■TIME ∞ LAG □投稿者/ Y 2007/07/31(Tue)
『じゃあ、お母さんに電話してくるね!』 幸い明日から土日で学校は休みだし 来週の月〜火曜日の二日間は球技大会なので、この土日はその準備で体育館も使えない よって、部活も休みだ。 ベランダに出ていたまなみが、電話を終えて戻ってきた 『ご家族の方、心配してはりませんでしたか?』 「大丈夫よ、もう子供じゃないっちゃけん。(笑)」 『それはどうでしょうね?』 「今何か言った〜?」 『いえ、特に。』 「あ、そうそう、妹が颯によろしく伝えてって言いよったよ。」 『ゆう先輩っていう人ですよね?』 「あれ?結希の事知っとったん?」 『見た事も喋った事もないですけど、噂は。』 「噂?」 『剣道、すごいんですよね?』 「あぁ!あいつは剣道しか脳がないけんね(笑)」 『それも…聞きました。』 「どんな噂よ(笑)」 『あとは… 亜也先輩がゆう先輩を好きだった事も。』 「……うん、そうやね。 もう今は颯しか見てないけん話せるんやけど、颯には全部知ってもらっときたいけん、聞いてくれる?」 『はい。』 それから、まなみはゆっくりと思い出すように話してくれた。 三回目の留年で、周りは年下ばかりの状況の中、上手く打ち解けられなかったまなみに初めて声をかけてくれたのが、妹と仲良くなった亜也だった事。 同じバスケ部だった事もあり、仲はどんどん深まって行って、気付いたら初めて女の子に恋をしていた事。 だけど亜也は、妹の結希の事が好きだと知った時の事。 その結希が、亜也ともう一人の別の女性にどっちつかずの態度を取って、両方を苦しめていた事。 二年生になって、亜也が結希に告白したんだけど、結希は結局もう一人の女性を選んだ事。 亜也と付き合った時、最初の頃は結希を忘れられない亜也を慰める毎日だった事。 やっと解り合えた頃、一度だけ亜也が結希と浮気をしたのを知ってしまったけど、それを亜也には言えなかった事。 それから亜也を信じられなくなったけど、好きだったから離れる勇気がなかった苦しい恋愛だった事。 最近、結希が彼女と別れた事。 それが、結希は亜也が好きだからという理由だと聞いてしまった事。 時を同じくして 余命を、宣告された事。 全てから逃げたくなった事。
亜也を幸せにできるのは私じゃないと、部活中に私の手を握って泣きながら別れを決意した時の事。 結希が別れた事を告げた時、亜也の動揺した顔で更にその決心がついた事。 別れてみると、それが純粋な愛ではなくて、途中からは、半分意地だったんだと気付いた事。 そして、話は病気の事にも及んだ。 高校に入って心臓に穴が開き、手術を受けた事。 胸の傷が嫌で、結局亜也にでさえ一度も裸を見せられなかった事。 健康な心臓を移植する位しか生きる方法はない事。 でも、臓器提供を待ってるドナーは沢山いるので間に合わないであろう事。 余命は、半年だという事。 ソファーで2人、手を繋いで。 私は何も言わずに、まなみが伝えてくれる全ての言葉を集中して聞いていた。 まなみの過去を聞きながら まなみとの未来への覚悟を決めていた。 話し終えたまなみが 『颯…私の事、嫌んなった?』 と聞いてくる 私は繋いだ手にキュッと力を込めて 『愛しい気持ちは、何も変わりませんよ。 例えもしまだ先輩が、亜也先輩の事が好きやとしても、この気持ちは変わりません。 亜也先輩の代わりにはなれませんけど、私は私にしかできない事をしてあげたいです。』 「やっぱり不思議。 こんなに真っ直ぐに自分の気持ちを言えるのは初めてなんよ。 こんなに甘えたくなるのも初めてっちゃん。 颯が私を素直にしてくれよるとよ? いらないものは全部はぎ取ってくれる。 颯にしかできん事、もういっぱいやね。」 そう言って微笑んだまなみの顔を月明りが照らす。 開けていた窓から入る潮風に、ゆるくウェーブがかかった柔らかい髪がなびく。 たった4つの差。 なのにその顔がやけに大人に見えたのは 自分に残された時間を知って精一杯に生きているまなみやからやろう。 どうか、生き急がないで。 『体、冷えてます。 お風呂ためてあるんで、温まってきて下さい。』 「うん、そうさせてもらう。」 脱衣所とお風呂場を案内して、バスタオルを出して手渡す。 『分からない事があれば呼んで下さい。』 そう言って脱衣所を出ようとした時 「颯…!」 と呼び止められた 振り向くと 「一緒に…入って。」
ふざけている訳じゃないのは まなみの真剣な目と バスタオルを持つ手が小刻みに震えている事で分かる。 『でも…いいんですか?傷。』 「さっきも言ったけど、颯には全てを知ってほしいけん。」 その勇気を受け入れない理由はない。 私は電気を消してお風呂に浮かぶタイプのアロマキャンドルに火を灯す キャンドルだけが持つ 独特の光 揺れる火を見ていると、私はなんだか落ち着けるから 少しでもまなみが安心できるように、お湯が白濁する入浴剤も入れた。 『ありがとう… じゃあ、先に颯が入ってて。』 「分かりました。」 服を脱いで掛り湯をした後、ゆっくりと湯船に浸かる。 しばらくすると、静かに扉が開く 入ってその扉の前に立ったまなみの姿を見て 言葉を失った。 Venus― キャンドルの灯りに浮かぶ、愛と美の女神。 『綺麗。』 それしか、ない。 華奢ながらもバランスが抜群のスタイル 汚れを知らない白い肌 実在する人間だとは思えない程。 そう、なんだか今にも消えてしまいそうな気がして 思わず私は湯船を出て抱き締めた。 どうしたと?と驚きながらまなみも背中に手を回してくる。 『どうもしないです。 でも、ちょっとこのままでいさせて下さい。』 当たり前やねんけど まなみにはちゃんと温度があって安心した。 裸で女人と抱き合ったのは初めて 初めて触れた自分以外の女性の肌は、やわらかくて繊細な感じがした。 もう一度 今度は2人で、キャンドルの浮かぶ白い湯船に入る。 『颯…? 今、私の心臓すごくドキドキしとるよ。 生きとるんやね、私。』 そう言って私の手を自分の胸に持って行く。 見えないけど、そこには少しの違和感があって、例の傷だという事が分かった。 その傷をなぞると まなみの体がピクっと動く その傷に手を当ててみると 確かにまなみの少し早い鼓動を感じる事が出来た。 『元気に動いてくれてますね。』 私は目を閉じて 手から伝わってくるその音を聞く すると、まなみからの軽いキス だから 目を開けて、もう一度キス。 色んな意味で のぼせそう。
