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■1702 / ResNo.20)  魅せられてC−3
  
□投稿者/ t.mishima 一般人(31回)-(2005/02/25(Fri) 21:59:19)
http://pksp.jp/mousikos/
     桃生の屋敷の見事な門扉を後に、そのまま早々と駅までの豪雨の道程を駆け抜けて行きたい心境だった。
     が、
     「家までお送りしますよ、聖さん。」
     待ち伏せしたかのように停車していた黒塗りのリムジン・・・正確にはそれに乗る那智に行く手を阻まれた。
     今一番お目にかかりたくない、その端正過ぎる顔。一番耳にしたくないその冷静な声。
     それを前に私に構うなと詰め寄って殴ってやりたい衝動に駆られたのも束の間、苛烈な憤りを見せても無意味な相手だと妙に心が冷える。そして、目にしなかったとでも言うように、那智等視界に入れず、背を向けようとした聖だったが。
     「陳腐な台詞を吐くようですが、口止めになるかも知れませんよ?」
     脅しを潜ませた那智の言葉に歩を止めざるを得なかった。
     そして、車から降りて来た運転手に仰々しくドアを開けられ、聖は那智の隣に乗り込む。
     (全くもって卑劣な奴。)
     胸中で毒づきながらも聖は平静をを装い、何とか気を紛らわせようと映り行く車窓からの景色に視線をやる。
     お前なんて最悪だ。お前と同じ空気を吸うと思うだけで、私は苛立つ。
     那智へ浴びせたい恨み言は沢山あったが、動じない相手に喚き散らす程愚かではないし、それ以上に今は那智と二人きりという訳でもない。第三者にまで自分の醜聞を提供してやる気もなかった。
     此処は無言を決め込んで、アパートが見えるまで気長に待っていれば良い。ついでに、間違っても美沙みたいなお喋りに打ち明けられる話ではないし、那智がスタッフを辞めるまで延々無視し続ければ良い。
     自分に言い聞かせ、聖は鉄面皮が剥がれない様に、那智の方を見ない用に、豪雨の街角を見る事に専念する。
     考えれば、少々変わり者かも知れないが育ちの良いお嬢様が、わざわざ自分にとってマイナスになるネタを誰かに言い触らす事等有り得ない。そう考えると、素知らぬ振りを決め込むのが一番良い事のように感じられたのだが、例の育ちの良いお嬢様は運転手の目等微塵も気にしていないらしい。
     「そんな態度は、気に入らないな。」
     聖の肩を掴むなり、その身体を那智は強制的に腕の中に浚った。
     「・・・え・・・?」
     余りに突然の出来事に聖は、怒りすら忘れ、目を見開くだけ。
引用返信/返信 削除キー/
■1703 / ResNo.21)  魅せられてC−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(32回)-(2005/02/25(Fri) 21:59:47)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:17:06 編集(投稿者)

