遣る。
     「あ、言ってませんでしたっけ。僕は桃生那智。桃生美沙の一応血を分けた妹です。」
     飄々と言う那智が傍らに居れば、
     「なんですって! 何処の誰が煩い女なのよ! 折角聖に会わせてあげたのに!」
     もう傍らにはルージュを塗りたくった赤い唇で、叫ぶ美沙が居る。
     (リーダーの元カノだろうが、全くなんでこんな女がマネージャーなんだ。)
     毒づきながら、雰囲気はともかく確かに顔立ちは少し似ている気はしていた事を思い出し、
     (こうやって人目を気にせず人を取り合う様はそっくりだよ。)
     と、聖はバンド仲間でだけの打ち上げであった為まだマシだったものの、半月前の打ち上げでアガペーのギタリストを美沙が他の女と取り合って居たのを脳裏に毒づいた。もはや、美沙への最小限の礼儀を通すのもどうでも良いから、さっさと家路に着きたい気持ちで一杯だった。
     「聖さん、この煩い女と居るよりかは、初対面とはいえ、僕と居る方が楽しいですよ。ジャンルは違いますが、同じステージに立つ者ですし。」
     にこりと、だが、有無を言わさぬ迫力を込めて言う那智と、離してくれそうにないその手からの圧力に半ば押し切られて、
     「ああ、そうですね。気が合うかも知れませんし・・・。」
     聖は気付けばそう頷いていた。

    (STAGE2へ続く)
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1595 ] / ▼[ 1597 ]
■1596 / 6階層)  魅せられてA−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(18回)-(2005/02/15(Tue) 03:02:54)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 19:13:41 編集(投稿者)

    STAGE2 貴公子の罠

    --------------------------------------------------------------------------------
     「やっぱり家に帰ります。」
     アクアレーベルの事務所ビルを出てすぐ、弾かれたように聖はそう言った。
     (幾らマネージャーの妹とはいえ、今日見知ったばかりの相手の家に泊めてもらおうだなんて。)
     頭に血が昇っていたとはいえ、早急に美沙や那智の陳腐な言い争いの現場から立ち去りたかったとはいえ、余りに自分の行動が軽率だった事に恥じ入る他ない。
     「何故、急に気が変わったんです?」
     (いや、だから、取り決めたのも急だったよ。)
     凛然とした眼差しで問う那智は絶世の美少年アドニスも舌を巻いて逃げかねない迫力はあったが、所詮は子供・・・というか、凄みなら負けない聖には痛くも痒くもない代物だった。
     「君の家に泊めてもらうのが嫌な訳ではないんだ。面識のない者が突然泊まりに来るなんてご両親にご迷惑だよ。」
     敬語を取り去って、友人の妹に言い聞かせるような大人の態度を取る聖。
     迷惑だろうという予測もある。だが、それだけではない。この少女からは何処か腑に落ちない胡散臭さが聖には感じ取れたのだ。
     (何故、姉に演劇馬鹿とまで称される男装の麗人が、売れてる方とはいえインディーズの手伝いなんて買って出る? PCに向かってデザインだなんて・・・。)
     聖はストレートではあるが、馬鹿ではない。バンドマンには人を見て計略を練るセンスも必須で、当然聖はそこに長けているから、こうしてステージに立ち続けられているのだ。
     が・・・。
     「父は仕事仕事で・・・母は愛人のマンションに泊まりに行ってばかり居て・・・僕は屋敷で一人きりなんです。」
     那智の声色の異変に、凄んでいたように見えたのは、気の所為だったのだろうかと聖は自分の目を疑った。
     「それで、寂しくて。聖さんと今日知り合えて、聖さんのステージ観てからずっと憧れていたから、凄く興奮してしまって、僕つい迷惑な事を。」
     隣に居る男装の麗人・・・もとい那智は、未成年でまだまだ甘えたくて、だが、自分の個人的趣味・・・つまりは男装により、とびきりの美形にも関わらず変わり者の演劇部員たちにも構って貰えず、友人が欲しくて突然バンドの手伝いをすることになったのではないか? と人の良い聖はさっさと那智に抱いていた胡散臭さを簡単に消化してしまった。
     「あ、いや・・・君が迷惑だなんて・・・それは絶対違う!」
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1596 ] / ▼[ 1598 ]
■1597 / 7階層)   魅せられてA−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(19回)-(2005/02/15(Tue) 03:03:24)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/18(Fri) 02:15:52 編集(投稿者)

     何と言うか、聖は昔から弱者を放って置けないというか、子供の頃から女の子で少々分が悪かろうと、弱い者虐めをする男の子相手に真っ先に向かっていったがいいは、喧嘩で勝利した後、苛められていた方の対応に困っていたような観があり・・・もっと言えば、弱者に見える相手からは操作され易いのだ。
     「では、・・・もしお嫌でなければ家に来て下さい」
     つまりは、弱々しげに瞳を潤ませてそんな事を言われて、首を縦に振るなというのは、無理な話だった。
     那智の策略など聖は知る由もない。
     「では、お言葉に甘えてお世話になります」
     聖が無防備にも彼女を信じ、口調を元に戻して深々と頭を下げた時、那智の顔からは不安げな子供の仮面はすっかりと取り払われていた。

     まったく、偶然にしたってどうしてこんなに今日の自分は驚くことに見舞われるのか、何ら心の動きのない表情を装う聖は、ゲストルームのバスルームを使用した後からずっと那智の部屋に居た。
     何畳かなんて聖には検討のつかない広い部屋は調度品一つ一つまでアンティークで統一され、しかも、
     (天蓋付きのベットなんて始めて見たぞ!)
     と聖が驚嘆するように、桃生の経済力は凄まじいものだった。おまけに庭の端には、色とりどりの品種の花が咲き誇るだろう温室が見えている。
     桃生の家は金持ちだとは思っていた。美沙はいつも新作のブランド品に身を包んでいたのを目にしていたからというのもあるが、先程那智が当然の如く携帯で迎えの車を呼び出していたからである。大の大人の為でなく二十歳前の子供の為にお抱え運転手を雇うなんて、ただの親ばかなだけで出来る筈もないが、これ程までの屋敷に住んでいるとは思いもしなかった。
     (何故、あいつはこんな凄い屋敷を出て在り来たりなマンションに住んでいるんだ?)
     浮名流しの美沙を訝りながら、食後のデザートならぬカモミールを頂く、聖。徒歩で通えるからというだけの理由ではあったが、一応、お嬢様学校の部類に入るミッションスクールで一通りのマナーを習っていた事に今ほど感謝したことはない。そうでなければ、贅沢とは無縁の自分は食事の作法一つでとんだ失態を見せていただろうから。それに自分が好奇心旺盛であったことにも感謝だ。
     「彼女は色恋に狂わなければ、あの美しい歌声を無くさずに済んだのに惜しいですね」
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■1598 / 8階層)  魅せられてA−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(20回)-(2005/02/15(Tue) 03:04:00)
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     こんな風に教養深い那智にさらさらと反応出来る。因みに今のは、オベラ歌手のマリア・カラスの話だ。さっきは、真夏の夜の夢で有名なシェイクスピアの事を語らっていた。
     洋楽すら殆ど聴かない今時のヴィジュアル系のロッカーに、勿論こんな知識はない。
     「聖さんって、本当に博識ですよね。心理学者の話からオペラ歌手まで何でもござれだ。」
     不意に椅子から立ち上がり、優雅に那智が微笑む。
     先程通してくれた書斎から興味深い本でも自分に見せる為に取りに行ってくれるのだろうと思い、つられて聖も笑んだ。
     「とんでもないです。私の知識は単なる好奇心の賜物で偏りがありますし。」
     等と言いつつ、内心聖は嬉しかった。美沙は苦手だが那智とは親密になれそうな期待さえ感じ始めていた。バンドマンとはシェイクピアどころかオペラ歌手の話など到底出来はしない。
     バンドマン同士でも・・・今はワンマンライブが多くそういう経験は減ってしまったが・・・対バン相手の出身地が近かったりすると親しみを憶えるのと同じで、趣味の共感を得ると初対面の相手でも気が緩むものだ。その気の緩みが聖から野生の勘というか危機を感知する鋭敏な直観力を鈍らせてしまっていた。
     (それにしても・・・。)
     機嫌よさげに例の天蓋つきベットに腰を降ろし、シーツを撫でている那智を横目に聖は思う。
     (男装趣味はこの際置いておいて、才色兼備とは那智のような人物の為にあるんだろうな。)
     那智は容姿端麗で、背だって欧米の女性と大差ない・・・。
     (私は・・・顔は・・・まあモデルしてた位だからそこそこかも。背・・・私はないな。金・・・それも余りに無縁。)
     聖は・・・一年前まで半年間同棲していたのは除いて・・・住んでいる共同トイレの風呂無しアパート、おまけに一階には大家が住んでいる自分の身の上を思い出し、一瞬どっと疲れてしまった。
     が、一瞬にしてはっとした。何故か頭がくらくらする。
     那智はそんな聖を悠々と観察していたが、すらりとした足で聖の方へ歩み寄って来る。
     (これは・・・)
     疑いたくはなかったが、疑いようのない事実。この体の異変は単に具合が悪いだけではない筈だと、聖は今更ながら自分の浅はかさに舌打ちした。
     「利口なだけじゃないです。貴女は本当に可憐だ。」
     那智の手は今や聖の頤にかけられていた。
     「そろそろ効いてきたでしょう?」
     疑いたくはなかったが、現実は現実だ。
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▲[ 1598 ] / ▼[ 1649 ]
■1599 / 9階層)  魅せられてA−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(21回)-(2005/02/15(Tue) 03:04:49)
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    2005/02/17(Thu) 15:21:00 編集(投稿者)

     「き・・・、貴様!」
     聖は那智を敵視して、きっと睨む。
     その間にも、頭蓋骨の内側からごーんと音が響くような感覚が強まる。体が火照り出す。
     「利口だけど人を信じ易いな。勿論そこも可愛いですけど。」
     落ち着き払って、酷薄の笑みを浮かべる那智。対照的に意識を少しでもすっきりさせようと、瞳を瞬かせる聖。
     「さっき・・・のカモミール・・・か?」
     「ええ。」
     可愛いに属する単語は年上年下男女問わず、今まで聖に発せられてきた。だが、那智からのそれは、無害でお気楽な人間からの言葉ではない。
     女子校時代を思い出す。自分に好意を向けてくるのは手作りクッキーやチョコをくれるファンが大多数。だが、そのごく一部は違っていた。
     「力ずくっていうのは、少し面倒だったんですよ。」
     体の奥から抑制の効かぬものに操られそうになるのを耐えかねている聖に近づいてくる那智の唇。
     「からかうのは・・・よせ。」
     そう言わずにはいられないが、だが、分かっている、叫んでも仕方がない事は。これ程巨大な鉄骨の屋敷だ。ゲストルームにまで備え付けのバスルームがある程の。防音設備は一部屋一部屋施されているに違いない。
     だからこそ、聖は無様に叫びはしない。暴れようにも視界が眩むのだが、仮に今もし正常な状態であったとしても那智には敵わない事は事務所での事で立証済みだ。
     「おや、意外に落ち着いてるんですね。叫んでも良いですよ?」
     獲物を捕獲した豹のように那智は満足な瞳で聖を見遣る。
     「誰が・・・卑怯なヤツを喜ばせるような事を・・・わざわざ・・・・」
     瞳にだけ劣らぬ強い意志を見せながら、演技だったのだと今更ながらに聖は思い知らされる。泣き出しそうな寂しい子供の表情は偽物だった。
     「僕が喜ぶ事? なさいますよ、貴女は。」
     それを予感しきつく閉じられた聖の唇に勝ち誇った那智のそれが触れた。

    (STAGE3へ続く)
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▲[ 1599 ] / ▼[ 1650 ]
■1649 / 10階層)  魅せられてB−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(22回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:14)
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    2005/02/21(Mon) 12:23:00 編集(投稿者)

