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■1649 / ResNo.10)  魅せられてB−1
  
□投稿者/ t.mishima 一般人(22回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:14)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:23:00 編集(投稿者)

    STAGE3 屈辱の一夜

    --------------------------------------------------------------------------------
     火照る体を持て余し震える聖をベットに横たえ、那智は頬に髪に口づけを落としながら、捕らえた哀れなその人を観察していた。
     カモミールに混ぜた媚薬は無味無臭で効果が現れるのに幾許かの時間を要するが効き目は絶大だ。捕らえたスパイの口を割らせる拷問用のものだった。その媚薬を父が総合病院の院長を勤める医師ということで、薬に対しての並々ならぬコネクションがあるからこそ、大学生の身分の那智が手に入れられたのだが、聖は汗まみれになりながらも未だ理性を総動員させて皮膚のずっと奥から湧き上がってくるものと対峙してる。プロのスパイでも、吊るし上げられた手を自慰の為に使おうともがき、最後には敵に恥じも外聞も捨て男性器を入れてくれと哀願するというのにだ。
     「辛いでしょう? 自慰の趣味等ないというのなら、僕にお願いしてみては如何です?」
     言いながら那智は聖に貸し与えたゲスト用の白いネグリジェのボタンの二つまで開け上気した鎖骨に唇を這わす。
     綺麗で可憐な女だと思う。オリーブブラウンに髪の毛を染め、本人は少し擦れた感じを漂わせているつもりらしいが、すっと通った鼻梁といい、特別なリップクリームでも使っているのか赤子のようなピンクの唇に、純真さを見て窺えるアーモンドアイは、聖の生まれ持った品位を揺ぎ無いものとしている。
     そして、しっかりと手入れの行き届いた木目細かな肌は、童顔ということを差し引いても聖を実年齢よりずっと幼く見せていた。
     「素晴らしく綺麗な肌だ。すっぴんの方が綺麗な24歳なんて、僕は今までお目にかかったことがありませんよ。」
     那智は目を眇め、聖の素の美貌を眺める。吸い付くような肌に触れるとびくっと体を震わせつつ不機嫌な視線が刃を向けるが、それには別段恐れ等感じない。
     金持ちで頭の切れる那智は十代だったが、幸か不幸か修羅場慣れしている。生意気だと容赦なく向かってくる相手の拳に晒される事等日常茶飯事だったが、護身術以外にも本格的に武道で体を鍛え上げ、未だ嘗て敗者に回った事などない。聖の睨みは鋭敏ではあったが、そんな那智を怯ませる程のものではなかった。
     「素直じゃないというより、こういうことに疎いんですかね?、貴女は。」
     憎々しげに見上げる聖の瞳を笑みで持って見詰め返す那智。ネグリジェの裾をたくし上げ、強引に左右の脚を割ろうとする。
     「な・・・ぜ、私をこんな目に?」
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■1650 / ResNo.11)  魅せられてB−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(23回)-(2005/02/19(Sat) 11:31:57)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:12:08 編集(投稿者)