お互いの髪を洗い合って 上がってからは その濡れた髪をお互いに乾かし合った。 お風呂上がりはいつも ベランダに出て夜風に当たりながら煙草を吸う この時間が好き 今日は隣に愛しい人がいるから、また特別。 福岡タワーの明かりが消える瞬間を一緒に見た 『そろそろ、寝ましょうか。』 「そうやね。」 部屋に移動して ベットに入る 人の左側が好きだと言うまなみの右隣に寝ると シャンプーのいい香りがした。 いつも1人で寝るには広いセミダブルのベットも 2人だとちょうど良い 私達は向き合って 好きな食べ物の話や 今話題の映画の話 朝ご飯はまなみが作る約束なんかをして 先に眠りについたのは、まなみだった。 私はその綺麗に整った小さな顔にある いかにも柔らかそうな唇にそっと触れてみた そして考えてみた 福岡に来てから 私の一日は長い。 初めての愛も知った。 意味がないと思っていたものにも 存在意義を感じたりするようになった。 自分でも気付く位 笑う事も増えた。 これは、きっと 【生きている特権】ってやつなんやろう。 そして、きっと私は 【楽しい】んやろう。 明日起きたら まなみの作ったご飯を食べて あの観覧車の所に行こう まなみの中にある悲しい記憶は 私の手で楽しい記憶に変えてあげよう それと 近い内に、献血をしに行こう 骨髄バンクにも登録して 臓器提供意思カードも持とう 直接まなみの為にはなれなくても 世界中にいる私達のような人が、もっと笑える様に。 どこかで偽善だなんて思っていた昨日までの未熟者な私は、もうどこにもいない。 生きよう、まなみ おやすみ、まなみ 愛してるよ、まなみ また明日。
なんだかとても気持ち良くて 起きれそうだけど起きたくない そんな気持ち 目を開けてみると 私は暖かい胸の中にいた 上を見ると 『ごめん…起こしちゃった?』 と微笑んでいるまなみがいた。 『いつから起きてたんですか?』 と聞くと 『私もついさっき。』 そう言って私の髪に指を通す 初めてまなみの涙を見た日 髪を結ってくれた時と同じ… いや、それ以上の心地良さが私を包んで 思わずまた目を閉じたくなる。 『起きて、颯の寝顔を見てたら愛しくなっちゃって。』 「こんなに安心してゆっくり眠れたのは、すごい久しぶりです。」 『私もだよ。』 目の前にある鎖骨が綺麗。 触れてみたくなって その綺麗な鎖骨にキスをしてみた。 『くすぐったいよ。 でも、気持ちいい。』 「おはようございます。」 起き上がって、今度は口に目覚めのキス。 もしも 【愛】や【幸せ】というものに形があるとするならば 私にとって、それはまなみだ。 まなみが生きていて まなみが笑っていて まなみに触れられる それが、私が見つけた触れる事のできる【愛】であって【幸せ】だと思う。 初めて食べる まなみの手料理 沢山具が入ったポトフと、サラダに、クロワッサン とても美味しくて、優しい味がした。 何度美味しいと言っても 『本当に美味しい?』 と不安そうに聞いてくるから 『今すぐ嫁に来てほしい位です。』 と言うと いつもの子供みたいな笑顔が戻った。 外は快晴 正しく五月晴れってやつだ 食後に、コーヒーを入れていると まなみは頓服の薬を飲んで 『発作が起きない為の薬なの。』 と、寂しそうに笑った。 『先輩、今日は晴れてますよ。 このコーヒー飲んだら、あの観覧車、乗りに行きませんか?』 そう提案すると ビックリしたように私を見て そうやね、と晴々しく笑った。 観覧車は、ショッピングモールと一体化した中にあって 少しプラプラとウィンドウショッピングをしながら見つけた、可愛いビーズ飾りのストラップを白とピンクのお揃いで買った。
観覧車に乗ると 向かいに座ったまなみは、さっきのストラップを出して 『颯、携帯貸して?』 と、渡した私の携帯に白を 自分の携帯にはピンクをつけて、両方を自分の顔の前に並べてニコニコしていた。 その時、持っていたまなみの携帯が鳴る かけてきた相手を確認し、ちょっとごめんね、と言って電話に出た。 『なん? ……うん…うん…そっか、良かったやん! …え?全然大丈夫。 私もちゃんとホンモノ見つけたけん! …亜也、今までありがとね。 じゃあまた学校で、ばいばい。』 そろそろ頂上、という手前で電話が終わり 『颯の前なのに、ごめんね? でもね、これで本当に終わり! この観覧車が一周したら、リセットやけん。 私と一緒に歩いてくれる?』 少しの複雑な想いと 大きな安心感。 きっと、このタイミングで亜也先輩からかかってきた電話も 敢えて私の前で話してふんぎりをつけたまなみも 全て必然で、意味があるのだろう。 「誰とも、歩かせません。」 そう言って まなみの隣に移り、携帯を取ってカメラを起動させ 『私達の始まりの記念です。』 と、2人寄り添って 初めての写真を撮った。 その画像を私にも送れと言うので まなみの携帯にも送った。 まなみはそれを待受画面に設定すると、ずっと眺めながら 『颯、顔ちっちゃい! 私…顔でかすぎやけん。。。』 と拗ねている 実際まなみの顔は小さいので 『写り方ですよ。』 と言うと 『そうやかぁ〜…。』 と首をかしげる。 こんなやりとり一つでさえ、2人の心は躍っていた。 観覧車を降りて、すぐそばにあるクレープ屋さんを見たまなみが 『颯!クレープ食べよ♪』 と、グイグイ私の手を引っ張って行く。 甘い物が嫌いなわけではないんやけど、クレープとかパフェとか、甘ったるすぎる物が得意ではない私は、レモンのジェラートを食べた。 まなみが食べているいかにも甘そうなクレープ 普段なら見てるだけでも胃もたれしそうになるんやけど 持つ人が変わるだけでこんなに違うものか、と思うほど 今日はクレープを美味しそうに頬張る姿を見ても、全然どうもなかった。
抜ける様な青空には 燦々と太陽が輝いている土曜の昼下がり 海に面して置いてあったベンチに腰掛けて 太陽が気持ちいいね、と微笑むまなみ。 確かに今日の天気には まなみが着ている白いワンピースと眩しい笑顔が良く映える。 『あ、そうだ! 亜也と結希、上手くいったっぽいよ?』 人の事は言えへんけど、亜也先輩も展開が早い。(笑) でも、お互いそういう運命やったんやろう。 『そうですか。』 これでその話題は終わって、まなみは明後日からの球技大会の話を持ち掛けてくる 『颯は、球技大会もちろんバスケで出るっちゃろう?』 「はい、そうですね。」 『そっかぁ〜、結希もバスケって言いよったよ。 まぁ学年が違うけん試合はあたらんやろうけど、初めて結希見れるんやない?』 「そうなんですか。 先輩は球技大会の日はどうしてはるんですか?」 『私は、毎年先生のお手伝いしよるよ。 でも颯の試合の時は見に行くけん!』 「できるだけ頑張ります。」 『それにしても、キクちゃんに会うの… ちょっと気まずいな。』 「キクちゃんって菊池先生ですか?」 『そうだよ? 颯も知っとる?キクちゃん。』 「知ってるも何も、うちの担任ですからね。」 『え!?そうやったん!!』 「そうですよ。 …で、なんで気まずいんですか?」 『結希の事があるけん…。』 「ゆう先輩の事…?」 『これ、私と亜也しか知らんけんトップシークレットなんやけどね。。 結希が付き合いよったのって…実はキクちゃんなんよね。』 「へぇ…そうなんですね。」 『やっぱり颯は驚かんっちゃね。(笑)』 「それなりには驚いてるつもりなんですけどね。」 『どこらへんがよ(笑)』 キクちゃん…… 真面目そうな顔して なかなかやる事やってんねんな。 『まっ、なるようにしかならんよね! 颯っ、次どこ行く??』 と、いきなりクレープを食べ終わったまなみが立ち上がって私の手を引く。 『ハワイ。』 と冗談で言うと 『私もばり行きたい! てか、飛行機乗った事ないとよね。。 颯、行こうよ!夏休み!!』 と、何とも切実な意見が返ってきた。 『先輩の心臓と相談してみます。』 そう言って頭をクシャっと撫でると もう行けると決まったかのように喜んでいた。
