SMビアンエッセイ♪

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■1063 / 親記事)  ─CarnivorE─1
  
□投稿者/ 塁 一般人(1回)-(2004/11/21(Sun) 21:05:37)


    「ぁぁ…ぁああアァ・アアアアアアアァァ!!!!」


    「華…華…ごめんね…ごめん……ごめん……」




    ブチ




    真っ赤な薔薇が、血の色をした薔薇が、私の瞳の中で散った。
    彼女は私の恋人。
    愛しい、人。
    いい。

    いいの。

    泣かないで…

    お願い。

    思いの丈を込めて言うわ。

    愛してるの。

    他に言葉が見つからないわ…

    だから、私を食べて。

    あなたの一部にして。











    ─CarnivorE─




    (携帯)
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■1064 / ResNo.1)  ─CarnivorE─2
□投稿者/ 塁 一般人(2回)-(2004/11/21(Sun) 21:07:05)
    今日はショパンだわ。


    ぼんやりと陶酔しきった頭の中でポツリとダレかが呟いた。
    ゆっくりと瞬きをする。
    酷く体が重い。
    唇を動かす事さえできない。

    唯一動く事ができる私の二つの瞳を…ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり…動かしてみる。

    古びた畳。

    テレビ。

    天井のシミ。

    新聞をメタメタに切り裂いたものが詰まっているゴミ箱。

    潰れた空き缶。

    …包帯

    …ハサミ


    小さな部屋、薄暗く肌寒い。


    大音量のショパン。
    『革命』



    ピク、と指先を動かす。何か…何か柔らかいものに触れた。私の指先は私の傍らにあるナニカに触れている。仰向けで寝ている私の傍らのナニカ…


    指先へと視線を這わせる。瞳をこらし、ゆっくりと…ゆっくりと…神経を集中させて。



    ああ





    嗚呼





    茜。




    茜。






    血走った瞳をカッと開かせながら、彼女は私を、ただ、ただ、見つめていた。
    微動だにしない。
    白目の赤黄色い部分だけがギトギトと輝き、それがあまりにも克明な輝きで、私のぼんやりとした視界が現実の色味を帯びると共に、記憶が蘇ってきた。

    ここは茜のアパート…


    私は昨晩ここに来たのね…


    そう、無言電話が一時間に二十はかかってきた。分かっていたの…
    そうだわ。


    茜、泣いてた。
    掠れた声音で…
    たったの電話の回線一つで繋がっているだけでは、不安で仕様がないと言うような…切羽詰まった声音だった。




    「お願い……来てぇぇ……」





    急いで化粧を直し、傘を持って、電車に飛び乗った。乗り継ぎを含め賞味一時間はかかる茜の待つアパートへと、必死になって、本当に…本当に…必死になって、向かった。


    茜のアパートの最寄りの駅に着いた時…雨足は私が家を出た時とは比べ物にならない程強くなっていた。



    愕然とした。



    茜は、びしょ濡れになりながら、改札の向こう側に立っていたのだ。




    その時既に、茜の瞳には薄い三日月が宿っていた。
    食べられる、と思った。




    改札を抜けた私の傘を、片手で開いたビニールの部分を、わし掴んで地面に叩き付けて、力いっぱいに抱き寄せられた。






    「食べたいよぉ…ぉ」





    ああ。









    食べられる。









    (携帯)
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■1065 / ResNo.2)  ─CarnivorE─3
□投稿者/ 塁 一般人(3回)-(2004/11/21(Sun) 21:10:56)
    「茜…茜…ごめんなさい。ほうっておいたわけじゃないの……ごめんなさい茜」

    「ハァ…ハ…」

    雨降る中片手をわし捕まれ、それは傘と同等の様な扱いで…茜のアパートへと引きずる様に連れて行かれた。
    恐怖が全くなかったとは言えない…けれどそこには一種の痴呆、狂気、愛憎をため込んですっかり大きく弱くなってしまった獣がいた。
    悲しみと、どうしようもない虚構が私の体中に広がって…ただただ謝った。