    STAGE3 屈辱の一夜

    --------------------------------------------------------------------------------
     火照る体を持て余し震える聖をベットに横たえ、那智は頬に髪に口づけを落としながら、捕らえた哀れなその人を観察していた。
     カモミールに混ぜた媚薬は無味無臭で効果が現れるのに幾許かの時間を要するが効き目は絶大だ。捕らえたスパイの口を割らせる拷問用のものだった。その媚薬を父が総合病院の院長を勤める医師ということで、薬に対しての並々ならぬコネクションがあるからこそ、大学生の身分の那智が手に入れられたのだが、聖は汗まみれになりながらも未だ理性を総動員させて皮膚のずっと奥から湧き上がってくるものと対峙してる。プロのスパイでも、吊るし上げられた手を自慰の為に使おうともがき、最後には敵に恥じも外聞も捨て男性器を入れてくれと哀願するというのにだ。
     「辛いでしょう? 自慰の趣味等ないというのなら、僕にお願いしてみては如何です?」
     言いながら那智は聖に貸し与えたゲスト用の白いネグリジェのボタンの二つまで開け上気した鎖骨に唇を這わす。
     綺麗で可憐な女だと思う。オリーブブラウンに髪の毛を染め、本人は少し擦れた感じを漂わせているつもりらしいが、すっと通った鼻梁といい、特別なリップクリームでも使っているのか赤子のようなピンクの唇に、純真さを見て窺えるアーモンドアイは、聖の生まれ持った品位を揺ぎ無いものとしている。
     そして、しっかりと手入れの行き届いた木目細かな肌は、童顔ということを差し引いても聖を実年齢よりずっと幼く見せていた。
     「素晴らしく綺麗な肌だ。すっぴんの方が綺麗な24歳なんて、僕は今までお目にかかったことがありませんよ。」
     那智は目を眇め、聖の素の美貌を眺める。吸い付くような肌に触れるとびくっと体を震わせつつ不機嫌な視線が刃を向けるが、それには別段恐れ等感じない。
     金持ちで頭の切れる那智は十代だったが、幸か不幸か修羅場慣れしている。生意気だと容赦なく向かってくる相手の拳に晒される事等日常茶飯事だったが、護身術以外にも本格的に武道で体を鍛え上げ、未だ嘗て敗者に回った事などない。聖の睨みは鋭敏ではあったが、そんな那智を怯ませる程のものではなかった。
     「素直じゃないというより、こういうことに疎いんですかね?、貴女は。」
     憎々しげに見上げる聖の瞳を笑みで持って見詰め返す那智。ネグリジェの裾をたくし上げ、強引に左右の脚を割ろうとする。
     「な・・・ぜ、私をこんな目に?」
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▲[ 1649 ] / ▼[ 1651 ]
■1650 / 11階層)  魅せられてB−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(23回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:57)
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    2005/03/17(Thu) 20:12:08 編集(投稿者)

     抑えがたい本能の衝動に一瞬うろたえながらも、聖はきつく言い放つ。
     「お前に恨まれる・・・謂れ等ない・・・!」
     当然の言い分に、
     「まだ、頑張りますか?」
     那智は楽しげに笑うだけだった。
     辛いと悲鳴を上げそうになる感情を力ずくでねじ伏せても、またすぐに意志にはどうにもできない熱に浮かされ、それに屈服しそうになるぎりぎりの線。そこに立たされていても、聖は聖でしかなかった。
     聖は自我と好戦的な意識の塊だった。例えばステージに立つ時、常に聖は「俺を見てくれ!」と心で吼える。そこに立てば女である事を忘れ、歌い、叫ぶ。そこは聖にとって自己顕示欲を満足させる場であると同時に戦場だった。過激なファンを上回るだけのパワーを見せなければ、バンドマンに明日等ない厳しさを楽しみさえしていた。一瞬一瞬に全てを賭け、その場に立つ。闘争心を持て余しているかのようだとメンバーは口々に言っていた。「呑まれそうだ」「時折お前が恐くなる」聖の放つ圧倒的なオーラに凌駕され怖気づき、付いていけないと去った仲間すらいた。
     そんな自分を聖は時に恨みもしたが、今夜ばかりはその性に感謝すらしていた。
     「逢っていきなり・・・とんだ歓迎だ・・・。お前は、・・・誰でもこう、なのか?」
     苦渋に可憐なかんばせを歪めながら、皮肉たっぷりに、普段の玲瓏な声音とはおよそ不釣合いな口調で聖は笑う。
     「もし、・・・お前が男だったら急所を蹴り上げてやるところだ・・・」
     強靭な自我が那智に媚び諂う徒の人形になるのを防いでいたのは事実だった。
     下半身に今にも消え入りそうな力を意識的に奮い立たせ、空を蹴る聖は、那智には意外な生き物だった。
     聖はインディーズとはいえ売れっ子のボーカリストだ。プライドはエベレスト並だとは察しがついた。だが、盛った薬の強力さを思えば、容易に自分の眼下であられもなく自慰を仕出すか、自分は男ではないが入れてくれと哀願する痴態を容易に演じ出すと思っていた。
     が、捕らえたと思った美しい蝶は蜘蛛の巣の中にいて尚、素晴らしい意志の強さで足掻いていた。
     「本当に素敵な人だ。楽しみ方を考え直しましょう」
     那智は一旦身を引き、うっとりとオリーブブラウンの髪に唇を添え始める。
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▲[ 1650 ] / ▼[ 1652 ]
■1651 / 12階層)  魅せられてB−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(24回)-(2005/02/19(Sat) 11:32:37)
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    2005/02/21(Mon) 12:24:22 編集(投稿者)

     さっさと一網打尽に自分に平伏し思うがままになる相手なら確かに気楽だがそれまでだ。一度や二度で自分は満足し、こんなに美しい容姿をしている相手でも手に入れた有り難味を忘れてしまうだろう。
     だが、聖は那智が思っていたよりもずっと反抗心旺盛だ。自我が強い者程落とし甲斐があるというものだというのが那智の見解だった。
     「誰でもだなんて、僕はそんな見境のない輩ではないよ。」
     人の良い微笑みさえ浮かべる彼の男装の麗人にとって、聖から進んで繰り広げられる痴態を見ることなど、今はどうでも良い事だった。
     (確かにこの人が我慢できなくなるまで待って、懇願する様を見下ろすのも楽しいだろうけど・・・。)
     これ程の人だ。手なずけた方が楽しみが増す・・・。
     那智の気持ちは、最早決まっていた。
     (まずは快感を教え込む方が先だ。)
     聖は魅力的だ。行動的で活動的で可愛らしいとあれば、男が放っておく筈もないし、付き合いも人並みにしているだろうが、はっきり言って快楽に素直に身を流すタイプではない。
     「貴女、イッた事ってないでしょう?」
     眼下のアーモンドアイを覗き込み、唐突に那智は言を発した。
     滑らかな肌から漂うリラクゼーション効果があるのだろう、すっとしたボディーローションの香を楽しみながら、悪戯っぽく口元に笑みを浮かべて。
     「なっ!・・・。」
     思った通り、聖は火照った体を更に紅潮させ、見る見る内に頬は真っ赤に熟れた林檎のようになる。
     那智にとって、それは新鮮な反応だった。今時、イッたかの話でうろたえる女なんて、十代後半でも珍しいというのに。
     「可愛い反応だ。」
     唇の端で悪意の欠片もなさそうな笑みを浮かべる貴公子のような少女を目に、聖は更に身が熱くなるのを感じる。
     (困る。)
     見れば見る程那智は綺麗なのだ。聖は同性に興味を持たれた事は何度かあったが、それに応えたことなどない。それどころか、ハリウッド映画の戦争映画に出てくるよう鋼のような筋肉を持った男達が理想像ではあったが。
     だが、那智は魅力的なのは事実だった。男とも女とも見て取れる完璧な容姿に悪魔と神が競って与えたもうた才智と財力。その持ち主に可愛いだなんて言われてときめくなというのが無理な話だ。それもこんな理性が脆くなった時に。
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▲[ 1651 ] / ▼[ 1653 ]
■1652 / 13階層)  魅せられてB−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(25回)-(2005/02/19(Sat) 11:33:15)
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    2005/02/21(Mon) 12:25:21 編集(投稿者)

     「貴女の品位を守ったのは、プライドや理性だけじゃないんだ。無知である事・・・。」
     言いながら、那智は今度こそ強引な態度に打って出る。
     「・・・やめろ・・・。」
     痛々しいまでに理性を失わない聖に構わず、両足の間に割って入る那智。
     「止めたら貴女が辛い。どんなに乱れようが今夜の事は媚薬の所為にすれば良いんです。」
     そう聖に逃げ道を与え、その唇を自分のそれと舌とで塞ぎ、迷わずショーツを破り去ると、代わりに自分の指をそこに与える。
     「!」
     目を見開き、那智の暴挙に一瞬驚きはしたが、それよりも蜜壺に与えられた快感に身を震わせた。
     赤く熟れたそこはまるで聖自身とは別の生き物のように、意志に反して飲み込んだ那智の指に甘んじ、吸い付くように更に奥深く飲み込もうとしている。
     もし、唇を塞がれてなかったら、淫靡な声を上げていたに違いない。
     「意地悪しないで、もっと早く与えてあげるべきでしたね。」
     舌を出し入れする合間に、那智は皮肉ではなく、意外にもすまなそうな顔をしてみせた。
     気丈に振舞ってはいたが、聖だって生身の女だ。その証拠に強力な媚薬の所為とはいえ、蜜壺からはしどけなく白い液体が流れていた。
     「声は、そろそろでしょうが貴女が恥かしさを忘れる頃、たっぷり聞かせて頂きます。でも・・・。」
     濡れそぼった子宮を掻き乱しながら、那智は聖の口腔をも犯す。
     そこを触れられるのは本当に久方ぶりで、驚きはあったが。同性だったが、那智のその中性的な容姿の所為か、薬の所為か、不思議と嫌悪感はない。
     聖は、理性では抑制の効かない熱さを体中に感じ、静かに息を弾ませていた。那智が話す時を避け、声にならない嬌声を漏らす。
     「でも、どんなに乱れても・・・それは、僕が盛った薬の所為だ。」
     那智のその再度の言葉は、暗示となって聖の脳裏に刻み込まれる。
     何処で身に付けたのだろう? 起用に自らを穿つ指は二本に増やされ、聖を内側から手なずけていく。
     「・・・あっ・・・。」
     そろそろだという那智の宣言の通り、蛇のように口腔を嬲っていた舌が離れ声を漏らしても、聖はさして気に留めなかった。
     聖とて自分の身の内に潜む淫魔を押さえ込む限界を最早越えていたのだ。
     限界まで我慢したのだ。まして薬の所為なのだ、と何度も自分に言い聞かせる。
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▲[ 1652 ] / ▼[ 1654 ]
■1653 / 14階層)  魅せられてB−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(26回)-(2005/02/19(Sat) 11:34:28)
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     「それで良い。思った通り、可愛い声です。」
     反抗心を呼び覚まし兼ねない言葉は避け、那智は優しく涙を浮かべた聖の瞼にくちづけ、埋め込んだ指で円を描き、時に出し入れする。
     (しっかりしろ・・・!)
     聖に言い聞かせるように何処かで声がしたが、それはか細く、すぐに深層意識に消えていった。

