☆ガールズラブ、百合、ビアンのとっても素敵な小説がい〜っぱい☆

■TIME ∞ LAG -U- □投稿者/ Y 2007/08/07(Tue)
■19671 / inTopicNo.2)  - 67 - 『ほな、行ってくるわ♪ まなみゆっくりして行きや〜?』 と言ってルンルンで出て行くおかんに わけもわからず 『行ってらっしゃ〜い………?』 と見送るまなみ 『お母さん、こんな時間からどこに行ったと?』 「愛する人の元です。」 『じゃあ、今の私と一緒だ。』 そう言って、背伸びでキスをしてくる。 『ケーキありますけど、食べますか?』 とさっきもらったケーキの箱を開きながら聞くと 『わーい!食べる〜。』 と言って覗きこんできた。 まなみは 苺のタルトとモンブランでしばらく悩み、苺のタルトを選んだ 私は食べる気がなかったのだが あまりにもまなみが悩んでいたから、モンブランをお皿に乗せてテーブルに運んだ。 幸せそうに食べるまなみ 私もまなみが気を使わないように一口、二口だけモンブランを口に入れて残していたら 案の定 【もう食べんと?】 と、聞かれたので 食べない意思を示すと、勿体ない!とペロっと食べ終えてくれた。 『私ね、実はコーヒー苦手やったっちゃん。』 「そうなんですか?」 『うん、颯がさ、この前海で缶コーヒー買ってきてくれたやん? あの時から、飲める様になったと。』 「食わず嫌いやったんですかね?」 『ん〜…どうやか? 今でもね、1人じゃ飲みきらんと。 颯がおって、颯の淹れてくれたコーヒーはめっちゃ美味しいし落ち着くのに… 今日、1人で飲んでみたらやっぱりダメやった。。。』 「そうですか。」 『私、颯と一緒なら好き嫌いなくなりそうやね!(笑)』 「良い事じゃないですか。」 『うん、嬉しい♪ ありがとう、颯。』 「いえ、私何もしてませんけど。」 『あと。。』 と何かを言いかけて、下を向くまなみ まつ毛…長いな。 なんて考えながら、次の言葉を待っていると 『これも…ありがとう。』 と言って、さっき記入して確かテーブルに置いたままにしてあった臓器提供意思カードを差し出す その目はすごく穏やかで、幸せに満ち溢れていた。 微笑み返して 受け取ったカードを良く見ると、保護者同意記入欄にも署名と捺印がされていた。 ……きっと さっきベランダに出てまなみと電話で話してた時にでも書いておいてくれたのだろう。
■19673 / inTopicNo.3)  - 68 - □投稿者/ Y ちょと常連(86回)-(2007/08/07(Tue) 22:17:55) そして 嬉しかったのは おかんが黙って書いてくれていた事よりも 手渡されたカードに重ねられていた もう一枚の おかんの名前の臓器提供意思カードだった。 いつの間に…… もう一度見たまなみの長いまつ毛は濡れていて こぼれ落ちる雫がキラリと光る 『泣き虫ですね。』 と言うと 『…虫じゃないもん。』 と返ってきた。 『否定する場所間違えてますけど。』 「いつも颯が泣かせるんやん。」 『泣いてる顔も可愛いですよ。』 「やだよ、泣いたら目が腫れてガチャピンに似てるって言われるもん。」 『ガチャピン、私好きですよ。』 「これ、何の話?(笑)」 やっと、笑った。 でもやっぱり不安なのかな? いつもの笑顔よりは元気がない。 『颯の顔見れて良かった… 明日からの入院の準備せないかんけん、そろそろ帰ろうかな。』 「そうですね。」 顔色悪いな…先輩 『浮気…せんでね(笑)』 「できませんよ。」 『颯、自覚ないみたいやけど… モテるんやからね。』 「誰にですか。(笑)」 『一年生とか、隠れファンクラブあるんやけんね。』 「物好きもいるもんですね。 あ…先輩もか。」 『違うもん!』 「大丈夫です。 先輩しか見てませんし、見えません。」 『今の颯、フランス人。』 そう言って また力なく笑った。 車が出発する時 運転席の窓を開けてキスをした 唇が離れて まなみが私の腕を掴む その力が次第に強さを増していくまなみの手 その手を取って 強く握り締めたまま もう一度 深く、深く お互いの愛を味わうような、甘いキス。 まなみの手は 震えていた 『先輩、私達は大丈夫です。』 「……ん…っ。」 『コレ、付けておいて下さい。』 そう言うと 私の腕につけていた時計を外して まなみの腕につけかえる。 不思議そうな顔をしてそれを見つめるまなみ 『これは、私です。 私の生きている時間です。 先輩にこれからの私の時間、全部あげます。 一緒に生きましょう。』 「…………颯。」 まなみは何度も何度も【ありがとう】と言って泣いている やっぱり泣き虫。
■19678 / inTopicNo.6)  - 69 - □投稿者/ Y ちょと常連(88回)-(2007/08/08(Wed) 00:06:42) そしてまなみは 自分が付けていた腕時計を外して 今度はそれを私の腕につけた。 『これでいつも一緒やね。』 「そうですよ。 せやから、怖がらなくて大丈夫です。」 安心したのか、まなみは【また明日】と言って車を発車させて行った まなみがくれたシルバーチェーンの大人っぽい腕時計を触ると 愛しさとともに 言い表せぬ不安も襲ってくる 本当に、検査入院なのだろうか。 本当に、すぐ帰って来れるのだろうか。 その時計が秒を刻むごとに、まなみが生きれる時間は減ってゆく。 嫌や 嫌や… 失いたくない この時計の針を止めるわけにはいかない だから、絶対に離さない。 震える体を むりやり煙草で静める。 しっかりしろ、私。 寝る前に 一言だけの短いメールを送信する 【送信メール】 宛名:早川 まなみ 件名:また明日。 本文:愛してます。 次の朝起きると まなみから返信メールが帰ってきていた 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :おやすみ★ 本文 :私の方が愛しとるもん♪ 颯、本当に色々ありがとう。 もう、颯がおらん生活なんて考えられんよ(>_<) 責任とってね☆(笑) はい、もちろんそのつもりですよ。 学校に着くと、すごく久しぶりな気がした この週末が 人生をガラっと変える程の濃い時間やったから 夏休み明けの感覚に近いものさえ感じる 教室に向かう廊下で 奏音が後ろから飛び付いてきた 『さくらおはよ〜! 久しぶりやね!!』 元気で何より。 『はよ。』 「今日試合見に行くけんねっ♪」 『自分の試合あるやろ。』 「だってぇ…先輩に会いたいもんっ!!」 恋する乙女ってやつですか でもね、奏音ちゃん 『先輩、今日から入院してはるから見に来てもおらんで。』 「へ?!…入院?! 」 『そ、入院。』 「なんで…っ…?! 亜也先輩、事故ったと?!」 『事故ちゃうよ、検査入…………。』 ……………………ん? 今、この子なんつった? 私の耳が正しければ 確か 【亜也先輩】 って聞こえたんですが?
■19712 / inTopicNo.9)  - 70 - □投稿者/ Y ちょと常連(90回)-(2007/08/08(Wed) 02:02:54) 『ちょっとさくらっ?! 先輩どうしたと?! ねぇ!!』 ちょっと待て 整理してみよう。 確かに私と奏音は お互いに好きな先輩の名前は使わずに 【先輩】 という名称で話を進めていた。 奏音にライバル宣言をされた日 『昨日2人きりやったんやろ?』 と奏音に聞かれた私は てっきりその前日の夜にまなみと会った事やと思っていたけど 奏音が言っていたのは おそらく、中止になったはずの朝練でたまたま2人きりになった亜也との事を言っていたんやろう。 とにかく 私は奏音もまなみの事が好きと思っていて まなみは私が亜也を好きだと思ってたんや。 ははっ… そゆ事ですか。 『ちょっとさくら〜! 笑ってないで教えてよ!!!』 「なぁ。」 『何!?』 「私と奏音の好きな人、違うと思うねんけど。」 『…………え!?』 「奏音が好きなんって、亜也先輩やろ?」 『ちょっと…!! 皆まで言わんでょ…っっ!!!』 「あー…ごめんごめん。」 『て事は…さくらの好きな人は違うん?』 「違うで。」 『そぉなん!? なんだ〜…凹んで損したっ。(笑) てか、じゃあ誰なん???』 「まなみ先輩。」 お互いの誤解を解いて 私は、今のまなみとの状況を軽く話した 話していて分かったんやけど どうやら 奏音は、まだゆう先輩と亜也先輩が付き合った事は知らないみたいだ 私がここで言うべきなのか… 考えている内に 『コノヤロウ、おめでとう!!!』 と言って奏音は走っていってしまった。 まるで自分の事のように嬉しがってくれていた奏音の笑顔を見ると 何となく…胸が締め付けられた。 恋愛は理屈じゃないし 告白も本人同士の問題やから 私がどうにかしてあげられる事ではない 奏音がこれから歩こうとしている茨の道 そして奏音がこれから背負う傷 頑張れるだけ頑張って でも、それでもダメで 羽がボロボロになってしまったその時が来たら やっぱり私は何もできないけど 一緒に泣いて 一緒に騒いであげよう。
■19713 / inTopicNo.10)  - 71 - □投稿者/ Y ちょと常連(91回)-(2007/08/08(Wed) 03:02:50) 球技大会ってやつは 言わば同じチームに 経験者もいれば未経験者もいる、フリーマッチのようなもので そのチームの中でも 【経験者】という立場の人間に9割の責任を委ねられて、同時に未経験のチームメイトからは絶大な信頼を得る。 試合と言っても、相手チームに経験者がいなければワンマンショーみたいなもんやし フォーメーションなんてお構いなしで パスを出しても速攻でボールが戻ってくる まぁ、未経験者に何人がかりでマークされても抜けるからいいねんけど ボール触るの怖い〜なんて言って、ゲームが始まってから明らかに動いていない人もおる。 そんな試合、私なら退屈過ぎて見るに耐えないのに ゴールを決める度に 周りからは異常なほどの黄色い声が上がる それにしても 一言物申す。 【ディゾン先輩かっこい〜!!】 【ディゾン先輩頑張って〜!!】 【ディゾン先輩ナイッシュー!!】 私の名前は違います。 しかも良く見たら、亜也までもが爆笑しながら調子に乗ってディゾンディゾン言っている。 そんな亜也を横目で睨むと、亜也はさっと柱の陰に隠れて 手を合わせて【ごめん】のジェスチャーをしながら、いたずらな笑顔を浮かべた その隣では、見た事のないボーイッシュで小さい人がニコニコしながら手を叩いて笑っている あの人がゆう先輩かな? ペコっと頭を下げてみると 両手をぶんぶん振って笑顔で頑張り〜!と言ってくれた。 顔も雰囲気も 確かに全然似てないけど 子供みたいな笑顔は どことなく似ていなくもないな、と思った。 試合は順調に勝ち進んで学年優勝した。 一番何もしてなかった人達が、頑張って良かったね〜…と言いながら泣いていた。 私は嬉しくも楽しくもなかったので、きっと無表情だったと思う。 気持ちは、早くまなみの所に行きたい一心やったから。 終わって 優勝したチームで打ち上げするから来て、と誘われたが断った。 一年生の子らが、何人かで携帯を持って 【一緒に写真撮って下さい!】 とやって来た。 これか?まなみが言ってたのって…? それならやっぱり心配いりません。 私の頭の中は あなたのものですから。
■19714 / inTopicNo.11)  - 72 - □投稿者/ Y ちょと常連(92回)-(2007/08/08(Wed) 05:37:25) 学校を出る時に携帯を確認すると 4通のメールが届いていた。 一通目は 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :颯♪ 本文 :おはよう! 今病院に着いたよm(_ _)m 今から早速検査やぁ〜。 二通目は 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :(T_T) 本文 :なんやらかんやら沢山注射されて痛かった〜↓↓ でも、これで午前中の検査は終わり♪ 颯は今頃試合かな?? 頑張ってねo(^-^)o 三通目は 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :………。 本文 :病院食まずい…… 颯のご飯が食べたいょ。。(・_*) 早く球技大会終わらないかなぁ… あ、そうだ! 入院しているのは○×病院の503号室やけん♪ そして四通目は 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :無題 本文 :今から詳しい検査するとこやけんまだ分からんけど…… 入院ちょっと長引くかも。。。 というものだった。 入院が長引く……? すぐにメールで理由を聞きたいけど なんか嫌な予感がするので とりあえず出来る限り早く病院に向かった 無我夢中で走ってきたもんやから お見舞いの品を買うのを忘れた事を病室の前で思い出したけど 一刻も早く顔が見たかったので とりあえずそれは後回しにして まなみの名前が書かれたプレートがあるのを確認し、ノックをした 返事がない もう一度してみたけど やっぱり、ない ………そーっと引戸を開けると まなみは、白くて狭いベット眠っていた 窓が開いていて 入ってきた暖かい風に髪がなびいている お昼と夕方のちょうど真ん中 黄色い光に包まれたまなみは 昨日の夜と何も違わないのに 腕に繋がっている点滴の管や 心拍数を示す機械の音があるだけで なんだか急に弱々しく見えた。 きっと私からの返信メールをずっと待ってたんやろう…… 手には、携帯を握り締めたままだった ごめんな。 寂しかったやんな。 ベット脇にある小さな丸椅子に座って そっと頭を撫でてみる 触れた瞬間に 喉の奥が熱くなって 涙が出そうになった。