     抑えがたい本能の衝動に一瞬うろたえながらも、聖はきつく言い放つ。
     「お前に恨まれる・・・謂れ等ない・・・!」
     当然の言い分に、
     「まだ、頑張りますか?」
     那智は楽しげに笑うだけだった。
     辛いと悲鳴を上げそうになる感情を力ずくでねじ伏せても、またすぐに意志にはどうにもできない熱に浮かされ、それに屈服しそうになるぎりぎりの線。そこに立たされていても、聖は聖でしかなかった。
     聖は自我と好戦的な意識の塊だった。例えばステージに立つ時、常に聖は「俺を見てくれ!」と心で吼える。そこに立てば女である事を忘れ、歌い、叫ぶ。そこは聖にとって自己顕示欲を満足させる場であると同時に戦場だった。過激なファンを上回るだけのパワーを見せなければ、バンドマンに明日等ない厳しさを楽しみさえしていた。一瞬一瞬に全てを賭け、その場に立つ。闘争心を持て余しているかのようだとメンバーは口々に言っていた。「呑まれそうだ」「時折お前が恐くなる」聖の放つ圧倒的なオーラに凌駕され怖気づき、付いていけないと去った仲間すらいた。
     そんな自分を聖は時に恨みもしたが、今夜ばかりはその性に感謝すらしていた。
     「逢っていきなり・・・とんだ歓迎だ・・・。お前は、・・・誰でもこう、なのか?」
     苦渋に可憐なかんばせを歪めながら、皮肉たっぷりに、普段の玲瓏な声音とはおよそ不釣合いな口調で聖は笑う。
     「もし、・・・お前が男だったら急所を蹴り上げてやるところだ・・・」
     強靭な自我が那智に媚び諂う徒の人形になるのを防いでいたのは事実だった。
     下半身に今にも消え入りそうな力を意識的に奮い立たせ、空を蹴る聖は、那智には意外な生き物だった。
     聖はインディーズとはいえ売れっ子のボーカリストだ。プライドはエベレスト並だとは察しがついた。だが、盛った薬の強力さを思えば、容易に自分の眼下であられもなく自慰を仕出すか、自分は男ではないが入れてくれと哀願する痴態を容易に演じ出すと思っていた。
     が、捕らえたと思った美しい蝶は蜘蛛の巣の中にいて尚、素晴らしい意志の強さで足掻いていた。
     「本当に素敵な人だ。楽しみ方を考え直しましょう」
     那智は一旦身を引き、うっとりとオリーブブラウンの髪に唇を添え始める。
引用返信/返信 削除キー/
■1651 / ResNo.12)  魅せられてB−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(24回)-(2005/02/19(Sat) 11:32:37)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:24:22 編集(投稿者)

     さっさと一網打尽に自分に平伏し思うがままになる相手なら確かに気楽だがそれまでだ。一度や二度で自分は満足し、こんなに美しい容姿をしている相手でも手に入れた有り難味を忘れてしまうだろう。
     だが、聖は那智が思っていたよりもずっと反抗心旺盛だ。自我が強い者程落とし甲斐があるというものだというのが那智の見解だった。
     「誰でもだなんて、僕はそんな見境のない輩ではないよ。」
     人の良い微笑みさえ浮かべる彼の男装の麗人にとって、聖から進んで繰り広げられる痴態を見ることなど、今はどうでも良い事だった。
     (確かにこの人が我慢できなくなるまで待って、懇願する様を見下ろすのも楽しいだろうけど・・・。)
     これ程の人だ。手なずけた方が楽しみが増す・・・。
     那智の気持ちは、最早決まっていた。
     (まずは快感を教え込む方が先だ。)
     聖は魅力的だ。行動的で活動的で可愛らしいとあれば、男が放っておく筈もないし、付き合いも人並みにしているだろうが、はっきり言って快楽に素直に身を流すタイプではない。
     「貴女、イッた事ってないでしょう?」
     眼下のアーモンドアイを覗き込み、唐突に那智は言を発した。
     滑らかな肌から漂うリラクゼーション効果があるのだろう、すっとしたボディーローションの香を楽しみながら、悪戯っぽく口元に笑みを浮かべて。
     「なっ!・・・。」
     思った通り、聖は火照った体を更に紅潮させ、見る見る内に頬は真っ赤に熟れた林檎のようになる。
     那智にとって、それは新鮮な反応だった。今時、イッたかの話でうろたえる女なんて、十代後半でも珍しいというのに。
     「可愛い反応だ。」
     唇の端で悪意の欠片もなさそうな笑みを浮かべる貴公子のような少女を目に、聖は更に身が熱くなるのを感じる。
     (困る。)
     見れば見る程那智は綺麗なのだ。聖は同性に興味を持たれた事は何度かあったが、それに応えたことなどない。それどころか、ハリウッド映画の戦争映画に出てくるよう鋼のような筋肉を持った男達が理想像ではあったが。
     だが、那智は魅力的なのは事実だった。男とも女とも見て取れる完璧な容姿に悪魔と神が競って与えたもうた才智と財力。その持ち主に可愛いだなんて言われてときめくなというのが無理な話だ。それもこんな理性が脆くなった時に。
引用返信/返信 削除キー/
■1652 / ResNo.13)  魅せられてB−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(25回)-(2005/02/19(Sat) 11:33:15)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/21(Mon) 12:25:21 編集(投稿者)