     煌々と灯りに照らされた部屋で、雪華のような白い肌を薄紅色に染めた聖がシーツの波間で揺れていた。揺らされていたと言った方が正しいかも知れない。
     如何なる窮地に立たされても常に先頭に立ち光り輝いてきた彼女にとって、傀儡のように誰かの思い通りになるのは、その夜が初めてだったに違いない。
     虜囚の様に衣を剥がされ、着衣乱れぬ涼やかな相手を前に熱に浮かされたように荒く息を吐き、幾度となく体の中心を穿たれながら抗いもしない。
     そんな自分を聖は知らない。目にした事がない。だから、夢に違いない。
     「聖、貴女はとっても綺麗だ。」
     声の主は耳朶を小鳥がそうするかのように甘噛みし、暗示のようにそんな呪文を繰り返す。自分が逃れないように、一番敏感な部分を撫で上げながら。
     「・・・やっ・・・。」
     力無い子供のように嫌々と頭を振っても、自分を嘗め回す視線からは逃れられない。
     いつもの自分とは何もかもが違っていた。
     声が違う。こんなにか弱くか細く艶めいた声をいつもの自分は出さない。そして、弱々しい姿を誰かに明かしたりはしない。
     立場が違う。夢を追いかける掴み取り、他者を引っ張り食らうのが聖という存在だった。こんな風に誰かに揺さ振られ、意のままに操られるなんて、全く持って自分らしくなかった。
     だが、狂おしい程の欲求が荒波となって皮膚の奥深くから押し寄せるのを聖は止められない。
     「可愛い人だ。僕の指をこんなに欲しがって・・・。」
     何処か冷たい甘い声の悪魔から聖は逃れられない。
     自分のヴァキナが奥深く穿たれて尚、その指を欲しがって淫らな収縮を繰り返えしているのが聖自身も認識していた。
     それは聖にとって屈辱的な事で、とてもいけないことで。だから、そういうことは出来るだけ避けてきたし、表情は平気を装い、喘ぎ声は噛み殺して来たというのに、今夜だけは違っていた。
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▲[ 1653 ] / ▼[ 1700 ]
■1654 / 15階層)  魅せられてB−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(27回)-(2005/02/19(Sat) 11:35:10)
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    2005/02/25(Fri) 21:56:09 編集(投稿者)

     薬が彼女の細胞一つ一つにまで眠る肉体の欲求を覚醒させ、悪魔がその狡知と美貌を武器に聖から最も尊ばれる才能とも呼べるものを奪っていた。指で自由を奪い、くちづけで正気を奪う。
     「本当に素敵です。貴女は何も考えずこうして僕に全て委ねていれば良い・・・。」
     甘い言葉で自尊心を傷つけず、悪魔は聖の確固たる自我を奪う。
     標本にされた蝶のように魂を不自由にしながら、聖にはそれを気取らせない。
     「・・・はぁん・・・。」
     ぼんやりとした夢の中にいるかのような意識の中、一晩中聖は揺らされ続けた。

    (STAGE4へ続く)
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▲[ 1654 ] / ▼[ 1701 ]
■1700 / 16階層)  魅せられてC−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(29回)-(2005/02/25(Fri) 21:57:47)
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    STAGE4 賭け

    --------------------------------------------------------------------------------
     (此処は・・・?)
     翌朝目覚めた聖は、羽毛のように柔らかで温かい毛布に包まれ、その心地良さに再び眠りに落ちそうになりながらも見慣れない家具を見るともなく目に留めていた。
     いつもなら低く味気ない天井がある筈の視界は白い布地に覆われている。少しばかりの倦怠感を感じる体は、見覚えの無いグリーンのシルクの寝巻を羽織っている。
     (何でこんな高そうな物?)
     聖は如何わしく瞬きし、暫く眠気と奮闘していたが、やがて、カチャッというほんの小さな食器の音に反射的に身構えた。
     視線をやった部屋の中程には、中世ヨーロッパを思わせる見事なその造りに相応しく気品に溢れる、その部屋の主が一人。身支度を済ませて、ロシアンティーなのだろう、アプリコットをスプーンで掬っている。昨夜の事等まるで悪びれていないのか、彼女は落ち着き払った視線を聖に向けた。
     「姫君のお目覚めですか。まだ七時過ぎだ。もう少しお休みになっていて下さい。」
     そう言って口元を笑みで彩る彼の麗人とは対照的に、聖は心穏やかではなかった。
     一瞬にして悪夢のような一夜を脳裏にまざまざと思い出し、自分と那智への嫌悪感に突き動かされる。
     「冗談じゃない!」
     鋭く叫ぶなり、がばっとベットから飛び起き、夜叉の如き形相で那智の前に立つ。
     那智はと言えば、敵意剥き出しの聖を前に悠然と構えている。
     「おや、何かお気に召さない事でも?」
     黒い前髪を優雅に掻き揚げながら、まるで唄でも詠むような気兼ねの無さで言を発する。だが、牙を向く聖に些か気分を害されたらしく、・・・聖にとっては思い出すのも屈辱的な一夜である事に何ら変わりは無かったが・・・その声音からは一晩中何処か労わる様に繰り返された睦言の甘さの片鱗すら感じられない。
     それどころか、冷やかに聖を一瞥すると傍らに置いていた朝刊を詠み始めた。
     那智の自分等歯牙にもかけない様子を目に、聖は自分にとっては大事件だったが、件のお嬢様にとっては・・・度を越えてはいたが・・・昨夜の事はほんの悪戯でしかなかったのだと認識する。
     本当は罵ってやりたかった。お前は卑怯者だと。
     大声で叫びたかった。お前を呪ってやると。
     だが・・・。あんな真似までしておいて、後ろめたさ一つ感じないような相手に、言葉は不要だった。最早此処にいる意味も無かった。
     「誰にも言わないなら、それで構わない。」
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▲[ 1700 ] / ▼[ 1702 ]
■1701 / 17階層)   魅せられてC−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(30回)-(2005/02/25(Fri) 21:58:46)
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     聖は一言そう言うなり、足早に那智の部屋を飛び出した。

     ゲストルームで迅速に着替えを済ませ、顔だけ洗うと、聖は足下に脱いだばかりのシルクの寝巻を丁寧に畳んで置いた。
     シルクの塊を目に、いつの間に意識を失っていたのかは知り得もしない事だが、今更ながら、突っ伏した自分の身体が那智の手によって浴室まで抱き抱えられ体の隅々までを洗い清められていたことを思い出す。勿論、着替えの面倒までみられていたのだ。
     おぼろげな意識の中に浮かんだその光景を・・・だからこそ聖は余計に思い出したくなかった。淫猥な自分の女の部分を卑怯な手で無理矢理引きずり出した当の那智本人に、抵抗一つせず無防備に身体を清められていたなんて――! その上、朝目覚めれば、那智は別段悪びれた様子も無くそれどころか余裕綽々で、自分だけが心乱れていた。
     その事実が聖の自尊心を酷く傷つける。あんな一夜を過ごす位なら、淫らな身体の欲求に耐え、寝も遣らず、唇を噛み狂い叫んでいた方がずっとマシだった。
     堪らなく惨めだった。あんな自分の醜態を自分のものだとはどうしても認めたくなかった。
     「どうしてあんな奴にされるがままに!」
     洗面台の鏡を睨みつけ、聖は怒鳴らずには居られなかった。

     最悪な気分を振り払うかのように、聖は頭を振り、ゲストルームを出る。視界には金持ちの住まいに相応しく所々壁画の飾られた贅沢な廊下が広がっている。贅の限りというより中世の芸術と技巧の限りを尽くしたその光景が、何故か昨夜この屋敷に来た時とは違って見えた。
     素晴らしいミュシャの版画に赤い絨毯に、昨日はあれほど心躍ったのに。今は、大好きな筈の芸術家の絵さえ心を苛立たせる。
     そればかりではない。自分自身さえ昨日までとは異質のもののように感じられ、自分の身体が自分の身体ではないような違和感を聖は覚えていた。
     何度も頭を振り、穏やかならぬ心境で玄関へ向かう途中、
     「お客様、お食事を今お運び致しますよ。」
     と使用人だろう女性に声をかけられたが、殆ど反射的に「急いでおりますので。」と頭を下げ、後は逃げるように屋敷を出た聖は、雨の中を走り出した。
     昨夜の小雨は今は大雨に変わっていたが、完膚なきまでに叩きのめされた心境の時は、その冷たさは妙に心地良い。
     勿論、雨に打たれて昨日が洗い流される事にはならないけれど。
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▲[ 1701 ] / ▼[ 1703 ]
■1702 / 18階層)  魅せられてC−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(31回)-(2005/02/25(Fri) 21:59:19)
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     桃生の屋敷の見事な門扉を後に、そのまま早々と駅までの豪雨の道程を駆け抜けて行きたい心境だった。
     が、
     「家までお送りしますよ、聖さん。」
     待ち伏せしたかのように停車していた黒塗りのリムジン・・・正確にはそれに乗る那智に行く手を阻まれた。
     今一番お目にかかりたくない、その端正過ぎる顔。一番耳にしたくないその冷静な声。
     それを前に私に構うなと詰め寄って殴ってやりたい衝動に駆られたのも束の間、苛烈な憤りを見せても無意味な相手だと妙に心が冷える。そして、目にしなかったとでも言うように、那智等視界に入れず、背を向けようとした聖だったが。
     「陳腐な台詞を吐くようですが、口止めになるかも知れませんよ?」
     脅しを潜ませた那智の言葉に歩を止めざるを得なかった。
     そして、車から降りて来た運転手に仰々しくドアを開けられ、聖は那智の隣に乗り込む。
     (全くもって卑劣な奴。)
     胸中で毒づきながらも聖は平静をを装い、何とか気を紛らわせようと映り行く車窓からの景色に視線をやる。
     お前なんて最悪だ。お前と同じ空気を吸うと思うだけで、私は苛立つ。
     那智へ浴びせたい恨み言は沢山あったが、動じない相手に喚き散らす程愚かではないし、それ以上に今は那智と二人きりという訳でもない。第三者にまで自分の醜聞を提供してやる気もなかった。
     此処は無言を決め込んで、アパートが見えるまで気長に待っていれば良い。ついでに、間違っても美沙みたいなお喋りに打ち明けられる話ではないし、那智がスタッフを辞めるまで延々無視し続ければ良い。
     自分に言い聞かせ、聖は鉄面皮が剥がれない様に、那智の方を見ない用に、豪雨の街角を見る事に専念する。
     考えれば、少々変わり者かも知れないが育ちの良いお嬢様が、わざわざ自分にとってマイナスになるネタを誰かに言い触らす事等有り得ない。そう考えると、素知らぬ振りを決め込むのが一番良い事のように感じられたのだが、例の育ちの良いお嬢様は運転手の目等微塵も気にしていないらしい。
     「そんな態度は、気に入らないな。」
     聖の肩を掴むなり、その身体を那智は強制的に腕の中に浚った。
     「・・・え・・・?」
     余りに突然の出来事に聖は、怒りすら忘れ、目を見開くだけ。
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▲[ 1702 ] / ▼[ 1704 ]
■1703 / 19階層)  魅せられてC−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(32回)-(2005/02/25(Fri) 21:59:47)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:17:06 編集(投稿者)

     紹介された時は出で立ちは良く言うと個性的、悪く言うと変わり者ではあったが、柔和で紳士的だと思えた。昨夜は悪魔のような所業をしながら、一方でほんの少しではあったが優しさと言えなくも無い部分が見て取れた。そして、つい半時前は、凍気を纏ったように冷やかで、出て行く自分を引き止めもしなかったのに。
     今は、
     「一晩中、僕の腕の中に居た癖に、あんなに可愛がったのに、他言しなければ良いだなんて・・・連れない人だ」
     恋に狂った騎士のように恭しく、聖の手にくちづけている。
     (・・・こ、こいつは何?・・・)
     猪突猛進型の聖は、TPOは弁(わきまえ)るものの、基本的に竹を割ったような性格だった。類は友を呼ぶという諺通り、そんな聖の周りには、そういう輩が集まっている。自分を売り出す戦略を練るのに長けた策略家も居たが、それも音楽に関してだけで、プライベートは、皆裏表の無い良心的な奴等。
     長らくそういう輩ばかり見て来た聖にとって、那智は異質の存在だった。無論、昨日知り合ったばかりの人間を今日理解する事なんて不可能だが、たった一日でこんなに様々な顔を見せられると、一生理解出来ないのではないかと思う。
     (・・・って、一生のお付き合いなんて、御免だけどさ)
     聖は毒づいて、顔を背けようと思ったが、どうも視線が離れない。
     気づいた時にはもう、自分の女にしても小さな指が、一本一本那智の舌で舐め上げられていた。
     絶世の美少年のような那智の赤い下が、チロチロと指を味わう様は、キスよりずっと扇情的で、
     「・・・やめて・・・」
     ゾクゾクしながら、でも、運転手の目が気になる聖は、小さく拒否するのがやっとだ。
     コイツは危険、そう思う。
     何時も自分で自分の好きな道を探し、決定し、突き進んできた聖は、他者に流される事がどういう事か知り得もしなかった。勝ち進めば勝ち進んだだけのプレッシャーが重みとなる世界だ。圧し掛かる気負いすら楽しみに変えながら、それでも、それに伴う辛さは拭い切れはしない。少しだけ息苦しさを感じていたのも事実だった。
     そんな弱さを見透かした訳ではないだろうが、突然、那智が現れた。こっちの事等気にせずに、那智は行動する。罠を仕掛ける。一番恥じたのは、あんな真似をされながら、翻弄されてよがった自分が居たのも確かだったから。
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▲[ 1703 ] / ▼[ 1705 ]
■1704 / 20階層)  魅せられてC−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(33回)-(2005/02/25(Fri) 22:00:19)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/18(Fri) 02:05:28 編集(投稿者)