■19715 / inTopicNo.12)  - 73 - □投稿者/ Y ちょと常連(93回)-(2007/08/08(Wed) 06:45:52) でも もし今、私が泣いてしまってまなみが起きたら きっとビックリさせてしまうやろうから きっと不安にさせてしまうやろうから ぐっとこらえて、撫で続けた 起こしたくはないけど まなみの声が聞きたい まなみの手は温かいし まなみの心臓が動いてくれてるのは、機械音が教えてくれているから 生きているのは分かってる 分かってんねん… 分かってんねんけど……… 今すぐに まなみの少し茶色い目を見ながら【愛してる】と言いたい まなみの甘くて落ち着いている声で【愛してる】と言ってほしい 想いが伝わったのか まなみが目を覚まし 私を見て微笑む 『ただいま。』 私がそう言うと 『おかえり。 待ちくたびれて、寝ちゃった。』 と笑う、いつものまなみがそこにいた。 まなみの声は 世界で一番優しい音。 きっと どれだけ傷ついたって まなみがいてくれれば ただそれだけでも、傷みは和らいでいくだろう。 『具合は、どうですか?』 「まぁまぁ、かな。」 『苦しいですか?』 「うん… 颯の事が好き過ぎて、苦しい。」 『それなら 私も先輩と同じところが苦しいですから、ここに入院させてもらえませんかね?』 「そしたら、私達すぐ退院できるね(笑)」 『そうですね。 入院…長引きそうなんですか?』 「そうなんよ。 やっぱり今、あんまり良くないみたいっちゃん………。 颯にドキドキしすぎて、刺激が強過ぎたんかな?(笑)」 『最近、連日私が遅くまで付き合わせてしまってましたもんね。 …すみません。』 「なんで颯が謝るとよ?! 違うけん…!!」 『退院したら、お詫びとご褒美でハワイ連れて行きますよ。』 「本当?! うわぁ〜俄然やる気出たっちゃけど♪」 『だけど、先輩。 頑張り過ぎないって約束して下さい。 あと、隠し事はナシですからね。』 「はぁ〜い! ねぇねぇ♪颯の水着って何色〜?? 私さぁ〜黒が着たいっちゃんね♪退院したらキャナルに買いに………」 ま〜喋る喋る…… 本当に分かってるんだか。。。。(苦笑) まぁ…でも 愛する人が嬉しそうな顔を見るのは この上ない幸せだろう。
■19716 / inTopicNo.13)  - 74 - □投稿者/ Y ちょと常連(94回)-(2007/08/08(Wed) 08:25:15) 時間は あっと言う間に過ぎて 面会時間の終わりが刻一刻と近付いていた。 まなみからもらった時計で時間を確認していると まなみも腕につけている私があげた時計を見て微笑んでいる 食べたい物を聞くと 【颯のお弁当】 と言ったので 明日は、学校が終わって一回家に戻り お弁当を作ってくる約束をした 面会終了時間10分前 2人の甘〜い時間に すべり込む様に病室に入ってきたのは 今日、笑顔で手を振ってくれたゆう先輩だった。 『よ♪ねーちゃん生きとる??(笑)』 とま〜えらい軽い感じで登場するなり 『あ!ディゾンちゃんや〜ん♪(笑) あれ、おいらお邪魔しちゃった感じ?(笑)』 と、一瞬にして病室の空気が変わる。 「結希…。 ディゾンじゃない! 颯やけん! そして邪魔!!」 『お、それプリンを買ってきたおいらにも言える?(笑) それにしても颯ちゃん…近くで見たら余計綺麗やね〜!!』 と、私の顔をえらい近くで覗き込みながら プリンを持った手を まなみの前でブラブラさせている まなみはそのプリンを奪って 『それとこれとは別!!』 と言ってプリンを抱き締めた 私は黙ってそのやりとりを眺めていた。 『ごめんね…。』 とまなみが謝ってくる 『いいえ。』 と頭を横に振りながら笑っていると 『ねーちゃん、今日の球技大会での颯ちゃんばりかっこよかったけん♪ 一年生に写メ撮られまくりのキャーキャー言われまくり!! しかも、優勝☆」 すると、まなみは一瞬不安そうな顔を浮かべて私を見て 『やっぱりぃ……。 ほら、私の言った通りやったやん…。。』 と、いじけている。 『キャーキャー言われてたのは私じゃなくて【ディゾン】でしたけどね。』 と言うと、結希が 『確かに!』 とケラケラ笑っていた。 すると、見た目40代手前位のナースが病室に入って来て 【はい、面会終わりよ〜。】 と、私達に告げた。 『は〜い… あ、清水ちゃん! この子がさっき言ってた颯だよ!!』 と言って、突然まなみが私をそのナースに紹介する。 『あ〜ら、本当に美人さんやね〜♪ 初めまして、まなみちゃんの担当ナースの清水です、よろしくね。』
■19720 / inTopicNo.15)  - 75 - □投稿者/ Y ちょと常連(95回)-(2007/08/08(Wed) 23:25:08) 『初めまして、櫻井 颯といいます。 あの…、まなみ先輩を宜しくお願い致します。』 と、軽く挨拶をして 私とゆう先輩は帰る事に…… 【またあした、のキス】 したかったんやけどな。。。 まぁ…しょうがないか。 帰り道に、結希から聞いた話だが まなみが【清水ちゃん】と呼んで慕っていたあのナースは まなみが初めて16歳で入院した当初からの担当ナースらしい。 日の暮れた帰り道 ゆう先輩は腕を組みながらゆっくりと歩く 私は、その一歩後ろを歩く 『颯ちゃん。』 「…はい?」 『最近ばり幸せそうばい、ねーちゃん。』 「そうですか。」 『ありがとう。』 「とんでもないです。 こちらこそまなみ先輩には感謝しきれない位です。」 『あのさ。 言おうかどうか迷ったっちゃけど…』 「なんですか?」 『今回の入院さ… 本当は検査入院じゃないとよね。』 まなみの笑う顔を見て どこかに消えていた【嫌な予感】が、一瞬にして蘇って 足が止まり バクバクと心臓の音が頭に響く 聞きたくない でも…聞かなければ。 少し離れた結希との距離を埋める様に、少し早足で歩く また一歩後ろの位置まで戻って来て 『全部、聞かせて下さい。』 意を決した 結希は一回こっちを振り返って私の目を見て 私も逸らさずにその目を真っ直ぐ見る 結希は小さく笑ってまた前を向き直して 少しハスキーがかった声で 静かに話し出した。 「ねーちゃんさ、そろそろ限界近いみたい。 発作の回数とかも増えとるみたいやし、安静にしとってもいつ何があるか分からんけん入院になったらしか。 やけん…退院できる予定は、ない………っちゃん。 ドナーも見つかる気配すらないし 半年って言われよるけど…… それも、多分…… 難しい。 やけん颯ちゃん、心の準備はしといた方がいい。」 そこまで言って結希は話すのをやめた。 返す言葉が見つからない というか、まず 理解ができない だから、涙も出ない 例えまなみの命が半年と言われようが それよりも短いと言われようが 愛する人がいなくなる心の準備なんて 永遠にできるわけがない。
■19726 / inTopicNo.18)  - 76 - □投稿者/ Y ちょと常連(97回)-(2007/08/09(Thu) 01:30:57) 返事ができないまま 2人の間には無言の時間が続く 『じゃあ、おいらこっちやけん。』 「あ、はい…すみません。」 『ごめんね。』 「なんでゆう先輩が謝るんですか?」 『分からんけど…なんとなく。』 「謝らないで下さい。」 『うん、じゃあ。』 またゆっくりと離れてゆく後ろ姿を ただぼーっと眺めていた。 『あの…!』 私は先輩を呼び止めて 暗闇の中、街灯が照らすわずかな灯りの下でゆう先輩が振り向く 『私、心の準備とかできません! というか、しません! 私…諦めませんから! まなみ先輩が生きたいって頑張ってるのに、私が諦めたりできません! だから、ゆう先輩も諦めないで下さい!』 こんなに大きい声を出したのは、一体どれくらいぶりだろう… 少し間を置いて 『そうやんね!ごめん!!じゃ〜ね〜!!』 と言って結希は再び歩き出して行った 暗くて、どんな顔をしているのかは分からなかったけど きっとゆう先輩も苦しいんやろう 私は一人っ子やから 姉を失うかもしれない辛さは分かってあげられへんけど でも 大切な人を大切だと想う気持ちは 万人に共通しているモノやろう。 【愛】にはいろんな形があるというけど 結局、元を辿れば 【愛】は一つで だからこそ 誰と誰が愛し合おうが それは自由なんやと思う 固定観念なんて 捨て去ってしまえばいい。 だから 【私とまなみに残された時間は少ない】 なんていう前提で考えるのもやめよう 気付いたら、走っていた 弱気な自分を振り払うように ひたすら走って 家まで帰った。
■19730 / inTopicNo.22)  - 77 - □投稿者/ Y 常連♪(100回)-(2007/08/09(Thu) 03:43:54) 次の日から 部活が終わると 毎日まなみの顔を見に行っている いつも大体 病院に着くのはちょうどまなみの晩ご飯が運ばれてくる時間帯だったので できるだけお弁当を持って行って 私が病院食を食べ まなみがお弁当を食べていた。 バレたら怒られるのは分かっているけど そうでもしないと まなみは病院食に一口も手を付けないから… だから なるべく塩分やコレステロールは控えて、栄養バランスを考えたお弁当にしていた 『これだけが毎日楽しみ♪』 と言って、毎日お弁当を完食してくれるまなみ その笑顔を見ながら、その日一日の出来事をお互いに話す バスケの事や 試験の事 亜也と結希の事 毎日メールして 毎日話してるのに 一日会えるたった2時間ほどの時間じゃ 私達には、到底物足りなかった。 病院に着いた時は 【ただいま】 【おかえり】 病院を出る時は 【行ってきます】 【行ってらっしゃい】 そして、寝る前には 【また、明日】 そう交わすのが、私達の習慣になっていた。 まなみいわく、それは 【合言葉】 ではなくて 【愛言葉】 らしい。 最近は、まなみの体調も安定していて いよいよ何もする事ができない病院生活がつまらなくて仕方がないようだ。 ある日 面会の帰り道で、後ろから【櫻井さん】と声を掛けられたので 振り返ってみると、そこにいたのはナースの清水さんだった。 『今、帰り?』 「はい。清水さんもですか?」 『そうだよ。』 「お疲れ様です。」 『ありがとう。 櫻井さんこそ、毎日大変でしょ?えらいね。』 「全然大変じゃないですし、偉くもないですよ。 私がまなみ先輩に会いたいから来てるだけですから。」 『そっか(笑) いいなぁ〜まなみちゃんはこんなに愛されとって。 やけんきっと最近すこぶる調子がいいんやね♪』 「このまま調子がよければ… 退院とかってできないものなんですかね?」 『退院は…難しかろうね。』 「じゃあ…せめて、外泊許可とか無理ですか?」 『ん〜…先生に聞いてみらんと分からんけど、なんで? どっか一緒に行きたい所があると?』
■19731 / inTopicNo.23)  - 78 - □投稿者/ Y 常連♪(101回)-(2007/08/09(Thu) 04:36:28) 『ハワイ。』 「……ハワイ!?」 『…と本当は言いたい所なんですが、遠出なんて出来なくてもいいんです。』 「え…?」 『ただ、普通に同じご飯を食べて 同じお風呂に入って 同じベットで眠って… それだけでいいんです。』 「そっか… うん、分かった。 櫻井さんの元になら安心して帰せるし、今のまなみちゃんなら大丈夫な気がするけん明日先生に相談してみちゃ〜ね! そしたらメールするけん、アドレス教えて? どうせならまなみちゃんには内緒にして、喜ばせてあげよ♪」 『ありがとうございます!』 それから番号とアドレスを交換して別れた。 もう6月も半ばになると、だいぶ日が長くなってきていて 入院当初の帰り道とはまるで違う道のように感じる 明日のお弁当何にしよっかな…… と考えていたら 帰り道恒例、まなみからのメールが届く 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :(*゜ω ゜*) 本文 :明日のお弁当は中華希望☆(笑) ……でたよ、エスパー。 【送信メール】 宛名:早川 まなみ 件名:Re;(*゜ω ゜*) 本文:了解。お楽しみに。 明日は部活休みなんで、早く帰れますよ。 いい子にしてて下さい。 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :わ〜い♪ 本文 :良い子で待ってるワン(´`●)*・。゜★ 可愛いな。 家の下で、偶然おかんと鉢合わせて 今日はそのまま外食をする事になった おかんがエスニック料理が食べたい♪と言い出したのだが、土地勘がない私達は一体何処に行けばいいのやら……… おかんが森田さんに電話して聞いてみたが、どうやら知らなかった様で、断念して電話を切るおかん。 仕方ないから私が学校の友達に聞け、という事に…… 10代が知ってるか? 普通…………。 それでも一応電話をしてみる プルルルル…… プルルルル…… プル…ッ 『はい…。』 「あ、もしもし奏音? 颯やけど。」 『……………さくらぁ。。。』 突然電話越しで泣き出されて、少し…焦る。 「………もしもし? どしてん?」 問い掛けても ひたすら泣き声が聞こえるだけ。 【おかん、ごめん。 ご飯森田さんと行って。】
■19732 / inTopicNo.24)  - 79 - □投稿者/ Y 常連♪(102回)-(2007/08/09(Thu) 06:39:32) おかんは何かを悟って 【おっけ〜♪】 と笑って、背中を両手で押してくれた 『奏音、今どこにおんねん? それだけ教えて。』 と聞くと 蚊の鳴くような声で 『………体育館。』 と返ってきた 時間はもう20時を過ぎようとしている 『分かった、ちょい待っててな。』 そう言い残して電話を切ると、ダッシュで駅まで走って電車に飛び乗る 学校には着いたが、門はもう閉じられていて それを飛び越えて中に入り、体育館へ直行すると 入口の重い扉の前にある階段の一番上に 人がうずくまっている様な影が見えた 近付くと、それは間違いなく呆然と体育座りをして小さくなっている奏音で 『奏音。』 と、頭にそっと手を置くと 奏音は私を見るでもなく 自分の膝に頭を沈めて、大きく肩を揺らしながら再び泣きじゃくり出した 私は、奏音が座っている一つ下の段に腰をかけて 右後ろからする奏音の泣き声を聞きながら、白い三日月を見ていた。 星はない 薄い雲が月にかかっては消えていく 『さくら…。』 「んー?」 『さくらは知っとったん…?』 「亜也先輩とゆう先輩のこと?」 『…知ってたんやね。』 「うん、ごめん。」 『ううん…… 自分で知れて良かった…ありがとう。 あ〜ぁ…何かどっか行きたいな。』 「奏音。」 『……なん?』 「お腹すいたやろ。 何が食べたい?」 『んー…卵。』 たまご………って。 『うちくる? 卵あるよ。』 「行く。」 と言って階段をかけ降りる奏音 私も立ち上がってお尻を払い、ゆっくりと後を付いていく。 正門の所で ピョンピョン飛び跳ねている奏音 『何してんの?』 と聞くと 『門閉められちゃってる! どうしよ、さくら…っ!!』 と焦っている。 私の肩程まである門は 奏音の身長よりも高い。 私は奏音を後ろから抱き上げて、一度門の上に座らせると 【ちょっと待ってて】 と言って、門を飛び越え 今度は奏音を下で受け止める為に手を伸ばす。 『さくらカッコイ〜♪』 と抱き付いてくる奏音。 地面に降ろすと 『さくらっ、おんぶ!!』 と言って、私が返事をする前に背中に飛び乗ってきた。
