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■5993 / ResNo.20)  NO TITLE
  
□投稿者/ 葉 ファミリー(162回)-(2009/06/23(Tue) 22:53:54)
    すみません…

    何か、うまいこといかんなあと思いつつ書いてます。

    ちょっと不調…
    o(_ _*)o

    (携帯)
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■5994 / ResNo.21)  愛琳の家・18
□投稿者/ 葉 ファミリー(163回)-(2009/06/23(Tue) 23:40:17)
    空いた時間に、私は刺繍を教えてほしいと申し出た。
    自分でも理由の分からない思いつきだったが、夫人は二つ返事で引き受けた。
    「時間を忘れて無心になれるし、楽しいものよ」
    仕事柄、刺し子やお手玉、小物類を縫うくらいの下地はあったが、絵柄のための縫い物はした事がなかった。
    過度にすり寄る気持ちはなかったが、何かが分かるような気がした―――色とりどりの唐草模様や蓮の花、鳳凰の刺繍の向こうにあるものが。


    時折、夫人は指を動かしながら、中国語の歌を口ずさんだ。

    ――霧の深い白露
    新しいお握りをどの家でも味わう
    少女は可哀想
    髪は三つ編み
    まだ汚れていない はじめての弓型の靴……

    意味を問うと、夫人は小脚姑娘(シャオヂャオクーニャン)に祈る民謡だと答えた。
    「女の子が纏足を始めるのは大人になるための大切な儀式で、一大イベントだったの―――白露とは霜が下りそうな秋の頃、足が汗ばまない季節の吉日に、女たちは家のかまどにお赤飯のお握りをお供えして、幼い娘の纏足がうまくいくように、小脚姑娘という女神様にお祈りしたのよ」


    台所のかまどに供え物をするのは、家―――女の世界の中心だから、と夫人は言った。
    「未婚のうちは父に従い、嫁せば夫に従うというのが美徳だったのは日本も大陸も同じだけど、あちらの女性には財産権や、交渉事で夫の代理を務める権利もあった。一番の権力者は姑と言うくらい、家の中では女が強かったのよ」
    自分が育った地方都市でもそうだった、と夫人は言った。

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■5995 / ResNo.22)  愛琳の家・19
□投稿者/ 葉 ファミリー(164回)-(2009/06/24(Wed) 00:44:48)
    「呉蓉芳(ウーロンファン)。それが、私のあちらでの名前」
    夫人はテーブルに指で書いた。
    「あちらの慣習でね、仲の良い親同士が互いの子供にもうひとつの名前をつけるの。戸籍とは別の通り名よ」
    「じゃあ呉さんという方が、お父様の友人ですか」
    「そう。呉小徳(ウーシァオトー)と言ってね、抗日運動の最中でも、家族ぐるみの付き合いをして下さったわ」
    その妻の名が楊柳(ヤンリウ)、娘の名が胡蝶(フーティエ)……と、唄うような響きが続いた。
    「私が物心つく頃にお姑さんは亡くなったけど、みんな纏足をしていたわ―――私は胡蝶が纏足を始めるまでは、大陸の女の人は皆、最初から小さな足なんだと思ってた」
    無理もないわね、と夫人は小さく肩をすくめた。
    「纏足の女性はね、長い布で素足を巻いて、夫にさえ裸の足は見せないの……艶本だとそれが殿方の好き心を煽るんだけど、女にとって素足を晒すのは最大の恥辱。だからそれがどんなものか知った時は、ショックだったわ」


    ……厳粛な儀式、供え物の前に跪き祈る女達、縫い上げられたばかりの小さな赤い靴。台の上に載せられた、柔らかく小さな白い足。
    「私は、面白くなかったわ」
    夫人は呟いた。
    「理解できる年齢じゃなかった。それまでは玩具も服も分け合っていたのに、なんで胡蝶だけがお姫様みたいに特別扱いされてるのかって……いくら親しくても、民族の枠は越えられないのにね」
    でも、やがて、胡蝶は明らかに憔悴し始めた。
    「足を緊縛する事による弊害が出てきたの……きつく折り曲げ束ねられた足の裏が膿み、腐臭が漂うようになった。足に巻く布を毎日取り替えて薬を塗り、乾燥させるための粉をはたくんだけど、やはり人体に有害な事に変わりはないのよ」
    女神、時には観音菩薩に祈るのは纏足が美しく仕上がるためだけではない。安全に仕上がるためでもあると夫人は言う。
    「強すぎる緊縛は血流を止めて、壊死を引き起こす事もあるの……そうなるともう、膿むだけでは済まない。腐り始めるわ」