     気取られてはいけない。馴らされてはいけない。そう思う。
     「有耶無耶にしないで」
      身の奥に昨夜の火種を思い出しつつも、けれど、聖は眦(まなじり)を決して厳しく言い放つ。
     「育ちの良いお嬢様が、あんな事言い触らす趣味等ある筈がない。昨夜の事は事故だったと忘れる。私も他言しない」
     自分を律するように言い放つが、未だ聖は那智の腕に囚われたまま動けずにいた。
     意を決して何とか逃れようとするが。暴力沙汰の喧嘩には、そうそう巻き込まれたりしないが、同性とは思えない力強さだ。モデルで通りそうな細身の身体に鋼のような筋肉が隠されているのだろう。びくともしない。
     「この期に及んで、油断ならない人だ。敵わないって分かっている癖に」
     言うが早いか、ぎりりっと那智は聖の手首を掴み、圧迫してみせる。
     「・・・っ!」
     瞬時に聖の顔は苦渋に満ち、肩で息を吐くの強要された。
     「良いですか? 貴女は確かに僕に反応した。最初は薬によってだったかも知れない。でも・・・」
     華奢な身体がギリギリ耐えられる加減を見定めて力を加えたまま、那智は無防備に仰け反る白い首筋に唇を押し当て、
     「貴女は確かに感じていました。安心して僕に身を任せ、無防備に寝息を立てた」
     所有の印を付ける。
     聖は言葉が見つからなかった。大体話が出来過ぎている。バンド等星の数程存在しているのに偶然那智が自分を気に入ったのも偶然。美沙の妹だったのも偶然。那智の部屋に催淫剤があったのも偶然。そして、昨日知り合ったばかりとは思えない那智からの執着。余りに不可解だった。
     「何故・・・私なんだ?」
     苦しげに眉根を寄せながら問う聖に、那智は意味深に笑うだけ。
     それどころか、
     「運転手は雨宮と言うのですが、僕に本当に従順なんです。だから、彼の目は気にする必要はありません。このまま貴女を浚って、貴女が納得するように、昨日の続きをしても構わない」
     等と物騒な事を言い始める。
     「ですが、貴女ならその後も歯向かい兼ねませんし・・・一度だけチャンスを上げましょう」
     「チャン・・・ス?」
     悲痛な面持ちで言葉を紡ぐ聖を目に、もう逃げないだろうと、那智は小さな身体を解放する。
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▲[ 1704 ] / 返信無し
■1705 / 21階層)  魅せられてC−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(34回)-(2005/02/25(Fri) 22:01:10)
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    2005/03/17(Thu) 20:19:05 編集(投稿者)

     「ええ。一ヶ月で良い。僕から逃げてみせて下さい。一ヶ月その唇を僕から守り切ったら、僕は二度と貴女に干渉しません」
     聖はシートに凭れ、未だ咽ていたが、しっかりと那智を見据えた。
     そして、目にした。
     「もし出来なかったら、貴女の時間を三日間、僕に差し出して頂きます」
     死刑執行人のように凍気を孕んだ那智の瞳が、狂気に彩られるのを。

    (STAGE5へ続く)
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▲[ 1590 ] / ▼[ 1690 ]
■1684 / 1階層)  Re[1]: 魅せられて
□投稿者/ asaka 一般人(1回)-(2005/02/21(Mon) 01:48:50)
    とてもすてきな文章ですね。
    続き楽しみにしてます!
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▲[ 1684 ] / 返信無し
■1690 / 2階層)  asakaさんへ
□投稿者/ t.mishima 一般人(28回)-(2005/02/21(Mon) 22:08:29)
http://pksp.jp/mousikos/
     感想の書き込み有難うございます(^_^) 大変励みになりましたvv
     詩集は出させて頂いているのですが、小説を書くのは彼是十年振りなので至らない部分もあるかと思いますが、頑張って書かせて頂きますね。

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▲[ 1590 ] / ▼[ 1767 ]
■1766 / 1階層)  魅せられてD−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(35回)-(2005/03/04(Fri) 19:34:02)
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    2005/03/17(Thu) 20:23:40 編集(投稿者)

    STAGE5 悪魔の潜伏期間

    --------------------------------------------------------------------------------
     「あの馬鹿野郎!」
     その日のバイトの休憩中、聖は何時に無く不機嫌だった。口紅を付け直したばかりだというのも忘れて、今朝の別れ際の那智からのキスの感触を消し去りたくて、手の甲で幾度となく唇を拭う。
     アパート近くで桃生の車を降りる時、「貴女が寂しくならないように」と那智はたっぷりと五分もの間口腔を嬲った。「寂しくならないお呪い」だと、蛇のように執拗な舌で、歯列を割り、貪るように長々と聖の唇を味わった。
     最初は不意打ちだった。手を引かれ、振り向いたら有無を言わさずといったお約束のパターンで。だが、逃げられなくは無かったか?と、聖は自問せずには居られない。
     少なくとも身体の自由は奪われていなかった。ただ、那智のあの瞳に囚われていた。その鮮烈なまでに酷薄な那智の眼差しに、射竦められて聖は動けなかったのだ。
     突然キスをされた経験なら何度かある。子供時代、親友だと思っていたクラスメイトの女子に名前を呼ばれ振り向いた途端マウストウマウスのキスという目に遭ったのも一度や二度ではない。そんな時、聖は余りの驚きに一瞬呆然自失の状態に陥るものの、決まって寸時に理性を取り戻し、はっきりと拒否の気持ちを顕に、毅然とその場を立ち去ったものだった。
     男とのキスの経験だって、中学生でももう少しはするのではないかという位、お子様のもので。思い返せば、あんなディープなものは昨夜が初めてだぞーって、聖は屈辱的な一夜を思い出し、今まで以上にげんなりと肩を落とす。
     那智は嫌な奴だった。何を考えているのか思っているのか掴めない。さっぱり分からない。何故あれ程育ちの良い如何にも頭が切れてますって感じのお嬢様が、あんなにも破廉恥で姑息で卑怯な真似をするのか全く以って理解不能だった。
     周囲をあっと驚かせたり、引っ張ったりするのは常に自分の専売特許で、だからこそ、逆に胸中を引っ掻き回されたりするのは何となく好い気がしない。
     それに幾ら他言出来ないような真似をされたからといって、昨日今日の付き合いの人間にこうも心を乱されたくはない、と聖は頭を振る。
     「はあ・・・」
     またも、特大の溜息が一つ、遣り切れなさで落ちてゆく。
     所は、新宿の駅ビルの休憩室。聖の母親の旧友が店長を勤める化粧品店に週に四日の割合で聖はアルバイトとして雇ってもらっているのだが。
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▲[ 1766 ] / ▼[ 1768 ]
■1767 / 2階層)   魅せられてD−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(36回)-(2005/03/04(Fri) 19:35:02)
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    2005/03/17(Thu) 20:42:41 編集(投稿者)

     常にバイトはバイトで集中する聖には似つかわしくなく、今日は注意力散漫で、どうかしたのかと心配気に聞いてくる美容部員は一人や二人ではなかった。
     京都府の端にある片田舎から上京して来た当初は、冗談抜きで気が狂いそうだった。右も左も分からず、四畳半の一部屋のアパートは、アパートとは名ばかりの下宿先と変わらぬ住まいで、会話するのも近所の八百屋のおじさんや銭湯の番台のおばさんだけ。
     そんな日々が続く中、ライブハウスやスタジオにメンバー募集の紙を貼って歩きながら、オーディションに落ちれば折角予定を開けた日が一円にもならないモデルのバイトで生計を立てた時期は、撮影は楽しかったものの、三ヶ月と持たなかった。その後のバイトもそのまた後にしたバイトも二ヶ月続けられたらマシな方だった。
     だが、此処だけは違った。勿論バイト中のみの話だが、目立ちがりやの聖がこの駅ビルに居る間は、少々奇抜なオリーブブラウンの地毛を、ナチュラルブラウンのウィッグで隠している上、シックなスーツに身を包み、立派な販売員に成りすましている。結局このバイトが長続きしているのは、生活の為だという以上に、仕事先の店長に恩義を感じ役に立とうと思えたというのが、その理由の大部分を占めていた。
     どんな人間だって仮面を被らなければ、社会では生きていけないとはいえ、聖はどうもそんな世の中の仕組みが好きになれなかったがし、その自己主張の激しさから考えて、時流や人に流される事の方がよほど無理な話ではあった。
     だが、そんな灰汁の強い性格が邪魔せずとも、この不況下、そこそこ名の知れたバンドマンを雇ってやろうという人間は然う然ういなかった。ライブなら三ヶ月前には予定は分かるものの、ツアーで地方のライブが重なる間は、店にとって聖は全く使い物になりはしない。
     当然、店長である浅野美佳は古くからの親友の娘だからという温情だけで、自分の店とは無関係のスケジュールに目を瞑ってくれている訳ではない。
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▲[ 1767 ] / ▼[ 1769 ]
■1768 / 3階層)  魅せられてD−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(37回)-(2005/03/04(Fri) 19:35:35)
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    2005/03/17(Thu) 20:49:30 編集(投稿者)

