SMビアンエッセイ♪

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■5795 / ResNo.10)  頑張って下さい。
  
□投稿者/ s 一般人(1回)-(2009/05/04(Mon) 08:09:47)
    前の作品から、ずっと楽しみにしています(話の途中で感想を書くのが気がひけて、書きませんでしたが…)。

    これからも、この世界観を楽しみにしています。

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■5798 / ResNo.11)  ありがとうございます
□投稿者/ 葉 付き人(61回)-(2009/05/04(Mon) 22:00:27)
    コメントありがとうございます。励みになります。

    気長にお付き合い下さい…

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■5799 / ResNo.12)  奈落・8
□投稿者/ 葉 付き人(62回)-(2009/05/04(Mon) 22:26:02)
    「―――胴元は?」
    湯の中でうずくまるあたしを見下ろし、あの人は呟いた。
    「商売なのはあそこまでだろ。悪戯されないように庇って貰いな」
    この人も見ていたのかと、あたしは更に縮こまる。
    恥ずかしくて顔が上げられない。
    「もう……いない」
    小さな声で、それだけ言った。
    「いない?」
    訝しげな声が降ってきて、あたしは頷く。
    「終わったから……帰っちゃった。皆」
    しばらく、沈黙。
    俯いているとやがてバシャバシャと水音が遠ざかり、ああこの人も行っちゃうんだとぼんやり思った。
    しかし、またバシャバシャと音がして、頭からバスタオルをかけられた。
    「先刻のおばはん達が外にいるから」


    蹴散らして通るよとあの人が言った。

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■5800 / ResNo.13)  奈落・9
□投稿者/ 葉 付き人(63回)-(2009/05/04(Mon) 22:56:06)
    2009/05/04(Mon) 23:46:06 編集(投稿者)

    「噴きこぼれてる」
    立ち上がろうとするとシャツの裾を掴まれ、引き倒された。
    「―――何だよ?」
    「話の途中だ。逃げんなよ」
    「逃げる理由がない」
    蹴っ飛ばしてやろうかと思ったが、何とかこらえた。
    過去に、ただ一度だけ、環とは取っ組み合いの喧嘩をやった事がある。二十歳代半ばだからまだ数年前。私が物書き、環がAVだけでなくVシネマも手がけるようになり、何とか日銭を稼げるようになった頃だ。
    先に手を上げたのは私だった。行き着けのスナックで、互いの友人知人の目前で環を殴り、足蹴にした。環も負けてはおらずに足払いをかけ、平手どころか拳を振るった。
    店内が阿鼻叫喚の坩堝と化したその時、それまで妹の六道や自分の身内を退かせ、傍観を決め込んでいた骨董屋が間に入って倒れたテーブルを蹴り上げ威嚇しなければ、私達は互いに刃物を取っていた―――いや実際、環は割れたボトルを掴んでいた。
    その店には骨董屋込みで出禁になったが、私達はそれ以来、あからさまに喧嘩を売り買いするのは控えていた。


    しおらしく反省したから、ではない。
    自己嫌悪からだ。

    (携帯)
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■5801 / ResNo.14)  奈落・10
□投稿者/ 葉 付き人(64回)-(2009/05/04(Mon) 23:42:41)
    絵描きさんなの?


    そう尋ねると、あの人は微妙な顔をした。
    確かに、部屋に散らばっているのは絵だけじゃなかった。漫画の下描きみたいにコマ割りに絵と字を書きつけた紙とか、文章だけの紙とか、分厚い本とかで足の踏み場もなかった。
    でも、その中には絵筆とか、小皿に入ったいろんな色の絵の具があり、ぱっと見には絵を描くのが仕事なんだなと思われた。