     紹介された時は出で立ちは良く言うと個性的、悪く言うと変わり者ではあったが、柔和で紳士的だと思えた。昨夜は悪魔のような所業をしながら、一方でほんの少しではあったが優しさと言えなくも無い部分が見て取れた。そして、つい半時前は、凍気を纏ったように冷やかで、出て行く自分を引き止めもしなかったのに。
     今は、
     「一晩中、僕の腕の中に居た癖に、あんなに可愛がったのに、他言しなければ良いだなんて・・・連れない人だ」
     恋に狂った騎士のように恭しく、聖の手にくちづけている。
     (・・・こ、こいつは何?・・・)
     猪突猛進型の聖は、TPOは弁(わきまえ)るものの、基本的に竹を割ったような性格だった。類は友を呼ぶという諺通り、そんな聖の周りには、そういう輩が集まっている。自分を売り出す戦略を練るのに長けた策略家も居たが、それも音楽に関してだけで、プライベートは、皆裏表の無い良心的な奴等。
     長らくそういう輩ばかり見て来た聖にとって、那智は異質の存在だった。無論、昨日知り合ったばかりの人間を今日理解する事なんて不可能だが、たった一日でこんなに様々な顔を見せられると、一生理解出来ないのではないかと思う。
     (・・・って、一生のお付き合いなんて、御免だけどさ)
     聖は毒づいて、顔を背けようと思ったが、どうも視線が離れない。
     気づいた時にはもう、自分の女にしても小さな指が、一本一本那智の舌で舐め上げられていた。
     絶世の美少年のような那智の赤い下が、チロチロと指を味わう様は、キスよりずっと扇情的で、
     「・・・やめて・・・」
     ゾクゾクしながら、でも、運転手の目が気になる聖は、小さく拒否するのがやっとだ。
     コイツは危険、そう思う。
     何時も自分で自分の好きな道を探し、決定し、突き進んできた聖は、他者に流される事がどういう事か知り得もしなかった。勝ち進めば勝ち進んだだけのプレッシャーが重みとなる世界だ。圧し掛かる気負いすら楽しみに変えながら、それでも、それに伴う辛さは拭い切れはしない。少しだけ息苦しさを感じていたのも事実だった。
     そんな弱さを見透かした訳ではないだろうが、突然、那智が現れた。こっちの事等気にせずに、那智は行動する。罠を仕掛ける。一番恥じたのは、あんな真似をされながら、翻弄されてよがった自分が居たのも確かだったから。
引用返信/返信 削除キー/
■1704 / ResNo.22)  魅せられてC−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(33回)-(2005/02/25(Fri) 22:00:19)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/18(Fri) 02:05:28 編集(投稿者)

     気取られてはいけない。馴らされてはいけない。そう思う。
     「有耶無耶にしないで」
      身の奥に昨夜の火種を思い出しつつも、けれど、聖は眦(まなじり)を決して厳しく言い放つ。
     「育ちの良いお嬢様が、あんな事言い触らす趣味等ある筈がない。昨夜の事は事故だったと忘れる。私も他言しない」
     自分を律するように言い放つが、未だ聖は那智の腕に囚われたまま動けずにいた。
     意を決して何とか逃れようとするが。暴力沙汰の喧嘩には、そうそう巻き込まれたりしないが、同性とは思えない力強さだ。モデルで通りそうな細身の身体に鋼のような筋肉が隠されているのだろう。びくともしない。
     「この期に及んで、油断ならない人だ。敵わないって分かっている癖に」
     言うが早いか、ぎりりっと那智は聖の手首を掴み、圧迫してみせる。
     「・・・っ!」
     瞬時に聖の顔は苦渋に満ち、肩で息を吐くの強要された。
     「良いですか? 貴女は確かに僕に反応した。最初は薬によってだったかも知れない。でも・・・」
     華奢な身体がギリギリ耐えられる加減を見定めて力を加えたまま、那智は無防備に仰け反る白い首筋に唇を押し当て、
     「貴女は確かに感じていました。安心して僕に身を任せ、無防備に寝息を立てた」
     所有の印を付ける。
     聖は言葉が見つからなかった。大体話が出来過ぎている。バンド等星の数程存在しているのに偶然那智が自分を気に入ったのも偶然。美沙の妹だったのも偶然。那智の部屋に催淫剤があったのも偶然。そして、昨日知り合ったばかりとは思えない那智からの執着。余りに不可解だった。
     「何故・・・私なんだ?」
     苦しげに眉根を寄せながら問う聖に、那智は意味深に笑うだけ。
     それどころか、
     「運転手は雨宮と言うのですが、僕に本当に従順なんです。だから、彼の目は気にする必要はありません。このまま貴女を浚って、貴女が納得するように、昨日の続きをしても構わない」
     等と物騒な事を言い始める。
     「ですが、貴女ならその後も歯向かい兼ねませんし・・・一度だけチャンスを上げましょう」
     「チャン・・・ス?」
     悲痛な面持ちで言葉を紡ぐ聖を目に、もう逃げないだろうと、那智は小さな身体を解放する。
引用返信/返信 削除キー/
■1705 / ResNo.23)  魅せられてC−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(34回)-(2005/02/25(Fri) 22:01:10)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:19:05 編集(投稿者)