     浅野店長自身が若い時に単身で東京に乗り込み踏ん張った結果、今の座に昇り詰めた経歴を持つ持ち主だから、アグレッシブな聖に特別目を配り、こうして雇ってくれているというのが真実で。また聖にしても、若い時期に自分と同じように理想に向かって一人で行動し、夢を叶えるまで努力した店長は尊敬出来る人物だったし、雇ってくれた期待にも応えたかった。
     浅野店長とは幼い頃から面識があったわけではなく、バイト先をころころ変える一人娘を心配した母・陽子が突然上京して来て、「新宿の駅ビルなんかで聖と買い物してみたいわ」等と言うからしかたなく付き合ってみたら、そこに浅野店長が居た・・・正確には母が呼びつけていたのだった。娘ですというが早いか、陽子はいきなり聖を睨み、「頼んであるから、あんた、今日から此処で働きなさい」と凄まれ仕方なくっというバイトの始まり。
     積極的な性格ではあったが一般的な専業主婦の母に、まさか地方出身者で夢に向かって万進する親友がいようとは思いもしなかったが。新宿の駅ビルの二階に店を構えるアンジェの浅野店長とはすぐに親しめた。事仕事に関しては厳しかったが、不要なテスターをくれたり、食事に連れて行ってくれたり、とても良くしてくれていた。
     お蔭で聖は、「こんな良い人の為なら頑張ろうじゃないか」という持ち前の人情に脆い性も手伝って、見事自分の「バイトがこれだけ持ちました記録」を更新している最中なのだった。
     それから今に至る訳だが、スーツとウィッグで変装中の聖は、これぞ日本女性のお手本という位慎ましやかな雰囲気を醸し出している。
     追っかけの子も何人かアンジェに訪れたが気付かれた試しがない。それどころか、彼女の偽りの見てくれに騙されて、恋人のプレゼントを探しに来たのだと嘯いて聖に接近を試みる会社帰りの男性も少なくない程だった。
     音楽しか興味がない聖は、付き合う男も皆ミュージシャンで、サラリーマンにモテても別段浮かれたりはしないのだが。ほんの少しだけ、アンジェのアルバイトとして働いている間は、女らしい何ともくすぐったい気持ちになる。
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▲[ 1768 ] / ▼[ 1770 ]
■1769 / 4階層)  魅せられてD−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(38回)-(2005/03/04(Fri) 19:36:06)
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     一般的な24歳の女性になった気がして、いつもより笑顔が穏やかになったり、バンドマンっぽい髑髏のペンダントではなくシンプルなトパーズの指輪で身を飾り立てたりして、乙女チックな気分に浸れた。他人には内緒の気持ちだが、忙しい状況に置かれてはいても、神色の口紅をいち早く試して、鏡の自分に女の自信を持つ事が出来た。女である事を楽しめた。
     人は、特に女性は身に纏う物一つ、手にするもの一つで、やはり気分は変わるものだから。
     ・・・勿論、今日はそんな女性らしいときめき等爪の先程も湧いて来なかったが。
     今日は朝から、失敗の連続だった。ブルーのネイルのテスターの後ろにレッドを並べてしまったり、釣銭をうっかり渡し損じそうになったり。そんな聖の如何にも具合が悪そうな顔色を目にした正社員に、いつもより一時間も早く休憩を言い渡されてしまった程だった。
     (情けない・・・)
     聖は、何度目かになる溜息を零す。
     お昼なら他の店舗の者でごった返す其処は今はしんとしていて、余計に聖をやるせない気分に追い詰めている。
     (大したことじゃないじゃないか)
     と、悪夢のような出来事を頭から追い出そうとすればする程、擦るだけ逆に色濃くなっていくシミのように、屈辱感で胸がいっぱいになっていく。
     犯された訳ではないと頭では分かっている。どれだけ男振ろうと那智は女で、肉体同士を繋ぐ事等不可能で。
     (・・・でも・・・)
     だからこそなのか、心を酷く乱暴に犯されたような気になる。
     男にすら、年上にすら貶められたくはないと何時も自分を律してきたというのに、あろう事かか弱いという目で見てきた女性というジェンダー相手に、しかも未成年に、あんな風に自分の淫らな側面を暴かれ、あられもない姿をしていたなんて。思い出しただけでもおぞましい。
     (ああ・・・余計な事は考えるな! 思い出すな!)
     暗示をかけるように心で叫んで、そろそろ店に戻ろうかと思った時だった。
     「聖ちゃん、一体どうしたの?」
     聞き慣れた声が心底心配そうに聖に問い掛けてくる。
     振り向くと、花柄のワンピースを自然に着こなしている、黒髪ロングの、「大和撫子」を地で行く女性が一人。少女漫画のスクリーントーンの花でもしょってますって雰囲気で、味気ない休憩室を華やがせていた。
     「徒の風邪ですよ、麗佳さん」
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▲[ 1769 ] / ▼[ 1771 ]
■1770 / 5階層)   魅せられてD−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(39回)-(2005/03/04(Fri) 19:36:42)
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    2005/03/17(Thu) 20:58:15 編集(投稿者)

     人が入って来た事にも気付かなかった自分の余裕の無さに驚きはしたが、すぐに気を取り直し、聖らしくない穏やか過ぎる笑みで、そう取り繕った。
     麗佳は、美佳の一人娘で今春卒業予定の大学生ではあったが、頻繁に店を訪れて手伝いをしていたので、聖とは顔見知り以上の仲だった。とはいえ、店長の娘とだからという理由以上に自分よりずっと大人びていたので、どれだけフレンドリーに接して来られても、聖は常日頃から畏まった態度で接していた。
     「ふうん」
     然も納得が行かないという様子の麗佳に一礼して、アンジェに戻ろうとした聖だったが、
     「無理しちゃ駄目!」
     抱きついてきた麗佳にそれを遮られてしまった。
     (昨日も今日も・・・女難の相でもでているのかな?)
     と冗談めかしに心中で肩を窄めて見せたが、勿論、レズビアンとかいうセクシャリティーが世の中に蔓延していない事くらい、女の子受けする聖だって知っている。
     麗佳に雑誌やテレビ番組にちょくちょく登場する将来有望のヘアーメイクアップアーティストの恋人がいるのを知らなかったとしても、過度とも言える位スキンシップが普段から大好きな麗佳なら、本当に心配してくれているだけだと思えただろう。
     だからこそ、別段嫌がらずされるがままになっていたのだが、麗佳の体温と、薔薇の香水に包まれて、聖が少し落ち着いた時だった。
     「まさか・・・誰かに無理矢理抱かれたとかじゃないわよね?」
     麗佳はピンクに象った唇から、聖を気遣う気持ち以上に静かな怒りを込めて、信じられない言葉を発した。
     「・・・何言ってるんです? そんな風にからかうのは麗佳さんらしくないですよ」
     聖は麗佳を振り払い、驚きを隠すように静かに笑ったのだが。
     「気付いてないの?、聖ちゃん。首筋にキスマークあるじゃない!」
     麗佳の悲痛な叫びに、聖の顔から貼り付けた笑みは、綺麗に掻き消された。
     「ママは最初は注意しようと思ったんだって。でも、聖ちゃんは浮かれているどころか、思い詰めているようで何も言えなくて」
     麗佳の悲痛な声に、聖は返す言葉を失っていた。
     確かに那智が男だったら、犯されたと言うのがしっくりくる。
     「一体、誰にされたの? 麗佳、そんな卑怯な男、絶対許さない!」
     麗佳の叫びが、他人事のように鼓膜に響き、それでいて、那智の冷やかな笑みが異様な現実感を伴って、聖の脳裏に浮かぶ。
     だが、
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▲[ 1770 ] / ▼[ 1772 ]
■1771 / 6階層)   魅せられてD−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(40回)-(2005/03/04(Fri) 19:37:17)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/07(Mon) 02:27:29 編集(投稿者)

     だが、
     「まさか、メンバーなの?」
     麗佳の言葉に、聖は弾かれたように我に返り、
     「うちのメンバーを愚弄するような言葉は止めて下さい」
     一睨みすると、まとわりつこうとする麗佳の手から逃れるように、足早にその場を立ち去った。
     友達だと思っていた麗佳の瞳が、確かな嫉妬に染められているのも気付かずに。

     それから一週間。
     キスマークが消えるまでは化粧下地で嫌な思い出さえ覆い尽くすようにそれを隠して、麗佳が現れなかった事もあって、聖は何食わぬ顔でアンジェに通っていた。その間、ライブも一本こなしていたが、那智からは表立ったアクションは未だなかった。
     強いて言うなら、美沙からアドレスを聞き出したのだろう、那智から「お元気ですか」から始まる短文のメールがケイタイに届きはしたし、那智がデザインしたライブのアンケート用紙を見せられたりはしたが、それ以外、本当に不気味な位何もなかった。
     ただ、消しても消しても毎日送られて来るメールは、聖に那智の存在を意識させ、桃生の屋敷での事を思い出させるには十分だった。聖は、日に日に内側から自分の心が蝕まれていくような怖気に襲われていた。
     眼前にいる訳でもない那智のイメージから逃れるように、今まで以上に聖は個人錬にも励み、それ以上に先輩後輩のライブの打ち上げに連日参加し、好きでもない酒を浴びるように飲み、騒いで気を紛らわせていた。
     そんなバンド内の花を案じて、常にメンバーの内の誰かが聖に付き添っていたものだったが。
     だが、今夜は生憎レディースバンドの女性限定ライブで、ファンばかりかゲストまで女性に徹底していた為、聖は単身で打ち上げに来ていた。
     レディースバンドで仲の良いミュージシャンは少なかったが、聖に憧れて音楽を始めたバンドマンもいて、それなりに今夜も楽しんでいたのだが、どうも身体がだるかった。風邪の引き始めなのか、少々悪寒を感じて、早々と聖は主催者に頭を下げて、聖は帰路についていた。
     時間はまだ、0時を回った頃で、まだ電車のある時間帯だった。人通りは、サラリーマンや明らかに高校生らしき十代がいて、まだ疎らという程でもない。
     高田の馬場のライブハウス・ヘブンを出て、二、三分歩いていた時だった。
     如何にも遊び人風の十代後半の少年二人が、聖の前に立ちはだかった。
     「君、可愛いね。俺達と遊ぼうよ」
[ 親 1590 / □ Tree ] 返信/引用返信 削除キー/

▲[ 1771 ] / ▼[ 1773 ]
■1772 / 7階層)   魅せられてD−7
□投稿者/ t.mishima 一般人(41回)-(2005/03/04(Fri) 19:37:51)
http://pksp.jp/mousikos/
     もっとマシな誘い方はないのかと突っ込みを入れたくなる程、堂に入ったお決まりのナンパ男の台詞に、ほろ酔い気分も手伝って思い切りけなしてやりたい衝動に駆られたが。大人なんだからと危険な衝動を押さえ込んだ聖は、無視を決め込み、立ち去る事にした。
     だが、聖が右に行こうとすると、男達も右に立ちはだかり、左でもやはり左に立ちはだかり、聖は進路を絶たれてしまった。相手は、二人というのも厄介だった。
     「無視する事ないじゃん。一人って事は暇してるんだろ?」
     下卑た笑い声を立てた、男の一人に、大人の余裕は何処へやら、最近荒れ気味の聖は容易に切れてしまった。
     「ほんと、ウザイんだよ、貴様等。子供はさっさと家へ帰って寝な」
     鍛えられた腹筋から本気で出された声は空気を切る程大きくて、通行人がちらちら窺い出した程だ。
     「まさか、俺達に喧嘩売ってるんじゃないよね? それに、同じ年位だと思うけど、こう呼んで欲しいのかな?、”お姉さん”」
     聖の可憐な顔に似合わぬ・・・まあ、身に付けている皮ジャンには似合っていたが・・・威勢の良さに、顔をしかめはしたが、ナンパ男達は別段気に止めた様子もない。勿論、通行人はその様を歩きながら眺めてはいたが、見知らぬ女を庇ってくれるようなご親切な人間は居ないようだ。
     男達も外野の視線等お構い無しで、
     「良い事してあげるからさ。付き合ってよ」
     と聖の肩を掴む。
     大抵のナンパ男は、無視すれば放って置いてくれるのに、今夜は運が悪かったらしい。
     (あー。こんなんなら、朝まで飲んでおけば良かった)
     心底聖は悔やみ、「チャラ男」とはいえ自分より三十センチ近く長身の男を前に怯むことなく、
     「汚い手で触るんじゃね―よ」
     自分にとって「汚い手」を払い除けた。
     可愛らしく女らしく、怯えた声で「困ります」と言えば、状況は少しはマシだったのかも知れない。叫び声でもあげれば、同情した誰かが警官を呼びに行ってくれたのかも知れない。
     けれど、聖はそういう女ではなかったし、ここ一週間、鬱憤はやたらと堪っていたから、軽薄そうな男達の心理を思い切り逆なでしてしまった。
     軽々しい遊び人の男達の顔は、元々造りの良い方ではなかったが、怒りで思い切り歪み、二人の拳がどちらが先に聖の頬にヒットするか競うように襲い掛かって来た。
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▲[ 1772 ] / 返信無し
■1773 / 8階層)  魅せられてD−8
□投稿者/ t.mishima 一般人(42回)-(2005/03/04(Fri) 19:38:55)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/04(Fri) 20:00:56 編集(投稿者)

     聖はそれを予想して、後ずさり、鞄に忍ばせてある傘の柄に手を忍ばせた。男の急所を傘で突いてやるつもりでいた。
     なのだったが、その機会は永遠に訪れなかった。
     ゆらりと一つの人影が、聖の前に現れたかと思うと、身軽な身のこなしで、的確に男達の急所に狙いを定め、あっという間にその巨体二つを伸してしまった。
     「やれやれ。貴女程可愛い方に軽々しく声をかけるなんて、世の中には身の程知らずが多いですね、僕の姫君」
     突っ伏した男を足先で突付きながら、嫣然と笑ったのは、他ならぬ那智だった。

     (STAGE6 へ続く)
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▲[ 1590 ] / ▼[ 1818 ]
■1816 / 1階層)  椿様o(;・。・;)o
□投稿者/ 茜 一般人(1回)-(2005/03/12(Sat) 04:29:41)
    初めまして☆茜と申します椿様ぁo(;・。・;)o最近どうされたのですかぁ?とってもとってもとっても楽しみにしてるのに(T-T)本当の小説読んでるみたいに引きずり込まれてしまいます(;>_<;)がんばって書いてくださいっo(;・。・;)o