    あの人は何も言わなかった。
    気分を悪くしたのかとあたしは怯え、あの人から少し離れた床に腰を下ろした。
    手元の書きつけに目がいく。
    「……姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは―――」
    読めない。
    顔を上げると、あの人と目が合った。
    少し疲れているような顔だった。
    「これ、知ってる」
    「へえ」
    「三回読むと、死ぬって」
    「何だ、それ」
    あの人がちょっと笑い、あたしは安心する。


    ―――姉は血を吐く、妹は火吐く、可愛いトミノは宝玉を吐く。
    ひとり地獄に落ちゆくトミノ、地獄くらやみ花も無き。
    鞭で叩くはトミノの姉か、鞭の朱総が気にかかる。
    叩け叩きやれ叩かずとても、無間地獄はひとつみち。


    すらすらと唄うように、あの人は読み下した。
    「あたし、読めない……」
    そんなふうに、文字を見なくても暗記してるみたいには読めないという意味だが、あの人は少し勘違いしたようだった。
    「この程度のが読めなかったら、これは無理だね」


    あたしの膝に、ひらりと紙が舞い降りた。

    (携帯)
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■5804 / ResNo.15)  感想
□投稿者/ 真理 一般人(1回)-(2009/05/05(Tue) 12:29:36)
    続き、楽しみにしています^^
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■5806 / ResNo.16)  奈落・11
□投稿者/ 葉 付き人(65回)-(2009/05/05(Tue) 22:05:02)
    「……さる程に、阿波、讃岐に平家を背いて源氏を待ち受ける者共、あそこの峰、ここの洞より十四五騎、廿騎、うち連れうち連れ参りければ」
    ―――判官ほどなく、三百余騎にぞなりにける…


    環の呟きに声には出さずに続きを誦じ、迷わず合わせられる自分を疎ましく思う。
    「何か、話がずれてるぞ」
    「ど真ん中だと思うがね」
    環の声に、いつもの人を喰ったような笑いはなかった。
    「……滅びるか滅ぼすかの土壇場で、なんで射的なんかやったんだろうな」
    ―――危ない、という自覚はあった。
    六道はまだ帰らない。この女は遠慮はしない。私もだ。
    「スパ銭の東西でごねたお次は耳無し芳一か? まともに話する気がないのはそっちだろうが」
    「耳無し琵琶弾きは射的のくだりは演らねえよ」
    環は座布団を蹴ってあぐらをかき、


    「あの女を連れ出したのはあんただろ。返せよ」
    と言い放った。

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■5807 / ResNo.17)  奈落・12
□投稿者/ 葉 付き人(66回)-(2009/05/05(Tue) 23:24:18)
    2009/05/06(Wed) 01:06:39 編集(投稿者)

    「……女?」


    煮えかけていた頭が冷える。
    「何言ってんだ、あんた」
    「とぼけるな」
    間髪入れずに環が言い返す。
    「うちの若いのが見てたんだよ、西屋から連れ出しただろ。まさか、もう犯っちまったのか?」
    「だから、西屋には行ってないって言ってるだろ?」
    言い終わらぬうちに座布団が飛んでくる。私はそれを避け、言いがかりも大概にしろと吐き捨てた。
    「女優に逃げられた八つ当たりならよそでやれ、いちいちうちに持ち込むな」
    今度はDVDのケースが飛んできて、壁に砕けた。
    「女優じゃない、まだ……」
    環はそう言いかけて、途中で言葉を飲み込んだ。だが、歪みかけた表情は一瞬で、悪意そのものに変化した。
    「―――うちに持ち込むなだと?」
    効果を十分に知り尽くした嘲り笑いで、環は言った。
    「昔っからあんたはそうだよな。手前を棚に上げての潔癖気取り、中身はあたしとおんなじ屑だろうによ」


    環の顔をかすめて灰皿が飛ぶ。
    当てる気がない事を知っている環は微動だにしない。
    「……投げるなら当てろよ」
    妙に沈んだ声で、環は言った。
    「この年齢になると、いっそ存分に殴り合った方が楽な気がする」
    私は応じず、開けた窓から庭を見やった。
    幼い頃はこんなふうに二人して、庭で掴み合い殴り合い、派手に泣きわめく母たちを眺めていた。