     「ええ。一ヶ月で良い。僕から逃げてみせて下さい。一ヶ月その唇を僕から守り切ったら、僕は二度と貴女に干渉しません」
     聖はシートに凭れ、未だ咽ていたが、しっかりと那智を見据えた。
     そして、目にした。
     「もし出来なかったら、貴女の時間を三日間、僕に差し出して頂きます」
     死刑執行人のように凍気を孕んだ那智の瞳が、狂気に彩られるのを。

    (STAGE5へ続く)
引用返信/返信 削除キー/
■1766 / ResNo.24)  魅せられてD−1
□投稿者/ t.mishima 一般人(35回)-(2005/03/04(Fri) 19:34:02)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:23:40 編集(投稿者)

    STAGE5 悪魔の潜伏期間

    --------------------------------------------------------------------------------
     「あの馬鹿野郎!」
     その日のバイトの休憩中、聖は何時に無く不機嫌だった。口紅を付け直したばかりだというのも忘れて、今朝の別れ際の那智からのキスの感触を消し去りたくて、手の甲で幾度となく唇を拭う。
     アパート近くで桃生の車を降りる時、「貴女が寂しくならないように」と那智はたっぷりと五分もの間口腔を嬲った。「寂しくならないお呪い」だと、蛇のように執拗な舌で、歯列を割り、貪るように長々と聖の唇を味わった。
     最初は不意打ちだった。手を引かれ、振り向いたら有無を言わさずといったお約束のパターンで。だが、逃げられなくは無かったか?と、聖は自問せずには居られない。
     少なくとも身体の自由は奪われていなかった。ただ、那智のあの瞳に囚われていた。その鮮烈なまでに酷薄な那智の眼差しに、射竦められて聖は動けなかったのだ。
     突然キスをされた経験なら何度かある。子供時代、親友だと思っていたクラスメイトの女子に名前を呼ばれ振り向いた途端マウストウマウスのキスという目に遭ったのも一度や二度ではない。そんな時、聖は余りの驚きに一瞬呆然自失の状態に陥るものの、決まって寸時に理性を取り戻し、はっきりと拒否の気持ちを顕に、毅然とその場を立ち去ったものだった。
     男とのキスの経験だって、中学生でももう少しはするのではないかという位、お子様のもので。思い返せば、あんなディープなものは昨夜が初めてだぞーって、聖は屈辱的な一夜を思い出し、今まで以上にげんなりと肩を落とす。
     那智は嫌な奴だった。何を考えているのか思っているのか掴めない。さっぱり分からない。何故あれ程育ちの良い如何にも頭が切れてますって感じのお嬢様が、あんなにも破廉恥で姑息で卑怯な真似をするのか全く以って理解不能だった。
     周囲をあっと驚かせたり、引っ張ったりするのは常に自分の専売特許で、だからこそ、逆に胸中を引っ掻き回されたりするのは何となく好い気がしない。
     それに幾ら他言出来ないような真似をされたからといって、昨日今日の付き合いの人間にこうも心を乱されたくはない、と聖は頭を振る。
     「はあ・・・」
     またも、特大の溜息が一つ、遣り切れなさで落ちてゆく。
     所は、新宿の駅ビルの休憩室。聖の母親の旧友が店長を勤める化粧品店に週に四日の割合で聖はアルバイトとして雇ってもらっているのだが。
引用返信/返信 削除キー/
■1767 / ResNo.25)   魅せられてD−2
□投稿者/ t.mishima 一般人(36回)-(2005/03/04(Fri) 19:35:02)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:42:41 編集(投稿者)