    否、それを緩和する行為をこれからするのだ…。



    転がり込む様に室内へと入ると、その勢いで玄関で2人して倒れ込んでしまった。
    「ぁ…ぐ…っ」

    私の下敷きになったせいで頭を打ったのか、抑え呻く茜を前にどうしたらいいのか分からず、そっと手を茜の後頭部に添え、撫でようとするやいなや茜は急に金切り声を上げて私の腕を掴み取った。


    「ぁ…っ痛ぃ…」



    「華…華……ねぇ、昨日は旦那と寝た?一昨日は?その前は?」



    ガリ、と私の二の腕の柔らかな内側の部分に歯を立てながら嗚咽を漏らし、叫ぶ様に言っている。
    ごめんね…ごめんね茜。

    「寝てないわ」
    嘘。


    「嘘だ…!」


    「寝てない」
    嘘。


    「嘘だ…!」


    「本当よ」
    嘘。嘘嘘嘘嘘


    「ぁあああ!!!!」





    ブチブチ



    「…………ッ」





    私の肉は、喰いちぎられた。
    二の腕の一部からは血が吹き出し茜の口元からは小さな肉片がポロリと落ちた。
    私の目にそれは幼い子供が口元から食べ物を零す時のそれの様にあどけなく映り、声もうまく発せないほど痛むのにも関わらず、うっすらと微笑んでいた。




    どうして。


    どうしていつから、こんなふうになってしまったんだろう。



    変わらず嗚咽を漏らす茜を前に私は、微かな笑みを浮かべ恍惚に浸っていたと思う。
    この時間、この瞬間は茜の中は私で支配されているという確かな恍惚。
    もう、いつからか、私達はお互いの事を愛しているのか憎んでいるのか分からなくなってしまった。




    茜が、涙と私から溢れた血にまみれた手で、必死になって私の左手を掴み上げる。


    カラ……ン


    指輪が外される。




    長い、長い夜が始まった。








    (携帯)
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■1066 / ResNo.3)  素晴らしい
□投稿者/ そら 一般人(1回)-(2004/11/21(Sun) 21:45:28)
    初めまして。塁さん、素晴らしいです。批評をつかれました。初番からいい。同性の深い根っこの部分まで舐め尽くされていると思います。同性は嫉妬も異性とは桁違い。愛は憎しみに変わり、肉は血に変わる。それでも愛してしまう。頑張って下さい。次も楽しみしています。

    (携帯)
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■1068 / ResNo.4)  ─CarnivorE─4
□投稿者/ 塁 一般人(4回)-(2004/11/23(Tue) 03:00:00)
    茜は、濡れた髪を振り乱しながら、私の着ていた薄手のワンピースの胸元をビリビリと引き裂いていた。
    その狂気じみた姿を見つめながらも、ふと、夫は今頃出張先の土地で人に揉まれ、人事に追われ、偉そうなオヤジに頭を下げてはヘラリと笑っているのだろう…という事を考えた。
    それはまるで別の世界で起きている大して面白くもない戯曲の様で、寧ろそう考えている自分が無性に不可思議でいておかしく、狂っているな、と思った。けれど、けれど、

    「華……華……」

    目の前で一心不乱に私を求める茜、その存在だけは否応無しに私の中のリアリティを満たしていた。


    「ぁぁ……華…華の香りがするよぉ…」


    露わになった胸元に頬を擦り寄せ、うっとりとした表情で二つの飾り物を繊細な指先で転がす。
    それは官能を含んだ行為ではなく、まるで乳飲み子が母親の乳房を求める時のそれの様で、ぎゅぅと胸が締め付けられた。

    茜は、家族の事を話したがらない。


    時折私の事をお母さん…と呼ぶのだった。
    その呼び方と言ったら、本当に切ない声音で、私にしか聞こえない小さな微かな声音で。そんな時は茜の頭を抱えるように抱き寄せ、瞳の奥がジン…と痺れる感覚を耐える様にやり過ごした。