    (携帯)
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▲[ 1816 ] / 返信無し
■1818 / 2階層)  茜さんへ
□投稿者/ t.mishima 一般人(43回)-(2005/03/13(Sun) 01:19:29)
http://pksp.jp/mousikos/
     嬉しい言葉をどうもありがとう(〃゚▽゚〃)&遅くなってごめんなさい♪ 今から追加しますねヾ(^- ^〃)
     自分のHPにSTAGE6を追加したのも昨日だったんですよ。汗 那智が序章で「今度は逃がさない」って言ってた意味がSTAGE6で分かります。STAGE7は今日から書き出して近日中にupしますが、Hシーン有です、多分。笑

     感想、今後ともヨロシク(゚0゚)(。_。)ヘペコッお願いしますvv
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▲[ 1590 ] / ▼[ 1820 ]
■1819 / 1階層)  魅せられてE−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(44回)-(2005/03/13(Sun) 01:22:50)
http://pksp.jp/mousikos/
    STAGE6 過去を知る者

    --------------------------------------------------------------------------------
     聖は動けなかった。道行く人々が足を止めざわめいている声さえ、まるで耳に入っていなかった。ただただ今見た映像を頭の中で反芻する。闇に舞い降りたしなやかな黒豹のような那智の動きを何度も思い描く。
     デジャビュのように不確かな、しかし確かな記憶の中の人物が、今しがた見た那智と重なった。
     一年以上も前に、今夜程度のほろ酔い状態ではなかったが、同じように深夜酔っ払った時、聖は同じように男に絡まれて、同じように助けられていたのだ。冷やかな眼前の麗人に。出会いだと思っていた日は再会だった。尤も、その時は男だと思い込んでいたが。
     「お前・・・どうして言わなかった?」
     先程までの威勢はすっかり消え失せ、聖は掠れた声で夜気を震わせるだけ。
     「僕だけ貴女を憶えていて探していただなんて、癪に障るじゃないですか」
     那智は遣り切れないとばかりに肩を竦め、「車を待たせてありますから」と聖の手を取ると、人前だということにも別段気に止めることなく、聖を抱き上げる。俗に言うお姫様抱っこというやつだ。
     「ちょ・・・! 降ろしてって」
     流石に我に返って、聖は暴れ出すが、那智は何食わぬ顔で、人通りの少ない所まで歩みを進めた。間もなく、頃合を見計らうかのように表れたリムジンに男達から掠め取った・・・もとい救い出した姫君を抱いたまま、乗り込む。
     聖は相変わらずもがいていたが、
     「暴れるのやめないなら、唇を頂きますよ?」
     那智の危険を孕んだ声音に、ぴたりと体を強張らせた。

     記憶の箱というものがあるとするのなら、誰にでもどうしても掴み出したくないものの一つや二つある。
     聖にとっては、それは一年前の冬、ずっと信頼し続けた恋人に別れを告げられた事が発端だった。
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▲[ 1819 ] / ▼[ 1821 ]
■1820 / 2階層)  魅せられてE−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(45回)-(2005/03/13(Sun) 01:23:58)
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     当時の恋人・五十嵐司は、聖が上京してから組んだ最初のバンドのギターであると同時に初めて深い付き合いをした男だった。ルックス的に特別イイ男という訳ではなかったが、才能と人望を併せ持ち、気さくな彼の性格は聖を和ませてくれた。そして何よりロックを始めるきっかけになったバンドが同じだったこともあって、初対面から四時間以上も話し込んだ程、フィーリングが合っていた。
     とはいえ、当初はメンバーだった為、一度関係を持ったものの、それ以降は暗黙の了解で仲間を貫いた。聖も司も他の異性を自分の恋人にしてはいた。
     だが、メンバーには二人の徒ならぬ雰囲気が伝わっていたのだろう。メンバーチェンジの繰り返しに、ライブ活動がままならなくなった二人のバンドは解散に追いやられ、その後付き合うようになった。
     交際自体は二年余り続いた。負けず嫌いの聖が初めて弱音を吐いたり甘えたり出来たのが司だった。お互い別のバンドを組んで、お互い立つステージは違ってはいたが、同じロッカーとしても、恋人としても上手く行っていると思っていた。
     だが、めきめきと頭角を表し個人的なファンを増やしていく聖とは違い、司のバンドには全くファンが付かなかった。幾ら司に才能があっても、表現する場所がなければ、当人の心は狂う。聖は後から人伝に聞いて知ったのだが、当時の司は、新しいバンドのコンセプトに合わないからと曲一つ書かせて貰えなかったそうだ。
     聖に罪等ない。だが、好きでもない曲をアレンジし、誰が聴いてくれる訳でもないギターを奏でていた自分と違い、華やいだステージで黄色い歓声を浴びる聖。当然、聖に対する妬みが生まれていた。別れた日から遡り半年間は同棲していたが、その時の聖はアパートに寝に帰るだけで、忙しくて司のそんな気持ちに気付く余裕も無かった。久々に丸一日の休みがとれて、何処かデートへ行こうと珍しくめかし込んだ日に、聖は司に乱暴に犯されて、事が終わった後、捨てられた。
     聖は裂けたワンピースを纏ったまま、女性にとって最も大事な器官から血を流したまま、司の去ったドアの周辺を一晩中見ていた。泣き声を上げる事さえ無く呆然と。部屋がぼやけて見えたのは、自分の流す涙だという事にも気付かずに、肩を震わせながら。
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▲[ 1820 ] / ▼[ 1822 ]
■1821 / 3階層)  魅せられてE−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(46回)-(2005/03/13(Sun) 01:25:16)
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    2005/03/17(Thu) 21:10:21 編集(投稿者)

     『お前なんて女はうんざりだ!』
     まるで、この世で最も汚らわしいものでも目にするかのような司の目を、最後に聞いたその声を、聖は今でも鮮明に憶えている。
     司と別れて以来、恋愛はしていない。親にも「聖は、悩み一つ話してくれなかった」とぼやかれていたような気丈な聖にとって、初めて弱さを見せられた存在の損失は、大きな打撃だった。恋人なのに親友で仲間で、ずっと一生司とは一緒に居られるとまで思っていたから。
     暫くは男に恐怖を憶えて、メンバーの存在さえ無視して、スタジオの練習もそっち退けて、女性しか集まらない・・・所謂レズビアンのイベント会場やレズバーへ赴いて、飲んだくれた。やつれても尚輝きを放つ聖の見た目の可憐さに言い寄る女は何人もいたが、その度に聖は瞳を吊り上げ無言で追い払い、唯ひたすらにイベントの箱や店の隅で酒を煽った。
     部屋に居ればメンバーがアパートの戸を叩くし、嫌でも司を思い出すから、そうして夜を過ごすしかなかった。少なくともお金さえ払えば早朝までは其処に居る事が許されたから。
     女だけの空間に身を置いても、心に安息等なかったが、それでも、其処にいるのが一番マシで、僅かながらに生きている心地は蘇った。街角で男達を見れば、男達の中に身を置けば、嫌でも司だと錯覚して錯乱しそうになるから、其処に居るしかなかった。
     酒を煽る夜が二週間程続いただろうか。お決まりの習慣のようにその日も朝五時に店を出て、新宿二丁目を歩いていた。何時にも増して半端なく酔って、足取りもおぼつかなかった聖は、チンピラに運悪く遭遇してしまったらしかった。
     『ねーちゃん、ぶつかっておいて、無視か?』
     視界はぼやけているし、どすの利いた声は脳味噌をグワングワンと響かせるだけで現実感がなかったが。掴まれた肩に言いようのない不快感を覚え、聖は焦点の定まらぬ目を嫌悪感を剥き出しにするや否や、力の限りに叫び暴れ出した。
     『離せ!・・・男は嫌・・・! 近寄らないで』
     自分は確かそんな言葉を口走りながら必死にもがいていた。そして何度目かの抵抗が的中し、チンピラの皮膚に一週間切っていなかった爪先が突き刺さった。それに腹を立てた凶暴な拳が振り下ろされ、虚ろな意識で殺される覚悟を決めた時だった。
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▲[ 1821 ] / ▼[ 1823 ]
■1822 / 4階層)  魅せられてE−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(47回)-(2005/03/13(Sun) 01:26:50)
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     文字通り空気をも切るような速さで、別の腕が伸びて来て、チンピラの体を聖とは対極の位置に投げ飛ばしたのだ。
     鞭のようにしなやかな動きを見せた黒ずくめのその人間を、だからこそ、聖は男と決め付けた。その恩人に体を担ぎ上げられた時、男に感じる恐怖感は微塵も感じなかったのに。その腕に恐怖感がなかったからこそ、知らぬ間にその腕の中で久々に深い眠りに落ちて行けたのに、その強さが、男だと聖に勘違いさせてしまったのだ。
     聖が記憶を取り戻したのは、夕方だった。其処はやたらと豪勢なホテルの一室で、見たことのない聖でもスイートルームと認識出来た。獰猛な獣の手から辛くも逃れられた安堵感がもたらした睡眠で精神も肉体も回復したらしく、二日酔いながらも、気分はすっきりしていて、聖に正常な判断力を呼び戻していた。ホテルであることに焦った聖は、ベットのサイドテーブルに『夜の七時には戻る。ゆっくりしてて』としたためられたメモを見つけたものの、男+ホテル=犯されると見事な方程式を頭の中で作り上げ、お礼の文章を走り書きでしたためるや否や、さっさとその場を立ち去ったのだった。
     その日を境に、「夜遊びは帰りは朝とはいえ危険」と自粛した聖は、やっと自分に向き合い始めた。ホテルに連れ込んだとはいえ、一応チンピラから自分を守ってくれたのは男だったじゃないかという思い込みも手伝って、「メンバーは私を傷付けたりしないんだから」と、メンバーの一人一人に頭を下げ、このままでは辞めるしかないと思っていた音楽を続けられたのだ。
     恐怖が薄れた時、音楽に携わる人間以外の男性には、助けた人間をも狙う嫌悪すべき存在という意識は残ってしまったものの。

     「恐くはありませんでしたか?」
     半時程、過去に思いを馳せていた聖を酷く優しい那智の声が現実へと引き戻す。ずっとその腕に抱かれたままであった事に、聖は一瞬身じろいだ。
     「男が恐いんでしょう?、少なくとも一年前の貴女はそうだった」
     「・・・そんな事・・・!」
     強がるのが癖でそう言っては見ても、那智の余りに優しい眼差しに、それ以上は言えず、聖は押し黙った。
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▲[ 1822 ] / ▼[ 1824 ]
■1823 / 5階層)  魅せられてE−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(48回)-(2005/03/13(Sun) 01:27:34)
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    2005/03/17(Thu) 21:18:48 編集(投稿者)

     (とにかく、一応コイツは恩人なんだ・・・)
     等と考えると、那智が更に不可解な者に思えて、混乱する。確かにあんな屈辱的な仕打ちは受けたが、ただ卑怯なだけの輩が、わざわざ見ず知らずの人間を助けたりするだろうか? ついさっきだって、またも自分は那智に助けられたのだ。と思い出したところで、
     「・・・って、なんで、あんなにタイミングよく、あんたが現われるんだ?」
     無意識に聖は子供がせがむような無邪気な表情を那智に向けていた。
     おや、と那智は心中でだけで眉をひそめた。
     聖が礼儀正しい口調は、その人間との距離に比例する。TOPは大切だという意識もあるにはあるが、礼儀を通すにしてもライブハウスやスタジオで働く人には、「ういっす」だとか砕けた物言いをする。バンドの仲間内では、年上だろうと平気でお前呼ばわりだし、逆に年下で身近だろうと美沙に対しては、名前でなくマネージャーとその肩書きで呼ぶ。砕けた物言いと言っても、「貴様」や「お前」は完璧に侮蔑を含んだ敵視で、「あんた」は気の置けない仲間だという意識の現われだったりするのだ。
     聖は気に介していなかったが、那智は違う。
     初めて見る素の聖を目に気を良くしながら、
     「雨宮に尾行させていたんですよ、貴女が荒れ模様だと姉から聞いていたので。僕はここのところ舞台稽古で忙しかったので、貴女のライブへも行けませんでしたがね」
     雨宮の事は言いましたよね?と運転手を視線で示す。
     そして意味ありげに目を細める。
     「勿論、姉が貴女のバンドのマネージャーだったのは偶然ですが、それ以外は違いますよ。然う然う都合の良い偶然なんてありませんから。雨宮は元々探偵事務所の人間なので、使えるんです。で、貴女が単身で打ち上げに出ていると聞いて、都会は物騒ですし心配になって外で待ってたんです」
      そう言い終わっても那智は何処か不自然にではあったが、微笑んでいた。だが、聖は冗談じゃないと言わんばかりに一気に不愉快さを露にする。
     「尾行だって? 一人だから物騒だって?」
     この一週間、不機嫌極まりない心境だったが、誰にも聞いてもらえるような話ではなかったし、薬物どころか煙草にさえ手を出したことの無い聖は、酒を飲んで憂さを晴らすしかなった。
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▲[ 1823 ] / ▼[ 1825 ]
■1824 / 6階層)  魅せられてE−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(49回)-(2005/03/13(Sun) 01:28:13)
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    2005/03/17(Thu) 21:33:38 編集(投稿者)