■19733 / inTopicNo.25)  - 80 - □投稿者/ Y 常連♪(103回)-(2007/08/09(Thu) 11:25:41) 『重いねんけど。』 「最近食べ過ぎで太ったけんね〜♪ てか、颯が細すぎとって!! 今何キロなん?!」 『さあ? でも身長デカイから細長く見られるけど、55キロ位はあんで。』 「55キロ〜!? 身長は??」 『174位ちゃう? そう言えば今年の身体測定の結果見てへんかったわー。 去年は174やった。』 「ありえん!! そのバランスはありえんけん!!!」 『ありえてるやん。 私がそうやねんから。』 「……本当やね(笑)」 『つか、そろそろ降りようや。』 「いやだ! ねぇ、まなみ先輩…具合どうなん?」 『ん?最近絶好調。』 「良かった。。 私、なんやかんやでお見舞い行けてないけんね〜……今度の週末行こうかいな!」 『喜ぶんちゃう?』 「何持って行こっかな〜♪ 和菓子?洋菓子? ん〜それとも……」 もー分かったから 降りろや、小娘 いえ 降りて下さい、お嬢様 結局学校から駅までずっと 私はおぶらされ続け 家に着くと 食べたいと言われた卵料理を、全8品も作らされた。 その全てを 【いや〜…泣いたらお腹空くよね〜!】 と綺麗に平らげて 食後のコーヒーには ミルクと砂糖を山の様に入れている この子、栄養過多にも程がある…… まぁ…今日はいっか。 笑えるなら いくらでもどーぞ 細かい事は 話したくなれば 自分で話してくるやろう だから今は敢えて聞かない 話したくなったら その時は何時間でも聞いたるよ 卵ばっかりのヤケ食いには付き合えへんけど。 奏音を駅まで送ってから家への帰り道 まなみの顔を思い浮かべていた まなみの声を思い出していた 早く明日になればいいのに 会いたいな。 外泊許可が出たら 好きな物を何でも作って食べさせてあげよう 好きな事を何でもさせて沢山笑わせてあげよう 沢山抱き合って 飽きるほどキスをして 耳にタコができる位 愛してると伝えよう 空を見上げると さっきは 頼りなさげに見えた三日月が 今は 私に射す一筋の希望の光に見えた。
■19734 / inTopicNo.26)  - 81 - □投稿者/ Y 常連♪(104回)-(2007/08/09(Thu) 23:03:55) 次の日の昼休み 清水さんからメールが届いた 【受信メール】 差出人:清水さん 件名 :無題 本文 :こんにちは。がいはくのけん、かくにんしました。おっけーでしたよ。よかったですね。とどけは、いつのひづけでだしますか? 全部、ひらがなで読みづらい… でも結果オーライ。 やった♪ 【送信メール】 宛名:清水さん 件名:Re; 本文:こんにちは。 本当ですか? ありがとうございます。 日付は、もし金曜〜月曜が可能であれば、それが希望です!! せっかくなら、三泊四日位はほしいもんな。 【受信メール】 差出人:清水さん 件名 :無題 本文 :分かりました。許可証の発行をしてもらっておきます。 ………なんや、漢字変換できるんやんけ ううん、とにかく感謝や。 許可証が出たらすぐに言うたるべき? それとも当日まで黙っとくべき? どちらにせよ 伝えた時のまなみの眩しい笑顔が思い浮かぶ。 いつも部活の事を聞いてきては 試合が見たいなぁ〜…とぼやいているまなみ 今週末には、ちょうど練習試合があるし 私もスタメン出場する予定やから気合いが入るな……♪ あれこれ考えていると 『さくら? なんぼーっとしよると?』 と奏音が話しかけてきた 『別に。』 と返すと 『嘘!! もぉ〜…ノンの話聞いとった!?』 ………………話? 『……何やっけ?』 申し訳ないけど 全っ然聞いてない。 『やっぱりぃ! また1から〜?? やーけーんー、部活! ノン、部活やめようかと思いよーっちゃん……。』 「なんで?」 『家、手伝わないかんけん。』 「奏音の家って自営業やったん?」 『呆れた〜!! その話ならさくらが引っ越してきてすぐの頃したやん!! うちは呉服店やってる〜って。』 「へ〜…そうなんや。 で?なんで手伝わなあかんの?」 『おばあちゃんが倒れちゃって。 お母さん1人じゃお店回せんけん手伝って、って今朝言われたんよ。 そうなると部活やめないかんくなるし、絶対嫌やって思いよったけど…なんか、昨日の事も神様の思し召しやったんかな…とか考えよったらだんだんその方がいい気がしてきてさ。』 「ふーん。」 『………それだけっ!?』
■19735 / inTopicNo.27)  - 82 - □投稿者/ Y 常連♪(105回)-(2007/08/10(Fri) 04:30:46) 『もうえぇの?先輩は。』 「好きだよ。 好きやけど、ノンじゃ先輩をあんな幸せそうな顔にはしてあげれんもん。」 『そっか。 ま…奏音の思うようにしたらいいんちゃう?』 「さくらはノンが部活やめたら寂しくないん??」 『部活やめてもこーやって毎日会うやん。』 「そうやけど〜…。」 『引き止めてほしい?』 「そんなんじゃないもん。」 『インターハイまでは、おったらいいのに。 私はおってほしいけど。』 「……やっぱりそう思う!?(笑) うん、じゃーそうする!!!」 ………寂しがってるのはあなたじゃないですか。 ま、でも こう見えて奏音はバスケ部の中で皆の妹的存在やったりするし こいつがやめたら寂しがる部員もおるやろう 誰だって 自分の存在意義を確かめたくなる時はある 上手く伝わったかは分からないけど 私にとっては精一杯の言葉だった。 ちょうど週の真ん中にあたる水曜日の午後 教室に響く教師の声にも全く覇気がない 桜が満開だったこの窓から見える景色も随分と変わって 体育を見学しながら私に手を振るまなみが座っていた大きな木の下には 青々とした雑草が生い茂っていた 学校が終わると 一度家に帰り、リクエストの中華弁当を作って病院に向かう 今日は病室に行く前に ナースセンターで清水さんから外泊許可証を受け取って それを手にした瞬間 私はもう明後日からの三日間をどう過ごそうかで頭がいっぱいになった ノックをするのも忘れて 『ただいまー。』 と、いつもより勢い良く病室のドアを開けると そこには楽しそうに話す亜也とまなみの姿があって 一瞬、時間が止まったような気がした まなみの【おかえり】を聞く前に 『よっ、ディゾン♪ つーか【ただいま】って何なん?!(笑)』 と、一番に口を開いたのは亜也。 私が返事をする前に 『おかえり、颯。 これ私達のアイコトバっちゃんね〜?』 と首を傾けながら私を見るまなみ。 ……………… ある事に気付き 心臓を鈍器で殴られた様な気分になる 私は結局どちらにも返事をしないまま お弁当だけを置いて 【また来ます】 と、病室を後にした。
■19740 / inTopicNo.28)  - 83 - □投稿者/ Y 常連♪(106回)-(2007/08/10(Fri) 08:38:20) 【颯…!?】 と引き止める声も 今の私には意味を持たなかった ちゃんと聞こえてた 聞こえてたけど 聞こえないフリをしてん。 病院を少しでも早く離れたくて いつもは また明日会える事を楽しみに、まなみを思い浮かべてぼちぼち歩く帰り道を 今日は病院前に来たバスに なりふり構わず乗込んだ。 一番後ろの窓際に座ると 静かに鼻で深呼吸をする まなみからもらった時計をつけている左腕が やけに重く感じた 多分、これは私が初めて感じた【嫉妬心】 こんなに… 胸を突くものだとは思ってなかった。 今まで まなみと過ごしてきたどんな幸せな瞬間も 2人で抱き合って泣いたどんなに苦しい瞬間も まなみの首に 肌身離さずつけられていた、シルバークロスの細いネックレス さっき見た亜也の首元にも それと全く同じモノが光っていた。 確かに2人の首で、仲良さげに揺れていたんだ。 まだ…あの2人は……。。。 私、1人で舞い上がってただけなんかな… 亜也の代わりにそばにおるだけなんかな… 違うよな……? 誰か、違うって言って。 行き先も確認せずに乗ったバスなのに 気がつけば終点で着いたのは福岡タワーの下だった 私はそのまま家には帰らずに 海へと足を運んで 初めてまなみとキスをした場所に座った。 何をするわけでもなく 何を考えるわけでもなく 泣くでも 笑うでもなく ただ海を眺めていた。 空が曇ってきて 海は藍色が濃くなってく さっきからずっと携帯のバイブが鳴っているけど 今は、誰とも話したくなかった でも 何も言わずに出てきてしまったから、まなみは訳も分からず不安がってるかもしれない 体調が悪化したりしたらあかんから メール位は送るべきかな 携帯を開くと 沢山の不在着信と未読メールがあった 全てがまなみからのもので 10通以上にも及ぶメールを読むと まなみがパニックを起こしているのが良く分かった。
■19741 / inTopicNo.29)  - 84 - □投稿者/ Y 常連♪(107回)-(2007/08/10(Fri) 11:07:43) 【どうしたと?!】 【私なんかしちゃった…?? 亜也も気にしとるよ。。】 【颯…?連絡して……】 【何で電話出てくれんと……?】 【お願い颯…答えて。】 【颯がいなくなっちゃうのは絶対嫌だよ……。】 【会いたい。】 【颯………】 読んでいるうちに ぽつり、ぽつりと 雨が降り始めた。 そして、私は 【送信メール】 宛名:早川 まなみ 件名:無題 本文:何も言わずに帰ってごめんなさい。 体調は大丈夫ですか? 先輩に聞きたい事があります。 明日一日考えて、明後日部活が終わったら会いに行きます。 少し、冷静になれる時間が欲しかった まなみの話もちゃんと聞けるように。 夕立はどんどんひどくなり 家に着く頃には ずぶ濡れだった。 いつもより少し長めにお風呂に浸かって体を温める あがって煙草を吸おうとベランダに出て 携帯を見ると、まなみからの返信メールがきていた 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :分かった… 本文 :沢山連絡してごめんね…… 何で颯を傷つけてしまったかは分からないけど、私は颯を信じてる。 やけん…颯にも私を信じていて欲しいよ。 明後日、待っとるけん。 私なんかより何倍も辛くて 何倍も真剣に生きているまなみが こんなに真剣に向き合ってくれているというのに 私はなんていう事をしてしまったんやろう。 【逃げる】のは 一番嫌いだったはずなのに 真実を明らかにもしないまま 好きな人1人信じられないで… 何が【愛してる】だ 自分のお子様加減に ほとほと呆れる 一分一秒を大切にしようと決めていたのに。 時刻は面会時間をとうに過ぎている でも、今じゃないと 意味がない 部屋着で 髪も濡れたまま 私は家を飛び出して タクシーに飛び乗った。 病院に着くと 救急の入口から入って病棟に向かう 幸い ナースセンターには誰もいなかったので 病室の前まで来るのは、案外容易だった。 そっと…ドアを引く。 個室だけど 夜眠る時は、ベットの周りのカーテンは閉めているようだ まなみは 入って来たのがナースだと思ったのか、何も言わない。
■19742 / inTopicNo.30)  - 85 - □投稿者/ Y 常連♪(108回)-(2007/08/10(Fri) 12:21:29) 少しだけ開けられていた窓から入った弱い風が カーテンを微かに揺らす 静かな時間が流れる―……… 雨は、やんでいた。 『先輩。』 カーテン越しに、小さな声で呼び掛けてみる 『………………颯……?』 「はい。」 『どうやって…? てか、こんな時間にどうしたと?!』 「忍び込んじゃいました。」 『………なんで?』 「先輩… 今日はごめんなさい。 私が先輩を不安にさせてる場合じゃないのに。」 『な…んで…、帰っちゃったの……っ…?』 「先輩、ひとつだけ答えて下さい。 正直に…です。 その答えがどうであっても、私は先輩の言葉だけを信じて受け入れますから。 先輩は……… まだ亜也先輩の事が好きですか?」 『………え?』 「私、今日気付いてしまったんです。 2人が同じネックレスをつけている事。」 『まさか……… 颯…それで?』 「はい… 大人気ないですが。」 『颯。 私が今愛しとるのは、紛れもなく颯だけよ? 亜也の代わりなんかじゃないし、寂しいけん颯とおるわけでもない。 でもね、隠し事はナシって約束しとったのに… 私、颯にひとつだけ言ってない事があったっちゃん。』 「……なんですか?」 『去年、親友が亡くなったと。 この間連れていった、私のお墓から見えるあの海でね…。 その子は静香っていう子で 静香と亜也と私は 静香だけがバスケ部じゃないにせよ、それ以外は一年生の時からいつも3人一緒やった。 静香は、世界大会でも入賞してしまう程サーフィンが上手くてね 常にサーフィンの事しか考えてない様な子でさ… よく3人で出掛けたりもしたし、亜也は静香にサーフィンを教えてもらっとったりして… このネックレスはね、初めて皆で遊びに行った時に3人お揃いで買ったモノっちゃん。 ずっと仲良しでおろうね、って… 子供みたいやけど、私達3人は本当にいっつも肌身離さずつけとった。 去年の私達のインターハイ準決勝の日、静香は【今日の波は日本じゃ10年に一度くらいしかお目にかかれない】とか言って、1人で夜明けからあの海に行ったんよ。 でも、途中で天気が崩れて… 試合後に私達が聞かされたのは、静香が波に流されて行方不明だって事やった。 何かの間違いやと思った。 でも私達はとにかくすぐにあの海へ向かって
