| 「何だ、これは……あんたは知ってたのか? こんな所に……」 事業所の窓口で粘っていた男は身体をずらし、黒い土を掻き分けた地面を指差した。 「……蠅と、烏がたかってたんだ。もしやと思って来てみたら、指先が―――」 私は近付きもせずに上を見上げた。追い払われてなお、数羽の烏が未練ありげに空を舞っていた。
……臭いだけで分かる。泥まみれの青白く膨れた手指も見えているが、この腐臭には何の感慨もない。よく知っている臭いというだけだ。 「おい、何とか言え」 だが、激上した男が土中から掴みあげた物には少し驚いた―――男はそれを私に投げつけた。完全に原型を留めた頭蓋骨は鈍い音をたて、石畳に転がった。 「まだあるぞ―――ひとつやふたつじゃない。女房だけでなく、一体何人埋まってるんだ?」 男はヒステリックに怒鳴り散らした。
私はぼんやりと頭を巡らし、立ちすくむ両脇を駆け抜ける白いものを見送った。 悲鳴と怒号、獣の唸り。それらはしばらく続いて、そして止んだ。 束の間の野性から従順なボルゾイに戻った瑞雪と雪亮が鼻先から胸まで赤く染めたまま、私に寄り添い尻尾を振った。
(携帯)
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