     常にバイトはバイトで集中する聖には似つかわしくなく、今日は注意力散漫で、どうかしたのかと心配気に聞いてくる美容部員は一人や二人ではなかった。
     京都府の端にある片田舎から上京して来た当初は、冗談抜きで気が狂いそうだった。右も左も分からず、四畳半の一部屋のアパートは、アパートとは名ばかりの下宿先と変わらぬ住まいで、会話するのも近所の八百屋のおじさんや銭湯の番台のおばさんだけ。
     そんな日々が続く中、ライブハウスやスタジオにメンバー募集の紙を貼って歩きながら、オーディションに落ちれば折角予定を開けた日が一円にもならないモデルのバイトで生計を立てた時期は、撮影は楽しかったものの、三ヶ月と持たなかった。その後のバイトもそのまた後にしたバイトも二ヶ月続けられたらマシな方だった。
     だが、此処だけは違った。勿論バイト中のみの話だが、目立ちがりやの聖がこの駅ビルに居る間は、少々奇抜なオリーブブラウンの地毛を、ナチュラルブラウンのウィッグで隠している上、シックなスーツに身を包み、立派な販売員に成りすましている。結局このバイトが長続きしているのは、生活の為だという以上に、仕事先の店長に恩義を感じ役に立とうと思えたというのが、その理由の大部分を占めていた。
     どんな人間だって仮面を被らなければ、社会では生きていけないとはいえ、聖はどうもそんな世の中の仕組みが好きになれなかったがし、その自己主張の激しさから考えて、時流や人に流される事の方がよほど無理な話ではあった。
     だが、そんな灰汁の強い性格が邪魔せずとも、この不況下、そこそこ名の知れたバンドマンを雇ってやろうという人間は然う然ういなかった。ライブなら三ヶ月前には予定は分かるものの、ツアーで地方のライブが重なる間は、店にとって聖は全く使い物になりはしない。
     当然、店長である浅野美佳は古くからの親友の娘だからという温情だけで、自分の店とは無関係のスケジュールに目を瞑ってくれている訳ではない。
引用返信/返信 削除キー/
■1768 / ResNo.26)  魅せられてD−3
□投稿者/ t.mishima 一般人(37回)-(2005/03/04(Fri) 19:35:35)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:49:30 編集(投稿者)

