| 化学実験室を出るとき、もう午前中の授業は すべて終わったことに気づいた。 教室に行くと、もうだれもいない・・・ 学校にしては、りっぱな学食がある。 かばんをおくと、亜紀も学食へ行った。
テーブルに座ると隣から、
『ひとり?、こっちよ』
転校してきて、すぐに声をかけてくれたあやだ。
あやのとなりに席を移すと、
『どうだった、早瀬先生につかまったって 聞いたよ、ずいぶん長かったね』
『厳しい先生だね、でも自分が悪いから・・』
また、ついさっきまでの、場面がよみがえり、 亜紀の体はまたジイーンとして、濡れてきそうになる。
『元気だせよ!!でもさでも、早瀬先生に 私もしかられてみたい!! だって、あんな素敵な先生いないよ』
情報通のあやの話によると
早瀬佳織は、本当は女子高の先生になるような 人じゃないらしい。京大の大学院卒業後、 大手製薬会社の研究室に就職が内定した。 でも入社式にも行かず、そのまま辞めてしまった。
父親はこの地域に選挙区をもつ代議士で、 そうとうな資産家らしい。 母親とは佳織がまだ小さい頃、死別している。 いつも忙しい父親にかまってもらえず、 一人娘の佳織は、よくひとりで夢想する 子供になっていたらしい。
この女子高の理事長は、佳織の父親から かなりの援助を受けており、巷には よくないうわさもあるが、頭が上がらない。 その父親からの、たっての依頼で、 今の佳織は特別待遇の教師となっている。 担任ももたず、国立大学入学希望の一部の生徒へ 化学の分野での特殊な実験を指導をする。 普段は、ほとんど授業を受け持っていないらしい。
亜紀は、ぼんやり聞きながら。
『あなたには、卒業まで特別指導が必要です。 明日から毎日、朝登校したら、 私の部屋に来なさい。』
最後に佳織先生に言われた言葉が、 思い出され、 佳織先生との出会いからはじまる これからの運命をうけいれていこう としている自分を想っていた。
|