■19743 / inTopicNo.31)  - 86 - □投稿者/ Y 常連♪(109回)-(2007/08/10(Fri) 14:18:32) 何も出来んのは分かっとるけど 捜索隊の人達が静香を捜し回りよるのを 砂浜から2人で見とった。 静香が溺れるわけない、って 絶対どっかからひょっこり帰って来るって思いながら眺めよったと。 でもね、静香は 結構離れた沖の方で 遺体となって発見されたんよ。 発見された時、もう静香は変わり果てていて ウエットスーツも脱げて裸やった。 でもね、このネックレスだけが… 静香の首についたままやったっちゃん。 それで私達は、その遺体を静香やと認めざるを得んくなってしまったと………。 2人とも狂った様に泣き崩れて… 亜也はしばらくバスケをするのもままならんくて、結局去年のインターハイ決勝には出場できんやったんよ。 それからね、お互いにこのネックレスの話はしてないっちゃけど… 未だに2人とも外せずにおるんよね。 颯…ごめんね……。 私がもっと早く話しとれば、颯に変な誤解を招いたり、嫌な思いさせんで済んだのに。。 いつか静香の話はしようと思いよったんやけど…… ほら、私が今こんな状況やけん、そういう話したら颯が敏感になってしまう気がして話せんかったっちゃん……。 ごめん……本当に。』 カーテン越しに、全てを聞いた私は 自分に腹が立って仕方がなかった 私は、世界一の大馬鹿者です。 カーテンを開けて ベットの上に座っていたまなみを抱き締め 『こちらこそ…ごめんなさい。 勝手に暴走して…嫉妬してしまって。』 まなみは 『怖かったよぉ…… 嫌われたんかと思った。』 と私の背中に回した手に強く力を込める。 しばらくそのまま抱き合って ひとつだけズレてしまった歯車をゆっくり戻す様に お互いの体温を自分に刻み込む。 たった数時間すれ違ってしまっただけなのに どうしようもない位 心が痛かった。 もう 何があっても疑ったりしない 世界を敵に回しても 私は必ず まなみ先輩を信じます。
■19754 / inTopicNo.34)  - 87 - □投稿者/ Y 常連♪(111回)-(2007/08/11(Sat) 01:35:40) 『ねぇ、颯… 屋上行かん?』 「屋上ですか?」 『うん…たまに夜中まで眠れん日に行くっちゃん。 屋上からはね、福岡タワーが見えるっちゃん… あぁ…あの辺に颯がおるんやなって思ったら、なんか安心できると。』 私… 愛されてるな。 「いいですよ。 雨も止みましたし、行きましょうか。」 屋上からは、確かに福岡タワーが見える 私のマンションも 夜になるとライトアップされて微かに見えていたので教えてあげた。 外は、湿度が高くて 雨上がりの匂いがした 置いてあったベンチに腰掛けて 煙草に火をつける 左隣りにいるまなみに煙がいかない様に注意しながら吸っていると 『いいなぁ。 私も吸いたい…。』 と頬を膨らませている 『いいですよ。』 私は煙草を一回吸って煙を全部吐き出すと 『先輩、息吸って。』 と言う。 え?といった顔で 大きくまなみが息を吸ったところに 私は先輩の口に煙草の味をあげる。 愛と一緒に できるだけ奥の方まで…… 深くて にがくて 息苦しい時もあるけど 暖かくて 優しくて 気持ちいい そんな、愛の味。 しばらくすると 『先輩、息吐いて。』 と唇を離して まなみが大きく息を吐いて、呼吸を整える 『すみません… 大丈夫ですか? こんなに長くするつもりなかったんですが…つい。』 と謝ると 先輩は私の膝に向かい合う様に乗ってきて 私の顔を両手で包み 『もう一回、やって。』 と、自ら再び深くまで入り込んできた。 私の中に火がついて まなみの髪をかき上げながら さっきより長くて濃いキスを交わす 合間に漏れる まなみの艶やかな声が頭に響いて 本能が掻き立てられるかの様に 更に激しさを増してゆく…… 今日の不安な気持ちは どうやら2人とも消せそうだ お互いに息切れしてしまうほどのキスを終えて そのまま今後は強く抱き合う 『颯…どこにもいかんで。』 「行きませんよ。 先輩の事考えたら、幸せで泣けてきそうになる位愛してます。 私には、先輩が必要なんです… せやから、先輩もどこにも行かんといて下さい。」
■19758 / inTopicNo.35)  - 88 - □投稿者/ Y 常連♪(112回)-(2007/08/11(Sat) 07:01:53) 『うん……うん…。』 と何度も頷くまなみ。 『さ、そろそろ戻りましょうか。 風邪引いちゃうといけないので。』 「うん……。 もう帰っちゃうの?」 『先輩が寝たら帰ります。』 「じゃあ寝な〜い(笑) ……よし。」 と言って立ち上がろうとしたまなみだったが、動かない。 『あれ?』 「どうしたんですか?」 『颯…腰抜けとるみたい…。』 「へ?何でですか?」 『気持ち……良過ぎたけんやと…思われます。。』 そう言って恥ずかしそうに下を向くまなみ 「それは光栄ですね。」 私はまなみの足を両方左側に持ってきて そのまま持ち上げた。 まなみにとっは初めての素面での【お姫様抱っこ】なので 照れながらも キャッキャ言いながらはしゃいでいる 『すごーい!高い! 颯はいっつもこんな感じで世界が見えよるっちゃね〜♪』 なんて言いながらキョロキョロ辺りを見回してた 私は…… 前に抱き上げた時よりも、明らかに軽くなってしまったまなみの体重が どうしても切なくて仕方なかった。 病室に戻ってベットに寝かせると 時間を確認したまなみが 『颯、もうすぐナースが最後の見回りに来ちゃう時間やけん隠れて!』 と言う。 咄嗟に隠れて… と言われても隠れる場所がない どないしよ 私は考えた挙句 靴を脱いでベットの下に隠し まなみがいるベットに潜り込んだ まなみはビックリしながらも、上手いこと細工をしてわからない様にしてくれてるみたい 私は完全に掛け布団に潜り込んでいるから 長時間になると辛い。 目の前にはまなみの背中 しばらくはじっとしていたけど、来る様子がないので 私のイタズラ心が動き出して…… まなみのパジャマの上着の裾から手を入れて 脇腹あたりを爪でそっとなぞってみる まなみはビクンと大きく体が跳ねて 細い声と吐息を漏らす 『先輩、見回りのナースが来ちゃいますよ。 声は我慢して下さいね?』 「………颯…っ… ダメ…っ。」 『分かりました。 じゃあ止めます。』 「……………っ…! ヤじゃ……なぃ。。」
■19768 / inTopicNo.36)  - 89 - □投稿者/ Y 常連♪(113回)-(2007/08/15(Wed) 14:57:34) なんか… ちょっと燃えるかも… つー事は。 私、やっぱSっ気あるんかな? その時、扉がガラガラと開く音がして またしばらくすると 同じ音がした後、廊下を歩いてく足音が遠のいて行くのが分かった。 私がベットから出ると 『もう…帰ると?』 とまなみは寂しそうな顔を浮かべ 『続きはまた近々。』 と言ってまなみの頭をクシャっと触ると 『はぁい…』 と少し拗ねた顔をしていた。 機嫌を直す為に、金曜日からの事を教えてあげようかとも思ったが、やっぱり当日まで内緒にしておく事にした。 『じゃあ先輩、また明日。』 「うん、また明日ね!」 帰りは まなみが教えてくれた非常階段から出た もうすぐ日付が変わろうとしている タクシーで帰ろうかどうか迷ったけど なんとなくぼちぼち歩き出してみた。 携帯で明日からの天気を調べてみると ほとんどが雨で 土曜日だけが、曇りだった。 まぁ…梅雨真っ直中やしな 一日だけでも曇りの日があってラッキーぐらい思わんと。 まなみからメールが届いた 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :ありがとう☆ 本文 :颯が来てくれて嬉しかった…(*^_^*) 今日は不安にさせてごめんね。。。 颯しか見とらんけん。 颯しか愛せんけん。 颯がおってくれたら何もいらんけん。 おやすみ、颯☆ 心の底から愛しとる。 心がじわっと暖かくなるのを感じる まなみが愛しくて仕方ないんだと思い知る 幸せやなぁ… ただ こんなに幸せやのに なんでどこか苦しいんやろう。。。 いつも会っているから まなみがあんなに痩せてしまってた事に気付けないでいた。 毎日、毎日 まなみはどんな想いで生きてるのだろう。 私が帰る時に必ず見せる 何とも言えない寂しげな表情には どれだけの想いが詰まっているのだろう。 いつ何があってもおかしくない病だからこそ 笑っていれるからと言って 安心なんて出来ない事をまなみは誰よりも分かってる 一日でもいいから 病気である事を忘れさせてあげたい… また明日 そのアイコトバを 心から笑って交わしたい。
■19776 / inTopicNo.37)  - 90 - □投稿者/ Y 常連♪(114回)-(2007/08/16(Thu) 14:26:41) 家に帰り着くと おかんと森田さんがいた。 『あ…颯ちゃん…! おかえり…なさい!』 またきょどってるし。 『どうも。』 冷蔵庫から牛乳を取り出してコップに注ぎながら、首だけで軽く会釈をする 『あの…っ…あの! きょ…きょっ……今日は、颯ちゃんにお話が…!!!』 「……あ、そうですか。」 そう答えて、私も2人が座っていたダイニングテーブルの席につく おかんはといえば 向かい合わせで座っていた森田さんの隣に移り いつになく 黙りこんでいる。 ……………なにコレ? 気持ちわる。 『で?』 そう言って煙草に火を点けようとすると 『あ…っ、颯ちゃん…煙草は……ちょっとやめてもらえないかな。。ごめんね。』 まさか 私が未成年やから? そうやとしたら、父親面でもしてるつもりなんやろうか? まぁイラっとはしたけども、面倒くさい言い合いもしたくないから煙草を戻す。 『本当にごめんね…っ! ありがとう。』 「別にいーです。」 『あ…あのね。 き、緊張せずにリラックスして聞いてね。 悪い話じゃない…と思うっていうか、僕の中ではとても喜ばしい事であって、 でも颯ちゃんの中でどう思うかはもちろん僕には分からない事なんだけど、喜んでくれたらとても……………………』 リラックスするべきなのはあなたですよ、森田さん。 回りくどい言い方にだんだんとイライラしてきて、ひたすら喋り続ける彼の言葉を遮ろうとした時 『あーもーアンタ、ほんっま面倒くさい男やわ! 苛々して聞いてられへん! もーえぇわ!! 黙ってろってゆーから黙っといてやったけど、私から話すわ!』 そう隣にいる森田に言い放つと 私の目を見ておかんが用件だけをズバっと言った 『颯、あんたに兄弟できるから。』 思わず口に含んだ牛乳を吹出しそうになる 「……はい?」 『もう6ヶ月目に入ってんねんてさ! 全っ然気付いてなかってん!(笑) ま、あんたん時も5ヶ月で分かったから私、多分鈍感やねんな(笑)』 「あ…そうなん。」 『ま、そゆ事。』 「そりゃおめでとう。 高齢出産やねんから大人しくしときや。 ま、こんだけ無茶苦茶な生活されてても元気に育ってたっつー事はなかなか根性ある子やわな。」 森田はポカンと私達の顔を見ていた。
■19783 / inTopicNo.40)  - 91 - □投稿者/ Y 常連♪(116回)-(2007/08/17(Fri) 14:08:11) 『ま、私の子であんたの弟やから肝は座ってるやろな。(笑)』 弟か………… あ…。 私は部屋に戻り、先日なぜか購入してしまった水色の可愛い靴が入った袋を持ってきた 『これ、多分似合うと思いますよ。』 そう言って森田さんに渡すと 『え…僕に?』 なんて言いながらラッピングを解いている そして、中から出て来た意外すぎる代物にビックリして言葉を失っていた 『え………………。』 「弟って事は男の子なんでしょ?」 『そ、そう! …でも、何で……?』 「さぁ、何ででしょうね。」 不思議そうな目で私を見ている森田 そんな森田と小さい靴を眺めて穏やかに笑っているおかん きっとこの靴を見つけた時のインスピレーションは 可愛い弟が私に物申してたんやろう。 偶然は必然ってやつ? 兄弟か… まだピンとはこないけど 正直…嬉しい。 『それでね……。』 再び森田が話し出す。 『その…。 できれば…一緒に住みたいと思っていてね? 家族も増えるわけだし、四人で暮らす為の新居を…今日、香さんと決めてきたんだ。 ごめんね…颯ちゃんに一言の相談もなしに。 あ…!でも、もちろんそれぞれの部屋は確保できる間取りにしたし、颯ちゃんのプライバシーにも絶対介入しないからね! 父親面するつもりもないし。。。 だから…そこで、一緒に暮らしてもらえないかな?』 いずれそういう事になるのは この前この人がおかんとの結婚を申し込んできた時から、どこかで分かっていた… 2人に子供が出来てしまった今の状況を考えて、きっとそれがベストなんだろうっていうのも分かる。 だけど それは……… 嫌だ。 私達親娘には、17年間で培ってきたバランスがあって それを崩されるのは 勘弁してほしいんだ。 おかんが幸せなら 再婚するのは全然構わないし、子供が出来た事だって喜ばしいと思える。 だけど、私はこの森田という人の事を何も知らないし 嫌いでも好きでもない 言わば 【興味すらない他人】 に過ぎなくて。 そんな人と一緒に これから先、毎日生活をするのは どうしても、嫌だ… 返事ができないまま下を向いていると、おかんが一つの提案をした。