    「ん……ん…」


    茜は、暫くの間恍惚とした表情で乳首を転がしていたが、それでは飽き足らなくなったのか、今度は舌と上下唇を使って乳輪をゆっくりとなぶるように舐め始めた。


    「は…ぁぁぁ…ぁ…」


    時折苦しげに何かに耐える様に眉根を寄せ、丹念に乳首を攻め立てる。
    決してセックスに対して技術があるとは言えないけれど…その諸刃の懸命さはどんなテクニックをも超越した何かがあると、いつも感じる。

    勿論、夫の持つ貧弱なシシトウの様なそれは、比べるにも及ばない。

    二人分の吐息が交じり始めると私は壁に背を預けた体制からズルズルと床に仰向けに寝る体制へと移った。茜はその様子を見届け起き上がると私の両脇に手をつき、一度酷く優しげに微笑むと、立ち上がりミシ…と言う床の軋む音と共にその場から消えた。

    はぁ………ぁ………















    ドンッッ…







    私の顔の右脇、瞳から10センチ程度の床に包丁が突き刺さった。



    「愛してるわ」



    至福の笑みを浮かべた茜は、文字通り噛みつく様に私の唇に口付けた。






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■1069 / ResNo.5)  φそらさんへφ
□投稿者/ 塁 一般人(5回)-(2004/11/23(Tue) 03:08:22)
    ご愛読有難うございますm(_ _)mまだまだ未熟な為伝えたい事がストレートに表現できていない、発展途上の文章ではありますが、続きも読んで戴けたら小躍りします。
    ではでは







    (携帯)
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■1087 / ResNo.6)  ─CarnivorE─5
□投稿者/ 塁 一般人(6回)-(2004/11/28(Sun) 11:16:35)
    言葉を失い、開ききった瞳孔から止めどなく涙を流しながら固まった私を、引きずる様にして茜は『あの部屋』へと連れて行った。






    ──茜と初めて会ったのは、私達がまだ学生の頃だった。
    三年越しにやっと上野のキャンパスから招待状が届いた私とは対照的に、現役生として入学した茜。
    六十人に満たない学科生の中で、明らかに彼女は浮いていたと思う。
    夏は白いTシャツにコバルトブルーのヨレたビンテージ物のジーンズ、冬は黒のタートルネックに穿き古したエドウィンの黒ジーンズ。纏う物は決まって、肉の削がれた体には不似合いな程大きめのダークグレーのトレンチコート。
    人間的でも、野性的でもなく、無機質な様で奥深い、そんな瞳でいつも彼女は私を見つめていた。
    これは、決して私の中のナルシシズムが働いたのではなくて…あからさまに、臆する事なく、恥ずかしい程に彼女は私を見つめていたから。
    仲間内では「あの変わり者は華にホの字だ」、などと言う冷やかしが常に飛び交っていた。私には付き合っていた彼氏もいたし、そのての話を笑って受け流すだけの大人の配慮もあった。当然彼女の耳にこの話題が入らないわけがないのだから。
    けれど、本心はと言えば…実は相当に気になっていた。それを彼女に知られたら、その瞳の奥の奥まで知ってしまう事になりそうで…なんだかとても、本能的にそこの部分から抗っている自分がいたと思う。




    けれど、私の中の秘めやかな抵抗はある日アッサリと打ち破られた。






    「ねぇ、エスって知ってる?」



    サァァァァァ……



    煙る様にうっとおしい雨が降り続く梅雨時の午後。
    それは突然の事だった。

    午前の講習が終わったその日、珍しく私は午後の実技演習を代返してアパートへと帰るべく上野駅前のバス停にぼんやり佇んでいた。その日の空と同じくらいに、私の心にも一枚のフィルターが重くのしかかっていた…彼氏から、突然の別れを告げられたのだ。
    そんな矢先に、だ。



    私のすぐ隣に、白い開襟シャツの襟を立てた中性的な細い生き物が立っている。少し上目遣いのソレを前に、私は口を半開きにしたまま言葉を失ってしまった。


    試すような、それでいて誠実な何かを認めた瞳。金縛りにあった様に動けなくなった私を見ると、少し狼狽えた様に瞳を揺らし、逸らした。
    瞳が私から離れゆく、それを逃すまいとしたのは紛れもなく私の方だった。