     徒でさえハードなロッカーの生活に加えて、煩わされる必要など無い悩みを抱える嵌めになったのは、他ならぬ那智の所為でだ。
     「あんな真似をした輩が心配するから待ってたなんて信じられない。大方、私を誘い出す口実を窺っていたんだ」
     那智がどうして自分に拘るなんて分からなかったが、そう考えるのが自然だった。冷静になって考えると那智との初めての出会いがスタッフとバンドマンとしてではなかったと分かった以上、桃生家での一夜だって、予(かねてからお膳立てされていたとしか考えられない。そしてそれからの一週間も美沙まで自分の目として使っていたのかも知れない。
     確かに、二度も救われたのは事実だったが、この男装の麗人は掴みどころがない。表情の細部や雰囲気にまで、天使の優しさと悪魔の巧緻さを巧みに使い分けているのだから。
     (恩人をそこまで疑うなんて、私の器が小さいだけかもしれないけど・・・)
     那智は確かに偶然を否定したのだ。もしそうならと、訝る聖を目に、那智はシャワーを浴びた後の爽快感すら漂わせて、一言、言い放った。
     「まあ、確かに、あのくどいナンパ男その1とその2は、僕の信仰者の劇団員ですがね」
     文字通り悪びれた感等微塵も感じさせずに、だ。
     「奴等が劇団員だと・・・?」
     聖はただ驚くだけだった。一年前、自分をチンピラから守ってくれた腕をただ見詰める。軍人に扮するハリウッド役者のように無駄な肉等ない細身ではあったが、引き締まったその腕は今、其処にあるのに、那智の瞳の奥には絶対零度の氷のような光がある。
     窮地から再び生きる力を奮い立たせるきっかけになった人間が、そこまでの企てを実行するなんて、信じたくなかった。
     だが、
     「貴女って、意外とロマンチストなんですね。さっきも言ったでしょう?、然う然う都合の良い偶然が重なる筈がない。そんなにタイミングよく何度も正義のヒーローが窮地を助けてくれる訳がないでしょう?」
     からかうような那智のその声音に、聖は真実を認識する。
     敵だと認識しさえすれば、聖の行動は早かった。半時以上前に襲い来る男の股間にお見舞いしようと握った傘の柄を握り、鞄から取り出すや否や那智にその突先を向けた。
     それは、護身用として売っていた傘で、先端は正真正銘鉄製の矢尻のそれだった。
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▲[ 1824 ] / 返信無し
■1825 / 7階層)  魅せられてE−7
□投稿者/ t.mishima 付き人(50回)-(2005/03/13(Sun) 01:29:14)
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    2005/03/15(Tue) 15:03:35 編集(投稿者)

     (信じられない。私がまだ、男性不信だったら、どうするつもりだった?)
     きっと険しい形相の聖は、那智から体を遠ざけつつ、物騒にもしっかりと傘の尖った先端をその喉元に向けたままの体勢を取りながらも、
     「私は降りる! 雨宮さん、車を停めて下さい」
     運転手には礼儀正しくお願いするのだが、車の走行速度は落ちる気配がない。
     それどころか車窓から街並みに視線をやると、明らかに中野とは別方向を走っている。
     「無駄ですよ、聖。雨宮は僕には逆らえませんし、貴女は僕を傷付けられない」
     殺気立った眼差しを露にする聖と相反した静謐な眼差しを向けながら、那智がにじり寄る。
     「近づくな! 私は本気だ!」
     言い切る声は毅然とした強さに満ちているのに、腕が震える。
     自分が男だと認識する音楽関連以外の人間なら、容赦の無い行動に出れたかも知れない。でも、那智は女で、どんなに憎んでも、屈辱を味わわせた存在であっても、自分をあの日助けたくれた人間である事に変わりはない。
     『離して・・・男は嫌だ・・・! 近寄らないで』
     チンピラ男を前に、泥酔しながら、確かに記憶に残る、過去の自分の悲しいまでに震えた声音。直後に現われた救い手。
     その相手をじっと見ている内に、聖は殺気も失せて、傘を模した護身用の武器をシートの下に放棄した。
     弱さだと指摘されればそれまでだが、正義感の強い聖にとって、女子供は守るべきもので、決して傷付けられない。況して那智は恩人なのだ。
     舌打ちする聖に、
     「ほら、貴女は優しい人だから」
     と予期していた那智の言葉。
     (優しいじゃなくて、易しいって言いたい癖に!)
     瞳にのみ剣呑な光を残しただけの聖と違って、那智には遠慮等ない。
     「僕があの夜、女性達だけのイベントに行ったのは、ほんの気紛れからでした。でも、其処で貴女を見つけた。弱ってはいたけれど、その瞳は悲壮な程真っ直ぐで犯し難いまでに純粋で・・・」
     そう言うや否や、華奢な体を捕まえると、陶酔しているかのような面持ちで、那智は聖に言い放ったのだ。
     「貴女を始めて見た時から、ずっと貴女が欲しかった」
     と。

    (STAGE7へ続く)
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▲[ 1590 ] / ▼[ 1868 ]
■1867 / 1階層)  魅せられてF−1
□投稿者/ t.mishima 付き人(51回)-(2005/03/26(Sat) 22:56:11)
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    STAGE7 那智の告白

    --------------------------------------------------------------------------------
     車は、桃生家の屋敷で停車した。那智の部屋に通された聖は、壁に飾られたミュシャの「ダンス」に見惚れながら、それ以上に背後にいる貴公子然とした彼女の事が気になった。酔いは殆ど覚めたのに、件の麗人に酔わされているような妖しい心地がした。
     貴女がずっと欲しかった、と那智は言った。その言葉に、そう告げた瞳に、聖はただ悪戯に那智が自分に手を出した訳ではないのだと理解した。
     幾ら男装の麗人を装っているとはいえ、那智が同性愛者かどうかは不明である以上、純粋に惚れられているとは思えないし、もしそうであったとしても、軽々しく彼の美貌の悪魔がそれを認めるとも思えない。だが、那智は自分を一年間探したのだという事は想像出来た。たった一日見た人間の顔の記憶と、たった一枚の置手紙に記された聖という名前だけを頼りに。
     そうでなければ、あんなに熱っぽい眼差しを、那智のような狡猾な悪魔が自分に向ける筈がない。そうでなければ、那智のように清ましたお嬢様が、たかだが一目遠目に見た自分を、チンピラ男から守ったりしない。誰でも良かったのなら、手近な相手を選んだ筈だ。
     濡れたような黒髪、高く整った鼻梁、やや薄いが品の良い唇、長いストライドを描き出す二本の脚。そして、時に射るよう氷を放つ、謎めいた黒真珠のような双眸。大抵の男は、那智の水も滴る良い男ぶりに、完璧に男としてのプライドを傷付けられ、遠ざかってしまっているのが現状だろうが、恐らく、女性らしいとまでは行かなくとも男性の身なりさえしなければ、大多数の男性を虜にするだろうことは容易に想像できる。
     那智の気持ち次第で、一夜の情事を楽しむ相手から、真剣に付き合う相手まで、選り取りみどりなのだろうと。
     だが、と聖は思う。今のままでも十分女性相手になら、喩え相手がノーマルであろうと、那智の魅力は遺憾なく発揮されるのではないかと。そうでなければ、桃生家での一夜の自分の事が証明出来はしないのだ。
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▲[ 1867 ] / ▼[ 1869 ]
■1868 / 2階層)  魅せられてF−2
□投稿者/ t.mishima 付き人(52回)-(2005/03/26(Sat) 22:56:41)
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     聖はある種の男性不信でありはしたが、断じて同性愛者ではない。確かに小学生で友人の女の子にファーストキスを奪われたり、女子高生時代は何かと女の子に追いかけられはしたが、一度として女性に見惚れたりした経験などない。好みは、映画「トロイ」でエリック・バナ扮するヘクトル王子と言い切る程、男の中の男が好みなのだ。幾ら強力な催淫薬を盛られようと、那智に一抹だろうと魅力を感じなければ、自分はとことん反発したに違いないのだ。何せ聖自身、自分の気性の激しさと強情さには呆れ返る位自信があったのだから。
     人生の辛酸を舐めて来たのだ。音楽の為に。スタジオ代を捻出する為に、食費をケチり物乞いのように空腹が続く時期もあった。一般的な女性の贅沢や楽しみからは、凡そ隔絶された生活を余儀なくされている。更に、バンドという体育会系の縦社会に身を置いている為に、時に好きでもない男とも付き合った。綺麗事が一般的な社会以上に罷り通らない世界だ。付き合えという一部の上の者の命令を聞かなければ、今頃喉を潰されて歌えなくされていた未来さえあっただろう。
     そんな裏のある世界に身を置きつつ、聖の心は何者にも、何に対しても屈する事がなかった。生き抜いてきた。それが、今日の聖がある証明だった。日本最大のインディーズ事務所・アクアレーベルに所属して、その社長の後ろ盾を持った時から、聖に害を及ぼす不埒な輩は、一人として現われていないのだから。
     聖は漸くバイトをしつつではあっても、飢えない生活をしながら、歌に、音楽に純粋に専念出来る環境を手にすると同時に、ステージを駆ける王になった。INSOMNIAという音の世界の王者に。
     だが、あの夜の聖は違ったのだ。ただの女でしかなかった。薬に誘発されようと、確かに那智の魅力に屈したのだ。そうでなければ、淫らな声等絶対に上げたりしなかった。
     承知している。だから・・・。
     「聖、こちらへ」
     ベットからそう誘う那智を聖は拒む事が出来ない。
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▲[ 1868 ] / ▼[ 1870 ]
■1869 / 3階層)  Re[3]: 魅せられてF−3
□投稿者/ t.mishima 付き人(53回)-(2005/03/26(Sat) 22:57:06)
http://pksp.jp/mousikos/
     ただ己の立場に甘んじ、権力を盾に、暴力を振るう相手なら、逃げ切る自信がある。無骨な指を、体を這うざらついた舌を、暴力だと思える相手だったなら、屈する振りをすれば良いだけの話だ。体は与えても、声を押し殺し、表情を頑なにし、行為が終わるまでの無為な時間を耐え忍めば、済むだけの話だ。全く乱れない聖を前に、そういう輩は、「不感症の女なんてつまらない」と再び聖を望んだりしないから。
     だが、那智は違う。肉体的にも並みの男以上の強さを持ちながら、それを妄りに使ってこない。端麗な己の容姿の魅力を知り尽くし武器にしながら、用意周到に罠を張り巡らす、知能犯だ。
     一週間の間獲物を泳がせ、一見自由を与えつつ、心を解放してはくれなかった。律儀と言える程きっちり一日一通送信されて来るケイタイのメールに、聖は遠隔操作でもされているかのように追い詰められた。着信拒否すれば良かったのかも知れないが、自尊心が邪魔をした。「それじゃまるで、気にしていると言っているみたいじゃないか」と敢えてそうしなかった。恐らく、そんな自分の性も那智は理解している。
     「人の弱味に付込んで・・・酷いヤツだ」
     ベットに寝そべる那智の傍らに座りつつ、聖は拗ねたように言ったが、その瞳は鮮やかな彩りを見せてさえいる。それは、敗北を感じたことの無い者が持つ、敗北感を感じる事への好奇心と言えるものかも知れない。
     睡眠不足と多忙で体は疲労、心は那智の知能的な攻撃で負傷中の状態で、那智という蠱惑的な麗人は、聖にとって砂漠に咲いた花のように何時にも増して輝いて見える。生きようとする本能は、辛い現状を忘れさせられるものがあるなら、自ずとそれに靡いてしまう。
     「でも、逃げるのは、もう疲れたでしょう? そろそろ捕まえてあげないと、可哀相だ」
     腕を伸ばし、那智はあの夜そうしたように聖の頤に手を伸ばし、親指で唇をなぞる。体温の低い那智の指は、ひんやりとして心地良い。
     「僕からされた方が、貴女は楽かな?」
     桜色の艶めいた唇はそう象るが、明らかに別の意図を持ってそう言っている。
     その瞳が云っている。自ら口づけろ、と。自ら罠に落ちて来い、と。
     理解出来るのに・・・否、理解できているからこそ聖は、那智の傍らに膝を折る。操られてというより、新たに登るべき山を見つけて、嬉々としている登山者のように。
     「捕まえさせてやる。だけど・・・」
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▲[ 1869 ] / ▼[ 1871 ]
■1870 / 4階層)  魅せられてF−4
□投稿者/ t.mishima 付き人(54回)-(2005/03/26(Sat) 22:57:43)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/27(Sun) 02:15:20 編集(投稿者)