■19787 / inTopicNo.41)  - 92 - □投稿者/ Y 常連♪(117回)-(2007/08/18(Sat) 00:19:55) 『あんた、気持ちの整理がつくまでココにこのままおってもえーねんで。 ココはいずれあんたが住む家として売らずに残しておくつもりやったから。 それに学校もこっちの家からの方が断然近いしな。 たまに私達とご飯食べたり、どっか行ったりしながら慣れてけばいい。 どう?』 うん、ベスト。 『そうするわ。』 独り暮らし… みたいなもんか。 まぁ、あんまり今までと変わらんようで 端から、帰って来る人がいないというのは なんか… なんかな。 あとうかいでゆーとこの なんだかなぁ。 うわ… さぶっ。 ベランダに出て、煙草を吸いながら 何となく…しんみりしていたら 手元で携帯が鳴る 知らない番号… 誰やろう 『はい。』 「あ、もしもし?」 『はい。』 「おいら!ゆうやけど!分かるかいな?」 『あぁ、ゆう先輩ですか。 こんばんは。』 「突然ごめんね〜? ねーちゃんに勝手に連絡先聞いちゃった!」 『いえ、全然いいですよ。 どうしました?』 「ん〜…あのさ、電話しといて何なんやけど。。 明日の昼休み、時間もらえんかいな? ちょっと話したい事があるっちゃん!」 『………? いいですけど。 急ぎじゃないんですか?』 「あ、全然♪ じゃあ明日昼休みに中庭で席取っとくから宜しく!」 『分かりました。 …じゃあ、明日。』 「うん、おやすみ〜。」 『おやすみなさい。』 なんやろう? まなみ先輩の事かな… 電話でせぇへんって事は…良くない話なんかな。 まぁ、今気にしても仕方ないか。 ただ なんとなく、不安やったから まなみにメールをしてみた 【送信メール】 宛名:早川 まなみ 件名:無題 本文:寝てますかね? 夜遅くにごめんなさい。 早く、会いたいです。 時間はもう夜中だから 寝ていて当然やねんけど 返事がなかったから なかなか寝付けなかった。 朝起きても、まなみからの返信メールはなくて 朝練中も上の空だった。 奏音が心配して 何度も寄ってきては いつもより多くかいている汗を拭ってくれる 胸さわぎが止まらない なんでやろう…
■19788 / inTopicNo.42)  - 93 - □投稿者/ Y 常連♪(118回)-(2007/08/18(Sat) 01:24:47) 今日の1限目は キクちゃんの授業やった。 授業が終わって、席までキクちゃんが寄ってきたかと思うと 『今日の部活終わったら、進路の事で少し話したいんやけどいい?』 と声をかけてきた。 何日か前 進路希望調査があって 私は、第一希望〜第三希望の欄全てに 【就職】 と書いていた。 進学するつもりはない というのも おかんと約束してるから… 高校卒業したら、おかんの仕事を手伝うって。 でも本当は…… 本当の本当は 進学したい。 つか… 小さい頃から 医者になるのが夢だったりも…する。 でも、珍しくおかんが私に強く望む事やから それがおかんへの恩返しになるんやったら それは受け入れてあげたいと思ってる。 『分かりました。』 そう答えると 『あ、颯ちゃん。 毎日まなみのお見舞いに行きよるんよね? じゃあ、今日私も行こうかいな♪ 行きながら話そう?』 と返ってきた。 ぶっちゃけ 返事がない事が気になっていて 早く病院に行きたかったから助かった。 部活が終わった頃に 職員専用の駐車場で待ち合わせする事にした まなみからの連絡は まだない… お昼休み いつも一緒にお昼を食べる奏音と美帆に断りを入れて、中庭に向かうと 『颯ちゃ〜ん!』 と両手を大きく振ってピョンピョン飛跳ねている結希がいた 私はペコっと頭を下げて、小走りでゆう先輩の所まで行く。 『こんにちは。』 「ごめんね〜? 呼び出したりして。」 『いいえ。 どうしたんですか?』 「ん?…うん。 まぁ座ってよ。」 そう言って椅子を指し示す。 席につくと 『なんか…颯ちゃん痩せんかった?』 と言われた。 『そうですか? でもめっちゃ食べてますよ。』 「そっか、なら良いっちゃけどね!」 『それで…?』 「あぁ、うん。 いやさ…ねーちゃんの事なんやけど。」 『もしかして昨日の夜、なんかあったんですか!?』 「え…なんで?」 『昨日の夜から、メールが返ってきてないので。 こんな事、初めてなんです。』 「あぁ…そっか。 うん、実はさ… 昨日の夜病院から電話があってさ。 発作が起きたらしいんよ。」
■19792 / inTopicNo.43)  - 94 - □投稿者/ Y 常連♪(119回)-(2007/08/18(Sat) 10:30:44) 予感的中。 昔から、嫌な予感は大体当たる… 『なんで、昨日の電話の時ゆーてくれなかったんですか?』 「ねーちゃんに言われとったんよ。 軽い発作やったら颯ちゃんには言わんどって、って。 まぁその言葉の通り、昨日の発作は軽いもんやったし…すぐに落ち着いたみたいやけん、今は大丈夫やと思うっちゃけど、清水ちゃんから伝えてほしいって言われて。 明日からの外泊許可は、取り消しになるって。 なんか、清水ちゃん携帯なくしちゃったみたいで颯ちゃんの連絡先が分からんらしくてさ。」 『あぁ……。』 「ごめんね。 昨日言わんで…。」 『いえ…。』 「外泊できるって、ねーちゃんは知っとったと?」 『いや、知らないと思います。 当日まで教えずに、驚かそうとしてたんで。』 「そっか…。 あ…ねぇ、颯ちゃん。」 『はい?』 「じゃあ、逆に 病院に颯ちゃんが泊まらせてもらうのはどう? おいら先生に掛け合ってみてあげよっか?」 『え…本当ですか?』 「うん、本当♪ 多分それなら大丈夫やと思うばい!」 『ありがとうございます。』 「こっちこそ。 さ、食べよ!」 そして、二人でご飯を食べながら 亜也とのノロケ話を延々と聞かされて ぶっちゃけ 話は半分しか聞いてなかったけど… 幸せそうに話す結希の顔を眺めていたら、私も心配で張裂けそうだった心が少し和んだ。 あっという間に昼休みは終わって 午後の授業が始まった ぼーっと外を眺めていると ポケットで携帯のバイブが鳴った 【受信メール】 差出人:早川 まなみ 件名 :ゴメン!! 本文 :返事が遅れてごめんね(;_;) 私も早く颯に会いたいよ…! まなみの口から理由を教えてもらえないのは… なんか寂しかった。 心配をかけまいと思っての事だろうが 私は全て知りたいのにな… 何て返せばいいか分からなかったから そのまま携帯を閉じた。 部活をこなして キクちゃんとの待ち合わせ場所に行くと キクちゃんはもう既に車に乗ってスタンバイしていた。 助手席に乗込むと ドリンクホルダーにミルクティーが置いてあって 『良かったら飲んでね?』 と言って、車を走らせ始めた。
■19793 / inTopicNo.44)  - 95 - □投稿者/ Y 常連♪(120回)-(2007/08/18(Sat) 11:13:23) 『お疲れ様!』 「あ、いや。 お待たせしてしまってすみませんでした。」 『なん言いよーと? 全っ然よかよ! こっちこそ突然ごめんね。』 「いいえ。」 『ねぇ…颯ちゃん。 颯ちゃんとまなみって、今…その……そういう関係なん?』 「はい。」 『あ…そうなんや! じゃあお邪魔になっちゃうね! 私、顔見たらすぐ帰るけん!』 「いや、私は毎日会ってますし、ゆっくり先輩と話して下さい。」 『ありがとう。 じゃあ颯ちゃんは、まなみの妹って知ってる?』 「ゆう先輩ですか?」 『うん…そう。 病院で、会ったりする?』 「たまに。 でも、今日はゆう先輩、部活終わってから用事があるって言ってたんで来ないと思いますよ。」 『…そうなんだ。』 「会いたいですか? それとも…まだ 会いたくないですか?」 『え…颯ちゃん。。 知っとーと?!』 「はい、大まかな話は聞きました。」 『そうやったんや。 もしかして、この間お茶した時も知っとった?』 「はい…すみません。」 『ううん! こっちこそゴメンね?! 気使わせてしまったね…。』 「いえ、とんでもないです。」 『今…亜也と結希は 付き合っとるんよね?』 「はい。」 『そっか…それなら、良かった。。かな。』 「なんでですか?」 『お互いが傷付け合って別れちゃったから… 私だけが幸せなのはズルイやろ? 私ね、大人気ないのは分かっとるんやけど… 結希が亜也の事を好きなのかもって分かった時に、不安で仕方なくなって…今の旦那と浮気しちゃったの。 すぐに妊娠が分かって、おろす事もできたはずなのに…私は楽な方に逃げたんよ。 同性同士の将来を考えると、漠然とした不安がどうしても拭えなくて。 結希が卒業したら一緒に住む事も、いずれ渡米して籍を入れる事も本気で考えてたけど… 逃げちゃった。 やっぱ教師やけん…とか、年上やけん…って、いっぱい無理してる所があったんよね。 果たして自分は この子の人生に一生責任を持てるんかな…とかね。 愛しとったし、大切やったけど…寄り掛かる事は最後まで出来んやった。 だから、最後に別れた時… 結希が私に未練が残ったりしない様に、最悪ついでにとびっきり傷付ける言葉を吐き捨てたの。 もう飽きちゃったから遊びの時間は終わり。…て。 最低やろ。』
■19859 / inTopicNo.49)  - 96 - □投稿者/ Y 常連♪(123回)-(2007/08/22(Wed) 17:42:55) まっすぐに前だけを見据えて、そう淡々と話すキクちゃんが 私には、自分を責め立てているようにしか見えなかった。 私は二人の間にあった事をこと細かく知ってるわけでもない。 むしろ 事実関係を知っていたとしても、当事者同士の間にしか分からないものを私がどうこう言う資格もない。 何て答えていいのかなんて分からないけど 私の見解を述べた所で、キクちゃんだって 分かったような事言わないで… って思うやろう。 だから きっと今のキクちゃんが他人に求める言葉はたった一つだろう… 『キクちゃんは間違えたわけじゃないと思う… 答えがあるとは思わないけど。 きっとゆう先輩だって分かってくれていますよ。 キクちゃんの優しさだったり、弱さだったり、強さだったり。 後悔したくないのなら キクちゃんは、その分お腹の子と旦那さんを大事に想ってあげたらいいんちゃいますかね。 幸せになる事や 終わってしまう事を怖がってちゃ、永遠に満たされる事なんてないと思う。 大丈夫です キクちゃんは幸せになるべき人なんですから。』 キクちゃんは やっぱり前を向いたまま 『颯ちゃん、涙で前が見えんよ。 事故ったらごめんね(笑) ……ありがとう。』 と鼻を啜りながら笑っていた。 病院に着くと そこにはいつもと変わらない笑顔のまなみがいて 珍しいお客さんに喜んでいた。 『キクちゃん!』 「まーなーみー! 大丈夫なんね!?」 『うん☆ 元気そうやろ!?』 「まぁ…元気そうやね(笑) でもちょっと痩せたんやない??」 『…そうかな? だって病院食まずいんやも〜ん…!! やけんいつも夜は颯のお弁当っちゃん♪ …あ!これ内緒ね(笑)』 「あ〜!! じゃあ弱味握ったって事で、早く治して退院してこな病院の先生に言うけんね!(笑)」 『学校の先生が生徒脅しよる〜!!(笑)』 まるで女子高生同士のようにキャッキャ言い合ってる2人をしばらく見ていると 一瞬だけど まなみの顔が苦痛に歪むのが見えた。 すぐにまた笑顔に戻してはいたが いつも見ている私には その笑顔に無理がある事がすぐに分かった。 『キクちゃん、ゆっくりどうぞって言っといて何なんですが、私先輩とイチャつきたいんでそろそろ帰って下さい。笑』
■19863 / inTopicNo.50)  - 97 - □投稿者/ Y 常連♪(124回)-(2007/08/23(Thu) 03:23:10) ベットの端に座り まなみの肩を抱いてキクちゃんに言う。 まなみは 普段絶対に人前でこんな事言ったりしたりする事のない私をビックリしたような目で横から見上げている キクちゃんはニヤニヤしながら 『はいは〜い、ごめんね♪ ごゆっくり〜(笑)』 そう言って、さっき病院の売店で買ってきた大量のお菓子やプリンが入った袋を置き、ひらひらと手を振って病室を後にしようとして 扉に手をかけた所で 動きを止めて振り向き 『そーだ、颯ちゃん! 進路の事話すの忘れてたね(笑) ん〜まぁ…また明日ね(笑)』 と言った。 「はい、でも進路変えるつもりはないんで。」 そう返すと 困ったような笑顔を残して部屋を出ていった。 いつもの様に2人きりの病室に戻って 私は抱いていた肩から手を離し、まなみと向き合った。 不思議そうな顔をして 『颯、今日どうしたと? あんな事言って…? あ、分かった〜! キクちゃんとあまりに楽しく話しよったけんヤキモチ妬いたんやろ♪(笑)』 「………。」 『………颯? なんで黙っ………痛っ…!?』 私はまなみのおでこを軽くはじいて言葉を制した。 『先輩。 なんで辛い時に無理するんですか?』 「…え?」 『私、そない頼りないですか?』 「いや…ちがっ……。」 『心配かけたくないから? 先輩のその優しさは嬉しいですけど、余計に寂しいです。』 「ごめん…なさい。」 『私に、全て知ってほしいって言ってくれましたよね?』 「うん…。」 『私も、先輩の全てを知りたいです。 それがどんな現実でも、必ず受け入れます。 せやから、約束して下さい… 何も言えなくたっていいですから、苦しい時に笑わないって。 私を信じる、って 約束して下さい。』 「…はい…っ。」 『分かってもらえたなら良いんです。』 そう言ってまなみの小さな頭を撫でると まなみは抱き付いてきて 私の首に顔をうずめたままで 『絶対…死にたくない。 誰にも、颯をあげたくない。』 そう呟いた。 『誰のものにもなりませんよ。 私の人生は、先輩にあげたでしょう?』 そう言って まなみの左腕にはめられている腕時計を触ると まなみはそれを自分の耳元に当てて 静かに刻む秒針の音を聞いて微笑んでいた。
■19871 / inTopicNo.51)  - 98 - □投稿者/ Y 常連♪(125回)-(2007/08/23(Thu) 20:00:24) 穏やかな時間が流れる 私は抱き合ったままで、色んな話をした。 おかんが妊娠した事 独り暮らしをする事 ハワイの美味しいドーナツショップや、綺麗な海の話 インターハイでレギュラーに選ばれた事 奏音が異常な量の卵を食べる事 他にも、色々…… まなみはどれも真剣に聞いてくれて 大袈裟な程のリアクションを見せながら 『じゃあ、私が退院したら颯のお嫁さんになって2人で一緒に暮らしたいなぁ…♪』 なんて冗談めかしながらぼやいている。 『そうしましょう。』 「え?」 『一緒に暮らしましょう、先輩。』 「……それ、プロポーズ?」 『言葉にするのなら、そうかもしれません。 でも 籍なんて、そんな紙一枚の誓約なんて私達には必要ないでしょう? 先輩がいて、私がいて。 それが大事な事でしょう?』 「……ん。そやね。。 ありがとう…。」 『今度、指輪見に行きましょうね。』 「うん…っ!!」 果たして この日の事が、まなみの生きる力になったのか 逆に傷付けてしまったのか それはまなみにしか分からない。 だけど 幸せそうに笑うまなみの笑顔は 今日で一番輝いて見えたのは確かだった。 今日のまなみは 良く咳込んでいる その度に私は 華奢な背中を擦りながら抱き締める力を少しだけ強める。 まなみの心が 小刻みに震えているのが伝わってきたから… 無言の空間に 溢れんばかりの愛情が漂っている 何故か泣きそうになったのは 愛しくて 愛しくて たまらなかったから。 『先輩、どこにも行かないで下さい。 お願いです… 独りにしないで下さい。』 口をついて出た言葉は 初めて吐いた弱音だった。 私が弱気でいちゃいけない、って 不安にさせちゃいけない、って 抑えてたものが 堪えきれなくなってしまったんだ。 まなみは 私の頭を胸に抱き寄せて 「どっこも行かんよ。 颯のそばで生きる。 約束するけん…。」 そう言って 私の髪を撫でる。 私は無償にまなみをより近くに感じたくなって 頭を上げ まなみの小さな顔を両手で包んでキスをした 深く、熱く 長いキスだった。