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■5996 / ResNo.23)  愛琳の家・20
□投稿者/ 葉 ファミリー(165回)-(2009/06/24(Wed) 02:09:44)
    ……人間が、生きながら腐乱する臭い。
    私はそれを知っている。重度の褥創(床ずれ)や、糖尿病などの疾患によって壊死を起こした患部の臭いだ。それはどこか甘く、排泄物や吐物などとは比べ物にならないほど耐え難い。


    「胡蝶のお母さんもお祖母さんも無事に足を完成させたのに、胡蝶は不運だった……悪い菌が入ったと聞いたわ。彼女は眠れず、食べられず、みるみるうちに別人になった。獣みたいに叫び続けるか、ヒステリックに家族を罵るかしかしなくなった」
    「それで……?」
    恐る恐る、私は尋ねた。
    夫人は手元の布に目を落とし、淡々と呟いた。
    「いろんなお医者にかかった後で、お父さんが手に入れてきた薬で楽になったわ……でも、一日中ぼんやりして、起き上がれなくなった―――阿片よ」
    私は目をそむけた。
    癌で他界した父の最期の頃、モルヒネを投与していた頃を思い出したのだ。
    「纏足を始めたのが七歳……胡蝶は、十歳にはならなかった」
    夫人の声は続いていた。
    「……私の父がね、日本人社会のつてを辿って売人を探したの―――阿片は既に闇で売買される時代だったし、あちらの売人の扱うものは粗悪品が多かったから」
    生家を出て、北京の寄宿学校に入ったのはそれから間もなくの事だと夫人は言った。


    「家を出る日、胡蝶のお母さんから靴を貰ったわ」
    夫人が呟いた。
    「願掛け靴と言って、纏足靴をさらに小さくしたミニチュアで、それを祭壇に祀ったりするんだけど……装飾の刺繍の他に、文字が縫い取られてたわ」

    『我所願 爾欲安然』

    一文字ずつ、夫人は諳んじてみせた。
    「あなたの平穏を祈るという意味……価値観や慣習は違うけど、野蛮だと思った事はなかった。その靴も大事にしてたけど、終戦後のどさくさで無くしてしまったわ」


    今持っている靴は、自分で縫ったものばかりだと夫人は言った。


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■5997 / ResNo.24)  愛琳の家・21
□投稿者/ 葉 ファミリー(166回)-(2009/06/24(Wed) 22:05:24)
    その夜、私は夢を見た。

    夢の中でも、花の香りの中にいた……むせ返るような華やかな薔薇、濃密なクチナシ、淫蕩な百合。そしてそれらが開ききり、色あせる間際に放つ甘い腐臭。


    目の前に細かい彫刻を施された唐風の寝台と、幾重にもそれを覆う薄絹の天幕がある。
    私はそれに手をかけ、一枚ずつめくり始めた。視線の隅に鳳凰をかたどった青銅の燭台と、細い煙をあげる香炉があった。
    気が遠くなるほどの薄絹の帳を掻き分けて、私は立ちすくむ。


    「お客様、ようこそ」
    寝台の上に少女がいた―――まだ十代の初めくらいなのに、その身は豪奢に飾り立てられている。
    金糸や銀糸、鮮やかな色彩で縫い取られた襟元や肩掛けから流れるような薄絹の衣をまとい、その上には翡翠や珊瑚、瑪瑙の玉を連ねた首飾りが幾重にも垂れている。髪は古風に結い上げられて大輪の白牡丹を一輪あしらい、そこからも珊瑚玉が肩まで垂れる……見覚えのある髪飾りだった。


