| ガンッ!
ここはリング控室。中から音が‥‥
ガンッ!
中では看板レスラーのツバサがロッカーを蹴っている。
ガンッ!
ツバサは明らかにいらついていた。 先ほどの試合で、『バイソンみぃ』に 不意打ちの回し蹴りを頭に喰らい 一瞬意識が飛んだところをフォールされ 負けてしまったのだ。
「チクショウッ!」
控室のドアの外では、レスラー三年目のノアが入るのを躊躇していた。 試合前にツバサから預かっていた専用のタオルを届けなければいけないのだ。 本来なら試合後の花道で渡すはずだったが、拒否されたのだ。
ツバサはノアの憧れの選手だ。 正統派のストロングスタイルで、170cm70kgの恵まれた体格から 繰り出される技はキレがあり、カッコいいのだ。 髪はスポーツ刈りで甘いマスク、白いコスチュームで颯爽と入場すると 会場全体がツバサコールに包まれる。 初めてツバサの試合を見た時の感動を ノアは今でも鮮明に覚えている。 ツバサのようなレスラーになりたかった。 しかしノアの155cm48kgの身体では 別のスタイルのレスラーになるしかなかった。 いわゆるやられ役だ。 投げ技や蹴りを受けた時は、自ら出来る限り派手に飛んだ。 関節技を掛けられたら、出来るだけ痛そうにする。 生来 身体は柔らかいほうで、相手が思ってるよりは曲がるのだ。 そして相手の隙を突いて素早く回り込み、関節技を決めたり、 隙をついてフォールを奪う。ノアもそれなりに人気があった。
ガンッ!
また音がする。ノアは恐る恐るドアを開ける。
「あ、あの、タオルをお持ちしました。」
ツバサが振り返り、黙って手を伸ばした。 ノアはツバサに近づき、タオルを渡す。
「どうぞ‥‥、きゃっ‥‥」
ツバサがノアの手首を持って思いっきり引き寄せる。 ノアは背中をロッカーにガンッとしたたかに打った。 そのまま手首を抑えられて、ツバサに強引に唇を奪われる。
「んー‥やっ、やめっ‥んんー‥」
続く
さ
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