■19875 / inTopicNo.52)  - 99 - □投稿者/ Y 常連♪(126回)-(2007/08/23(Thu) 23:51:34) 温かい時間の中 まなみが 突然激しく咳込みだす。 私の首に回していた手は 苦しそうな自分の胸を抑えて 息はどんどん上がり 私の腕の中に倒れ込むまなみ… 『先輩っ…!?』 突然の事で一瞬動揺してしまったが ここは病院。 無理矢理 自分を冷静ぶらせて 枕元にあるナースコールを激しく何度も押した 【はーい? 早川さんどうしましたー?】 その看護師に対して 私が何て答えたのかは覚えていない。 とにかく私は 苦しくてのた打ち回るまなみの名前を呼び続けて 私の腕を物凄い力で 必死に掴むまなみの左手を上から握りしめていた。 『先輩、大丈夫ですからね。 すぐに楽になりますから。 私もここにいますから。 大丈夫ですよ。』 まなみからの返答はない その代わりに 苦しそうな息と 小さい悲鳴の様な声だけが、狭い病室にこだまする。 駆け込んできた医師と看護師が 手際良くまなみに酸素マスクをつけたかと思うと 色々な機械にまなみを繋いでいく 私は 自分の心臓の音が頭に響いてきて 『ちょっと離れていて下さい!』 と、看護師さんが軽く私の肩を引いただけで そのまま床に座り込んでしまった。 医師や看護師が何度もまなみに呼び掛ける声も 注射を打ったり血圧を計る姿も 全てスローモーションの様に聞こえたり見えたりする 何もできないまま その場から動く事すらできない。 次に病室に駆け込んできたのは 大急ぎでストレッチャーを運び込んできた清水ナースだった。 『櫻井さん!? どうしたの?大丈夫?!』 そう言って私の肩を持ち、ベット脇の丸椅子に座らせて 『大丈夫やけんね。 ここで待っとってあげてくれる?』 私の両肩に手を乗せて 同じ目線までしゃがんでそう言う清水さん 言葉さえ出せない私は 首を縦に振るのが精一杯だった。 ナース2人がかりで まなみをベットからストレッチャーに乗せ替え、部屋を出る 運ばれていくまなみは もう激しく息をするでも、何かを必死に掴むでもなく ただ ぐったりとしていた。 しばらく 心臓は高鳴ったままで おさまってきたかと思うと、体中が震えてきた。
■19877 / inTopicNo.53)  - 100 - □投稿者/ Y 常連♪(127回)-(2007/08/24(Fri) 02:04:31) 私は まなみからもらった時計を握りしめて ついさっきまで見ていたまなみのあどけない笑顔を思い浮かべていた。 その度にさっきの悶絶した表情がかき消していったけど 何度も 何度でも 私は必死に思い出した。 大丈夫や。。 落ち着け、私…… まなみがどこに連れて行かれたのかも あれからどの位の時間が経っているのかも 私が今 何を考えているのかも 何も分からない。 ふと 看護師が外していった、まなみの腕についていた時計が目に入る。 ベットの上に放り出されるようにあったそれが すごく無機質に見えて 心がまたざわついた。 それを手に取って 二つ並べるように私の腕につけた。 そんなに変わらないはずなのに 一気に腕がズシっと重くなり これが命の尊さなのかな、とすら思えてくる。 まさに神頼み まったく こんな時にだけ存在を思い出して頼ろうとするなんて 都合がいいにも程がある…… そんな事は分かっている。 だけど 今の私にはそれ位しか出来ない… ほんま、情けない。 でも 今はそんな自分を嘆くより他に、なんとかまなみの無事を祈る事が先決だ。 その為なら 何だってする いや 何だってさせてほしい しばらくすると 病院から連絡がいったのか 息を切らした結希が入って来た。 『ゆう先輩…。』 まなみがベットにいない事が分かり 結希の顔から、一瞬にして血の気が引いていくのが分かった。 『ねーちゃんは!?』 「どこかへ運ばれて行きました。 清水さんにここで待つよう言われて……。」 『………そっか。』 結希は大きく静かに深呼吸をして ゆっくり私の方に近付いてくる 『一人で怖かったやろう……。』 そう言って 私の肩に乗せられた結希の手も震えていた。 少しすると また違う女性が入ってきて 『ゆう!まなは?!』 「落ち着いて、お母さん。 ねーちゃんは今処置してもらっとるみたいやけん。」 まなみのお母さん… 初めて会った。 若くて、可愛らしくて まるで少女か人形のような人 小さくて、華奢で、色白な所はまなみそっくりだ。
■19890 / inTopicNo.59)  - 101 - □投稿者/ Y 常連♪(130回)-(2007/08/24(Fri) 14:12:37) 私は立ち上がって 深々と頭を下げた。 『初めまして。 まなみ先輩のバスケ部の後輩で、櫻井 颯と申します。 いつも、まなみ先輩やゆう先輩にはお世話になっております。』 そう言って顔を上げると まなみの母も頭を下げて 『いえいえ、こちらこそいつもまなみがお世話になってます。 颯ちゃんのお話は、まなみから良く聞いとったんやけど、なかなかすれ違いで会えんくて、お礼が遅れてごめんね…? 本当に毎日毎日ありがとう。』 と、柔らかい物腰と笑顔で挨拶を返してくれた。 全身から優しさが滲み出ているかのような人。 今なんて特に 笑顔を作れるような心境じゃないやろうに…… 『とんでもないです。』 そう言うと 丸椅子をもう一つ出して、私の隣に置き、座る様に仕草で誘導した。 結希は 靴を脱ぎ、ベットの上であぐらをかいている。 沈黙が続く― 『颯ちゃん…?』 一番に口を開いたのはお母さんだった 『はい…?』 「二人が、お互いに好意を持ってる事は… まなみから聞いとるんやけど。 颯ちゃんに、もしかしたら無理させてしまってるんじゃないかと思って…ずっと気にかかってたんよ。」 『無理……?』 「えぇ…。 あの子の病気の事知って…傷付けないようにそばにいてくれとるんやないかな。って…。 同性同士なわけだし、まなみの方から好きになったって聞いているから…。」 『違います!』 私があまりに大きな声を出したので お母さんも結希も目を丸めてビックリしてる。 『あ…大きい声を出してごめんなさい。 でも、それはあまりに的違いなご心配だったもので… 私、先輩に対して同情の念で一緒にいる訳じゃありません。 本当に…本気で 先輩と向き合っていて、愛し合っていると…思っています。 少なくとも、私は愛しています。 同性同士であろうが、どちらから好きになろうが関係ありません。 私が先輩のそばにいるのは、先輩を傷付けない為なんかじゃなくて、私が先輩のそばにいたいと思っているからです。 だから、そんなご心配はなさらないで下さい。 できれば…暖かく見守って下されば幸いです。』 お母さんの目を見据えて、一言一言ちゃんと伝わるように話した。 お母さんも、きちんと目を見て聞いてくれた。 『ありがとう…。 まなみを宜しくね。』
■19892 / inTopicNo.60)  - 102 - □投稿者/ Y 常連♪(131回)-(2007/08/24(Fri) 23:51:24) 『はい、こちらこそありがとうございます。』 もう一度 私達は頭を下げて、少しずつ微笑みあった 『ねーちゃん。 きっと頑張ってくれるよ。』 結希はそう言って ベットに寝転がり 『そうですね、信じましょう。』 私はそう答えて 二つの腕時計を見る お母さんが ぽつり、ぽつりと 幼い頃のまなみの話をし始めた。 おてんばだけど、変に昔からしっかりしていたと言う。 3才の時にバレエを始めたいと言い出して、それからのまなみはバレエ一筋だったらしい 小学校高学年ともなれば国内のコンクールの賞を総嘗めする程の実力を持ち、パリの有名なバレエ団からのスカウトを受けたのもその頃だそうだ。 高校に入ったのとほぼ同時に初めて全幕通してプリマドンナをつとめる舞台が決まり 更に練習に力を入れていた所で今の心臓病を患い、急な入院を余儀なくされて… その頃のまなみはひどく荒れたらしい。 食べ物は口にせず 水分も本当に必要最低限しか摂らずに 家族とすら、ろくに口を聞かない毎日が続いたそうだ。 体はどんどん痩せ細り、体調も急降下の状態…… このままだと、余命は半年だとも言われ 周りの人間もかなり神経を磨減らしていたそうだ。 そんなまなみが変わったのは、入院して一年が経とうとした頃に起こったある出来事がきっかけだった―… いつも仕事帰りに 四季折々の果物を持ってお見舞いに来ていたお父さん そのお父さんとの 突然の別れだった。 恥ずかしがり屋だったというお父さんは 病院に来ると、まなみに背を向いて果物を剥きながら 一日の出来事を話していたそうだ。 その背中を見ながら まなみは、返事をするでもなくただ聞いている そんな光景をお母さんは良く見ていたという。 ある日 いつもの様にまなみの元へ向かう途中 交通事故に遭い 手にはお土産の苺が入っている袋を握ったまま 残酷にも まなみが入院していた病院に運ばれた。 それを聞いて 泣く事も、笑う事も 忘れていたまなみが 父にすがりついて ごめんなさい、と泣き叫んでいた…と お母さんは清水さんから聞いたらしい。 お母さんや結希が病院に着く頃には もう お父さんには息がなかったそうだ。
■19895 / inTopicNo.61)  - 103 - □投稿者/ Y 常連♪(132回)-(2007/08/25(Sat) 05:34:38) 最期にお父さんを見送ったのは、まなみ一人だけだった。 その時 二人が何を話していたのかは知らないそうだが きっと最後にお父さんは、まなみの人生を変える程の力をくれたんやろう。 また前を向けるように また心から笑えるように それから まなみは以前のまなみのように笑えるようになり 何事も斜に構えず捉えられる様になったそうだ。 自分の病気ともしっかり向き合って 辛い治療や大手術にも耐え抜いてくれた…と。 お母さんが話す話の一つ一つを 色んなまなみを思い浮かべながら聞いていた これまで 大切な人を2人も失ったまなみは 残された人間の気持ちと 残してしまうかもしれない人間の気持ち その両方の間できっと随分苦しんでいた事だろう…… 抱き締めたい 今すぐに 思いきりまなみを抱き締めたいよ。 早く… 私の腕に帰ってきてくれませんか。 その時 病室の扉が開き、清水さんが入ってきた 結希がバッと起き上がり 『清水ちゃん…! ねーちゃんはっ…!?』 と、聞くと 清水さんは小さく微笑みながら頷いて 『頑張ってくれたよ、まなみちゃん。』 と、右手で小さくピースを作って言った。 思わず立ち上がってしまっていたらしい私は 胸を撫で下ろすのと同時に、また椅子に座り込んで大きく息をついた。 すると 『櫻井さん。』 と清水さんに呼ばれて 顔を上げると 『まなみちゃんが、呼んどる。 まだ意識は朦朧としとるけど、この部屋を出た時からずっとあなたの名前を呼んどったよ。 まだココには戻ってこれんけん、まなみちゃんの所まで来てくれんかいな?』 横にいるお母さんを見ると にっこりと笑って頷いてくれた。 【ICU】 そうプレートに書かれた部屋の中は 色んな機械から出る音と、人工呼吸器が放つ規則正しい空気音だけが響いている 入る前に手を消毒して、白い割烹着の様なエプロンと大きなマスクをつけさせられた。 まなみの元に辿り着くまでに、何人かの憔悴しきった人達がいて その部屋の一番奥のベットに、疲れ果てた様子のまなみがいた。 『何かあったらナースコールしてね。』 と言い残して、清水さんがその場を離れる。
■19898 / inTopicNo.62)  - 104 - □投稿者/ Y 常連♪(133回)-(2007/08/25(Sat) 19:36:01) 清水さんの後ろ姿に 軽く会釈を返して まなみの横に立つ 真っ白で、まるで血の気のない顔に触れると ちゃんと温かくて安心した。 額は少し汗ばんでいて 濡れた髪が、壮絶な闘いだったことを物語っている…… その髪を撫でながら 『良く…頑張ってくれましたね。』 と、小さい声で言ってみると うっすらとまなみの目が開き 私が立っている右側の手が微かに動いた。 私は両手でその手を握り 『おかえり、まなみ。』 と、声を掛けると まなみも何か言いたさげだったので、一瞬酸素マスクを浮かす 消えるような声で聞こえてきたのは 【ただいま。】 私達の愛言葉 いつもとは逆だけど 確かに私はこの耳でまなみの声を聞いた。 まなみは生きてくれた。 私の腕に二つ並んでいる腕時計を見て まなみはとても幸せそうに笑っていた だから私は 両手で包んでいたまなみの手を 二つの腕時計の上に乗せて、更に自分の手をその上から重ねた。 微笑むまなみの目端からは涙が流れて 握っていたまなみの手に更にぎゅっと力を入れると まなみは 静かにまた目を閉じて眠りについた。 泣いてたまるか 負けてたまるか 命懸けて、私が守る。 大袈裟でも綺麗事でもなくて まなみの為なら私の命なんか全く惜しくないと思えんねん。 こんなに人を愛せた事が、どれ程幸せな事なのか 初めて恋をした人に 初めての愛を教えてもらえた私は、この上ない幸せ者やわ。 先輩、絶対に私が助けてあげる。 根拠なんてないけど 妙に自信があるんです。 なんやろう、この気持ちは…… 人を愛すると 弱くなる事もある でも それを正面から受け入れる事で 必ず強くもなれている。 まなみのお父さん 私のお父さん どうか まなみを守って。 まだ迎えに来るのは早すぎるから…… お願いします お願いします… 時よ、止まらないで。 結希とお母さんがいる病室に戻り 『今、眠っています。』 そう告げると 2人は安堵の表情を浮かべて 『ありがとう。 今日はもう遅いから、帰りぃ?』 お母さんから そう返ってきた。