     「貴女の品位を守ったのは、プライドや理性だけじゃないんだ。無知である事・・・。」
     言いながら、那智は今度こそ強引な態度に打って出る。
     「・・・やめろ・・・。」
     痛々しいまでに理性を失わない聖に構わず、両足の間に割って入る那智。
     「止めたら貴女が辛い。どんなに乱れようが今夜の事は媚薬の所為にすれば良いんです。」
     そう聖に逃げ道を与え、その唇を自分のそれと舌とで塞ぎ、迷わずショーツを破り去ると、代わりに自分の指をそこに与える。
     「!」
     目を見開き、那智の暴挙に一瞬驚きはしたが、それよりも蜜壺に与えられた快感に身を震わせた。
     赤く熟れたそこはまるで聖自身とは別の生き物のように、意志に反して飲み込んだ那智の指に甘んじ、吸い付くように更に奥深く飲み込もうとしている。
     もし、唇を塞がれてなかったら、淫靡な声を上げていたに違いない。
     「意地悪しないで、もっと早く与えてあげるべきでしたね。」
     舌を出し入れする合間に、那智は皮肉ではなく、意外にもすまなそうな顔をしてみせた。
     気丈に振舞ってはいたが、聖だって生身の女だ。その証拠に強力な媚薬の所為とはいえ、蜜壺からはしどけなく白い液体が流れていた。
     「声は、そろそろでしょうが貴女が恥かしさを忘れる頃、たっぷり聞かせて頂きます。でも・・・。」
     濡れそぼった子宮を掻き乱しながら、那智は聖の口腔をも犯す。
     そこを触れられるのは本当に久方ぶりで、驚きはあったが。同性だったが、那智のその中性的な容姿の所為か、薬の所為か、不思議と嫌悪感はない。
     聖は、理性では抑制の効かない熱さを体中に感じ、静かに息を弾ませていた。那智が話す時を避け、声にならない嬌声を漏らす。
     「でも、どんなに乱れても・・・それは、僕が盛った薬の所為だ。」
     那智のその再度の言葉は、暗示となって聖の脳裏に刻み込まれる。
     何処で身に付けたのだろう? 起用に自らを穿つ指は二本に増やされ、聖を内側から手なずけていく。
     「・・・あっ・・・。」
     そろそろだという那智の宣言の通り、蛇のように口腔を嬲っていた舌が離れ声を漏らしても、聖はさして気に留めなかった。
     聖とて自分の身の内に潜む淫魔を押さえ込む限界を最早越えていたのだ。
     限界まで我慢したのだ。まして薬の所為なのだ、と何度も自分に言い聞かせる。
引用返信/返信 削除キー/
■1653 / ResNo.14)  魅せられてB−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(26回)-(2005/02/19(Sat) 11:34:28)
http://pksp.jp/mousikos/
     「それで良い。思った通り、可愛い声です。」
     反抗心を呼び覚まし兼ねない言葉は避け、那智は優しく涙を浮かべた聖の瞼にくちづけ、埋め込んだ指で円を描き、時に出し入れする。
     (しっかりしろ・・・!)
     聖に言い聞かせるように何処かで声がしたが、それはか細く、すぐに深層意識に消えていった。