    そんな時は何処からか優しい手が頭を撫でて目を塞ぎ、生々しい諍いを見ないで済むようにしてくれた……
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■5808 / ResNo.18)  奈落・13
□投稿者/ 葉 付き人(67回)-(2009/05/06(Wed) 00:44:27)
    2009/05/06(Wed) 01:13:31 編集(投稿者)

    「おいで」


    あの人があたしを手招いた。
    あたしは床に散らばる絵の道具や紙や本をなるべく踏まないように気をつけて、床にあぐらをかくあの人の脚の間に腰を下ろす。
    「―――判官程なく、三百余騎にぞなりにける」
    ゆっくりと穏やかに、あの人は呟いた。
    「これは平家物語。物語に曲をつけて、琵琶を弾きながら謡うやつ」
    背中から伝わる体温と、耳にかかる息があたたかい。
    「今のはほとんど最後の方。平家の棟梁の清盛が死んだ後、それまでは追われる側だった源氏が関東から京都に向かって攻め上り、平家一門は都を捨てて西へ西へと落ちのびる」
    内容はあまり頭に入らない。でも、あの人はあまり気にしていないようだった。
    「途中に何度も激しい戦闘があり、たくさんの兵士や武将が死ぬ。騙し討ちや自害、捕虜になる者、とても酷い話を重ねながら、平家一門はついには海の上で追い詰められる」
    あたしは懐に抱かれる猫のような思いで、ぼんやり耳を傾ける。


    「―――耳無し芳一は知ってるだろ」
    不意に問いかけられてあたしは驚き、慌てて頷いた。
    それは何となく知っている。お経を書き忘れた両耳を、幽霊にちぎり取られるお坊さんの話だ。
    「芳一を呼び出した平家一門の亡霊は、自分達が敗けて討ち死にしたり、海に飛び込んだりする悲しい場面を芳一に繰り返し繰り返し謡わせる。何でだと思う?」
    あたしは、答えに窮した。
    おどおどと振り返り顔を上げると、あの人は笑った。


    「虚しいから」
    淡々と、あの人は言った。
    「人間は、死んだ後でさえ、物語がなければ虚しくて虚しくて仕方がないからさ」
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■5810 / ResNo.19)  奈落・14
□投稿者/ 葉 付き人(68回)-(2009/05/06(Wed) 21:37:12)
    虚しい?
    あたしには、意味がよく分からない言葉だった。


    「分かんないかな」
    あの人は少し困ったように呟き、前に屈んだ。
    抱き締められると思ったが、あの人はあたしの背後から手を伸ばし、床に敷き詰められた紙を掻き分けた。
    少し、物足りなかった。
    「あんたにもあるだろ、ここまでの物語が」
    ―――あたしはしばらく考え込んだが、あるような気はしなかった。
    家に帰らなくなったのも、学校に行かなくなったのも、別に特別な事は何もない、ありふれた事情でしかなかったし。
    「他人から見れば、どんな物語でもありふれたもんだよ」
    あの人は呟いた。
    「自分がそこに意味を見たくなったら、普通の人生でも物語になる。で、深い意味を持ちたければ持ちたいほど、それは特別な物語になる……メロドラマとか、悲劇とか」
    ―――ヨン様萌えのおばはんを見てみろよ、どれだけ恋物語に飢える奴が多いんだとあの人は笑う。


    「物語を作ってるの?」
    ちょっと混乱しながら、あたしは尋ねる。
    たくさんの文字と絵―――でも絵を描く道具があるし、やっぱり絵描きさんに見えるのだけど。
    あの人はしばらく黙り、あたしが不安になり始めた時にやっと答えた。


    「物語に縋って、生きている」
    独り言のような声だった。

    (携帯)
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