『ちょっと遠出しよっか。 私、颯を連れて行きたい所があるっちゃん。』 そう言って車を発車させるまなみ どこに行くかは、聞かなかった。 車を走らせながら まなみが幼少時代の話を始めた 『私ね、5歳の時から高校で手術するまで、バレエしよったっちゃん、踊るバレエね。 踊るのが本当に大好きで、ずっと将来はバレリーナになるのが夢やったと。 やけんね、病気になって何が一番辛かったかって、バレエ辞めないかんかった事なんよね。 高校に入ったらパリにバレエ留学するのも決まっとってね、余計に自分の体を恨んだなぁ…。』 まなみが綺麗なチュチュを着て踊る姿を想像してみる この綺麗なボディラインや、内から滲むしなやかさはきっとそこからきているんだろう 『綺麗なんでしょうね、先輩が踊る姿。 見てみたかったです。』 まなみは惚れ直しちゃうよ、と小さく笑ってこう続ける 『最初は手術するのも難しいって言われよって、もし…できたとしてもやっぱりバレエは続けられないって言われてね。 人よりは長く生きれない事も聞かされた。』 若干16歳でそんな事を宣告されてから今までの5年間、毎日死と隣り合わせの闘病生活を 一体どんな想いで生きてきたのだろう。 私が想像できる範囲の事なんて、きっとまなみが経験している足下にも及ばない程度なんやろう。 『入院してた3年間は 毎日寝る瞬間に、もう起きれないんじゃないかって不安で仕方なくなって、明日の事を考えたら苦しくて過呼吸になったりもしてた。 死にたくはないけど 生きたくもない、なんて思ったりもしとった。 でもね、今つくづく思うっちゃん。 生きたい、って… 生きてて良かった、って…… そう思えたのは、颯に出会えたからなんだよ。』 きっと言葉なんかじゃ説明できない位 あなたは独り、窮地で必死に闘い続けてきたんやね。 『先輩、良く頑張って私まで辿り着いてくれましたね。 もう大丈夫ですから もっと力抜いていいですよ。 私が、絶対に先輩を死なせません。』 根拠なんて、ない。 理屈なんて、ない。 だから、私の中には限界もない。 『颯の言葉でそんな風に言われると… 本当にずっと生きていられる様な気がしてきちゃうよ。 どうしよう… 私、どんどん欲張りになっていっちゃう。』
この世の中に 【絶対】はありえない事も知ってる。 だから 私は絶対という言葉を使うのは嫌いだった。 だけど、今敢えて使ったのは そう言って自分に喝を入れる為でもあった 私が諦めたら、そこで終わってしまう気がするから。 『私は、諦めませんよ。』 そう一言だけ伝えて 窓を開けて煙草に火を点けた。 まなみが私を連れて行きたいと言った場所に着く頃には、もう日が沈みかけていて 深いオレンジ色が、世界を暖かく染めていた。 車が停まった場所は、二見ヶ浦という海沿いの道。 うちの近くにある海とは全く違う 真っ白な砂が永遠と続いていて 先や周りには何も見えない広い海。 辺りを見渡してみても、高い建物なんて一つもなくて 海の反対側は、小高い丘になっている。 『すごい。』 思わず口をついた私の言葉に 『綺麗でしょう?』 と、窓を開けてエンジンを切るまなみ。 潮風の匂いも やっぱりうちとは格段の差があって 言葉にするなら 【永遠に一番近い場所】 そんな感じがする所。 一時間もかかっていない位、少し高速を走ってきただけなのに すごく、非日常的な気分になれる場所だ。 ハワイとはまた違うけれど 気分は同じ位晴々しくなれる。 ただ、何故か少しだけ 胸を締め付けられるような 少し切なくなるような 何か押し寄せてくるものがあった。 それが何故なのかは周りを見て分かった。 私達以外に、人気は全くなくて さっきから車の一台も通ってない ここは、静かだった。 この静けさは、今まで感じた事がない。 そして、車は再び動き出す。 少し行くと、丘に登る入口があって 車はそこから丘を上へ進んで行く すぐに辿り着いた頂上に広がる景色…… そこは、墓地だった。 車を停めて、まなみが降りる。 私も降りると まなみは私の手を繋いで、海が一番綺麗に見渡せる場所へ向かって歩き出した。 まなみが止まった場所は、一つの墓石の前。 まだ随分新しく見える、その横長に長方形の形のお墓には文字が彫られていて 良く見ると、思考が停止してしまった。
そのお墓の左半分には 大きく漢字で一文字 【舞】 と彫られていて 右下には 【m a n a m i. H】 そう、確かに彫ってあった。 一瞬にして、変な冷汗が吹き出てくる。 まなみの……お墓? 状況が理解出来ずに固まっていると 『颯がそんなに驚いてる姿、初めて見た。 颯って驚いたら黙って固まるんやね?』 と、ケラケラ笑いながら私を見ている。 笑い事じゃ…ないやろ 笑えるわけない。 『なんで…?』 やっと言葉が出せた。 『成人祝い。 二十歳まで生きれたら、買ってもらう約束しとったんよ。 いつ、ここに入るかは分からんけど… 入るならどうしてもココが良くて。』 そこから見る風景は 空と海が綺麗に上下半々で ずっと見ていると、まるでその間に引き込まれていくような、何とも不思議な感覚にとらわれる。 そこに吹く風は 少し強くて、爽やかな潮の香りがする。 二人の間に言葉はなくて しばらく手を繋いだまま 近いようで遠い夕陽が、海に沈んで行くのを眺めていた。 涙は、出なかった 繋いでいる手は、暖かかったから。 帰り道、先に言葉を口にしたのは私だった 『先輩、私せめて60までは生きたいんで 私が60歳になったら一緒にあそこに入りましょう。 あと43年も一緒にいられれば、十分でしょう?』 まなみは、前を向いたまま 「えー… 私はたった43年じゃ足りないなぁ。 私はもっと颯と一緒にいたいよ。」 と言った。 『死んでも同じお墓なんだし、いいじゃないですか。』 そう言うと 「そっか、ならいっか。」 と笑っていた。 気付けば 今日はまなみお手製のブランチしか食べていなかったから、さっきから二人のお腹が悲鳴をあげている。 何か食べて帰ろうという事になり、散々話し合った結果 食べたい物が決まらず、やっぱり家で作る事に。 帰宅すると、おかんの靴があった 玄関が開く音に気付いたのか、おかえり〜と奥の方から声が聞こえる。 まなみは何故か慌てて髪や身なりを整えると、少し緊張しながら 『おじゃまします。』 と小さな声で言った。 きっと聞こえてないけど、気分的なものだろう。