     浅野店長自身が若い時に単身で東京に乗り込み踏ん張った結果、今の座に昇り詰めた経歴を持つ持ち主だから、アグレッシブな聖に特別目を配り、こうして雇ってくれているというのが真実で。また聖にしても、若い時期に自分と同じように理想に向かって一人で行動し、夢を叶えるまで努力した店長は尊敬出来る人物だったし、雇ってくれた期待にも応えたかった。
     浅野店長とは幼い頃から面識があったわけではなく、バイト先をころころ変える一人娘を心配した母・陽子が突然上京して来て、「新宿の駅ビルなんかで聖と買い物してみたいわ」等と言うからしかたなく付き合ってみたら、そこに浅野店長が居た・・・正確には母が呼びつけていたのだった。娘ですというが早いか、陽子はいきなり聖を睨み、「頼んであるから、あんた、今日から此処で働きなさい」と凄まれ仕方なくっというバイトの始まり。
     積極的な性格ではあったが一般的な専業主婦の母に、まさか地方出身者で夢に向かって万進する親友がいようとは思いもしなかったが。新宿の駅ビルの二階に店を構えるアンジェの浅野店長とはすぐに親しめた。事仕事に関しては厳しかったが、不要なテスターをくれたり、食事に連れて行ってくれたり、とても良くしてくれていた。
     お蔭で聖は、「こんな良い人の為なら頑張ろうじゃないか」という持ち前の人情に脆い性も手伝って、見事自分の「バイトがこれだけ持ちました記録」を更新している最中なのだった。
     それから今に至る訳だが、スーツとウィッグで変装中の聖は、これぞ日本女性のお手本という位慎ましやかな雰囲気を醸し出している。
     追っかけの子も何人かアンジェに訪れたが気付かれた試しがない。それどころか、彼女の偽りの見てくれに騙されて、恋人のプレゼントを探しに来たのだと嘯いて聖に接近を試みる会社帰りの男性も少なくない程だった。
     音楽しか興味がない聖は、付き合う男も皆ミュージシャンで、サラリーマンにモテても別段浮かれたりはしないのだが。ほんの少しだけ、アンジェのアルバイトとして働いている間は、女らしい何ともくすぐったい気持ちになる。
引用返信/返信 削除キー/
■1769 / ResNo.27)  魅せられてD−4
□投稿者/ t.mishima 一般人(38回)-(2005/03/04(Fri) 19:36:06)
http://pksp.jp/mousikos/
     一般的な24歳の女性になった気がして、いつもより笑顔が穏やかになったり、バンドマンっぽい髑髏のペンダントではなくシンプルなトパーズの指輪で身を飾り立てたりして、乙女チックな気分に浸れた。他人には内緒の気持ちだが、忙しい状況に置かれてはいても、神色の口紅をいち早く試して、鏡の自分に女の自信を持つ事が出来た。女である事を楽しめた。
     人は、特に女性は身に纏う物一つ、手にするもの一つで、やはり気分は変わるものだから。
     ・・・勿論、今日はそんな女性らしいときめき等爪の先程も湧いて来なかったが。
     今日は朝から、失敗の連続だった。ブルーのネイルのテスターの後ろにレッドを並べてしまったり、釣銭をうっかり渡し損じそうになったり。そんな聖の如何にも具合が悪そうな顔色を目にした正社員に、いつもより一時間も早く休憩を言い渡されてしまった程だった。
     (情けない・・・)
     聖は、何度目かになる溜息を零す。
     お昼なら他の店舗の者でごった返す其処は今はしんとしていて、余計に聖をやるせない気分に追い詰めている。
     (大したことじゃないじゃないか)
     と、悪夢のような出来事を頭から追い出そうとすればする程、擦るだけ逆に色濃くなっていくシミのように、屈辱感で胸がいっぱいになっていく。
     犯された訳ではないと頭では分かっている。どれだけ男振ろうと那智は女で、肉体同士を繋ぐ事等不可能で。
     (・・・でも・・・)
     だからこそなのか、心を酷く乱暴に犯されたような気になる。
     男にすら、年上にすら貶められたくはないと何時も自分を律してきたというのに、あろう事かか弱いという目で見てきた女性というジェンダー相手に、しかも未成年に、あんな風に自分の淫らな側面を暴かれ、あられもない姿をしていたなんて。思い出しただけでもおぞましい。
     (ああ・・・余計な事は考えるな! 思い出すな!)
     暗示をかけるように心で叫んで、そろそろ店に戻ろうかと思った時だった。
     「聖ちゃん、一体どうしたの?」
     聞き慣れた声が心底心配そうに聖に問い掛けてくる。
     振り向くと、花柄のワンピースを自然に着こなしている、黒髪ロングの、「大和撫子」を地で行く女性が一人。少女漫画のスクリーントーンの花でもしょってますって雰囲気で、味気ない休憩室を華やがせていた。
     「徒の風邪ですよ、麗佳さん」
引用返信/返信 削除キー/
■1770 / ResNo.28)   魅せられてD−5
□投稿者/ t.mishima 一般人(39回)-(2005/03/04(Fri) 19:36:42)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/17(Thu) 20:58:15 編集(投稿者)

