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■3209 / 親記事)  『忘れられないこと』
  
□投稿者/ heiji 一般人(1回)-(2006/05/20(Sat) 03:45:10)
    「どうして会ってくれないの?」

    「興味がなくなったからよ」

    「どうしてそんなことを言うの? 私はあなたに会って初めて、生まれて初めて愛を知ったのに」

    「へえ、そうなんだ。悪いけど私には、遊び相手でしかなかったのよ。もう押しかけてきたりしないでね」

    「雪緒! 雪緒待ってよ!」



    (いくら寂れた駅の、さらに駅前から離れた閑散とした喫茶店だからって、そんな大声で痴話喧嘩なんて。)

     私は少し頭痛を覚えながら、テーブルに500円だけ置いて喫茶店を出た。
     何度か遊んだだけの女が本気になってくるのが目に見えるようにわかって、それでもう会わないでおこうとメールも電話もとらないでいた。
     そうしたら突然「近くにいます」メールだ。
     怪談か、ストーカーか、って話。
     今はどの女にも会いたくない。

     ただ私は別れた女の言った台詞を反芻した。

    「あなたに会って、生まれて初めて愛を知ったの」

     そう、遊び人やひとでなしと言われるような私にだって、本気で愛した女がいたんだ。
     たった一人の人が。



     
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■3210 / ResNo.1)  『忘れられないこと』 1
□投稿者/ heiji 一般人(2回)-(2006/05/20(Sat) 03:57:15)
     −−−ミーンミーン。

     蝉の声が大嫌いだ。うっとうしくてかなわない。
     私が夏を嫌いな理由は、コンクリートから上がってくる熱気と、肌を焼く日差しと、蝉の声、それから今はもういない女を思い出して切なくなるからだ。



     その女は、範子といって、私の母方の伯母の子で、同い年の女の子で。
     小さな頃はほとんど会ったこともないけれど、急に伯母たちが私の住む家の近くに引っ越してきて、それならばと私と同じ学校へ入らせた。
     丁度それは高校2年の6月。梅雨を抜けて、じわじわと夏の熱気が迫ってくる頃だった。

    「初めまして、高畑夏緒です」

    「遠野詩織です。よろしくね」

     そんな風に緊張して対面する私たちを見て、母と伯母は
    「小さい頃は何度か会っているのにねぇ」とコロコロ笑っていた。

     私たちは、彼女たちが懐かしい話などに花を咲かせている間に少しずつ打ち解けて、
    「明日いっしょに学校へ行こうね」
     と約束を交わした。

     私は正直とても緊張していた。
     人見知りとか、そういうことは全くない。
     ただ単に、詩織が魅力的過ぎて、私は困惑していた。
     今までも何度か(私は女性を好きなのかな?)と思うことはあったけど、彼女に会って初めて、一目惚れだと思った。
     さらさらの長い髪、白い素肌、全体的に幼い顔立ちだけど、意思の強そうな澄んだ瞳。
     全て魅力的に見えた。


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