[]-7659/親
君のすべてが、
王兎




1月、まだ年が明けたばかりの頃、私は地元の成人式に参加していた。
自分も、久しぶりに会う友人たちも、みな一様に振袖を着ておめかしをしている。
色とりどりの振袖が市内中に溢れ、真冬だというのに道が明るく賑やかだ。
久しぶりに会う友人たちとは話しても話しても話題が尽きず、笑顔も尽きない。
前日までは緊張していたのに、今では時間が止まればいいとさえ思っている。




市内の中心部に位置するイベント用ホールでの式典が終わり、外へと出る。
同い年の男女で溢れかえったホール前は大変騒がしく、人ごみで酔いそうだ。
私は出る際にはぐれた高校の時の友人たちを探し、懸命に辺りを見渡す。
みんな同じような髪型におなじような格好で、意外となかなか見つからない。
香水や化粧品、振袖や袴の新品の匂いなんかに若干胸焼けを起こしながら歩く。
記念撮影の邪魔にならないように歩いていたら、人ごみを抜けてしまった。
久しぶりに吸い込む透き通った冷たい空気に、無意識に深呼吸を繰り返した。



「あの〜、ちょっとよろしいですか?」



声がした方に視線を移すと、地元のテレビ局が男女のグループを囲んでいた。
みんなはしゃぎながらインタビューに答えているが、多分私には向かないだろう。
テレビ局の人に見つからないように注意しながらも、友人探しを再開した。




その数分後、少し離れたところに見知った顔を発見し、安堵した。
私を探しているらしい彼女たちの方へ行こうと、歩く速度をあげる。
振袖姿で走れないのがもどかしいが、せっかくの振袖が乱れても困る。
私自身は振袖どころか、浴衣の着付けさえも自分でできないからだ。



「すいませ〜ん、ちょっといいですか〜?」



慣れない振袖で一生懸命急いでいた私に、背後から女性が声をかけてきた。
振り返ると、パンツスーツを身にまとった細身の穏やかそうな女性が立っていた。
たれ目で俗に言う癒し系であろう彼女は、人の良さそうな笑みを浮かべている。
隣には少しキツそうな印象を受ける女性が、カメラを手に持って立っていた。



「雑誌の取材をさせて頂いているんですけど〜・・・・・・」



テレビ局からだけかと思っていたら、女性誌の記者も取材に来ていたのか。
その女性は話を聞くだけで写真は任意だと、緩い口調で説明してくれた。
テレビとは違い、自分の姿が公表されないのであれば、答えてもいいかな・・・。
一瞬そんな気持ちになり、つい取材に応じる旨を伝えてしまっていた。



「よかったぁ〜!実はあなたが今日1番最初なのよ〜」


「ここじゃあ賑やか過ぎるから、少し離れた場所で伺いますね」



手を叩いて全身で喜びを表現する記者とは裏腹に、落ち着いたカメラマン。
カメラマンの女性に誘導され、少し離れた場所に行くことにした。
2人に断りを入れ、友人には携帯で取材に答えてくることを伝えておく。



「こっちの方が落ち着いてお話を伺えるかしら〜」



正直、成人式の取材なんて、そこまで時間がかかるようなものではないと思う。
有名人であれば別だが、私は何の取り柄もない一般人なのだから、余計に。
しかし、2人は静かな場所を求めて歩いて行き、当然私もそれについていく。
人ごみを抜け、ホールの裏の方に位置する場所まで歩いて行き、ベンチに座る。
確かにそこは人が1人もおらず、落ち着いて話すにはもってこいの場所だ。



「ごめんなさいね、実は彼女、少し耳が悪くて・・・・・・」



カメラマンが言うには、記者の女性は生まれつき少し耳が悪いという。
確かに髪の毛の隙間から見える耳には、補聴器らしきものが見える。
ならば静かな場所で取材をしたがるのは当たり前のことだ。
右側にメモを持った記者が座り、カメラマンは左側の方に立っている。




取材内容は名前や職業から始まり、今日の感想などを尋ねられた。
私はプライバシーに気を付けながら、答えられる範囲で答えていく。
それを記者はメモに書き込み、カメラマンは黙ってそれを眺める。
一通り質問に答え終わると、記者がメモをカバンにしまい、立ち上がる。



「取材を受けてくれてありがとう〜!これで怒られずに済むわ〜」



私も記者の後にベンチから立ち上がり、友人のもとに向かおうと―――――



「あ・・・れ、?」



一瞬のことだった、一瞬のうちに背後から口元に手が回され、口元を布が覆う。
女性らしい匂いがする布の匂いを吸い込むと、なぜか足元がふらついた。
途端に全身に上手く力が入らなくなり、目も開かず、視界が徐々に暗転する。
必死に抗おうとしたが抗えるわけがなく、あっという間に意識を失った。



「・・・やっと、やっと捕まえたわぁ・・・」





11/28 02:06
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