『大丈夫ですよ。 あんな人に緊張するだけ損だって、今に分かりますから(笑)』 そう言って、リビングに入ると 『おかえり〜…って あら、べっぴんさん連れて♪ 学校の子?』 そう言うとおかんは まなみの目の前まで来て、両手でまなみの頬を包み、いやぁ〜すべすべ〜♪とか言いながら触り続ける。 突然の出来事に、まなみは目を見開いて固まっている。 『ちょっとやめたってや、この人は学校の先輩で早川 まなみさん。 バスケ部のマネージャーリーダーしてはんねん。』 と、おかんの手をどかすと 『そぉなん? じゃあまなみちゃんもおかえり〜♪ この可愛げないチビをよろしくしたってね〜。』 とニコニコしながらソファーへと誘導して 『ほらチビっ。 はよ何か飲みもん出さんかいな!』 とキッチンに向かった私に催促する。 冷蔵庫を開けながら そんなん言われんでも分かってるわ、と心で呟きながら 『先輩、ジャスミンティーとグレープフルーツジュースどっちがいいですか?』 と聞くと 『おかんビールな!』 と横から返って来る… 言うと思った。 『おかんは言われへんでも分かってるわ。 私は先輩に聞いとんねん、黙っといて。』 と一応ゆーたったのに ソファーでは 『ほらっ、可愛くないやろ〜?あのチビ! あんなひっくいテンションで突っ込まれても全っ然おもんないよなぁ〜? ボケ殺しやわ〜ホンマ!』 なんて、まなみに愚痴っている。 本人はコソコソ話のつもりかもしれへんけど、丸聞こえやって…。 まなみは私を見て困った様に笑いながら 『じゃあ…私もビールで。』 と言った。 『おっ、いいねぇ〜まなみちゃん♪ お酒はイケる口なん?? うちのチビも生意気に私より強いんやで?』 「そうなんですか? 颯とはまだ飲んだ事がないので知りませんでした。 私は、お酒好きなんですけど弱いんです。(笑)」 『ほな今日は飲も! 明日は日曜日やし、学校2人とも休みやろっ? もうまなみは今日泊まっていき!!』 「あ…は、はい。(笑) じゃあ、お言葉に甘えて。」 完っ全に押されてる… つか、何【まなみ】呼ばわりしてんねん。 結局お寿司を取る事になったので それが届くまでの間、酒のあてになりそうな物を作る事にした。
簡単なものを4品作り終えた所で 特上のお寿司が届く。 いつの間にかまなみはおかんとすっかり打ち解けていて おかんのしょーもないボケに、声を上げて笑っていた。 お寿司とおかずを並べて、ビールで乾杯 私とおかんのやりとりに まなみは、親子漫才みたいで楽しい!と言いながら 普段早いと言われる私と同じ様なペースで飲んでいく 『先輩、そんなに飲んで大丈夫なんですか?』 「ついつい楽しくて…っ。 でも、ちょっと酔っ払っちゃったかも……。。」 と、隣に座る私の膝に頭を乗せて寝そうになっている。 その頭を撫でていると、先輩は安心したのか寝てしまった。 おかんも結構飲んでいたが、お酒をワインに変えてまだ飲む気まんまんでいる。 そのおかんから突然 『あんた達、付き合ってるん?』 と、耳を疑うような質問をされた。 確かめる為に 『え?』 と聞き直すと 『今の時代、同性愛なんて珍しくもないやろ。 あんた達見てたら分かるわ、愛し合ってる事くらい。 だてにあんたの母親16年やってへんねんで。 まーあんたの人生なんやし、あんたが大切にしたい人をしっかり守ってあげたらそれでいいと思うで。 まなみ、えー子やし私も気に入った♪』 なんやかんや、やっぱり親やねんな。 『悔しいけど あんたの娘で良かった…とか、今一瞬だけ思ったわ。』 そう言うと おかんは 『べっぴんの嫁が来た記念に乾杯〜♪』 と言って、何故か親子で一気した。 この人なりの、照れなんやろう。 今夜は、おかんの気が済むまでとことん付き合ったるか。 おかんには、まなみの年の事や病気の事も話しておいた。 全てを聞いたおかんは 『本気なら、精一杯あんたが支えてあげ。』 と、背中を押してくれた。 私は 『おかんも。 あの人に大切にしてもらいや? 再婚、したらえーやん。』 と、やっと言えた。 おかんは一瞬止まって ありがと、と言った。 ただ、一緒に生活をするのだけはもう少し待って欲しいと伝えると 『分かってる。 私らも焦ってるわけちゃうし、あんたの心の整理がつくまで待つってアイツもゆーてたから。』 と返ってきたので安心した。 気がつくと2人で3本もワインを空けていた。
おかんもソファーで寝そうだったから、自分の部屋に帰した さてと このお嬢様をとりあえずベットまで運んで、後片付けでもするかな 抱き上げると、想像以上に軽くてビックリした 部屋に向かう途中 目覚めたまなみが、お姫様抱っこをされている自分の状況に気付き、初めてされた〜♪と、私の首に手を回してきた ベットに降ろしても、その首に絡めた腕を放そうとしないまなみ 起きているのか 寝ているのか まぁ…まだ酔っている事だけは確かだ。 『先輩、ちょっと一回放して下さい。』 「颯は、私の事好き?」 『好きですよ。』 「私も、颯が大好きよ。」 『ありがとうございます。』 放してくれる気配が全くなかったので 諦めて、しばらく私もベットに寝る事にした。 今日の朝してもらっていた様に、私はまなみに腕枕をして胸に抱き寄せ、ゆっくりと頭を撫で続ける。 まなみも私の腰のあたりに手を回してしがみついている。 柔らかい髪に手を通そうとすると、まなみの白くて小さい耳に手が当たった まなみは、一瞬ビクっと反応して…… ゆっくり私の目を見つめると 『キス、…して。』 と言って、また目を閉じる。 その顔が、声が いつもより数段艶やかで、ドキっとした。 優しくキスしたつもりだったが、少しずつ激しくなっていって まなみは 息継ぎをする度に 『気持ちいい。』 と言っていた。 愛しくて どうしようもない位 全てが愛しくて 私は、まなみの おでこやほっぺた、目や鼻にもキスをした。 まなみは楽しそうに笑って 『もっともっと〜。』 と言っている。 私は続ける さっき触れた まなみの耳にもキスをした 私の耳元では まなみの甘い吐息が漏れる。 それが聞きたくて しばらく耳で遊んでいると だんだんとその息遣いは荒くなってきて 小さな声が漏れるように私の耳に直接響く… 伝わってくるまなみの鼓動がどんどん早くなるのが分かって、口を離し 心臓に手を当て 『大丈夫ですか? 苦しくないですか?』 と聞くと 『大丈夫やけん…っ ………やめないで…。』 と言って、私の口を指でなぞった。