     人が入って来た事にも気付かなかった自分の余裕の無さに驚きはしたが、すぐに気を取り直し、聖らしくない穏やか過ぎる笑みで、そう取り繕った。
     麗佳は、美佳の一人娘で今春卒業予定の大学生ではあったが、頻繁に店を訪れて手伝いをしていたので、聖とは顔見知り以上の仲だった。とはいえ、店長の娘とだからという理由以上に自分よりずっと大人びていたので、どれだけフレンドリーに接して来られても、聖は常日頃から畏まった態度で接していた。
     「ふうん」
     然も納得が行かないという様子の麗佳に一礼して、アンジェに戻ろうとした聖だったが、
     「無理しちゃ駄目!」
     抱きついてきた麗佳にそれを遮られてしまった。
     (昨日も今日も・・・女難の相でもでているのかな?)
     と冗談めかしに心中で肩を窄めて見せたが、勿論、レズビアンとかいうセクシャリティーが世の中に蔓延していない事くらい、女の子受けする聖だって知っている。
     麗佳に雑誌やテレビ番組にちょくちょく登場する将来有望のヘアーメイクアップアーティストの恋人がいるのを知らなかったとしても、過度とも言える位スキンシップが普段から大好きな麗佳なら、本当に心配してくれているだけだと思えただろう。
     だからこそ、別段嫌がらずされるがままになっていたのだが、麗佳の体温と、薔薇の香水に包まれて、聖が少し落ち着いた時だった。
     「まさか・・・誰かに無理矢理抱かれたとかじゃないわよね?」
     麗佳はピンクに象った唇から、聖を気遣う気持ち以上に静かな怒りを込めて、信じられない言葉を発した。
     「・・・何言ってるんです? そんな風にからかうのは麗佳さんらしくないですよ」
     聖は麗佳を振り払い、驚きを隠すように静かに笑ったのだが。
     「気付いてないの?、聖ちゃん。首筋にキスマークあるじゃない!」
     麗佳の悲痛な叫びに、聖の顔から貼り付けた笑みは、綺麗に掻き消された。
     「ママは最初は注意しようと思ったんだって。でも、聖ちゃんは浮かれているどころか、思い詰めているようで何も言えなくて」
     麗佳の悲痛な声に、聖は返す言葉を失っていた。
     確かに那智が男だったら、犯されたと言うのがしっくりくる。
     「一体、誰にされたの? 麗佳、そんな卑怯な男、絶対許さない!」
     麗佳の叫びが、他人事のように鼓膜に響き、それでいて、那智の冷やかな笑みが異様な現実感を伴って、聖の脳裏に浮かぶ。
     だが、
引用返信/返信 削除キー/
■1771 / ResNo.29)   魅せられてD−6
□投稿者/ t.mishima 一般人(40回)-(2005/03/04(Fri) 19:37:17)
http://pksp.jp/mousikos/
    2005/03/07(Mon) 02:27:29 編集(投稿者)

     だが、
     「まさか、メンバーなの?」
     麗佳の言葉に、聖は弾かれたように我に返り、
     「うちのメンバーを愚弄するような言葉は止めて下さい」
     一睨みすると、まとわりつこうとする麗佳の手から逃れるように、足早にその場を立ち去った。
     友達だと思っていた麗佳の瞳が、確かな嫉妬に染められているのも気付かずに。

     それから一週間。
     キスマークが消えるまでは化粧下地で嫌な思い出さえ覆い尽くすようにそれを隠して、麗佳が現れなかった事もあって、聖は何食わぬ顔でアンジェに通っていた。その間、ライブも一本こなしていたが、那智からは表立ったアクションは未だなかった。
     強いて言うなら、美沙からアドレスを聞き出したのだろう、那智から「お元気ですか」から始まる短文のメールがケイタイに届きはしたし、那智がデザインしたライブのアンケート用紙を見せられたりはしたが、それ以外、本当に不気味な位何もなかった。
     ただ、消しても消しても毎日送られて来るメールは、聖に那智の存在を意識させ、桃生の屋敷での事を思い出させるには十分だった。聖は、日に日に内側から自分の心が蝕まれていくような怖気に襲われていた。
     眼前にいる訳でもない那智のイメージから逃れるように、今まで以上に聖は個人錬にも励み、それ以上に先輩後輩のライブの打ち上げに連日参加し、好きでもない酒を浴びるように飲み、騒いで気を紛らわせていた。
     そんなバンド内の花を案じて、常にメンバーの内の誰かが聖に付き添っていたものだったが。
     だが、今夜は生憎レディースバンドの女性限定ライブで、ファンばかりかゲストまで女性に徹底していた為、聖は単身で打ち上げに来ていた。
     レディースバンドで仲の良いミュージシャンは少なかったが、聖に憧れて音楽を始めたバンドマンもいて、それなりに今夜も楽しんでいたのだが、どうも身体がだるかった。風邪の引き始めなのか、少々悪寒を感じて、早々と聖は主催者に頭を下げて、聖は帰路についていた。
     時間はまだ、0時を回った頃で、まだ電車のある時間帯だった。人通りは、サラリーマンや明らかに高校生らしき十代がいて、まだ疎らという程でもない。
     高田の馬場のライブハウス・ヘブンを出て、二、三分歩いていた時だった。
     如何にも遊び人風の十代後半の少年二人が、聖の前に立ちはだかった。
     「君、可愛いね。俺達と遊ぼうよ」
引用返信/返信 削除キー/

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