DISTANCE 作者:古都さん
『綺麗事なんか言うつもり更々ない』 真琴の言葉を不意に思い出した。喧嘩になった時に彼女はこう口走った。 「私の考えを曲げるつもりもない。合わないなら合わない、それだけで構わないじゃないか」 こんな事を言えば不平が帰ってくるのが当然だ。 「自分の答えが背徳なら・・・社会に通用しなければ、その答えをおまえは変えるのか?」 言葉にはしなかったが、「その程度なのか?」と相手に訴えてるようであった。 「・・・・・・くだらない」 この対話がより一層要の興味を引いた。本人には全く知り得ないことである。 が、要にとってはこれがきっかけで真琴と普通に会話をする事が出来たのだから。 この喧嘩は真琴のクラスメイトが彼女にふっかけたものであったにも関わらず、 相手は返り討ちにあってしまったのだ。 これは後で真琴の友人から聞いた話だが。 「先生、すいません。つまらない事で時間を食わせてしまって」 「・・・いいのよ」 少女は何一つ顔色を変えない。 こういう事が起こったら、大抵表情に何か表れるのだがその気配がない。 『自分がやったことは正当である』・・・そう考えているのか? または、『くだらない事に時間を割いた』と、思ってるのか全然こちらに伝わってこない。 「大変ですね、先生も」 ふっと真琴が微笑む。その笑顔に憂いが見えたのは気のせいだろうか? 「私も大人気ないですね、ムキになっちゃって」 「・・・そんなこと無いわ」 彼女がムキになっていたとは到底思えない。 相手が頭に血が上って冷静さを失っていても、彼女は常に冷静だった。 「須々木さん、あなたって相手をどこかで蔑んでない?」 冷静すぎる分だけ、相手にそう言う印象を与えてしまう。 彼女はそれに気がついているのだろうか? 「そう言われてみればそうかもしれない。けど、それは嫉妬に過ぎないですよ」 高校生らしくない、何かに熱中することもなければ、興味を示したりしない。 そう見えないだけなのか、本当にそうなのか? 「馬鹿になれないんですよ。はしゃげないっていうか・・・」 「大丈夫よ、いずれそうなってくるから。急がなくてもゆっくりそうなっていけばいいわ」 真琴が昔の自分に重なって見える。 だから、この娘に惹かれるのだろうか? こうやって話すのは今日が始めてで、この娘を何も理解してない。 それなのにどうして、いつもこの娘を捜しているのだろう? 「ありがとう、先生」 笑顔にドキッとする。 優しい真琴の笑顔、普段こんな風に笑うんだろうか? 「明日委員会決め・・・どれに入ろ・・・?」 「保健に入らない?」 入ってくれれば、いつだって真琴を呼び出せるから。 「保健・・・ですか?」 「ええ。入ってくれれば凄く助かるんだけど」 そうすれば真琴に会えるから。 「判りました。多数決でジャンケンにならなければ入りますよ♪」 保健委員会は、人気がないのが普通だが何故かこの学校では高いらしい。 (その理由が自分であるとは、要は思ってない。) 真琴は保健委員会に入り、満場一致で委員長に選ばれた。 それからというもの、放課後は毎日保健室を訪れ、要に計画を言いに来てたのだ。 計画は完璧なのもので、非の打ち所がなかった。 委員をまとめ上げ、志気を高めて前回の発表も成功に終わった。
「……要?」 どうやら真琴の腕で眠っていたらしい。私は真琴にキスを交わした。 柔らかい真琴の唇。ずっとキスしていたい。 保健室のベッドの上で真琴と抱き合ってる。 こんな事は絶対にあってはいけないこと。 でも、ずっと望んでいたこと。 「ご飯食べてないわよね、食べに行きましょうか?」 「私、お金……無いです」 「おごってあげるわ」 何かいいたそうだったが、言葉を飲み込んだらしい。 言い出したことは聞かないと言う私の性格を把握しているからだ。 それがまた嬉しくてたまらない。 ベッドを綺麗に直して、保健室を後にした。 助手席に真琴を乗せ車を出す。ずっとこの時間が続いたらいいと思う。 夕食を終えると、真琴を家に送るどころか自宅に呼び込んでしまった。 教師と生徒の関係では、もう無い。 今まで抑えていたモノが全て壊れて溢れ出てきた。 止まる事のない涙。 その涙を真琴はそっと唇で拭ってくれる。 何も言わずに、優しく私を包み込んでくれる。 年齢がいかに関係ないことを思いしらされた。 歳は取っても子供は子供で、歳を取らなくても大人の子供 涼しげな真琴の目。 透き通ったステンドグラスの瞳。 頭を抱え込んで唇を重ねる。今まで出来なかったことが出来る喜び。 真琴を手に入れられた喜び。 何もかも忘れて、要は真琴を求めた。 カラダが、ココロが求める。求めても、求めても、決して満ち足りることのない渇き。 それを潤してくれるのが真琴。 「……真琴……ああっ!!」 要は真琴の愛撫を嬉しそうに受け入れた。 労るような手つきが、余計要を感じさせる。 ゆっくりと丁寧に全身を嘗めあげられる。 無意識に腰が動き、甘え声を発している要。 「可愛いよ、要」 低い真琴の声。囁くようにそっと耳元で発するその甘い声。 それだけで、何度も絶頂を迎えてしまう。 強張った体を巧みに解いていく。 ……熔けていく。 真琴に愛されている、それだけで十分だった。 それなのに、真琴は肉体的にも快楽を与えてくれる。 感じやすい場所を愛撫してくれる、して欲しいことを何も言わなくてもやってくれる。 何もかも合っていた。 全てが。 言いようのない快楽の中で、要は気を失った。 「要、大丈夫?」 気付いたら真琴が抱きしめてくれていた。 お互い裸で恥ずかしいながらも、要は足を絡ませ抱きついた。 肌はサラサラしてる。きっと拭いてくれたんだろう。 少し日に焼けた真琴の肌、引き締まった肉体、しなやかな筋肉。 「真琴…お願いがあるけどいい?」 「いいけど…何?」 「愛してるって言って欲しいの」 ……君の声で、愛してるって言って欲しい…… 「……愛してるよ、要」 耳元で囁かれ、照れる自分が何か可愛らしかった。
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