    「知らないわ。…教えてくれる?」



    (携帯)
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■1088 / ResNo.7)  ─CarnivorE─6
□投稿者/ 塁 一般人(7回)-(2004/11/28(Sun) 11:19:12)
    バスに揺られながら、それでも彼女は私をジッと見つめていた。意外、この状況になって初めて私は彼女の顔を直視した。どれだけ無意識的に彼女の事を避けていたのかに、今更になって気付かされた瞬間だった。私は、彼女への思いやりと見せかけ、結局は自分を守っていただけの偽善者に過ぎなかったのだ。
    髪は少し癖がある黒髪。恐らく染めた事なんて、ないのだろう。二重の線は長く、切れ長の瞳。髪と瞳の黒さを覗けば肌は青白く、とても健康的とは言えなかった。けれど…何故か洗い立ての清涼感をそこはかとなく漂わせている様な…不思議な存在感が彼女にはあった。


    「エスは…『es』、性的衝動を中心とする本能的な欲求のエネルギーがたくわえられた無意識の部分で、欲望や衝動の源泉、貯蔵庫だよ。…エスはひたすら衝動を満足させて快感を得ようとする。自我はそれを抑制するためのモノ」


    彼女の瞳の中に私が映っている。私はどんな顔をしている?


    「私は、おかしいかもしれない」


    ガタン、と車内が一瞬揺れると同時に、彼女の手と私のそれがほんの少しだけ触れ合った。



    外れた視線を再び彼女に戻すと、先程より距離の縮まった彼女の瞳は切ない程に潤んでジッと私を見つめていた。




    「おかしくなんてない。」



    「どうして?」



    「どうして私を見てたの?」





    「…あなたを…描きたい…」

    縋る様な、強い情熱を向けられた気がした。ドンッと背中をバットで殴られたような衝撃が体中に走る。
    気がつくと彼女は、触れ合っていた方の私の手をギュゥ…と握り締めていた。


    「お願い…」






    私はその懸命さにうたれたのか、好奇の方が勝っていたのか、今ではもうハッキリとは思い出せないけれど…一つ言える事は失恋の痛みを埋めるそれとは明らかに異なった、何か能動的で熱い感情に突き動かされていたという事だ。



    逆に彼女の手を握り返し、二人分のバス代を払ってアパートへと連れて行ったのは、またしても私の方だった。



    彼女はそれでもひたすら、私を見つめていた。






    (携帯)
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■1089 / ResNo.8)  ─CarnivorE─7
□投稿者/ 塁 一般人(8回)-(2004/11/28(Sun) 13:58:31)
    パラ、というクロッキー帳を捲る音が厭に耳に煩く感じる程、部屋は静まり返っていた。
    話しかけたい、でも…一度開いた口から何か、何か、と言葉を紡ごうとすればする程それは不可能と化し、再び唇を閉じてしまう。それを知ってか知らずか、彼女はただひたすらにFと3Bの鉛筆をせわしなく動かしている。
    学校では平然と裸婦を描いている私が、何故加から被への立場に変わっただけで、こうも落ち着かない気持ちになるのだろう。ましてや、服は着用したまま、ポーズと言ってもただ網戸に背を預けぼんやりとしているだけだ。
    トクトクトクトク…
    静か過ぎる室内に、私の心臓の音が浸透し、その波動を彼女は受け取りながらも平然としてるのではないかと、稀有な疑いまで抱いてしまう。
    どうしてこんなにも乱されてしまうのだろう。

    男性と付き合って、ドキドキした事がないなどとは言わない。
    けれど、チラリとこちらの何物かを露わにすれば飛びかかってくるという様な、分かりやすいパターンは到底考えられないこの緊張感。



