[]-6460/親
Lovers
ゆん



(ここはどこ・・・・?)





ほとんど冬になり、あとは雪が降るのを待つだけになった。
高梨秋は、先ほどまで歩いていたはずの低い気温の環境から、
突然程よい暖かさの気温の環境にいたことに驚いた。
頭は朦朧とし、まるでさっきまで眠っていたかのようだ。
しかし、目を開けているはずなのに、目の前は暗い。
目に何か覆い被さっているような感触がする。
それに、気温は暖かいが、座っている場所は冷たい。
ドラマや小説の中のヒロインか何かのように、
薬で眠らされて拉致されていたりして。
とっさにそう想像したが、自分がされるわけがない。
きっと、自分の考えすぎだ、と思った。
が、頭が朦朧とするのも、目を隠されているらしいのも、
座っている場所がやけに冷たいのも、事実だ。



とりあえず声を出してみようと思い、口を開こうとする。
しかし、口には何かプラスチックのものが入れられ、
固定されているらしく、口が全然動かせなかった。
くぐもった低い声しか出せず、秋はいよいよ焦った。
さっき想像したヒロインに、なってしまったのか―――――?
目が見えないため、辺りを確認出来ず、声も出せない秋は、
余計にその不安や恐怖感を募らせていった。



『皆様、お待たせ致しました!!!』



そこに、突如女性のハキハキとした声が響き渡った。
マイク越しに話しているらしい、やけに声が大きい。



『本日連れて来たばかりの、17歳の可愛らしい女の子です!!!』



どうやら女性は誰かに向かって、自分のことを紹介しているらしい。
しかしその女性の声以外の声は全然聞こえてこないため、
何人いるのか、女性なのか男性なのかすら分からない。
とりあえず、自分を連れて来たのはこの女性らしいことは分かった。



『名前は高梨秋、先ほども申し上げましたが、17歳の高校2年生。
 目元を確認して頂けないのが大変残念なのですが、
 とても可愛らしい顔立ちをしております』



自分は女性のことを知らないのに、女性は自分のことを知っている。
それがひどく怖く思え、秋は無意識のうちに後ずさりをしようとした。
しかし、少し動くと、またもひやりとしたものに当たった。
肌に触れた感触からして、どうやら鉄製の棒が背後にあるらしい。
そのうえ棒同士の間隔は狭く、何本もあるのが分かった。
檻か何かに入れられているのだろうか・・・・、と
それはそれでまた秋に不安と恐怖感を与えた。



『今まで床の経験はなし、恋愛の経験も一切ありません。
 精神的に不安定な子ですが、そこもまた愛おしくなることでしょう』



確かに秋は、今まで誰とも付き合ったことがない。
当然、キスもそれ以上もしたことがない。
更に、数年前から自傷癖があり、通院も服薬もしている。
ここ数日はしていないが、腕には白い傷跡が残っているし、
左手首にもうほとんど治った傷が数本刻まれている。
友達が知らないようなことまで、何故知っているのか。
まさかストーカーをしたり、調べたりしたのだろうか。
秋の心の中の不安と恐怖感は、増大を繰り返した。



『さて、この子をお引取りになる方は、番号札をお挙げ下さい!!!
 今回はオークションではございませんので、値段はこちらの言い値です!!!』



オークション?言い値?
つまり、自分は誰かにお金で売られるってこと?
あまりに現実離れした言葉に、頭がついていかない。
危険だ、逃げなくちゃ、と、それだけは思った。
呻き声を上げ、立ち上がろうとするが、それは叶わない。
口に銜え込まされたプラスチックが邪魔をし、
檻の天井は低く、また、檻の中の面積も狭い。
目隠しもされているし、きっと知らない場所だ。
人も大勢いることだろう・・・・・。
それを考えると、逃げることは不可能だ。
とりあえず暴れてみたものの、どうにもならない。



『156番の方、273番の方、946番の方―――――』



皮肉にも、10人ほどの人が、秋を買おうと思ってくれたようだ。
司会を務めている女性は、番号札の番号を次々に読み上げていく。
ガタガタと音がした、どうやら呼ばれた人は立ち上がるようだ。



『沢山のご希望、どうもありがとうございます。
 では、皆様の中から、誰か1人、購入者を決定致したいと思います』



ザワザワと人の話し声が聞こえ、割といる人の人数が多いことを知る。
聞いた感じだと、その集まっているほとんどが女性の人らしい。



『それでは、いつも通り、ここは公平に話し合いで決めたいと思います』



しんと辺りが静まり返り、話し合いの準備が整ったらしい。
秋もドキドキしながら、彼女達の話し合いに耳を傾ける。



「私は会社を経営しているので、経済的には受け入れる準備は万端です」


「うちは最近旦那と別れたので、気兼ねなく彼女を引き取ることが出来ます」



次々に、しかし落ち着いて、彼女達は自分をアピールする。
声だけを聞くと、全員優しそうで、温かそうな人のような気がする。
結構多くの人が自分をアピールした後、女性にしては少し低めの、
司会者同様ハキハキとキレがいい声がした。



「私は精神科医なので、彼女を精神的に支えることが出来ます。
 自分の収入と親の残した遺産も結構な額になっていますし、
 家もマンションなどではない上、部屋に余裕があります」


「そうね、あなたが1番この子には適任かもしれないわね」



その堂々とした口調の女性が秋を引き取る、ということに、
自分も立候補しておきながら、賛同する女性が数人現れた。
どうやらその女性には、他の人からの信頼でもあるらしい。



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11/25 03:01
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No6461
続きが気になります

ななき
(11/30 20:50)
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