     煌々と灯りに照らされた部屋で、雪華のような白い肌を薄紅色に染めた聖がシーツの波間で揺れていた。揺らされていたと言った方が正しいかも知れない。
     如何なる窮地に立たされても常に先頭に立ち光り輝いてきた彼女にとって、傀儡のように誰かの思い通りになるのは、その夜が初めてだったに違いない。
     虜囚の様に衣を剥がされ、着衣乱れぬ涼やかな相手を前に熱に浮かされたように荒く息を吐き、幾度となく体の中心を穿たれながら抗いもしない。
     そんな自分を聖は知らない。目にした事がない。だから、夢に違いない。
     「聖、貴女はとっても綺麗だ。」
     声の主は耳朶を小鳥がそうするかのように甘噛みし、暗示のようにそんな呪文を繰り返す。自分が逃れないように、一番敏感な部分を撫で上げながら。
     「・・・やっ・・・。」
     力無い子供のように嫌々と頭を振っても、自分を嘗め回す視線からは逃れられない。
     いつもの自分とは何もかもが違っていた。
     声が違う。こんなにか弱くか細く艶めいた声をいつもの自分は出さない。そして、弱々しい姿を誰かに明かしたりはしない。
     立場が違う。夢を追いかける掴み取り、他者を引っ張り食らうのが聖という存在だった。こんな風に誰かに揺さ振られ、意のままに操られるなんて、全く持って自分らしくなかった。
     だが、狂おしい程の欲求が荒波となって皮膚の奥深くから押し寄せるのを聖は止められない。
     「可愛い人だ。僕の指をこんなに欲しがって・・・。」
     何処か冷たい甘い声の悪魔から聖は逃れられない。
     自分のヴァキナが奥深く穿たれて尚、その指を欲しがって淫らな収縮を繰り返えしているのが聖自身も認識していた。
     それは聖にとって屈辱的な事で、とてもいけないことで。だから、そういうことは出来るだけ避けてきたし、表情は平気を装い、喘ぎ声は噛み殺して来たというのに、今夜だけは違っていた。
引用返信/返信 削除キー/
■1654 / ResNo.15)  魅せられてB−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(27回)-(2005/02/19(Sat) 11:35:10)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/02/25(Fri) 21:56:09 編集(投稿者)

     薬が彼女の細胞一つ一つにまで眠る肉体の欲求を覚醒させ、悪魔がその狡知と美貌を武器に聖から最も尊ばれる才能とも呼べるものを奪っていた。指で自由を奪い、くちづけで正気を奪う。
     「本当に素敵です。貴女は何も考えずこうして僕に全て委ねていれば良い・・・。」
     甘い言葉で自尊心を傷つけず、悪魔は聖の確固たる自我を奪う。
     標本にされた蝶のように魂を不自由にしながら、聖にはそれを気取らせない。
     「・・・はぁん・・・。」
     ぼんやりとした夢の中にいるかのような意識の中、一晩中聖は揺らされ続けた。

    (STAGE4へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1684 / ResNo.16)  Re[1]: 魅せられて
□投稿者/ asaka 一般人(1回)-(2005/02/21(Mon) 01:48:50)
    とてもすてきな文章ですね。
    続き楽しみにしてます!
引用返信/返信 削除キー/
■1690 / ResNo.17)  asakaさんへ
□投稿者/ t.mishima 一般人(28回)-(2005/02/21(Mon) 22:08:29)
http://pksp.jp/mousikos/
     感想の書き込み有難うございます(^_^) 大変励みになりましたvv
     詩集は出させて頂いているのですが、小説を書くのは彼是十年振りなので至らない部分もあるかと思いますが、頑張って書かせて頂きますね。

引用返信/返信 削除キー/
■1700 / ResNo.18)  魅せられてC−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(29回)-(2005/02/25(Fri) 21:57:47)
http://pksp.jp/mousikos/
    STAGE4 賭け