一瞬 理性が飛びそうになる まなみが、意図しようとしている事は… なんとなく、分かる だけど 今は、違う気がする 『先輩、酔いすぎです。』 そう言って笑いながら軽くまなみの頭を小突くと 『勢いとかじゃないよ。 颯に触れて欲しいって、そう思うと。 あと何度、こうやって一緒に眠れる夜があるか…分からんやろ? 私がいなくなっても 颯に忘れられてしまわんように… いっぱい、いっぱい触れて欲しいと。 それに、今日は 私達の始まりの記念日なんやろう?』 先輩…… それはズルイ。 もう、どうにでもなれ 『やっぱり止めて、はナシですよ。』 そう言うと、まなみは目に涙をいっぱい溜めて 何も言わずに何度も大きく頷いた。 もちろん女性とそういう関係になるのは初めてだし どうしていいのかも分からない でも 正しいやり方なんてきっと、ない 本能のままに、愛し合えばいい 『もう、私がおらな生きていかれへん体にしてあげる。』 その言葉を皮切りに 私達は、お互いをより深く知り合った。 泣きながら 笑いながら どこまでも深く、熱く……… どの位の時間そうしていたのだろう 窓から見える空には もう朝陽が少し顔を出していて まなみの細い肩を後ろから抱き締めて 同じ空を見ながら 『もう朝ですね。』 と言うと 『敬語に戻るんや。(笑)』 と指摘された。 自分では全く意識していなかったので 『私、タメ口でした?』 と確認すると 『無意識やったったい(笑)』 と言うと、後ろから回していた私の手を握って 『私…今なら死んでもいいなぁ。』 と呟いた。 『困るんでやめて下さい。』 「ふふ…はーい。 はぁー…良かった。」 『何がですか?』 「初めてが、颯で。」 『私も、初めてが先輩で良かったですよ。』 「颯の場合は、女性が…やろう?」 『はい、そうですけど。 ……つか……え? まさか、先輩…。』 「そうだよ? だって私、男性とも経験ないもん。 この年で初体験は貴重だよ〜?(笑)」 『私で、良かったんですか?』 「颯が、良かったんだよ?」
『痛くないですか?』 「痛かったのかな? 幸せすぎて分からんやった。 今は少し重い感じがするけど、それもまた幸せやったりして…。 私、Mなんかなぁ?(笑)」 『そういうの、良く分かりませんけど… 確かにこの気怠い感じも、悪くありませんね。』 すると まなみは寝返りを打ってこっちを向く 「おやすみ、颯。 また明日ね。」 そう言って、目を閉じる。 『はい、また明日。 ゆっくり寝て下さい。』 【また、あした】 この言葉が好き 明日も必要とされる約束みたいだから。 あと43年間 毎日欠かさず言い合いたい。 今日は本当に特別な日 まなみも同じ気持ちでいてくれてたら嬉しい 裸で抱き合って眠るのは、昨日とはまた違う幸せがあった。 昨日よりも今日 今日よりも明日 きっと、こうやって 毎日違うまなみを見つけて恋をして 愛は、更に大きくなってゆくんだろう。 目が覚めると、太陽がもう高くて 横を見ると、あどけない寝顔のまなみがいた 起こさないようにそっとベットを抜け出して服を着る 風邪をひかないように布団を掛け直して 可愛いおでこにキス 昨日の残骸を片付けて 朝ご飯を作り始めると、二日酔いでグダグダなおかんが険しい顔で頭を抑えながら部屋から出て来た 『あぁぁ…頭痛い。 あんた何ともないん? ご飯何作ってんの〜? 胃に優しいもんにしてや〜………?』 と、ソファーに倒れ込むように座る。 『何ともないで。 ほなご飯はチビ雑炊な。 ほら、飲み。』 と言って、野菜ジュースを注いで手渡す 【チビ雑炊】とは、昔からおかんが二日酔い明けに作る、細かく刻んだ野菜と鶏肉が入った味噌ベースの雑炊の事だ そうや、しまほっけもそろそろ食べな悪くなるわ。 『あんたの酒の強さは父親譲りやな。 あんたのおとん、正真正銘のザルやったから。 最近顔もそっくりになってきたし、あんた見てるとなんや懐かしくなるわ。(笑) ほんまあんだけ飲んでどーもないとか信じられへんわ。』 信じられへんわ、って…… 飲ましたのはあんたやろ と、話半分でほっけを捌きながら思う。
もうすぐ出来上がりそうな所で、おずおずとまなみがリビングに入って来た 『おはようございます。 何か飲みませんか? もうすぐご飯出来ますから、ソファーにでも座って待ってて下さい。』 微笑みながら話しかけるとオープンキッチンの対面にちょこちょこと寄って来て 『おはよう。 ん〜…なんか二日酔いっぽくて頭痛いけんお水もらってもいい?(笑)』 と苦笑いしながら言った。 後ろにいたおかんには気付いてなかった様で 水を受け取ってソファーに向かおうと振り向いた瞬間にビックリしていた。 『あ…っ、お…おはようございますっっ!』 まなみは自分が二日酔いな事も忘れて、大きく頭を振り下げてから 『痛っ…。』 と頭を抑えこんでまた苦笑いしている。 『あらら大丈夫〜? おはよ、まなみん♪ 私も二日酔いやね〜ん…チビだけケロっとしてるけど。 女のザルは可愛くないのに可哀相になぁ…。』 と、また私をネタにしている。 つか、【まなみん】はやめろや 『颯、本当にお酒強いんですね! 頼もしいじゃないですか♪ 私、お陰様でこれからも安心して酔えます(笑)』 なんて言ってまなみは笑ってる ご飯を並べて、三人で食べた。 チビ雑炊はまなみも大絶賛で、2人しておかわりまでしてた。 これだけ食べられるんやったら、別に雑炊じゃなくても良かったんちゃうん…? と思ってしまう位に、2人ともペロっと完食してしまった。 なんなら 食後のコーヒータイムには、一昨日まなみが買ってきてくれていたシュークリームまで平気で食べていた。 【甘い物は別腹】 で出来ているのが 女性の体の仕組みらしいが 残念ながら私のお腹は一つしかないようだ でも、沢山食べれる事は良い事に過ぎない 生きるエネルギーを取り入れる力があるという事やから。 『太っちゃうのは分かってるんですけどねぇ。。』 と言いながらおかんと笑い合ってるまなみ。 体重なんて100キロ増えたって構わないから どうかこのまま元気でいてほしい そう願っていた。 忘れていたまなみに薬を飲ませ、2人でおかんを仕事に送り出す 毎週日曜日は 通っていた教室で小さい子達にバレエを教えているというまなみも帰り支度を始めた。
