| キーンコーン・・・
「ふあぁ……終わったぁ…」
「どしたの〜ゆう、いつにもましてめちゃ眠そうじゃん」
ホームルームが終わり、例によって寄ってくるのは、 岡村春乃と神坂澄香である。
春乃は小柄でぽっちゃりめのかわいらしい女の子だ。 おだんごにした栗色の髪にくりくりの眼。身長差のかなりある裕を 上目づかいに見てくるその姿は・・・
さながら、ミニチュアダックスフント。
妹のように裕になついてくるのが、兄弟のいない裕にとっては 嬉しかった。
そんな春乃とは打って変わって澄香は、裕には負けるものの こちらも背が高く、しかも細い。 いわゆるモデル体型というやつだ。 さらに美人というに何のためらいも感じない顔立ちと明晰な頭脳を 持ち合わせている羨ましい奴だった。ただ・・・
「どーせまた深夜までバカみたいにぼけーっと星でも眺めてたんじゃないの」
・・・性格は、ややキツイ。
「おいおい・・・そりゃひどいんでないの、澄香サマ。 確かに望遠鏡は覗いてたけどさ(笑)」
実際にはその後、涼子の謎の視線の意味を考えていて、 しばらく眠れなかったのだが。
「ゆう〜明日休みだしどっか遊びにいこ?」
何のフォローもないまま春乃が裕の袖を引っ張る。 マイペースな娘だ。
「あ〜…ごめん、今日用事あるんだよね」
「え〜〜〜…ゆう最近冷たいよぉ〜」 ぷう、とかわいらしく頬をふくらませて不服の意をあらわす。
「マジごめん!今度あそぼ、な? 澄香、春乃頼むわ」
「あいよ」
むくれている春乃とひょうひょうとした澄香の二人に 別れを告げて涼子の教室へと向かう。
最近冷たい、か。確かに・・・ ここんとこなんだかんだで涼子に夢中だったからなぁ・・・ 今度ちゃんと付き合わなきゃな。
裕にとっても二人は大事な友達だ。
ひととおり反省したあと、裕はとりあえずこの後の お楽しみに集中することにして頭を切り替えた。
「りょ〜こちゃん♪準備できた?」
「あ、裕。…うん、いいよ。行こっか」 席で友人と談笑していた涼子が立ち上がる。
昨日のことがひっかかっていた裕だったが、 涼子の態度に不自然さはなかった。
あの視線はいったい、ただの偶然だったのだろうか。
涼子は宿泊用の荷物を持ってきており、 通学鞄のほかにおおきめのトートバッグが机に乗っている。 重そうにそれを掴むと、友人に別れを告げて廊下に出てきた。
「家近いんだからいったん荷物とりに帰ってもよかったのに。 ・・・もちろん、私もついてくけど(笑)」
「いーの。面倒だし、あがりこまれても困るしね(笑)」
「言うねぇ〜涼子さん」
澄香と同じく普段の会話では、涼子のほうが上位かもしれない。
これから自分がどうなるのか、なんて考えもしてないかのように。 いつものように、いや、いつも以上に軽く、会話が転がっていく。
流れるように尽きない会話に心地よさを感じながら、 時折となりを歩く涼子の横顔を盗み見る。
やっぱり、きれいだ。 ぼーっと見惚れて、看板に蹴つまづいて転んだ。
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