| もっとマシな誘い方はないのかと突っ込みを入れたくなる程、堂に入ったお決まりのナンパ男の台詞に、ほろ酔い気分も手伝って思い切りけなしてやりたい衝動に駆られたが。大人なんだからと危険な衝動を押さえ込んだ聖は、無視を決め込み、立ち去る事にした。 だが、聖が右に行こうとすると、男達も右に立ちはだかり、左でもやはり左に立ちはだかり、聖は進路を絶たれてしまった。相手は、二人というのも厄介だった。 「無視する事ないじゃん。一人って事は暇してるんだろ?」 下卑た笑い声を立てた、男の一人に、大人の余裕は何処へやら、最近荒れ気味の聖は容易に切れてしまった。 「ほんと、ウザイんだよ、貴様等。子供はさっさと家へ帰って寝な」 鍛えられた腹筋から本気で出された声は空気を切る程大きくて、通行人がちらちら窺い出した程だ。 「まさか、俺達に喧嘩売ってるんじゃないよね? それに、同じ年位だと思うけど、こう呼んで欲しいのかな?、”お姉さん”」 聖の可憐な顔に似合わぬ・・・まあ、身に付けている皮ジャンには似合っていたが・・・威勢の良さに、顔をしかめはしたが、ナンパ男達は別段気に止めた様子もない。勿論、通行人はその様を歩きながら眺めてはいたが、見知らぬ女を庇ってくれるようなご親切な人間は居ないようだ。 男達も外野の視線等お構い無しで、 「良い事してあげるからさ。付き合ってよ」 と聖の肩を掴む。 大抵のナンパ男は、無視すれば放って置いてくれるのに、今夜は運が悪かったらしい。 (あー。こんなんなら、朝まで飲んでおけば良かった) 心底聖は悔やみ、「チャラ男」とはいえ自分より三十センチ近く長身の男を前に怯むことなく、 「汚い手で触るんじゃね―よ」 自分にとって「汚い手」を払い除けた。 可愛らしく女らしく、怯えた声で「困ります」と言えば、状況は少しはマシだったのかも知れない。叫び声でもあげれば、同情した誰かが警官を呼びに行ってくれたのかも知れない。 けれど、聖はそういう女ではなかったし、ここ一週間、鬱憤はやたらと堪っていたから、軽薄そうな男達の心理を思い切り逆なでしてしまった。 軽々しい遊び人の男達の顔は、元々造りの良い方ではなかったが、怒りで思い切り歪み、二人の拳がどちらが先に聖の頬にヒットするか競うように襲い掛かって来た。
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