まなみが帰って行くのを、車が見えなくなるまで見送って 部屋に戻ると、携帯が鳴っていた メールの着信音や。 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :(*‘‐^)-☆ 本文 :長々とお邪魔しました♪ なんかすごい長い時間一緒にいた気分。 今、1人でおる自分に違和感を感じる位だよ(笑) 運転中やのに 危ないなぁ…全く。 【送信メール】 宛名:早川 まなみ 件名:こらこら 本文:運転中にメールしたらあきません。 事故ったら困るんで、運転に集中して下さい。 でも、私も同じです。 それから約15分後 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :m(_ _)m 本文 :ごめんなさ〜い…。。 今、無事自宅に到着したけん安心してね☆ また、レッスン終わったら連絡するけん! と入って来た。 よし、私も動こう。 一日バスケしないだけで、無償にバスケがしたくなる。 私は近くの公園にある 錆びかけたゴールで軽く汗を流して シャワーを浴びて、献血センターに向かった。 だけど 注意書きを見てみると、前日に飲酒している人は出来ないらしいので、仕方なく後日出直す事にした。 だけど そこには骨髄バンクの登録手順なんかが載っている資料や、臓器提供意思表示カードも置いてあったので、それを持ち帰った。 帰り道、うちの近くにあるベビーグッズのお店のディスプレイに飾ってあった、小さな小さな水色の靴に目が止まった。 一目惚れって位衝撃的に可愛いねんけど 周りに赤ちゃんがおる人もおらんし、妊娠する可能性がある様な人もおらん。 自分はもっての他やし… でも 目が離せなくて、意味なくずっと眺めていると、中から【こんにちは。】と店員さんらしき人が出て来た。 店員さんに話しかけられるのが何よりも苦手な私は、失礼と思いながらも顔も見ずにその場を立ち去ろうとした すると 『颯ちゃんよね?!』 と名前を呼ばれたので、驚いて振り向くと 『やっぱりそうやん! どうしたと?こんな店の前で。』 そう言って話しかけてきたのは キクちゃんだった。
『こんにちは。 先生こそ、まさか妊娠でもしはったんですか?』 冗談で言ったつもりなのだが 『まだ学校の皆には内緒ね★』 と、口に人差し指をあてて笑った。 『まじですか。』 一瞬にして、最近ゆう先輩と別れた理由がなんとなく分かった。 『ねぇ、颯ちゃん今ヒマ?? ちょっとお茶でも付き合ってよ♪』 という訳で、思いがけずキクちゃんとカフェに行く事になった。 向かおうと何歩か歩いた所で、何故かどうしてもあの水色の靴が頭から離れずに気になって仕方ないので 【ちょっと待っててもらえますか。】とキクちゃんに言い残し、その靴を買ってきた。 カフェに入って 私はアイス・ラテ キクちゃんはオレンジジュース そして、ここのチーズケーキ美味しいとよ♪というキクちゃんの勧めで、チーズケーキを二つ注文した。 『学校はどう? もう慣れた?』 「はい、だいぶ慣れました。」 『部活、きつかろう? 亜也にしごかれとるんやない?(笑)』 「楽しいですよ。」 亜也先輩とゆう先輩が付き合った事、キクちゃんは知ってるんかな…? 『それなら良かった♪ のんちゃんに、颯ちゃんのバスケの腕前がスゴイって聞いたよ!』 「そんな事ないです。 背があるから得なだけですよ。」 『まなみとか…元気? 最近全然会ってないけん、体の事心配やったっちゃんね。』 「元気ですよ。 昨日と一昨日、家に泊まってたんでさっきまで一緒でした。」 『え〜そうなんや! じゃあ亜也も一緒にかな?』 あ、亜也先輩とまなみ先輩が別れたのも知らんねや…。 「亜也先輩とまなみ先輩、別れましたよ。」 そう言うと、ビックリした顔で 『颯ちゃん、2人の事知ってたんや?!』 と言って、オレンジジュースにむせている 先生とゆう先輩の事を知っているのは、言わないでおいた。 「先生、今何ヶ月なんですか?赤ちゃん。」 『ん…? 3ヶ月目に入った所。 7ヶ月目に入ったら、産休取らせてもらうかな……ゴメンね?』 と、お腹を触りながら 困ったような笑顔で言う。 「いえ、そうですか。 おめでとうございます、無理せず体大事にして下さいね。」 『ありがとう! 安定期に入る来月には、クラスの皆にも言うつもりやけん…それまでは内緒でお願いね★』 なんだか、複雑だ。
『颯ちゃんもそれ、お祝いか何か?』 そう言って、さっき私が買いに戻った靴が入った袋を指差すキクちゃん 『いえ、特にそういうんじゃないんですけど。 可愛いかったんで。』 「え? 変なの〜♪やっぱ颯ちゃんって面白かよね(笑)」 何が面白いんやろう? まぁでも…用もないベビーシューズを買う女子高生という観点でものを考えてみれば、変わってると言われても仕方がないかと思うけど。 『本人は至って普通にしてるつもりなんですけどね。』 「私はそういう颯ちゃんが好きやけどな♪ あとは午前中の授業で寝なければなぁ〜…(笑)」 『あ…すいません。』 「まぁ私も学生の時は良く寝てたから、人の事言えんっちゃけどね!(笑)」 キクちゃんは、良く笑う人だ 元々つぶらな垂れ目で優しい顔立ちやけど 妊娠してると聞いたからか 尚更穏やかな母親になる顔に見えた。 『明日の球技大会、颯ちゃんバスケやったよね? 私バスケの担当やけん、のんちゃんが絶賛しとったバスケプレー楽しみにしとるよ♪』 「そんなにハードルあげんといて下さい。」 誰とでも分け隔てなくフレンドリーに接する事の出来るキクちゃんはすごいと思う 人見知りの私には絶対無理やから キクちゃんみたいな人が、世で言う【癒し系】ってやつなんやろう。 汗をかいたアイスラテを飲み干すと 『よし、じゃあ帰ろっか。 ゆっくり帰る用意しとって?』 と、自分は席を立ってさっと会計を済ませに行く。 さりげない行為が、見た目は少女みたいでも大人なんやな…と分かる。 『ご馳走さまでした。 いいんですか?』 と言うと 『当たり前やん♪ こちらこそ付き合ってくれてありがとう! じゃあ気をつけて、明日学校でね☆』 と、最後にもう一度満面の笑みを見せて帰って行った。 細かい事は分からないけど 新しい道を歩くと決めたキクちゃんの顔は凛としていたから きっと、これで良かったんやろう。 帰って、臓器提供意思カードに記入をする 未成年やから、保護者の同意のサインがいるらしい おかんが帰ってきたら、書いてもらおう。 ベランダに出て、煙草を吸う 夕焼けの空を見ると 昨日のお墓を思い出した。
おかんがいつもより早めに帰ってきた 最近、早く帰って来る事が多くなった気がする 1人だと適当に済ませようとする晩ご飯作りも なんとなく、気合いが入る。 『早かったやん。』 「う〜ん…何か気持ち悪くてなぁ。」 『毎日飲み過ぎやねんて。 少し控えーや。』 「そうやんなぁ… ちょっと横になってるわ。 適当に起こして。」 もーこの人は… またソファーで寝ようとする。 『はいはい。』 おかんの部屋から持ってきたタオルケットを掛け サイドテーブルに、一応ジャスミンティーを置いておいた。 若くして妊娠、結婚、子育て、旦那の死、会社の立ち上げと経営をこなしてきたこの人にも、色々とストレスがあるやろうから 飲みたくなる気持ちも分からなくはないが… 資本はやっぱ体なんやし、娘としては程々にしておいてほしい。 まなみの事もあって 大切な人には、尚更体を大事にしてほしいと思う様になった。 おかんは絶対に弱音を吐かない人やから 私に出来るのは、バランスの良い食事を作る事と、多少のワガママは聞いてあげる事ぐらい 後の事は、あの若い恋人に任せよう。 きっと 家族には言えて、恋人には言えない事もあれば 恋人には言えて、家族には言えない事があるやろうから。 今日は、季節外れかもしれないけど水炊きにしよう。 食欲がなくても何となく食べれるし、消化にもいいから。 鳥ガラからちゃんと出汁を取って くどくならない程度にコクを出す 朝が雑炊やったから、今日のしめはうどんにしよう。 …って うどん…あったっけ? 冷蔵庫を確認してみたけど、やはりなかったので買いに行く事にした。 スーパーまで行くのが億劫だったので 近くのコンビニに置いてあったうどんを二玉と、ついでに卵も買った。 家のエントランスのオートロックで人がインターフォンを鳴らしているが、反応がない様で何度も呼び出している。 それだけ鳴らして出ないんやったら、家におらんって事やろう 怪しい、この男… そう思ってふと見ると、その人が押しているのは、なんとうちの部屋番号だった。
