[戻]-6401/親
泣き顔
あんこ
2011/09/19(Mon) 01:41:25 編集(投稿者)
「そういえば僕、歩に泣かされたことないよね」
「・・・・は?」
中学生の頃に出会った僕ら――――僕こと聡美(さとみ)と、歩(あゆみ)。
出会ってからもう、5年が経った。
僕らが入学したのは、田舎の私立中高一貫校。
だから高校受験もなく、2人共高等部に進学した。
今は、多忙な歩の部活が久しぶりに休みなので、歩の自宅にお邪魔している。
歩の部屋で2人で向かい合って座り、各自の宿題に取り組んでいる。
「何、突然」
「いやさー、僕は歩のこと泣かせたことあるけど、歩は僕のこと泣かせたことないなー、って思って」
ここまでの5年間、楽しいことも嬉しいことも、苦しいことも悲しいこともあった。
歩が泣いたのは、僕が高校1年の時、しばらくの間、勝手に歩を無視して避けていたのを辞めた時だ。
久しぶりに話してくれた、と、歩は僕の目の前で、泣いた。
「いやだって、うちそんな人泣かすようなことしないし」
「だろーね、まあ僕はそうそう泣いてやらないし」
数学の問題に苦戦しているのか、歩はさっきから書いては消し、書いては消しを繰り返している。
僕はといえば、得意教科である現代文のプリントを解いているのもあって、次々と答えを埋めていく。
僕と歩は同じ文系のクラスである1組だが、同じ1組でもちょっと違う。
歩は国立大学に進む人が選択する、国立文系――――国文。
僕は私立大学に進む人が選択する、私立文系――――私文。
私文の人たちは、数学や生物の授業がない。
代わりに国語と英語の授業を国文より多く受けている。
化学や数V、数Cの授業を受けるのは、隣の理系クラス、2組の人たちだ。
いくら国文といえど、化学や数Vや数Cの授業はない。
「つーか、今数学どこ?聞いても分からないだろうけど」
「微分積分」
「・・・・・何それ、分からん、全然分からん」
「だろうな、っていうか分かったらすごいけどな」
来た時に出されたリンゴジュースを飲みながら、ノートと睨めっこをしている歩をじっと見つめてみた。
白くて綺麗な肌だなぁ、とか、触りたいなぁ、とか、いろんなことを考えながら見つめる。
最初は視線に気付かなかった歩だったけど、僕がずっと動かないのに気付いたのか、視線に気付いたのか。
シャーペンも消しゴムも止めると、顔を上げて自分もリンゴジュースを一口飲んだ。
「・・・・何」
「いや?何もないけど」
「お前宿題やらなくていいの?」
「もー終わった、簡単なプリントだし」
「いいよなー、私文の人は数学とかなくて」
「じゃあ私文来れば?」
「は?無理に決まってんじゃん」
「じゃあ頑張れ」
僕は移動して歩のベッドに寄りかかった、ベッドの上に上がると歩が怒るから、寄りかかるだけにしておく。
位置的には、向かい合って座っていた時よりも距離が縮んで、歩の左横に僕がいるような形になった。
歩はコップを置くと、再び数学の問題を解くべく、自分のノートと睨めっこを始めた。
09/19 01:40
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