| 「んんっ…ぅう」 言葉にならない喘ぎが、吐息と一緒にこぼれる。 唇が、舌が、唾液が、口内の全てが円でいっぱいになる。 それはとても激しく、またとても切なさに満ちていた。 執拗に舌を追いかけまわしたかと思ったら、 繊細すぎるくらいに優しく絡めとろうとする。 しつこいまでに唾液を吸い尽くされたかと思ったら、 口元から溢れるほどの唾液が次々と注ぎこまれる。
やがて、彼女の手がもう一度胸元に伸びようとしたその時に… 來羽は我に返ったように抵抗を強めた。 「やぁっ」 かすれる声で弱々しく抗議するも、縛られたままの來羽に たいした拒絶はままならない。 彼女は手の平いっぱいで乳房を鷲掴みし、ゆっくりと揉みはじめた。 丹念に捏ねまわす円の手は、決して乳首に触れようとはしない。 「はっ…うぅん」 時折すすり泣くように漏れる喘ぎ声にも、円はお構いなしだ。 唇と乳房とで弄ばれつづけた自由がきかない上半身は、 いつしか窓際に貼りつけられるように拘束されていた。
「移動しましょうか…」 長かったキスからようやく解放してくれた円が発した言葉に、來羽は素直に驚いた。 「…い、移動…って?」 肩で息をすることもままならない來羽が怪訝そうに尋ねると、 彼女は何も言わず部屋の奥のとある一点を見つめた。 寝室だ。 薄暗い部屋の中で、ぼんやりと浮かぶ天蓋つきのダブルベッドが一つ、 何を主張するでもなく佇んでいる。 「…え?…あ」 來羽がその存在を認めたと同時に、円は來羽の手を引いて奥へと突き進んでいこうとする。 「ちょ…ちょっと待って…ねぇ」 慌てて立ち止まろうとするも、固い結び目のハンカチに しっかりと両手を拘束されたままの状態では、 円が足を止めてその場に留まってくれるまでには至らなかった。 「あ、やっ」 程なくベッドに押し倒されると、すぐに彼女は密着してくる。 柔らかなクッションに包まれ、寝心地だけなら來羽がこれまで暮らしていた 実家のものとは比べ物にもならないほどの高級品だ。 おまけに、視界には円しか映らないため、 窓際に立たされていた時よりもさらに彼女を身近に感じる。
もしかして、この部屋…ベッドが一つしかない?
一抹の不安が來羽の頭をよぎったが、すぐにそれを裏づけてくれるかのように 円が耳元で呟いた。 「今夜からは、ずっと私の隣りで寝るのよ」
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