| 「お昼、何食べたい?」
相変わらず厳しく照りつける太陽と、飽和状態の人ゴミの中で 茉莉は私の腕にしっかりとしがみついている。 はぐれないよう。置いていかれないよう。
「んー・・・玲ちゃんは何が食べたいのー??」
「私は・・・パスタかな。」
「じゃあちょうど良かったねー、わたしもパスタが良かったの♪」
満面の笑み。茉莉の隣を忙しく通った若い男性が目をとめ、足を止める程の愛らしさ。 黒い感情が押さえきれなくなってしまいそう。
「センター街行けばなんかしらあるかな」
「そだねっ」
センター街へは人の流れにうまく乗った事で思ったより楽にたどり着けた。 そして目についたチェーン店をよく見かけるパスタ屋へ。 狭い数段の階段、茉莉を先に上がらせ自分が上り終えた所で茉莉のヒップを それとなく撫でる。
「もぅっ、セクハラぁっ」
茉莉は笑いながら振り返った。表面上はフツウでも実際は違う。 私はその欲情の火を消さず燻り続けさせておきたい。
「だって、茉莉のお尻が可愛かったんだもの」
思ってる事を微塵と感じさせぬよう笑いながら答え、店内へ。
そして、何もせずに昼食をすませた。 あれだけ人がいればさすがに何も出来なかった、ってだけなんだけど。
映画館は暗かったおかげで気にならなかったけれど、 茉莉の容姿はどこにいても目立つ。 唯一目立たないのは、以前茉莉の趣味で行った西洋人形展の会場だけ。 本当に、人形の様な顔立ちなんだもの。 ただ彼らと違って茉莉の頭は小さい。もちろん顔も。 身体のつくりは恐ろしく華奢。 痩せすぎというわけでもなく、ライン自体はとても柔らかい。
茉莉が微笑めば愛らしい野花が咲いたようで、周囲の空気が柔らかく変わる。 男女共に惹かれてしまうその全てを、独占したい。 いっそ閉じこめてしまえたらと、時折思う。
「ぃちゃん! もぅー玲ちゃんってばぁ」
「ぁっ 何?」
「さっきから何度も言ってるでしょーぅ。行きたいお店があるから後で行こうねって」
「ごめんね。そうだね、行こう」
黒い感情を再び胸に押し込めて、茉莉の話を聞く事にした。
いつまで、押さえ込めるだろうか・・・
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