| 2009/05/04(Mon) 23:46:06 編集(投稿者)
「噴きこぼれてる」 立ち上がろうとするとシャツの裾を掴まれ、引き倒された。 「―――何だよ?」 「話の途中だ。逃げんなよ」 「逃げる理由がない」 蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが、何とかこらえた。 過去に、ただ一度だけ、環とは取っ組み合いの喧嘩をやった事がある。二十歳代半ばだからまだ数年前。私が物書き、環がAVだけでなくVシネマも手がけるようになり、何とか日銭を稼げるようになった頃だ。 先に手を上げたのは私だった。行き着けのスナックで、互いの友人知人の目前で環を殴り、足蹴にした。環も負けてはおらずに足払いをかけ、平手どころか拳を振るった。 店内が阿鼻叫喚の坩堝と化したその時、それまで妹の六道や自分の身内を退かせ、傍観を決め込んでいた骨董屋が間に入って倒れたテーブルを蹴り上げ威嚇しなければ、私達は互いに刃物を取っていた―――いや実際、環は割れたボトルを掴んでいた。 その店には骨董屋込みで出禁になったが、私達はそれ以来、あからさまに喧嘩を売り買いするのは控えていた。
しおらしく反省したから、ではない。 自己嫌悪からだ。
(携帯)
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