| 2005/03/04(Fri) 19:32:42 編集(投稿者)
S.E(序章)
-------------------------------------------------------------------------------- ステージに降り注ぐ光たちは獲物を追うジャッカルのように聖(ヒジリ)を追う。赤や青に脚色された刃を時に剥き出しにしながら。 マイクスタンドを蹴り、時に強烈なシャウトを発する聖からは小さな体躯等予想出来ない。女性とはいえ、鍛えられた腹筋に支えられる歌声は男性のボーカリストに負けない力強さと奥深さがある。そして相反するかのように女性にしか持ち得ない危険な妖艶さをも醸し出している。 如何に普段、彼女が幼顔で可憐な容姿をしていようと、アイラインを濃く引き黒いステージ衣装に身を包めば、彼女は王だった。メンバー四人の演奏はそれを支える大地であり、風でしかない。まさにぐいぐいとひっぱっていくリーダー。凶暴な野生の獣だ。 大仰なパホーマンスと派手なメイクで女性のファンのみをターゲットに絞ったインディーズの音楽シーンに蔓延する一般的なヴィジュアル系のボーカリストの域を、彼女は既に越えていた。聖・・・橘聖が地方から大都会に殴り込みをかける様に上京しバンド結成してから早五年。ライブハウスの動員を次々と塗り替えて来たこの人気バンドに加入してからたったの半年。昔からのこのバンドのファンをしていた者達の脳裏に聖の前にボーカルを勤めていた者の姿は、もはや一瞬たりとも浮かび上がる事は無くなっていた。 「ヒジリー!」 アンコールのラストソングを歌い終わった聖に男達が女達が狂ったように声をかける。 聖は飛び散る汗すら自分を飾る宝石に変えて、ニヤリと笑み、背中を向け、ステージ上から消えた。尚も観客席から聖を追い続ける怒涛のような歓声。聖に代わってマイクを持ち、「またな」というギタリストの顔も声も観客達の眼中にはない。
そんな聖のワンマンステージを食い入るように見、声を嗄らす観衆の中に、長身の18、9の少女・・・否、少年といった方が少女は喜ぶのだろうか・・・は、居た。 「見つけた・・・。今度は逃がさない。」 楽しそうに呟いて、少女もまた、踵を返した。
(STAGE1へ続く)
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