| 「どうして会ってくれないの?」
「興味がなくなったからよ」
「どうしてそんなことを言うの? 私はあなたに会って初めて、生まれて初めて愛を知ったのに」
「へえ、そうなんだ。悪いけど私には、遊び相手でしかなかったのよ。もう押しかけてきたりしないでね」
「雪緒! 雪緒待ってよ!」
(いくら寂れた駅の、さらに駅前から離れた閑散とした喫茶店だからって、そんな大声で痴話喧嘩なんて。)
私は少し頭痛を覚えながら、テーブルに500円だけ置いて喫茶店を出た。 何度か遊んだだけの女が本気になってくるのが目に見えるようにわかって、それでもう会わないでおこうとメールも電話もとらないでいた。 そうしたら突然「近くにいます」メールだ。 怪談か、ストーカーか、って話。 今はどの女にも会いたくない。
ただ私は別れた女の言った台詞を反芻した。
「あなたに会って、生まれて初めて愛を知ったの」
そう、遊び人やひとでなしと言われるような私にだって、本気で愛した女がいたんだ。 たった一人の人が。
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