■19928 / inTopicNo.67)  - 105 - □投稿者/ Y 常連♪(136回)-(2007/08/27(Mon) 18:46:46) 集中治療室にいる限り、いつ容態が急変してもおかしくはないだろう…… 帰るのは、かなり後ろ髪を引かれたが 何かあったらスグに連絡をくれるという事だったので、一度自宅に戻る事にした。 明日は試合だけど 終わったらすぐに駆け付けよう。 お母さんと結希に挨拶を済ませ、病院の外に出ると 湿気が強くて まるで今にも降り出すかのような 雨の匂いが鼻をついた。 気分もどこか余計に沈んでしまいそう…… 切っていた携帯の電源を立ち上げると 久々に、美帆からメールが来ていた。 【受信メール】 差出人:佐伯 美帆 件名 :大丈夫? 本文 :なんか今日の部活元気なかったみたいやけど…何かあったん(;_;)?? 美帆はいっつも颯ちんに救われてばっかやけん、たまには美帆も颯ちんの役に立ちたい!! いくらでも話は聞くし、何か出来る事があれば言ってね(*゜ω ゜*)♪♪ いかにも美帆らしいメール こうやって気にかけてくれる友達がいてくれてる事は、ありがたい。 今日の出来事っていう訳ではないけど 美帆には まなみとの関係もはっきりと言っていなかったし、これを機にちゃんと話そうと思う だから 【送信メール】 宛名:佐伯 美帆 件名:Re;大丈夫? 本文:ありがと。美帆にちゃんと話しておきたい事もあるから近々話そうな。 そう返信をしておいた 家に着き リビングに入ると、完全に動きが止まった。 まるで空き巣にでも入られたかのようにぐちゃぐちゃに散らかっている… ………………え? しかも おかんの部屋からガタっと大きな音がした 一瞬 思考が停止して、息を飲む…―。 まず通報? それとも おかんに連絡? いや、とりあえず逃げるべき? 携帯を手にして迷っていると おかんの部屋のドアが勢い良く開いた…! 『あ、やっと帰ってきたわ〜……! チビ!大阪からこっちに越して来る時、一体どないやって荷造りしてん…?! あんた一人でやってんやろ!? 我が子ながら尊敬するわ(笑) 教えて! つか…やってや!』 なんと 中から出てきたのは…… 髪もメイクもボロボロになったおかんだった。
■20009 / inTopicNo.70)  - 106 - □投稿者/ Y 常連♪(138回)-(2007/09/11(Tue) 07:25:26) 『何してんの?』 呆気にとられた私が聞き返すと 『せ-や-か-ら-荷造り!! 最初はな、リビングで持ってくもんだけ集めとったつもりやってんけど…なんや訳わからんよーなってきてん。 で、自分の部屋のものを先に詰めよう思ってやっとってんけど…あかんわ! 分かってたけど向いてへん!!』 向いてへん…って。 そう、私のおかんは THE・片付けられへん女。 こんなんじゃ引っ越してからが思いやられるわ… 小さくため息をついて 【持っていくもの】らしいリビングに散乱しているものを 陽気な顔をしたゾウがプリントしてあるダンボールに詰めていく。 なんのかんの 何かする事があって良かったのかもしれない 何もする事がないと まなみが心配で、悪い方向にばかり考え込んでしまいそうやったから。 あっという間にリビングは片付いて おかんの部屋を覗いてみると、大量のゴミ袋と詰めようとしている物で足の踏み場もない状態 当のおかんは 慣れない事をして疲れたのか、洋服を握り締めたまま寝ている。 私はとりあえず また転がっている物を詰めて、クローゼットに手を掛けた。 開けようとすると 前に積み重なったゴミ袋で開けなくなっていたので ゴミ袋をどかそうと思って持った時 溢れんばかりに入っていた中身がいくつか床にハラハラと落ちた ………写真? 拾い上げて見てみると そこに写っていたのは 若かりし頃のおとんとおかんだった。 この上なく幸せそうな顔で寄り添っている写真 落ちた写真の中には 私を妊娠している時に 大きくなったおかんのお腹に、おとんが顔をあてて微笑んでいるものや おとんの故郷であるフランスの綺麗な街並みで写したであろう、見るも恥ずかしい熱々っぷり満載のものがあった。 それらが入っていたゴミ袋の中を見てみると 中に入っていたのは 全てがおとんとの思い出の品であろう物だらけだった。 複雑な気持ちになる… 捨てんねや…… そういうもんなん? 森田さんの為なのか おかんの自分なりのケジメなのか にしても… 何も捨てる事ないやん。 私は、ゴミ袋の中にある写真や思い出の品々をダンボールに詰め直して それを自分の部屋のクローゼットにしまって そのまま眠りについていた。
■20010 / inTopicNo.71)  - 107 - □投稿者/ Y 常連♪(139回)-(2007/09/11(Tue) 08:50:37) 嫌な夢をみた 詳しい内容は覚えていないが 滲み出る冷や汗と 悲しいと虚しいを混ぜたような そんな感情で迎えた朝だった。 ふと嫌な予感がして 急いで携帯をチェックする 良かった 特に連絡はきていない…… 用意をして 部員が待ち合わせる駅に向かう。 今日は生憎の雨 試合会場である他校に着く頃には、更に勢いを増した雨の音が 朝からざわついたままの胸を掻き回すようだった。 集中しなあかん。 ストレッチをしながら精神統一していると 亜也が後ろから背中を押しつつ話しかけてきた 『ゆうに、まなみの事聞いた。 颯…大丈夫?』 「はい、大丈夫です。」 『今日勝って、いい報告してあげよ!』 「そうですね。」 目を細めるだけの笑顔をするのは、いつぶりやろう。 試合には勝って ベスト8まで来たっていうのに、100%では喜べない自分がいた。 終わると、一目散に病院に向かう 病院に着き、携帯の電源を切ろうとしたら奏音からの不在着信があっていたが、帰ってかけ直そうと思いそのまま電源を切った。 無意識にいつもの病室に向かっていて 空っぽのベットを見た時に、まなみはICUだという事実を思い出す。 ICUの前でマスクと面会着を付け、手を消毒した 中に入ると、一気に空気が重くなり 奥へ進むと いつも笑顔でおかえりと言ってくれるまなみは 沢山の管に繋がれ 青白い顔をして、人工呼吸器に生かされていた。 必死に生きようとしていた。 あかん 泣いたら、あかん まなみが不安になるから。 『ただいま。』 そう言って頭を撫でてみたけど まなみが目を開ける事はなかった。 手を握ると 心拍数を表す機械の音が、少しだけ早まった。 そっか、分かってんねやな…。 先輩、そうです 私です。 ここにいますよ 先輩も生きてますよ 『先輩、ベスト8入りましたよ。 あと、昨日おかんの荷造りしました。 やっぱ…なんか1人になるのは寂しいもんやなって思いました。 早く退院して帰ってきて下さいね。 どれだけでも待ってますから。』 聞こえている事を願って話しかける。 普段は目を見て言えないような事も ちゃんと目を見て言いたいと思えてくる。 『先輩、愛してます。』 ほんまに、愛してます。
■20011 / inTopicNo.72)  - 108 - □投稿者/ Y 常連♪(140回)-(2007/09/12(Wed) 16:12:44) 今までとは違い ICUの面会時間には制限があったので そばにいれる時間はすごく短く感じた。 部屋を出ると 私と入れ替わりで 結希と亜也がICUに入る準備をしていた。 『あ、颯ちゃん。 ベスト8おめでと! 颯ちゃんのおかげやって亜也が言いよったよ♪』 ゆうが笑顔で親指を立てる 『いえ、とんでもないです。 ありがとうございます。』 軽く会釈をすると 『いや、本当そーやけん! ディゾン様々ばい!』 と亜也も親指を立てる やめてください と、俯いて笑っていると 照れるなって! と2人に体当りされた。 帰り道 携帯の電源を立ち上げて、奏音に電話をかけ直す 何度かコールしたが 留守電に繋がったので 『もしもし? どないしたん? 気付いたら連絡して。』 とメッセージを残しておいた。 あ…せや。 私はおもむろに美帆に電話をかける 今日はまだ時間早いし、少し話せるかなと思ったから。 美帆は、1コール鳴っただけですぐに電話に出た 『もしもしっっ!? 颯ちん!? ビックリしたぁ〜☆ 初めてやね、颯ちんから電話かかってくるの!!』 相変わらずなテンションですこと。 『もしもし。 今、大丈夫?』 「うん!! 暇やったけんお家でダラダラしよった(笑)」 『そっか、ほなちょっと出てこれる?』 「え…!?うん!! どうしたと〜?? 珍しいねっっ!」 『いや、話したい事あってさ。 美帆んちの最寄り駅に行くわ。 着いたらまた連絡する。』 「は〜い♪ 気をつけてね!」 電話を切ると 少し足を早めて バス停に向かった。 雨は強さを増すばかり 傘をさしていても 足元はビショビショになる程だ。 雨に濡れた制服の匂いが嫌い だけど 雨は意外と嫌いでもない なんとなく 無心になれる感じがするから。 やってきたバスに乗り込んで 何も考えずに 窓の外の流れる景色を眺めていた バスが奏でる不規則なリズムの揺れがとても心地良くて いつの間にか私は眠りについていたようだ。 終点ですよ。 そう運転手さんに肩を揺らされて起きると まだ半分寝ぼけ眼のまま降りて その場を走り去るバスを何となく見送った。 あ…傘…… 忘れた。 まだ雨はどしゃ降り ま、いっか。
■20085 / inTopicNo.75)  - 109 - □投稿者/ Y 常連♪(142回)-(2007/09/26(Wed) 03:54:45) そこに 真赤な傘をさした美帆が走り寄ってきた 『颯ちん!? 傘持ってこんやったと!?』 あたふたと鞄からハンカチを取り出して 激しい夕立にうたれてびしょ濡れになった私の髪をふきながら美帆が聞いてくる 『バスん中に忘れてん。 ありがとう。』 頭をふって水気をとばし、私達は駅前の喫茶店に入った 『美帆何飲む?』 「ん〜……… アイスキャラメルマキアート♪」 甘そ…。 ふっと洩れた笑みに 『あ〜!! 颯ちん今美帆の事ガキ扱いしたろ!?』 と頬を膨ませて睨み付けてくる いやいや…と笑いながら、水とおしぼりを持って来てくれたウエイトレスに 『アイスキャラメルマキアートとコーヒー…アメリカンのホットで。』 と注文してメニューを手渡す。 飲み物がくるまで 部活の話や、他愛のない話をして 運ばれてきた飲み物をお互い一口飲むと、一息ついて 空気が本題モードに入った。 『あのさ。』 口を開いた私の目を真直ぐ見て ん…?と微笑む美帆 どこか緊張している様な表情には なんとなく、美帆なりの覚悟の色が見てとれた。 『今な、私付き合ってる人がおんねん。』 「まなみ先輩やろ?」 『え…知ってたんや?』 「知っとったわけじゃないけど…颯ちん見よったら誰でも気付くって(笑)」 そうなん? 『あ、そう?』 「うん…バレバレ。(笑) それで、どうしたと?」 『あーいや、今日話しときたい事はその事だけじゃないねやんか。』 私がそう言うと 美帆は飲み物を手に取り、また一口飲んで 「………………。 亜也先輩とゆう先輩の事?」 と、苦しそうな笑顔で私を見た。 分かってたんや… 『そう。 美帆、全部知ってたんや。 別に隠しとくつもりもなかってんけどさ、なんか言うタイミング逃してもーて…。 ごめんな。』 私も真直ぐ美帆の目を見て答える。 「なんで颯ちんが謝ると? 誰が悪いとかいう事じゃないやん…? ちゃんと教えてくれてありがとう。。 美帆、大丈夫やけん。」 と言って一気に半分位まで飲み干して 「にがい…っ。」 と私に苦笑いをしてみせた。 でも 笑ったかと思った美帆の耳はどんどん赤くなっていって 目には今にもこぼれ落ちそうな涙がいっぱいに溜まっていた 別に笑わんでえーのに。
■20303 / inTopicNo.79)  - 110 - □投稿者/ Y 一般♪(2回)-(2007/11/20(Tue) 02:01:08) それからというもの 美帆は自ら違う話題を持ち上げては、無理にテンションを上げて 現実を誤魔化すかの様に、ひたすらどうでも良いであろう話をし続けている。 見ているこっちが痛々しくなって 無心で喋り続ける美帆の頭にポンと手を置いて、何も言わずにクシャっとすると 不器用な口はやっと止まって 強張っていた不自然な笑顔がみるみる内に崩れ、そのまま下を向いて肩を落とし やがて、ぽつりぽつりと本当の言葉を口にし始めた。 『颯ちん。』 「……ん?」 『今、颯ちんは幸せ?』 「……うん。 多分、生きてきて今が一番幸せやな。」 『そっかぁ… 美帆、全部話したいけん聞いてくれんかいな?』 「ん。えぇで? 聞かしてや。」 『ありがとう。』 美帆は顔を上げ、安堵を覚えた様な顔で微笑んで 『実はね……』 と言ったまま、また俯いて止まってしまった。 さっき一気に飲み干したグラスに残っていた氷が溶けて カラン、と鳴った音が やけに大きく二人の間の沈黙に響いた。
■20341 / inTopicNo.80)  - 111 - □投稿者/ Y 一般♪(3回)-(2007/12/07(Fri) 01:35:26) 私の手元にあったカップを見ると、冷めたコーヒーがまだ半分以上残っていたけど 一気に喉の奥へと流し込んで 「もう一杯、何か飲もか。」 と、メニューを差し出しながら沈黙を破った。 『……あっ…ぅん! ん〜…んとね、じゃあホットロイヤルミルクティー。』 店員を呼んで ロイヤルミルクティーとカフェラテを頼んだ。 普段、コーヒーはブラックしか飲まへんけど なんとなく 気持ちだけでも近付いてあげれるように、いつもとは違うものを頼んでみた。 重苦しかった空気を追いやってみたつもりやねんけど…… 美帆が少しは楽に話せるようになったやろか? 「実は…どうしてん?」 『。。。うん…。 実は、美帆…亜也先輩から直接聞いたっちゃん。 結希先輩との事…。』 「あ、そーやったん?」 『亜也先輩に抱かれる前に。』 ………え? 耳を疑うような言葉は、私の思考を止めた。 色々と、その言葉の理解ができない。 『ひいちゃった。。。?………ょね。』 いや 引くとか引かんとか そういう以前に 疑問しか出てこーへん 「どういう事?」