     身を屈め、
     「あんたに夢中になったりはしない。最後に勝つのは私だから」
     聖は自ら、那智の唇に自分のそれを重ねた。お前に勝てたら私は大した者だ、と。疲れ果てて尚、戦を前に己を奮い立たせる戦士のようにな眼差しを那智に向けて。

     何度、口づけを交わしただろう。瞳を開けたまま、始めは啄ばむような浅い口づけ。それから、徐々に那智の唇を舌でなぞり、頃合を見計らって、口腔にそれを押し入れる。
     那智の表情を少しでも崩してやりたかったが、経験の浅い聖の方が分が悪かった。口腔を侵して主導権を握ったつもりが、舌を那智のそれに絡め捕られ、吸われ、延々三分程粘膜を嬲られて、聖の方が根を上げてしまった。気がつけば、体の位置も逆転して、那智が聖に覆い被さる状態になっている。
     「明日明後日とバンド練はないんでしたね」
     思い出したように言を紡ぐ那智に、聖は舌打ちする。
     確かに、バンドは新曲の編曲をメンバー各々がする為に、三日間休みなのだ。那智にはバンド練習まで邪魔する気はなかったとはいえ、同時にそれは那智が確信犯だという事実を色濃く感じられて、その余裕が聖は不愉快だった。
     「何もかもお見通しな訳?」
     「勿論。今月は今夜を逃せば、貴女の三日間を頂けませんからね」
     キッと睨みつける聖を目に、那智は唇の片方の端を起用に上げて起用に、不穏な笑みを作りながら、自分のベルトをスルスルと外す。
     「約束は約束ですからね。ちゃんと言うことを訊いて頂きます」
     にっこりと柔和な笑みを作れば、素晴らしく完璧な彼女の顔は誰をも幸せな気持ちにさせるだろうが、同時に凄みに使われれば人を平伏させずにはいられない。
     目の前の人間は何者なのだろうかと思う。すこぶるつきの美人なのに、女女した甘さは感じられない。かと言って、男男した荒っぽさもない。性別を超越したかのような、そのかんばせに魅了されてしまいそうになるのを抑制する聖。
     「言うこと? あんたのアソコでも舐めれば良いの?」
     「まさか。ストレートの貴女が冷めるような事を態々させたりしませんよ」
     那智の黒真珠を思わせる瞳が妖しく閃く。
     「それに僕は尽くすのが大好きですし」
     言うが早いか、那智は手馴れた手つきで、聖の両の手首を先程外したベルトで戒めてしまった。抗おうにも、予期せぬ那智の行動に、聖は目を見開くばかり。
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▲[ 1870 ] / ▼[ 1872 ]
■1871 / 5階層)  魅せられてF−5
□投稿者/ t.mishima 付き人(55回)-(2005/03/26(Sat) 22:58:47)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/27(Sun) 02:17:15 編集(投稿者)

     (なっ・・・?)
     手首に感じるのは、骨をも締め上げるような硬い皮の感触。視線をそこにやれば、戒められた、己の二本の手首が見えるのに、予想だにしない現実は現実として脳に認識されない。
     が。那智にズボンごと下着を剥ぎ取られ、突如女性のみが持つ窄まりに触れられると、これが夢ではないのだと思い知らされる。
     「クッ・・・」
     快感を齎(もたら)すツボを知り尽くしたかのような、那智のしなやかな那智の指の動きに、くぐもった声が聖の喉から漏れる。
     自分の性的欲求は稀薄な方だと勝手に思い込んでいたが、今となっては違うような気がする。薬を盛られた訳でもないのに、嫌って言う程長い那智の口づけに、淫らな欲求は誘発されていたらしく、程なく、クチュクチュと淫靡な音がその窄まりから溢れ出す。
     「とっても似合ってますよ、聖。戒められて、こんな所を濡らす様が。ステージで荒々しく歌っているより、余程ね」
     貶めるような言葉と意地の悪い視線に、だが、何故か聖は嫌悪感を覚えなかった。それどころか、皮膚の奥底から、体を形成する肉の裏側から、かっと火が燃え上がったような感覚に襲われる。戒められた手首を目に、その状況下で弄ばれる自らの体に、言い知れぬ快感を覚えてしまう。視覚から触覚から、長らく眠っていた快楽が揺り起こされていくようだ。
     貶められたかったのだろうか、自分は。ステージに立ち続ける夢を追い求めながら、ステージに立つことで精神的な充足感を覚えながら、もっともっとと上へ昇る事を願い続ける一方で、こんな風に誰かの意のままになりたかったのかも知れない。
     誰かに心から屈した事等なかったから。全てを自分で見出し決定してきたから。長らく押し殺されていた弱さが、歪に変貌して、他者に制服される事を無意識に望んでいたのかも知れない。強靭な仮面から解放してくれと。孤高に生きる自分にも人並みに存在する弱さを引きずり出してくれと、知らぬ間に渇望していたかも知れない。
     勿論、気位の高い自分にとって、それを許す相手は、怜悧で神をも凌駕する凄絶な美しさを放つ人間に絞られるだろうが。それならば、那智程の適任者は居ないと、聖は思う。
     「・・・や・・・め・・・」
     そう首を振っても、説得力など皆無だ。
     「縛られたい願望でもあったんですか?・・・ほら、もう一本」
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▲[ 1871 ] / ▼[ 1873 ]
■1872 / 6階層)  魅せられてF−6
□投稿者/ t.mishima 付き人(56回)-(2005/03/26(Sat) 22:59:22)
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    2005/03/26(Sat) 23:00:44 編集(投稿者)

     危険な光を孕んだ那智の瞳の下、窄まりに蠢めかせる二本の指を三本に増やされて、聖は電流でも流されたように、体を戦慄かせる。肉体の裏側に潜んでいた得体の知れない何かが、熱を持ち、首を擡(もた)げ、聖自身を内側から操ろうとしている。
     ぴちゃぴちゃと粘着質な音を立てる下側の口は、それを穿つ他人の指が立てているというより、自ら進んで那智の指を食らっているのではないかと、錯覚さえしてしまう。
     「もう・・・ゆる・・・」
     もう許して――言ってみても、それは止めてと同意語ではない。寧ろ、それは――。
     「ああ。クリトリスも構ってあげないとね」
     ニヤっと意地悪く笑う那智には、聖の願望等見透かされていた。自分からはっきりと望めない、獲物の恥じらいをも理解して、彼女は親指に愛液を擦り付けると執拗に聖の小さな突起を弄り始める。
     瞬間、聖の火照った体は、更に熱を持ち、その頬は赤く染まる。
     「・・・ん・・・」
     寸でのところで理性を保ち、卑猥な声を押し殺しつつも、聖は押し寄せる快感に、瞳を潤ませる。自分の涙目が、どれほど、那智の嗜虐心を煽るかも知らずに。

     カシャっという音に夢から引き戻されて、聖は我が身を疑った。手首は戒めから解放されていたものの、今度は首輪を装着され、犬のようにリードで繋がれている。あの夜、カモミールを飲んだ、テーブルからだ。
     だが、それを問題だというのなら、下の口が銜えるバイブレーターの存在の方が大問題だ。
     「これ、取れよ!」
     昨夜の痴態等夢でしかなかったと言わんばかりに凄む聖に、
     「また、”撮って”欲しいんですか?」
     那智は、カメラ付きケイタイをちらつかせる。
     つまり、だ。さっきの空気を渇いた音は、カメラ付きケイタイのシャッター音だったという訳だが、今はそんな事を気にしていられない。
     「好い加減にしろ! バイトにも個人練にも行くんだ。ここまで、あんたの悪戯に付き合えない」
     怒気を込めて叫ぶ聖だったが、怒りより、こんな姿で凄んでも格好悪いじゃないか、という情けなさで一杯だった。
     生まれてこの方、初めて茫然自失の境地に立たされてしまったのだ。要するに、昨夜あのまま、襟元一つ乱さぬ那智に、一方的に追い上げられられ、オルカズムスに到達してしまったのだ。
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▲[ 1872 ] / 返信無し
■1873 / 7階層)  魅せられてF−7
□投稿者/ t.mishima 付き人(57回)-(2005/03/26(Sat) 23:01:18)
http://pksp.jp/mousikos/
     信じ難いかも知れないが、この前は聖が普通の状態でなかった為、那智はそういう気になれなかったらしく、華奢な体が落ち着くまで延々と十分な快楽を与え続けただけだった。ある意味、持て余した体の熱を下げるのを手伝ってくれただけだとも言い訳が出来なくもなかった。
     だが、昨夜の那智は聖をイカせる事を狙っていたらしく、聖が半狂乱に泣いて喚いても、下の窄まりを、その上にある突起をいたぶり続けたのだ。蜜壺を痙攣させ、意識が飛ぶまで、ずっと。
     (五歳も年下の奴に・・・!)
     情けなさを怒りで武装させ、腸煮え返ってますという文字が今にも浮かび上がってきそうな面持ちの聖を前に、那智は、
     「約束は約束でしょう?」
     とからかうように笑うだけ。
     だが、そんな言葉で引く聖ではない。
     「約束なら、バイトの方が先約だ。それに、あんたは今から大学で・・・それとも、あんた、私が拘束された姿を想像してマスかくのが趣味?」
     腹立たしい気持ちを吐き出すように、一気に言い切る。
     折角捕まえたと想った相手に、性欲盛んな鬼畜な男と同じ扱いをされて、気分が害されない筈はないが、そこは余裕がお面を被っているような那智だった。
     「良いでしょう。では、取引しましょう」
     やんわりと言いながら、聖の首に装着された、首輪に手をやる。
     寧ろ、那智は聖が抗議し、自由にする代償だと、この言葉を紡ぐ機会を狙っていたのだ。自分から願える程、彼女自身が素直な人間ではなかったから。
     そして、「取引?」と首を傾げる聖に、那智は条件を言ったのだ。
     「ええ。三日間ではなく・・・本気で僕と付き合って下さい」
     と。
     当然、聖は面食らったものの、無断欠勤でバイト先の信頼を失う訳には行かず、首を縦に振るしかなかった。
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▲[ 1590 ] / 返信無し
■1905 / 1階層)  NO TITLE
□投稿者/ 茜 一般人(2回)-(2005/04/10(Sun) 23:30:43)
    お久しぶりです☆なかなかサイトを見る時間が少ないのですが(T-T)続き楽しみにしてます(>_<)本で読みたいくらいのめり込んでしまいます(〃д〃)早く書いてくださいね(T-T)

    (携帯)
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