| 「希望を捨てないでね」 と日本大使館の河野さんは言ってくれました。 死刑執行が一週間延びたのも、河野さんの尽力があったおかげです。 「私、この事件は裏があると思うの。きっと、女神の島の上の方は政府の上層部ともつながってるのよ。でなければ、手入れ寸前にトンズラなんてありえない」 女神の島のスタッフたちは私が拷問を受けて失神している間にそそくさと逃げ去ったのでした。 残ったのは女の子達だけで、私一人が拷問台に縛り付けられた状態で発見されたのです。 私も最初は女の子達と同じように被害者として扱われました。 ところが、容疑者達の写真を見せられ、その中に恵里香を発見して知り合いだと告げたとたん、扱いが変わりました。 私も女神の島のスタッフの一人であり、拷問を受けていたのは仲間割れによるものだとされたのです。 おそらく、首謀者を一人も捕まえられなかったことで警察のメンツが酷く傷ついたのでしょう。 誰か一人でも首謀者を捕まえたことにしなければならなかったのです。 証拠として防犯ビデオが提出されました。 事故で女の子を殺したものと、女の子をハリツケにして逝き地獄にしているものです。 私はスタッフの中の拷問担当ということにされてしまいました。 女の子達はおそらく口裏を合わせるように強要され、私一人を悪者にしてさっさと日本に帰国してしまいました。 裁判は三日で終わり、私は死刑を言い渡されました。 この国では売春は死刑なのです。 ここで、世界の女子死刑囚の七割が中国人であり、死刑執行は判決の直後に行われることがあることも知りました。 銃殺で頭を打ち抜くことが多いのは、脳死状態にして内臓を抜くためです。 世界的に女性と子供の臓器が足りず、移植を待つ人はごまんといます。 その人達への臓器の供給源として中国の女死刑囚はいるのです。 死刑の時期は、だから血液型などが適合する「客」の有無によります。 外国からの「客」が到着次第、死刑執行されます。 無駄に生かしも殺しもしないのがこの国です。 私の場合、死刑が延びたのは、血液型の問題があったのではないかと思います。 もちろん、河野さんの尽力もあったでしょうが。
それにしても女神の島にはおかしなことが多すぎました。 売春宿に売り飛ばすなら、なぜ、誘拐してきてすぐに売り飛ばさなかったのか。 わざわざ釣ってきた魚を生け簀で生かすような真似をしなければならなかったのか。 と、ここまで書いたところで、河野さんが面会に来て、私は釈放されました。 その足で空港に向かい、日本の地を踏んだのでした。
日本では外務省と警察の用意した家に保護され、しばらくは外出も禁止されました。 それでもテレビや新聞やネットは自由に見ることができましたから、やっとここで、私は自分の巻きこまれたこの事件の概要を知ることが出来たのでした。 事件の全体像が見えてきたきっかけは、女神の島の沿岸の海底から大量の人骨が見つかったことでした。 それも四肢だけの。 私が縛り付けられた拷問台は、まさしく女の子の四肢を切断するために使われていたのです。 人骨が見つかってまもなく、恵里香を含む日本人誘拐団と女神の家スタッフが中国の奥地で拘束されました。 この時点で私のえん罪が晴らされたのでした。 恵里香達はおそらく政府の上層部に匿われていたのが、おきまりの内紛で裏切られたのでしょう。 こうしてその証言から、女神の島の恐るべき実態が明らかになったのです。 いえ、明らかになって表に出たのはほんの一部です。 私が知らされたのはもっと恐ろしい事実でしたが、絶対に口外をしないという約束をした上で、でした。 表に出たのは、女神の島で行われていたのは、まずは受精卵を使った生体実験だということでした。 つまり、女の子は卵子の提供者で、強力な排卵誘発剤を毎月打たれ、検査という名の採卵をやらされていたのだということ。 けれど、排卵誘発剤の副作用で、もはや卵が出なくなった女の子はどうなったのか。 この子の運命は慎重に伏せられました。 この女の子は、「卒業」の名の下、四肢を切断されて「出荷」され、内臓の提供者にさせられていたのです。 ママや先生が「ダルマ」と呼んでいたのは事実の裏付けがあったのです。 身長やスタイルが同じような子を集めていたのも「出荷」のさいの規格に収まるように、でした。 これだけでも絶望的な気分になりますが、もっと裏があります。 なぜ、処女ばかりを集めていたのか? 中国には昔から不老長寿の妙薬として処女の生き肝を食べる習慣がありました。 なぜ食べなくなったのか? 「中国のものを食べて育った女の肝が安全なわけないだろ?」 これが答えです。 日本人の女の子の肝臓なら安全だというわけです。 もちろん、疑い深い中国人です。 何千年も騙しあって生きてきた人たちですから、疑い深くもなります。 ここにあるのが本当に日本人の処女のダルマかどうか、確認しなければなりません。 そのために中国のあらゆる方言で「助けてやろうか」と聞きます。 これで無反応であること、そして、日本語で、 「助けてやろうか」 と言ったとき、激しく反応するかどうか、これで第一段階の確認が終了です。 次は膣に棒を差し込んで様子を見ます。 血が出るかよりも、その反応で処女かどうかを判断します。 なぜ、女神の島で、膣を使って遊ぶことが禁止されたのか、おわかりですね。 これで確認が終われば、さっそく、饗宴の始まりです。 味が落ちるから、もちろん麻酔などしません。 私はこれを聞いたとき、恐怖より、卒業していったゆきちゃんのことを思って、泣いて泣いて泣きました。 生きながらダルマにされ、生き肝を抜かれる…… どれほどの恐怖と絶望と……ゆきちゃん、きっと天国に行けたよね。 それでも一つ残った謎がありました。 私は処女ではなかったのに、なぜ女神の島につれてこられたのか。(残りあと一回ね)
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