| 「―――県の発症者は二百人を超え、政府は隣接する県境に医療検問所を設置し、さらなる感染拡大を防ぐため……」
もう珍しくもなくなったが、番組の最中に画面が臨時ニュースに切り替わり、私と来客の視線をそちらに向けた。 「……異常を感じた方は、まず地域の保健所の相談センターにお電話して下さい。みだりに治療機関や人が集まる場所へ行かず、冷静な行動を……」 私はリモコンに手を伸ばし、テレビを切った。 「怖くないんですか」 私の動作を目で追っていた来客が呟く。名刺は貰ったが名前は覚えていない。週刊誌の記者とだけは覚えているが。 「……実感がないだけです」 思ったままの事を私は呟く。怖いと言うなら、東京からはるばる爆心地にやってきた記者の方が怖いのではないだろうか。 「早く帰られた方がいいですよ」 まだ噂に過ぎないが、県境が封鎖されると聞いている。この県は東京からは離れているが、ここで発生したウィルスは異常に伝播が早い。国土のほぼ真ん中にありながら隔離されるのは当然であり、脅威だった。 「飛んで帰りますよ、この取材が終わったら」 記者は笑顔で答えるが、少し無理のある笑顔だった。 「もう終わっているでしょう? 私、知ってる事は全部お話しましたよ」 私は少々うんざりして言い募る―――食糧や日用品の買い出しも済ませている。会社にも行く必要はない。望まぬ来客を前にして、外出する口実がないのは不便な事だった。 「……本当に、ですか」 私と同じくらいの年齢だろう。垢抜けた身なりの女性記者は、声に少し力を込めた。 「本当に、全部話して下さったんですか……?」 私は無言で彼女を見つめる。
互いを隔てるテーブルには、一枚の絵葉書が載っていた。
(携帯)
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