    「ね…」



    悶々と考えを廻らせていた私に、クロッキー帳からチラリと視線だけを寄越し、急に彼女は話しかけてきた。思わず素っ頓狂な声を上げ目を丸くした私に、目元を緩めて彼女は言った。


    「…綺麗」


    頭がクラクラした。
    どうしちゃったんだろう、私。
    確かに同じ教室にいた。それも一年以上。でも…でも、言葉も、視線さえも交わさなかった相手に、どうしてこんなにも揺るがされてしまうのか…
    けれど、それに抵抗感は感じない。寧ろ全身が静かな興奮で満たされている様な状態なのだ。


    彼女に描かれるという行為は、そのまま何者かに組み敷かれ抱かれている様な感覚だった。じらされ、辱められ、崇められ…吸われ、撫でられ、突き上げられる。その断続的な繰り返しが、凝縮された時間の中にある視線と鉛筆の動きに乗り移り、行われていた。



    二時間に一冊を仕上げる。それが彼女のノルマの様だった。



    その日を境に私達は急速に距離を縮めていった。まるで、この1年と数ヶ月間離れ離れになっていた恋人同士が、置いてきた時間を埋める様に。それは絵を描き、絵にされるという行為に過ぎなかったけれど、視線と視線をまじあわせる度にお互いの内に秘めた何かを通わせ合っていた。




    雨が降ると電話から意識を切り離せなくなった。


    彼女は、雨の日にしか、絵を描かなかった。






    (携帯)
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■1135 / ResNo.9)  ─CarnivorE─8
□投稿者/ 塁 一般人(9回)-(2004/12/05(Sun) 00:36:09)
    「ねぇ、茜にとって絵を描くってどんな事…?」
    「んー…宅急便みたいなものかな」

    「…宅急便…」



    その日も、雨が降っていた。その年の梅雨は非常に梅雨らしい梅雨だった。
    朝一番、それも6時から数針短針が動いただけの、そんな時間に彼女は電話をかけてきた。今すぐ描きたい、と。夜中雨の音が耳の中で木霊し続け、あなたの姿が頭の中で現れては消え、手は何かを欲する様に指同士が絡み合っては解け、ベッドの端をギュゥと掴んでただただ耐えていた…と告白するのだ。アッサリ眠気のひいた頭で考え、今日同じアトリエの柄谷君から映画の誘いを受けていた事を隅っこへと押しやり承諾した。
    柄谷君には、体調を崩してしまって…と丁寧にメールをしたけれど、何かと敏感な彼に私は見込みのない女とうつったかもしれない。つまり、それは、ある種特別の意味を持った約束だとお互いの間に微妙な空気があったにも関わらずの断りだったから。恋仲へと進む第一歩を踏み出そうとしていたその先の道を、一本の電話でアッサリと断ち切ってしまった私。申し訳ないけれど…本当に…うん、良い人だったけれど…
    私は、他の何よりも、茜と過ごす時間をこよなく好んでいた。
    それに、もうすぐ梅雨が終わってしまう…


    「つまり」
    「うん」
    「トラックの中から出来るだけ短時間の間に大きくて思い荷物を運び出せるか…」
    「…」
    「今やってる事はそういう事」
    「…ぅーん、もう一声!」
    「トラックは華、荷物は華の魅力」
    「……なるほど」
    「ね?」

    彼女はラブソファの端で両足を抱えて座っていた。早朝から六時間、休みなしにスケッチブックと私の間で視線を行き交わせ、鉛筆を動かしていたせいか、眠そうに小さく丸まっていた。
    ハムスターみたい…という考えが頭をよぎった途端、どうしようもなく微笑みが溢れ出てきてしまった。
    「…ナニ」

    「んーん。…ふふ…もうちょっと待ってて」

    たらこのスープスパゲティを作っていた。小さいけれど、使い勝手の良くて気に入っているキッチン、そこからたまに彼女の方へと視線を送りながら会話をする。
    絵を描いている最中には殆ど口を開かない茜と、この時間だけは自由に話せる。

    それが、私にとっては今時の映画を見る事より楽しくて、楽しくて、楽しくて、仕方がなかった。





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