| その異様な光景を私は忘れることはできないだろう。
その山はある都市の郊外に位置し、週末には自然とのふれあいを求めて家族連れや山歩きの初心者が鉄道を利用して訪れる。 車で訪れることもでき、週末や祝日はそれなりに賑わう展望スポットだ。 だが平日は訪れる人は少ない。
私が追っていたのはネット集団自殺に関連した事案だった。 無理に止めようとは思わない。止める能力も義務も私にはない。 ただ、死にたがる人びとの想いを拾い上げたかった。
春から初夏に移る時期、車の中で待つのは苦にならない。 私は待っていたのは自ら命を捨てようとする人びとだった。
深夜12時くらいにワンボックスの車が二台来た。 ICレコーダーとコンパクトデジカメを持ち、車外に出ようとした。 だが私の眼に映った光景は予想外だった。 満月で月明かりはかなり明るく、また街灯もあり、夜にも関わらずワンボックス車から降りて来た人びとの姿を意外にはっきり視認出来た。
降りて来た人びとはいずれも女性のようだ。 喪服のような黒いワンピースを着用しているようだ。 運転手役の女性は黒いジャケットと黒のサブリナパンツのようだ。 だがひとり、異彩を放つ女性がいた。 その女性は純白のウェイディングドレスを纏っていた。 しかも縄で高手小手に縛られ、猿轡を噛まされていた。
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