| じっと聞いていた矢吹は星が遠い目をしていることに嫉妬している。
「その彼女に悪いから女性とは付き合わないんですか?」
少し喧嘩ごしの様にも聞こえる口調だ。
『違うわよ。自分のため。もう苦しいのは嫌なの。
必ずしもゴールを求めているわけじゃないけど、行き着くところがない同性の恋愛はもういいわ』
星は、優しい表情になっている。彼女のことを久しぶりに口にした星は思い出を反芻している様だ。
「だって、苦しいほど私のこと好きじゃないでしょ?今だって、これからだって」
『先のことはわからないわ。私は結構一途だから。たとえ好きになったとしても、彼女以上の存在にはならないと思う。
でも、矢吹さんに本気にならないとも限らない。そうしたらきっと私のことが重くなるわ。
同じ同性と恋愛するにも矢吹さんの歳に近い人を探したほうがいいわよ。』
「私は星さんが好きなんです。あの・・・失礼だと思うんですけど・・・・」
口ごもる矢吹。
『なぁに?』
決心した様に
「今夜、一晩だけでもいい。付き合ってもらえませんか?」
矢吹はまっすぐ星を見て言った。
星は表情を変えず答える。
『それって体が目的ってとられるわよ(笑)もっともこんなおばさんの体を狙ってるとは思わないけどね。』
「おばさんおばさん言わないでください。抱きたい!」
『・・・・・今夜抱いて、自分の欲求だけ満たして終わりってこと?』
「違います。一晩の思い出を大切にしていこうと思って。そうすれば星さんも苦しくなんてないでしょ?遊んでください。私を。一晩遊んで捨ててください」
「私、星さんのこと考えて一人で慰める夜があります。毎晩と言ってもいいかも。あ!恥ずかしい。こんな話し。でも・・・・」
『やめましょ?もう』
雰囲気を断ち切る様に星が言う。
「え?」
『男だろうと女だろうと、そんなに簡単に抱くとか抱かれるとか・・・変じゃない?』
「嫌ですか?絶対に嫌ですか?ボランティアでも同情でもなんでもいいです」
『お願いだからもうやめましょ。はい!終わり、この話題はもう終わり!』
「逃げないでください」
思いのほか強い口調になった矢吹。
『え?』
「星さん、私のこと・・・・」
下を向く矢吹。握っている手に少し力が入る。
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