どうしよ… 早く入りたいけど 私が鍵を使って開けた時に、どさくさに紛れて一緒に入って来られても困るし。 その人の後ろで立ち止まって悩んでいると 私の気配に気付いたその人が 『あ…っ、すみません!』 と、サッとインターフォンから避けたから 入らないわけにはいかない状況が出来上がってしまった ついてきません様に… そう祈りながらカードキーで自動扉を開けようとすると その人は私の顔を見るなり 『あ…!颯ちゃん…だよね?! あの…覚えてないかな?』 と言われた。 その人を上から下まで良く見てみたけど、私には全く見覚えはない。 『失礼ですが、どちら様ですか?』 そう聞き返すと 『あの店暗かったからな〜…;; あの、この間焼肉をご一緒させてもらった森田です。 社長、ご在宅ですか?』 「……………あぁ、どうも。 いますけど、具合が悪いと言って寝てますが。」 こんな顔やったんや 名前、森田ってゆーんや つか… おかんを【社長】って呼ぶって事は、おかんの会社の人やねや 『はい、社を出る際にその様に聞いたもので… お見舞いの品をお持ちしたのですが。。』 確かにその人の手には、ケーキらしき箱がある。 私が追い返すのも変な話やし 身元が確かで誠実な人だと分かったので 『うち、今日水炊きなんですけど。 それで良ければ、どうぞ。』 「……え!? あ…は、はいっ……! ありがとうございます!!」 変な人。 確かに【社長の娘】ではあるけど いくつも年下だと分かっている私にさえも、これだけ腰を低くして。 まぁ 悪い人ではなさそうだ。 家に入り、その人をソファーに誘導して うどんと卵を冷蔵庫にしまって アイスコーヒーを出した。 『ガムシロップないんですが、大丈夫ですか?』 と聞くと 『は…はい! ブラック派なので!』 と、元気良く返事が返ってきた。 『一緒ですね。 私はたまにミルクだけ入れますけど。』 と言って、久しぶりに目を細めるだけの作り笑いを浮かべると 少しだけ緊張がほぐれたのか 『僕もです! 朝はミルクをいれます!』 と、さっきまでの堅い笑顔とは違って、爽やかで大きな笑顔を見せた。
『母、起こして来ますんで。』 そう言って立ち去ろうとすると 『あの!いいんです! 社長には少し、休んで頂きたいので。』 そう言って立ち上がると 『あ、すみません、これお渡しするの遅くなってしまって! つまらないものですが、良かったら…。 僕、お暇させていただくので、気になさらないで下さい! 社長に、お大事にとだけお伝えいただけますか?』 と、ケーキを手渡して帰ろうとする。 この人は、きっと心配でいても立ってもいられなくなって、勇気を出して来てくれたのだろう もしまなみが… と考えると、私もきっと同じ様にお見舞いに出向くやろうし 一目でも顔を見て 安心したいと思うやろうから 『あ…じゃあ、もし森田さんのお時間が大丈夫なら ご飯が出来るまで待っててもらえませんか? 食事が出来たら起こす約束になっていますし、母も…… 母も森田さんのお顔を拝見すれば元気になれると思うので。』 つい何日か前までの私なら 確実に言えていなかった台詞。 その人は、感きわまった表情で 『ありがとうございます…! では、お言葉に甘えて。』 と私に向かって深々と頭を下げた。 『すぐに出来ますので。 テレビでも見て待ってて下さい。』 そう言って電源をたちあげ、リモコンを渡すと 寝てるおかんを気遣ってか、その人はボリュームだけを落とした。 おかんが大事に想われているのが、こういう所作ひとつで伝わってくる きっと 常にこういう気配りができて相手を思いやれる、優しい心の持ち主なんだろう。 テレビを見ているようで見ていないであろうその人。 その証拠に 『おいくつなんですか?』 と尋ねると 聞き返しもせずに 『今年、28になります。』 と間髪いれずに返ってきた。 普通、テレビに気を取られてる人に突然質問を投げ掛けたら 大抵の人は、一度聞き返してくるだろうから。 『じゃあ…母とは、8つ差?ですか。』 私はおかんが19の時の子だ。 18で留学してすぐ、留学先のパリで私の父親に出会い、電撃結婚をしたと聞いた事がある ちなみにその年で【デキ婚】ではないらしいから、大した度胸やと思う。 きっと【運命】やと感じたんやろう 今、私がまなみにそう感じているように。
『はい、そうですね。』 「母とは、いつからそういう関係なんですか?」 『正式にお付き合いを始めさせていただいたのは、3年程前になります。』 「あの、私 【彼女の父親】 とかじゃないんで、そんなにかしこまらないで下さい。」 『そ、そうですよね! すみません。』 「母とは、将来を考えてのお付き合いですか?」 『もちろんです! 出来れば、この間そのお話をさせていただきたかったんですが。 臆病者で出来ず終いになってしまってすみません、情けない…。』 「いえ、あの時されるより今の方が良かったと思います。」 『え…?』 「あ、いえ。 私事です、どうぞ続けて下さい。」 『あの、颯ちゃん。』 「はい。」 そう言うと、その人はソファーから降りて 『僕は真剣に残りの人生を香さんと生きて行きたいと思っています! 香さんを… お母さんを、僕に下さい!!』 と、床に頭をつけて土下座をした ベタなドラマのワンシーンやな、これじゃ。 『森田さん。だから、私は【彼女の父親】じゃないですって。』 「そ、そうなんですが…… 何と言うべきか散々迷った挙句、やはりこういう在り来たりな事しか思い浮かばなくて。 結婚は確かに当人達の自由ですが、やはり僕は颯ちゃんの許可なくではしたくないんです。」 頭を上げずに、想いのたけを真っ直ぐに伝えてくる。 ま… ないがしろにしないでくれて、ありがとさん。ってとこやな。 『私もまだ未成年なので、母を譲る訳にはいきませんが…… 共用でいいなら、好きにして下さい。』 すると、一度頭を上げて私の目を見ながら 『ありがとうございます!!!』 と言って、もう一度頭を強く床につけた。 頭上げて下さい、と言おうとした所で おかんが部屋から出て来て 『昇、あんた声でかいねん。』 と言って、その人の頭を軽くはたいた。 ビックリして顔を上げた【森田 昇】の目には、嬉し涙らしきものがいっぱい溜まっていた。 『何泣いてんねん、情けないなぁ…ほんま。』 「すみません。」 笑いながら自分の袖で涙を拭ってあげているおかんの目にも やっぱり、嬉し涙らしきものが浮かんでいた。 ごちそーさん。
