[]-4430/親
光と影


全国でも有名な東京のある繁華街。
駅前のスクランブル交差点は、上空から見ると路面が見えなくなる程、人が行き交う。
駅から10分も歩くと、駅前の賑わいが嘘のように閑静な一角がある。
そこにシンプルに遠慮がちに看板を出しているバー「DeepSea」。
ごくごく普通のいわゆるShotBar。
店の内装も取り立てて凝っていなく、至ってシンプル。
あえて言えば、オーナー兼バーテンの‘アキラ’が、好みのクジラやイルカの写真が
2点ほど掛けてあるのと静かなピアノクラシックのBGMくらい。
客を選んでいるわけではないが、店の雰囲気やセンスから物静かな清潔感のある客層。
今夜もテーブル席にデート途中のような30前後の男女1組、
仕事帰りに足を運んできたと思われるセンスのいいスーツを着た男性1名。
この3人は初めて見る顔。だからアキラは、テーブル席に案内した。
カウンターには、律儀に席をひとつずつ空けて座っている単独の女性客が4名。

カップルの男性の方が、「ボーイさんお会計・・」と告げる。
カウンターの女性は、背中越しのカップルに少し疑問を持つかのように少し後ろを
意識する仕草をする。
アキラは「ハイ」と物静かに答え会計をする。
つられたように男性客も「僕も・・・・」と告げる。
アキラは、爽やかな笑顔で「またお越しください」と送り出す。
店の一番奥のカウンター席に座っている‘マキ’は、
『仕方ないか・・・初めての客だし知らなくても・・・
あまり知って欲しくない気もするし』と思う。
オーナー兼バーテンのアキラが、トランスである事は、一部の女性客しか知らない。
背も170センチあり、見た目は、特にカッコイイ訳ではないが、
清潔感のある青年にしか見えない。
アキラは、今年で40歳になるが、中年と言うほどではない。
そんなアキラが営んでいるバーなので、一部の間では、「ビアンバー」として密かに
広まっており、そんな女性が集ってくる。
この店で客同士でパートナーが成立する事もあり、
それを期待して来るタチもネコもいる。
でも、何回も足を運ぶ客のほとんどが、アキラ目当て。
カウンター越しのアキラは、物静かで、上品で、賢く、どちらかと言うと内気に見える。
きっと、男性であったら、「もてる男」ではないと感じるが、惹かれる女性は多い。

何時間か経ち、閉店間際になり、マキと、ひとつ席を空けて座っている‘シズカ’の
ふたりが残っている。ふたり共、常連ではあるが、同じ日に着たのは初めて。
互いが、視線を合わせないまでも、意識している。
アキラが「お客様閉店のそろそろお時間なので・・・」と伝えても、動かない。
互いの意識は強まるばかり。
何日かに1回、お店を閉めた後、アキラと最後に残った常連客で‘出掛ける’事がある。
今夜は、ふたり共それを期待しているようである。
シズカは、過去に1度だけ‘その’経験がある。
アキラは、ごくごく自然に互いを紹介した。
「こちらマキさんです」「こちらはシズカさんです」。
「同じ世界」で過ごし、このお店の常連客でもある為か、互いを意識はしていても、
相手の事をライバル視したり、嫌悪感や違和感を抱いてはいない。きっかけがあれば、
言葉数は少なくても空間を共有する。
アキラは察したように、「おふたりともご一緒に僕と店を出ませんか?」と誘う。
ふたりは、お客でありながら「はい」とアキラを敬うように返事する。
アキラが手際よく閉店支度をしている間、ふたりは、たわいのない世間話をし、
溶け込んでいる。これもアキラの店の客であるからなのだろう。
店の電気を消し、扉に鍵を閉め、通りに出る。通りに出ると直ぐにアキラが
タクシーをひろう。まだ、終電より時間が早いので空車のタクシー往来も多い。
アキラは、ふたりを優しくエスコートするように「どうそ」と後部座席に薦める。
ふたりの頭がタクシーの屋根にぶつかっても困らないよう、
アキラは上部に手を添えて乗せる。そんな配慮が、自然に違和感もいやらしさもなく
出来るのが、アキラ目当ての客が多い理由のひとつでもあるのだろう。
アキラは、助手席に座り、行先を告げる。店から車で10分ほどのところだ。
タクシーで移動中、シズカは、‘過去の経験’もあり、それを思い出し、鼓動が高まる。
マキは、‘風の噂で聞いた’事を思い浮かべ、期待と不安の狭間で、
同じ様に鼓動が高まる。
あっという間に到着し、エントランスを経てエレベーターで7階に行き、
アキラの部屋に入る。
ドラマに出てくるような、ハイセンスでおしゃれなマンションではないが、
小さいながらも綺麗なマンション。アキラの部屋も決して広くはないが、
ひとり暮らしのアキラが、2〜3人来客があっても狭くは感じない部屋である。
「ソファーにそうど」とふたりをリビングにエスコートしたアキラは、
早々にリビングから出てる。普通であれば「何か飲む?」との会話もあるのだろうが。
半開きになった、リビングの扉の向こうから、バスルームらしき扉の開く音が
「カチャ」と聞こえると、「キュキュ、シャー」とシャワーの音が続いて聞こえる。
少し間をおいて、アキラが裸でバスタオルを腰に巻いた姿で出てくる。
これもドラマでありがちな、鍛え上げられた筋肉質の身体ではないが、
無駄な肉はない「少し運動しているのかな?」程度の身体つき。
ただ、部屋が間接照明で少し薄暗い為か、「元が女性」である面影は解らない。
気のせいかアキラの面影からさっきまでの優しさが消え、少し険しい顔になっている。
「ふたりとも一緒にシャワー浴びてきなさい」とふたりに告げる。
いや告げると言うよりも「命じる」と言った方が適切かもしれない。
過去に1度だけ、この部屋に着た事のあるシズカも、
風の噂だけの知識でこれからどうなるのか想像が付かないマキも、
自然に何の違和感もなく、まるでアキラに -->続き

06/19 20:12
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