    寝台にしどけなく横座りになった少女を見下ろし、私は息を飲む……この娘には会った事がある。でも、それがいつ、どこでだったのかが思い出せない。


    目尻に紅を履いた大きな瞳は濡れたような光を宿し、唇は媚びをたたえて微かに開いている……肌の色は白磁のようで、寝台に投げ出された指の先に至るまで滑らかだ。


    少女は、私に向かって手を差し伸べた。
    「……胡蝶?」
    私はぼんやりと呟いた。
    視線を寝台に走らせ、細い指先が薄絹の裾をつまみ上げるのに目を凝らした。
    紅い靴が姿を表した―――すんなりした弓型の小さな靴……花嫁の履く纏足靴と分かった瞬間、私は反射的に身を引いた。


    少女はゆっくりと靴を脱ぎ、脇に押しやった。
    淡い紅色の、包帯のような布でぐるぐる巻きになった足が目の前にあった。少女は物言いたげな瞳で私を見上げ、身を屈めて足に触れ、布を解きにかかった。


    「だめ……」
    私は首を振り、不自然な形状の小さな足から目をそむけた。
    不意に、腐臭を強く感じる―――女なら誰でも知っている、長時間ストッキングを履き続けた時の……いや、それよりもっと濃い、明らかな腐敗臭。それを誤魔化すために擦り込まれた香料入りの軟膏や、粉薬と混じってさらに複雑になった腐臭―――芳香?……


    少女が私の手を取った。
    驚くほどしなやかで柔らかい手が私の手を彼女に導き、足の裏に触れさせた。
    私はぞくりと身体を震わせ顔を上げ、私を見つめている少女と視線を合わせた。

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■5998 / ResNo.25)  愛琳の家・22
□投稿者/ 葉 ファミリー(167回)-(2009/06/24(Wed) 22:32:35)
    おぞましかった。
    だが、手を引く事ができなかった。


    「愛琳……?」
    震える声で、私は呟く。
    少女はにっこりと微笑むと、あらわになった両足で、私の手を包み込んだ。



    翌朝、私は全身汗まみれで目を覚ました。
    体中がだるくて重く、眠った気がしなかった。
    夢と呼ぶには生々しく、細部まではっきりしすぎていた。
    (―――こんなものを読んだせいだわ)
    枕元の『金瓶梅』に手を伸ばし、ベッドサイドの机に放り投げる……美女の纏足を純粋に性具とみなす、中国古典の艶本を読みながら眠ったのが悪かった―――今日は一日中フルで訪問先を回らねばならないからと、早めに床についたのに。


    手早く身支度を済ませて訪問先に出向く時間を確認し、仕事用の鞄を引き寄せた時に、おや?と思った。
    鞄のファスナーが途中で引っかかる。何かを挟んでいるようだ。
    「――――え?」
    ファスナーのつかえを直し、鞄から取り出した物を一瞥した私は息を飲み、手にしたそれを投げ出した。


    包帯の切れ端のようなもの―――淡い紅色の布が、床の上にとぐろを巻いていた。


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■5999 / ResNo.26)  愛琳の家・23
□投稿者/ 葉 ファミリー(168回)-(2009/06/26(Fri) 01:17:26)
    「……ですから、その方はうちのヘルパーさんじゃないんです」
    午前中の訪問を終えて事業所に戻ると、窓口で何やら揉めていた。
    「何度も申し上げたように、別の事業所の方がお辞めになった理由は、こちらでは伺っておりませんし―――」
    中年の男性を相手に、いつもは饒舌な主任が苦りきった声をあげている。その横を通り過ぎる時、主任が私に気付き、袖を捉えた。
    「ちょうど良かった……ねえ坂下さん、槙原さんのお宅には、奥様以外には誰も住んでないわよね?」
    「えっ?」
    不意の質問に私はたじろぎ、窓口から身を乗り出している男性に睨まれて当惑した―――やけに攻撃的な、険のある眼差しだった。
    「家内のいた社協からは、こっちで聞けと言われたんだ」
    かなり長い間、主任と押し問答をしていたらしい。痩せて神経質そうな男性は私に向き直り、苛立たしげな声で言った。
    「家内が辞めていたなんて聞いてない。山のお屋敷の婆さんと、その家族の専属になったと言ってた―――その家内が帰って来なくなったなら、勤め先に聞くしかないだろうが」
    「……家族……?」
    私はぼんやり問い返し、助けを求めるような主任の視線と、遠巻きにこちらを見ている職員の視線を意識した。
    「家族と言われても……飼い犬なら、確かにいますが……」
    「犬と人間の区別くらいつく。あんた、馬鹿にしてるのか」
    男性はカウンターを叩いて声を荒げた。
    それからしばらく、男性は『山のお屋敷』の住所を教えろとしつこく粘った。ようやく所長が出てきて私は解放され、後でまた呼び出された。