それから水炊きの鍋を三人で囲んで食べた おかんは焼酎が飲みたいと騒いでいたが 森田さんと私で断固阻止した。 食べ終わると、森田さんは 『社長が元気そうで安心しました。 でも、お酒と煙草は控えて下さいね。』 と言い残して帰って行った。 『なぁ…あの人いつもあんなに腰低いん?』 と聞くと 『会社では偉っそーにしてるで。 でも、私にはいつもあんなんやな。』 と笑っていた。 どうやら彼はああ見えて、おかんが将来会社を担わせてもいいと思える位のやり手らしい。 まぁ…公私混同しないタイプなら良しとするか。 その日は おかんが珍しく鼻歌を口ずさみながら後片付けをしていた 異様な光景とは まさにこの事だ 物心がついてから 一度も目にした事がなかったから。 彼女なりに相当嬉しいんだろう 口ずさんでる歌は古かったけど、その姿を見ていると自然と私も嬉しくなった。 携帯を見ると、つい数分前にまなみからの不在着信があった ベランダに出て 煙草を吸いながらかけ直すと 『まぁ〜た煙草吸っとる!』 といきなり言われた。 またこの間の学校でのパターンか? と思い下を見下ろしてみたが 黄色いビートルも まなみらしき姿も見て取れなかった。 『何で分かったんですか?』 と聞くと 『当たったんや♪』 と笑っていた。 この声が 一番落ち着く。 『エスパーですね。』 「妖精です。」 『先輩、いくつですか。』 「それ酷くない!?」 『嘘です。 先輩は天使ですもんね。』 「そうやろう?」 『嘘ですけど。』 「颯のアホ!」 『…(笑)。 声、聞きたかったんで嬉しいです。』 「あ、ずるい。」 『そんな事言われても、本当の事ですからね。』 「私も、声聞きたかったっちゃん。」 『それは光栄です。』 「なんか、颯の声嬉しそう。 何かあったと?」 『一番は先輩と話してるからですけど…他にちょっとだけ良い事もありました。』 「なになに?」 『おかんが、松田聖子の歌を口ずさみながら皿洗いしてる事です。』 「なんそれ!(笑)」 『皆… 皆が幸せになれるといいですね。』 「そうやね。」 『先輩は、今幸せですか?』
『幸せ過ぎて、不安になる位だよ。』 「何が不安ですか?」 『颯と、離れる事。』 「あ、じゃあ安心して下さい。」 『なんで?』 「先輩が離れてって言っても、私離れてあげませんから。」 『約束?』 「約束。」 『明日ね、颯のバスケの試合見れんくなっちゃった。』 「どうしてですか?」 『この間の検査結果があんまり芳しくなかったみたいでね、明日から詳しい検査する為に何日か検査入院する事になったっちゃん……。』 「……そう、ですか。」 『あ、でもね! 来週の日曜日の練習試合までには絶対に退院してくるけん!』 「無理はしんといて下さいね。」 『うん、しない。 何ならもう一年留年して、颯と同級生になっちゃおうかな(笑)』 「大歓迎です。」 『入院…嫌やなぁ。』 「きっとすぐに帰って来れますから。」 『そうやね。』 「毎日、会いに行きますから。」 『約束?』 「約束。」 『個室やけん、なんなら泊まってもいいけんね♪』 「夜這いしますよ。」 『それこそ大歓迎だよ。(笑)』 「退院したら、また色んな所に一緒に行きましょう。」 『ハワイとか?』 「佐世保とか。」 『なんで佐世保なん?』 「佐世保バーガー。 さっきテレビでやってて食べたくなりました。」 『なんねそれ(笑) いいよ、行こう。』 「呼子も。」 『イカしかないよ?』 「そのイカが食べたいんです。」 『颯ってそんなに食いしん坊キャラやったっけ?(笑)』 「先輩の食べてる顔 好きなんです。」 『いつも見てたん?! 恥ずかしいやん!!』 「人は美しいものに自然と目がいくでしょう?」 『颯ってさ、たまに甘〜いよね。』 「そうですか? まぁ…父親フランス人なんで、血かもしれないですね。」 『でさ、たまにSやんね(笑)』 「そうですか? 普通だと思いますけどね。」 『まぁ、そういうの全員ひっくるめて颯が好きよ。』 「私は、愛してますよ。」 『私も愛しとるもん! 愛しとる前提での話やもん!』 「そんなにムキにならんといて下さい。」 『颯がイヂワルするけんや〜ん!』 「先輩、早く寝て下さい。 で、早く帰ってきて下さい。」 『うん、すぐ帰ってくるけん待っとって。』
『待ってます。』 「メールとか、夜になったら電話とかしてもい…?」 『もちろんです。 私、メール無精ですけどちゃんと返します。 寂しくなったら、いつでも飛んでいくんで呼んで下さい。』 「本当に?」 『じゃあ…今すぐ 会いにきて。』 「いいですよ、先輩の家教えて下さい。」 『嘘でしょ?』 「何回言わせるんですか。 嘘は、嫌いです。 それに私も会いたいですし。」 『本当はね、それが言いたかったと。 颯に会いたくて電話したと。 でも、ウザがられるの怖いけん… なかなか言えんやった。』 「私、そんなのでウザがりそうな奴に見えますか?」 『見えないけど…』 「そんな不安は、今後必要ないですからね。」 『先輩が私に会いたいと思う時は、私も先輩に会いたい時です。』 「ねぇ…本当に会える?」 『本当に会えます。 会いたいと思えば、いつでも会えます。 生きてるんやから。』 「そうやんね。 じゃあ、行ってもいい?」 『先輩が来てくれるんですか?』 「私が車で行った方が、颯に早く会えるんやもん。」 『………今 抱き締めたくなりました。』 「じゃあ、今から抱き締められに行くね。」 『気をつけて。』 ベランダからリビングに戻ると、おかんが 『嫁はんと電話?』 とニコニコしながら聞いてきた。 『嫁はん今から帰ってくるって。』 と返すと 『あらそーなん♪ じゃあ嫁の顔を見たら、お邪魔虫は消えるわな。』 と、おかんは出かける準備をし始める。 『とか言って、旦那に会いたいだけやろ?』 と、指摘すると 『バレた?(笑)』 と言って笑ってる。 今日ぐらいゆっくり一緒にいたい気持ちは分かる気がするから 『よろしく伝えて。』 とだけ言った。 下に着いた、とまなみから連絡があり エントランスまで迎えに行った 会った瞬間に抱き締めると 『どうしたの?!』 と言うから 『抱き締められに来たんじゃありませんでしたっけ?』 と返すと そうやった!と言って抱き付いてきた。 玄関に入るや否や 【お帰りまなみ〜♪】 と、おかんがまなみのほっぺたにぶちゅーっとキスをして まなみも 【ただいまー♪】 とハグしている 打ち解けすぎやろ(笑)
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