[]-5665/親
拾われて   プロローグ
郭炉

その出来事は、6月・・・・梅雨のある日の出来事だった。




その日1日は、まさにバケツをひっくり返したような大雨で、傘をさしても雨で濡れてしまうほどだった。
傘が全くもって意味を持たない。
唯一の救いは、風が大してない事だった。しかし、気温も湿気も高く、じめじめとして気分も暗くなる。




『拾われて』




私は、近所のスーパーに買い物に行ってきた帰りだった。




今日は本当についていないと心底思う。
晩御飯の材料が全くと言ってもいいほどに、冷蔵庫には無かった。
そこまでは仕様が無いのだが、自転車は壊れてしまっているし、車は車検に出してしまっていて無かった。

私は、傘を差して歩いて行く他にはなかったのだ。




    
                * 





ずしりとしたスーパーの半透明の袋を左手に、黒と白のドット柄の傘を右手に持ち、多少イラつきながら急いで自宅へ帰る。
早くしないと、身体も買い物も濡れてしまう。



一人暮らしをしている薄紫のマンションに着くと、急いで入り口へ向かった。
幸い、マンションの入り口には屋根が付いており、そこで傘をたたむ事ができた。



傘を少し振って、雨の水滴を落としていると、小さなくしゃみが足元から聞こえた。
なんだろう、とちらりと初めて右側に目をやると、1人のびしょ濡れで震えている少女がいた。



彼女は、染めていると思われる明るい茶色に染まったショートカットに、黒い切れ長の目が特徴的だった。
服は白いワイシャツのみで、下は黒いズボンに裸足・・・いかにも寒そうで、家出をしてきた感じだ。
しかも、古いダンボールの中で体育すわりをしていて、傷だらけの身体を休ませている・・・見た目は20代前半。



「あの・・・・・?貴方はどなたでいらっしゃいますかね」



恐る恐る、しかし心配しつつその人に尋ねると、ゆっくりと私の方に視線を向けてくる。
その目は、しっかりとした意思を秘めたような強い目で、それと共に悲しみや淋しさに塗れていた。



「あ・・・・・っ」



彼女はしばらく私を眺めた後に、少し俯くと恥ずかしそうに俯いて声を上げた。
少し低めの、目の感じと一緒の声だった。



「・・・・貴方は・・・・俺の新しい御主人様・・・・・?」



は?とつい固まってしまった・・・・・御主人様・・・・・・?
私にはそんな趣味はないし、第一赤の他人、見知らぬ女性だ。いきなり言われても・・・困るだけだ。



「あの、とりあえず中に入りませんか?濡れちゃってるし・・・・・・」



一応、黙っている彼女の肩を抱いて、マンションの中へと連れて入って行った。














・・・・・これが、彼女との出会いだった。

04/06 16:54
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