    --------------------------------------------------------------------------------
     (此処は・・・?)
     翌朝目覚めた聖は、羽毛のように柔らかで温かい毛布に包まれ、その心地良さに再び眠りに落ちそうになりながらも見慣れない家具を見るともなく目に留めていた。
     いつもなら低く味気ない天井がある筈の視界は白い布地に覆われている。少しばかりの倦怠感を感じる体は、見覚えの無いグリーンのシルクの寝巻を羽織っている。
     (何でこんな高そうな物?)
     聖は如何わしく瞬きし、暫く眠気と奮闘していたが、やがて、カチャッというほんの小さな食器の音に反射的に身構えた。
     視線をやった部屋の中程には、中世ヨーロッパを思わせる見事なその造りに相応しく気品に溢れる、その部屋の主が一人。身支度を済ませて、ロシアンティーなのだろう、アプリコットをスプーンで掬っている。昨夜の事等まるで悪びれていないのか、彼女は落ち着き払った視線を聖に向けた。
     「姫君のお目覚めですか。まだ七時過ぎだ。もう少しお休みになっていて下さい。」
     そう言って口元を笑みで彩る彼の麗人とは対照的に、聖は心穏やかではなかった。
     一瞬にして悪夢のような一夜を脳裏にまざまざと思い出し、自分と那智への嫌悪感に突き動かされる。
     「冗談じゃない!」
     鋭く叫ぶなり、がばっとベットから飛び起き、夜叉の如き形相で那智の前に立つ。
     那智はと言えば、敵意剥き出しの聖を前に悠然と構えている。
     「おや、何かお気に召さない事でも?」
     黒い前髪を優雅に掻き揚げながら、まるで唄でも詠むような気兼ねの無さで言を発する。だが、牙を向く聖に些か気分を害されたらしく、・・・聖にとっては思い出すのも屈辱的な一夜である事に何ら変わりは無かったが・・・その声音からは一晩中何処か労わる様に繰り返された睦言の甘さの片鱗すら感じられない。
     それどころか、冷やかに聖を一瞥すると傍らに置いていた朝刊を詠み始めた。
     那智の自分等歯牙にもかけない様子を目に、聖は自分にとっては大事件だったが、件のお嬢様にとっては・・・度を越えてはいたが・・・昨夜の事はほんの悪戯でしかなかったのだと認識する。
     本当は罵ってやりたかった。お前は卑怯者だと。
     大声で叫びたかった。お前を呪ってやると。
     だが・・・。あんな真似までしておいて、後ろめたさ一つ感じないような相手に、言葉は不要だった。最早此処にいる意味も無かった。
     「誰にも言わないなら、それで構わない。」
引用返信/返信 削除キー/
■1701 / ResNo.19)   魅せられてC−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(30回)-(2005/02/25(Fri) 21:58:46)
http://pksp.jp/mousikos/
     聖は一言そう言うなり、足早に那智の部屋を飛び出した。

     ゲストルームで迅速に着替えを済ませ、顔だけ洗うと、聖は足下に脱いだばかりのシルクの寝巻を丁寧に畳んで置いた。
     シルクの塊を目に、いつの間に意識を失っていたのかは知り得もしない事だが、今更ながら、突っ伏した自分の身体が那智の手によって浴室まで抱き抱えられ体の隅々までを洗い清められていたことを思い出す。勿論、着替えの面倒までみられていたのだ。
     おぼろげな意識の中に浮かんだその光景を・・・だからこそ聖は余計に思い出したくなかった。淫猥な自分の女の部分を卑怯な手で無理矢理引きずり出した当の那智本人に、抵抗一つせず無防備に身体を清められていたなんて――! その上、朝目覚めれば、那智は別段悪びれた様子も無くそれどころか余裕綽々で、自分だけが心乱れていた。
     その事実が聖の自尊心を酷く傷つける。あんな一夜を過ごす位なら、淫らな身体の欲求に耐え、寝も遣らず、唇を噛み狂い叫んでいた方がずっとマシだった。
     堪らなく惨めだった。あんな自分の醜態を自分のものだとはどうしても認めたくなかった。
     「どうしてあんな奴にされるがままに!」
     洗面台の鏡を睨みつけ、聖は怒鳴らずには居られなかった。

     最悪な気分を振り払うかのように、聖は頭を振り、ゲストルームを出る。視界には金持ちの住まいに相応しく所々壁画の飾られた贅沢な廊下が広がっている。贅の限りというより中世の芸術と技巧の限りを尽くしたその光景が、何故か昨夜この屋敷に来た時とは違って見えた。
     素晴らしいミュシャの版画に赤い絨毯に、昨日はあれほど心躍ったのに。今は、大好きな筈の芸術家の絵さえ心を苛立たせる。
     そればかりではない。自分自身さえ昨日までとは異質のもののように感じられ、自分の身体が自分の身体ではないような違和感を聖は覚えていた。
     何度も頭を振り、穏やかならぬ心境で玄関へ向かう途中、
     「お客様、お食事を今お運び致しますよ。」
     と使用人だろう女性に声をかけられたが、殆ど反射的に「急いでおりますので。」と頭を下げ、後は逃げるように屋敷を出た聖は、雨の中を走り出した。
     昨夜の小雨は今は大雨に変わっていたが、完膚なきまでに叩きのめされた心境の時は、その冷たさは妙に心地良い。
     勿論、雨に打たれて昨日が洗い流される事にはならないけれど。
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