| カチッ… 手元が軽くなったからといって、まだ痛みが治まったわけではない。 案の定、來羽の手首はうっすらと赤くなっていた。
「60、59、58…」 校医は自分の腕時計を見ながら、さっそく残り時間を計っている。 まるで鬼ごっこでもしているつもりだろうか。 しかし、いまはそんなことはどうでも良い。
逃げなきゃ…
まだ意識がはっきりしない來羽だったが、 そのことだけはぼんやりとした頭にも響いていた。 でも。 どうしてだか身体が動かない。
何もしないって言ったのに…
どうやら、彼女が言う何もしないという意味は、 現状維持とほとんど同義語らしい。 その証拠に…校医の左手は未だ來羽の制服の中にあって、 もう一方の右手は、來羽の髪の毛を手櫛で梳いている。 ぬいぐるみのように懐に抱きかかえられ、人形のように寵愛される。 いまの來羽は、言葉すると…そんな表現がぴったりだった。
「…あら、逃げないの?もうすぐ30秒よ」 ご丁寧にも忠告してくれる彼女からは、溢れんばかりの自信が感じられた。 おそらく、この体勢から逃れられるものなら逃げてみろ、と挑発しているのだ。 一刻も早くこの場から去らないと、今度こそ何をされるか分かったもんじゃない。 …なのに。 頭では分かっているのに、手足が麻痺していても軽く腹筋しながらなら 立ち上がれるはずなのに、來羽の身体は全くいうことをきかない。 体重を預ける心地良さに、麻酔薬とは違う彼女から香る甘いあまいローズの匂い、 さらに頭を撫でられ髪を触られる気持ち良さが、快感とは別次元のまどろみを誘う。 とろんとした眼で瞼を擦っていると、 あっという間に5秒前になっていた。
「5、4、3、2、1…はい、残念でした」 再び校医は羽交い絞めにし、休めていた左手を再稼動しようと いきり立ったのを合図に、來羽は大慌てした。 だが、こうなってからどんなに後悔しても、もう…遅いのだ。
…ずるい
催眠術と格闘しているような一分だった。 曲がりなりにも、彼女は医師なのだ。 よくよく考えてみなくとも、勝負は始めからついていたのかもしれない。 「私のせいだとでも言いたそうね…」 校医は、気に入らないといった表情で、來羽をますます追いつめる。 「仮に…私が何らかのからくりを仕組んでいたとしても、 手錠をほどいて自由に逃げられる時間を与えた時間がある以上、 そこにあなたの意志が全くなかったとは言わせないわよ?」 イタイところを突かれた。 けれども、本当は…自分でも分かっている。 こんな状況は耐えられないと毛嫌いしておきながら、 いざ鳥かごの扉を開けられても、このままここに居られたら… と願った瞬間が確かに存在したのだ。
気まずくなって來羽が黙りこんでいる間にも、 彼女は次々と行動を仕掛けていた。 セーラー服は脱がされ、スリップの紐は肩から引きずりおろされ、 ブラジャーの留め金までも外されると、剥き出しになったのは肩だけでなく、 徐々に小ぶりな胸もあらわになる。 すかさず彼女は、大胆にも直に乳房に触れ、ゆっくりと揉みこんできた。 「うっ…んっ」 初めての感触に戸惑いながらも、來羽は湧きあがる刺激に流されるまま、 自然と声が出ていた。 「声を我慢しなくても良いのよ」 別に我慢しているわけではないのに、彼女にはくぐもって聞こえるらしい。 しかし、本人が気づかないうちに手は握りこぶしを作り、 涙目を堪えるように固く瞑っていたことから、やはり無理しているだろうか。
校医の手は、次第に早さを増していった。 指の腹だけでなく、爪も間接も筋肉もその五本の全てで まるで蛇が貪るかのように喰らいついて放さない。 「んあっ、あっ」 一際甲高い声がこだまする。 著しい來羽の変声に、校医も嬉しそうに応えた。 「そう…素敵になってきた」
自分の声じゃないみたい…
來羽は、自らの頬が火照るのを感じた。 顔だけではない。 首も肩も鎖骨も胸も… 彼女に触れられたところからじんわりと熱くなる。 「まだご不満かしら?」 皮肉るように、彼女は煽り行為を続ける。 不満なんて…いまの來羽が言えるわけないのに。 「なら、もっと素直になりなさい」 そう告げたかと思ったら、來羽はまたも彼女に押し倒されていた。 首から上が、枕に深く沈む。 シーツもカバーも全て清潔な白で統一されているはずなのに、 この部屋に漂うのはただただ猥雑な空気だけだった。 驚くのは、彼女の常習性だ。 制服を脱がされた時にも思ったが、全てにおいて素早いのは、 女の子を扱うことに手慣れているとしか來羽には考えられなかった。
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