| 怖かった。でも、だからこそ目を閉じられなかった。 沙耶は、いつの間にか刀を掴んでいた。 (そう言えば…どこに置いてたんだろう?) どうでもいいような疑問がよぎる―――そうでもしていなければ、耐えられない。 ギシッ、ギシッ… 足音が障子のすぐ外までやって来て、しんと途絶えた。
突然、大きな音と共に障子が破られた。 私は悲鳴を上げた。障子の一角から、五本の指が突き出している。 「いや………!」 私は後ずさり、次の瞬間に声すら出なくなった。 障子に、はっきりと人影が映っていた。
視界の隅に、棒のような物が飛んだ。 私には、沙耶が刀の鞘を払った所は見えなかった。青白い光を見たと思った瞬間、障子は袈裟掛けに斬り倒されていた。 『―――舐めるんじゃないよ』 視界いっぱいに飛び散る血潮を見たと思った時に、沙耶とは違う、鞭のような女の声がした。 『年季が違うんだよ、年季が』
障子の向こうには誰もいなかった。 床や障子を染めたと思った血潮もなく、廊下にはただ庭から吹き込んだいくひらかの桜の花弁が散っているだけだった。
(携帯)
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