    「旦那さんに内緒で辞めてたみたいね」
    主任は疲れた表情で呟いた。
    「社協にも聞いてみたけど、何も知らないの一点張りよ……まあそうよねぇ、自己都合で辞めた人の行き先なんて、知ってるわけないわ」
    「槙原さんのお宅に行ってたヘルパーさん……ですか」
    主任は頷いた。
    「あちらで一番長い人だったみたいね……でも、仕事はできても夫婦仲は分かったもんじゃないわね。旦那がああして聞き回らなきゃならないなんて」
    ……私はひそかに迷っていた。騒ぎの最中に思い出した事、あの髪飾りを持ち帰った日に槙原夫人宅に来客があった事を言うべきなのか。
    (あの人は、同業者だった……)
    さっきの男性と年格好も近く、夫婦と言われても違和感はない。私は逡巡したが、主任にそれを話した。


    「……もし、それがさっきの人の奥さんだとしても……」


    (携帯)
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■6000 / ResNo.27)  愛琳の家・24
□投稿者/ 葉 ファミリー(169回)-(2009/06/26(Fri) 01:48:05)
    主任は、聞きたくなかったという表情を隠さなかった。
    「それをそのまま伝える訳にはいかないわね。ヘルパーを辞めて、個人同士の関係になったんなら尚更よ」
    ……それは確かにそうだった。今はそれだけ、個人情報の扱いは厳しい。
    「そう言えば……」
    主任はふと口調を変えて、私を見つめた。
    「あなた、槙原さんにとても気に入られてるようだけど……知ってる? 槙原さんがうちの所長に、ヘルパーを後見人に申請できるか尋ねたことを」
    「―――え?」
    私は目を見張った。
    成年後見人制度というものがある―――認知症などで財産管理ができなくなった人の代わりに第三者にそれらの権利を託す制度で、早くから指名しておく事もできる。手続きは裁判所で行うもので、実質的な相続人だ。
    「知りません―――槙原さんからも、何も聞いてません」
    「あなたは職分をわきまえた人だから、変な心配はしていないけど……」
    主任は力を込めた声で、諭すように言った。
    「そんな話が出ても乗らないでね―――事業所にとって、決して名誉な話じゃないから」


    「……分かっています」
    私は悄然と肩を落とし、自分の席に戻った。
    夫人の考えている事が分からない。
    裕福な高齢者がヘルパーに過分なお礼をする事はよくあるし、実際、夫人はあの高価そうな髪飾りを私に与えようとした―――だが、それとは質が違う。


    結局はその日は一日中不調で、ただでさえ拭えない疲労感が倍になっただけだった。

    (携帯)
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■6004 / ResNo.28)  愛琳の家・25
□投稿者/ 葉 ファミリー(170回)-(2009/06/27(Sat) 23:07:21)
    2009/06/28(Sun) 16:14:35 編集(投稿者)

