| 中に入った來羽がまず思ったことは、出入り口であるはずのこの場所に、 何故こんなに人がいるのだろう、ということだ。 端正な顔立ちをした少女たちが、みな一様にこちらを向いている。 ある者は間近に立っているにも関わらず興味深げに眼を凝らしてみたり、 また別の者は遠くから背伸びしたまま首を長くしてみたりと、 十数人程度の女の子がとにかく我先にと押せおせ状態だ。 近隣にも有名なサ・フォス女学園の灰色のタータンチェック柄がよく映える ワンピースタイプではない制服を着ている子がいるように見えるのは… おそらく中等部の生徒だろうか。 そういえばここは、『中高等部寮』と確かに表示されていたはず。 つまりは、高等部以外の生徒が歩いていたとしても何ら不思議ではないということだ。
「早乙女さん?」
ふと目の前の一人に声をかけられた。 見ると、彼女は先ほども來羽の名前を確認するように話しかけてきた高等部の生徒だった。 彼女のいまの話し声のトーンだと、來羽が何も言わないまま黙っているので、 再度合っているのか確かめるかのような言い方だ。 「はい」 彼女は誰なのか、何で自分の名前を知っているのか、 どうしていきなり声をかけてきたのか…訊きたいことは山ほどあったが、 自分が早乙女來羽である以上はということで、來羽は尋ね返した。
「ああ、良かった。ちょうどあなたをお待ちしていたのよ、私たち」 やわらかく微笑むのは、口調からたぶん上級生だ。 この学校の制服には学年の違いを示す印はない。 だから、中等部か高等部かの見極めるならともかく、 あくまで物怖じしない話し方や落ち着き払った態度から推測するしかない。 彼女は後ろに数人の生徒を引き連れて、來羽を待っていたと言う。 面識のないはずの上級生がわざわざ待っていたということで、 來羽の顔が心なしか強張ったその時…また別に横から口をはさむ生徒が居た。
「ちょっと待って!早乙女さんを待っていたのは、うちの方が先よ」 これまた上級生だろうか。 先ほどの女生徒は眼鏡をかけていて、長くて真っ直ぐな髪にほっそりとした体型が いかにも文系のような印象を受けるのに対して、 こちらの彼女は背が高い上に全体的な肉付きが良い筋肉質な体型をした 蛭田そっくりのいかにも体育系という印象を受ける。
「何ですって?あなたたちなんてほんの今さっき着いたばかりじゃない」 彼女たちが何者にせよ、目の前で繰り広げられている状況は 決して安心できるものではない。 むしろ、何だか雲行きが怪しくなってきたと感じるのは來羽の気のせいでは ないはずだ。 彼女たちのちょっとしたいざこざが次第にヒートアップするうちに、 來羽を囲む人だかりは更なる輪をかけていった。
|