    「―――あ」
    私の呟きに、絨毯でまどろんでいた瑞雪と雪亮が顔を上げる。


    縫い針に細く血が伝う。私は手にしていた絹の布を慌てて遠ざけ、仕上がりかけていた白蓮の刺繍を汚さないようにした。
    「まあ―――大丈夫?」
    向かい側で針を運んでいた夫人が立ち上がり、手を伸ばす。
    「大丈夫です」
    私はハンカチで血を拭い、笑顔を作った。
    「消毒をしなきゃだめよ。小さな傷でも、命取りになる事はあるんだから」
    夫人が救急箱を取ってくるまでの短い間、私は振り返って窓を見つめた。
    (まだ、いる……)
    その日の初めから、屋敷の外には烏がいた。
    山の中だし、野鳥がいてもおかしくはない……でも、時間が経つにつれて増えている。今は十羽くらいだろうか、しきりに鳴き声がする。
    「あまり根を詰めてもよくないわ。今日はもう、このくらいにしましょうね」
    指先にバンドエイドを巻く私に夫人はそう言い、窓をちらりと見て呟いた。
    「―――烏鳴きのする日だこと。お迎えが近いのかしらね」
    そして居間の片隅の蓄音機―――使えるとは思わなかった―――に歩み寄り、レコードを選んで針を落とした。


    絹を裂くように高い、細い歌声が流れ出した。
    「李香蘭―――?」
    「あちらの読み方では、リーシャンランね」
    夫人は振り返り、微笑んだ。
    「私と同じ年齢だけど、今なお凛然としていらっしゃるわ……娘時分には、ずいぶん憧れたものよ」
    満映の花形女優でなく、日本の国会議員としてしか私は知らない。
    「ご存知でした? 彼女が日本人だとは……」
    「とんでもない」
    夫人は笑顔で首を振る。
    「当時大陸にいた日本人も、大方はあの方が中国人だと思っていたわ―――私もあちら生まれで大陸に親しんで育ったけど、あの方ほど完璧ではなかった。大陸の麗人(リーレン:美人)とは、まさにあの方の事だと思っていたの」

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■6005 / ResNo.29)  愛琳の家・26
□投稿者/ 葉 ファミリー(171回)-(2009/06/28(Sun) 00:30:09)
    麗人―――と言った夫人は何かを思い出したように首を傾げ、蓄音機の傍らの箪笥に置かれた写真立てを手に取った。
    私は少し身を固くした。
    愛琳という少女……何故だか、意識してこの写真を見ないようにしていたのだ。
    夫人は写真立てを裏返し、写真を外した―――そこには愛琳だけでなく、もう一枚の写真が入っていた。


    私はそれに見入った。
    表にあった愛琳の写真は、この二枚目を引き伸ばしたものだとすぐに分かった……マスタープリントとおぼしきこの一枚には、もう一人の人物が写っている。
    愛琳が古風な衣装で飾り立てられているのに反し、もう一人は洋装の東洋女性だ……ゆるく巻いた髪を肩まで垂らし、腕や肩を露出した、身体のラインを強調するイブニングドレスを優雅に着こなしている。
    「この人も女優さん……ですか?」
    目鼻立ちのはっきりした妖艶な美貌の持ち主を見て、私は尋ねずにはいられなかった。
    「いいえ」
    夫人は首を振った。
    「その人は実業家よ―――劉燕華(リュウイェンホア)と言ってね、上海でお世話になった方」
    「婦人運動の?」
    問いかけながら、私の目は写真の人物の足に釘付けになっていた。


    劉燕華という女性はハイヒールの足元を強調するかのようにドレスの裾を僅かに持ち上げ、もう一方の手を肩に置かれた愛琳の足先は―――纏足靴だった。
    「……そうね」
    夫人の声が、自分の質問に答えたものだと分かるまでに数刻かかった。
    「いろんな意味で、私の見識を広げてくれた人だわ。燕華は……」
    夫人の口調はどこか含みのあるものだったが、私は別の事で混乱していて気付かなかった。


    私が夢で見たのも、纏足をした愛琳だった。
    夫人は以前、愛琳を清朝の末裔だと言った。
    だが清朝は満州族の王朝で、纏足をする慣習はない……


    窓の外でけたたましく烏が騒ぎ、羽ばたく音が響いていた。


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