■20342 / inTopicNo.81)  - 112 - □投稿者/ Y 一般♪(4回)-(2007/12/07(Fri) 02:01:26) そう言って美帆の目をみると 不安の塊といったような涙が 小刻みに震える手に落ちた瞬間だった。 美帆は小さく深呼吸をすると 小さな声で言葉を発し始めた。 『あのね…… あのね。 美帆、亜也先輩に自分の気持ち伝えたっちゃん…… なんか、吹っ切る為っていうか いっぱいいっぱいになりすぎて。 それでね 無理ってハッキリ先輩の口から言ってもらえればきっと諦めきると思ったと。 でね 先輩から、結希先輩との事を聞いたんよ。 何となく… うぅん、どっかで絶対そうやろうなって事は分かっとったけん そうですよね… ごめんなさい って謝ったとね。 困らせたくなかったのに美帆、泣いちゃって…… そしたら先輩 こっちこそごめん… って抱き締めてくれたと。 泣きやむまで ずっとそうしとってくれた。 見上げたら、大好きな先輩の顔があって 美帆、頭が混乱して気付いたら先輩にキスしとった。 先輩、びっくりしとったけど 先輩からもう一回… してくれたっちゃん。 頭にあった先輩の手がどんどん下がってきて 先輩ずるいって思ったけど、もうなんか溢れてきちゃって 止めきらんで 最初で最後でもいいけんって思って先輩に身を任せたんよ。
■20343 / inTopicNo.82)  - 113 - □投稿者/ Y 一般♪(5回)-(2007/12/07(Fri) 09:17:30) 終わってから いっぱい先輩に謝られた。。 美帆もいっぱい謝った……… その時は罪悪感だらけやったけど、今は… 今は正直。 それでも先輩に触れてもらえた事が嬉しい気持ちもあるっちゃん。。 それから亜也先輩と頻繁に連絡取るようになって、何度か… この事は ほんと誰にも言いきらんやったっちゃん。 端から聞くと最低な話やし、責められても仕方ないのは分かっとーけど 自分の中で消化できるまでは人にどうこう言われたくなかったと。 悪い事しときながら自己中やんね ごめんね… 颯ちん 美帆、こんな奴っちゃん。』 少しずつ、言葉を選びながら一生懸命話してくれた美帆。 元々大人びた綺麗な顔立ちだが 今日はまるで子猫みたいな目で涙を流すあどけなさが垣間見れる。 そんなギャップに 亜也先輩は心が揺らいだのか。。。 そんな事を思いながら 美帆を見つめてた。 返す言葉が見当たらない…… 沈黙が続くごとに、みるみる美帆の顔は強張っていって ついには、堰を切ったように肩を大きく揺らしながら泣き出してしまった。 でもとりあえずこの場を乗り切る為の最もらしい軽い言葉をかけるのは嫌やから とにかく最低限 これは本音っていう言葉だけをかけた 「引いたりしてへんょ。 それはホンマやから。 話すの勇気いったやろう…… 美帆、私はその事について否定も肯定もせ-へんけど 皆が悲しむのなら 皆が苦しむ事になるから 何より 美帆がボロボロになるから 私は応援はできひん。 これからどうするかはもちろん美帆の自由やし、どんな選択をしても私はそれなりに見守るしかできひんけど… 結果、亜也先輩を好きになった事を後悔するような悲しい事にだけはならんようにな?」 美帆は何も言わずに ただただ大きく何度も頷いて 溢れる涙を拭うと 泣き腫らした真っ赤な目で私を真直ぐ見据え 『颯ちん…… 美帆の事嫌いになった?』 と尋ねてきた。 私は 「大っ嫌いや。」 と笑って言いながら 美帆の頭をクシャっと撫でた。 久し振りに飲んだカフェラテは 甘かったけど、優しい味がした。 窓の外を見ると もうすっかり暗くなっていたけれど 雨は上がっていた。 「ほな、帰ろか。 遅くまでごめんなぁ。」 『ううん、颯ちんと話せて本当に良かった!! ありがとう。颯ちん。』
■20344 / inTopicNo.83)  - 114 - □投稿者/ Y 一般♪(6回)-(2007/12/08(Sat) 00:43:09) 何度も振り向いては手を振る美帆を 見えなくなるまで見送って リセットの為に小さなため息を一つ、ついてみた。 駅に向かいながら見上げた暗い空に星はなく 妙にいつもより遠く感じた。 厚い雲の流れは早くて 止んだ雨の代わりに 強い風が吹き荒れていた。 ………台風でも来るんかな? 前、まなみに聞いた事がある。 九州は台風が多いとよ、って…… 私は大阪でも京都寄りに住んでたから ほぼ盆地に近い所だった為、あまり台風に馴染みがない。 せやから 小さい時に旅行で行った沖縄で、大きな台風に直撃された時 怖いという感情よりも 自分の中で、なんだかどこか高ぶる気持ちの方が強かったのを良く覚えている。 まなみは小さい頃から沢山経験してきてる訳やし、慣れてるもんと思いきや 注射だって何度しても痛いでしょ? と頬をふくらませ、子供染みた事を言ってた時の顔があまりに可愛くて 無償に愛しくなって 我慢できひんくて 思わず抱き締めたんやったっけ…… しっかりしてるくせに そういうたまに抜けた事を口にするあたりが憎い。 お酒が入ると人一倍甘えたになったり 突拍子もないタイミングでキスをしてきたり 寝言で私の名前を何度も呼んだり 挙げ出すとキリがない。 大袈裟じゃなく 私は何度も何度もまなみに恋をすんねん。 …やばい 逢いたい どうしても、今すぐに。 気付くと 私の足は病院に戻るバス停へと向かっていた 気付くと 早足になって しまいには走り出していた。 先輩 まなみ先輩…… なぁ、まなみ。 あなたの描く未来はどんな世界ですか? 私はそこに、隣にいますか? 私の描く未来は 生きている今は あなたがいてこそ成り立つんです。 あなたがいててくれるから、私がいるんです。 私が生きる事に意味があるなら それは紛れもなくあなたの存在そのものなんです。 何万回ケンカしたっていい 泣いたっていい 何億回でも、私が笑わせてあげるから。 早く帰っておいでや… 迷子になるの得意なんは知ってるけど きっと辿り着けるから ううん、必ず私はいるから せやから 諦めんといて下さい。 絶対に
■20358 / inTopicNo.84)  - 115 - □投稿者/ Y 一般♪(7回)-(2007/12/11(Tue) 16:34:04) 結局病院まで走ってきた事を自覚したのは いつも入る入口が閉まっていた時。 息切れをしながら じとっとした空気の中で足を止めた途端 一気に汗が滴り落ちてきた。 夜間入口を探していると 『櫻井さん?』 と後ろから覗き込まれた。 「あ、清水さん。 こんばんは。」 『やっぱり! どうしたと?こんな時間に。』 「ごめんなさ…すみません。」 『よかよ、敬語じゃなくて(笑)』 「あ、すみま…ごめんなさい。」 『どしたん? 汗びっしょりやし。 怪しかょ??(笑)』 「…………っ ですよね。(苦笑)」 『まなみちゃんに会いたくなった?(笑)』 冗談めいて聞かれてんけど 図星も図星で まなみの事しか頭になかったもんやから 多分、私 すごい真顔で 「はい。どうしても。」 て言った。 で… 多分、清水さん そのすごい気迫に押されて 何も言わずに 『こっちおいで。』 って職員通路から入れてくれた。 『私ICUの夜勤やけん、気が済むまでおっていいけん。 何かあったら呼んで?』 そう言ってICUに隣接している控室に入ってった。 まなみの顔を見た途端 必要以上に機械的な呼吸器の規則正しい音を聞いた途端 初めて見た時の まなみの穏やかな寝顔を 私の部屋で静かに響いていた 愛しい寝息の音を 一瞬にして思い出した。 まだあれから そんなに長い時が経ったわけでもないのに 何故かとても昔の事のように思えて たまらなく不安になり まなみの前では泣かないと決めていたはずなのに、涙は私の意思なんて関係なく溢れ出す。 右手をそっとまなみの胸の上に置く かろうじて弱々しく動いている心臓の鼓動が伝わる。 手を頬に移して もう片方の手で頭を撫でる 本当はきつく抱き締めたいのに… 今は色んな管や機械に阻まれていて、できない。 本当はキスしたいけど… 口には人工呼吸器があるから無理だ。 だから唯一何にも縛られていないまなみの右手を、強く握り締めて何度もキスをした。 絶対に私の所に帰ってくるように信じながら… 小さな手の白くて華奢な指を口に含んでみた 愛しい味がする。 ………その時…っ まなみの右手がビクン…っと動いた。 驚いてすぐに顔を見たけど、目は閉じたまま。
■20363 / inTopicNo.87)  - 116 - □投稿者/ Y 一般♪(9回)-(2007/12/12(Wed) 02:15:21) 両手でまなみの手を握ってみる。 今度は確かに 弱々しくやけど 温かい手で握り返してくれた。 『………先輩?』 顔を見て強く握り締める。 「……………。」 目は開かない もう一度。 まなみの手を私の頬に当てて 『まなみ先輩。 颯です、ちゃんとここにいますよ。』 静かに うっすらとまなみの目が開く。 ぐったりとして 疲れきった目やけど まっすぐと私を見て 微かに笑い 目尻からは一筋の涙。 私は立ち上がり まなみの頭を覆うようにベットに両手をついて真上から見つめる まなみは右手で 私の左の袖を掴んで 大粒の涙をいくつも流し出した。 私はそれを拭って 『おはようございます。』 と言った 多分すごく穏やかな笑顔をしていたと思う。 すると 何かを言いたげに人工呼吸器を触る 『外してほしいんですか?』 そう聞くと ゆっくりと2回頷いた。 私はナースコールで清水さんを呼ぶ 何かあったのかと小走りでやってきた清水さんは はっきりと意識を戻したまなみを見て 「呼吸器外したいの? じゃあ先生に相談してみるけん待っときぃ。 櫻井さんは、ちょっと一回隣の部屋行っといてくれるかいな? 先生来て櫻井さんおったらマズいけん(苦笑)」 と言って、私を誘導しようとした。 その場を離れようとした私の裾をまなみが掴んで不安そうな顔を向ける 『先輩、すぐに戻ってきますから。 大丈夫やから。』 そう言って手を握り 微笑んだ。 15分位して 待機していた部屋に、清水さんが再び私を呼びに来た。 『戻ってよかよ? でもまだあんまり沢山は喋らせんといてね。。』 「はい。 そのつもりです。 あの…清水さん ほんまにありがとうございます。」 深々と頭を下げると 『まぁた敬語使うっちゃけん。』 とけらけら笑って 私の肩をぽん、と軽く叩いた。 まなみの元へ戻ると 『………颯…っ。』 と手を伸ばして私を呼ぶまなみ 私の中に優しく響くこの声。 胸がぐっと掴まれたような気持ちになる その手を取って 「先輩…… もっかい名前呼んで。」 とお願いする まなみは一瞬不思議そうな顔をした後 世界一愛くるしい笑顔で 『愛してるよ、颯…。』 と呼んでくれた。
■20364 / inTopicNo.88)  - 117 - □投稿者/ Y 一般♪(10回)-(2007/12/12(Wed) 06:31:43) 『心配ばっかかけて…ごめんね。』 俯いて私の手を強く握り締めながら、まなみがおずおずと言う。 「心配ぐらいさせて下さい。」 そう返して 軽く笑うと 安心したように私の目を見て、まなみも笑った。 『試合どうやった?』 「ボロ勝ちです。」 『ギリギリやったったい…(笑)』 「正直、覚えてません。 先輩の事しか頭になくて……。」 『バスケしてる颯、見たいなぁ。』 「見れますよ、いつでも。」 『ドライブもしたい…。』 「来年18になったらすぐ免許取るんで、もうちょい待ってて下さいね。」 『ハワイも絶対行こうね…?』 「ニュージーランドにも行きましょうね。」 『……ん? 何でニュージーランド?』 「私が育った街に連れて行きたいんです。」 『……え 颯って帰国子女やったん!?』 「言ってなかったですっけ?」 『聞いとらんし! かっこよかぁぁ…。』 「そうですかね?」 『うん! あぁ……やけんか。』 「何ですか?」 『やけん颯は考えがなんか日本人離れしとーったいね。』 「いや…… それは、あの親やからちゃいますかね?」 『………あ、そやね(笑)』 「とにかく、生きてれば何でもできますから。 それだけやりたい事があるんやったら、先輩はまだまだ生きなあかんって事ですよ。」 『颯が浮気せん限り、図太く生きてやるけんね!(笑)』 「せーへんよ、そんなん。 先輩じゃないなら、私恋愛なんて必要ないですし。」 『颯の声って不思議。』 「……?」 『颯から出て来る言葉には、絶対に偽りがない気がする。』 「ないですからね。」 『こんなに無条件に人を信じられるの初めて。』 「じゃあ、信じて下さい。 私が必ず…絶対に先輩を救ってみせます。 生かしてあげますから。」 『………っ…、ぅん。』 「闘うのも、痛いのも、苦しいのも先輩ですけど… どんな時でもすぐ後ろに私はいますから。 転びそうになったら支えるし、生き急ぎそうになってたら引き止めます。 2人で同じ前を向いて、同じ幸せを感じましょうね。」 『信じる。。 颯が一緒なら負ける気がせんょ。』 「笑い飛ばしてやりましょう。」 『ねぇ……颯… キスしたい。』 重ねた唇は しばらく離れる事がなかっ
■20366 / inTopicNo.90)  - 118 - □投稿者/ Y 一般♪(11回)-(2007/12/13(Thu) 02:11:00) 『ほな先輩、私帰りますね。 また明日。』 「うん。。 また明日。」 『いい夢見て下さいね。』 両手でまなみの顔を挟むと この上なく寂しそうな目で私を見上げるまなみ ………ズルイ 可愛すぎるやろ。 私はおでこに軽いキスをして 耳元で小さく 『愛してんで。』 と言うと 恥ずかしくて顔を見る事もできずに、そのまま部屋を後にした。 タクシーに乗り込むと 『台風が近付きよるね〜。』 と運転手のおっちゃんがゆ-てた やっぱりか。 家に帰ると人の気配があって 玄関には、おかんが好きで良く履いているパンプスと 男物の革靴が綺麗に並べてあった。 森田さんが来てる事は何となく想像がついたので、一度リビングに顔を出して軽く挨拶だけして部屋に戻ろうと思った。 ガチャ…… 扉を開いて いの一番に私の目に飛び込んできたのは 仲睦まじく2人でキッチンに立つ姿。 おかんって、あんな笑い方すんねんな… それは見た事のない 穏やかで優しい はにかんだ少女のような微笑みだった。 親の幸せそうな顔を見れるのは嬉しい事 せやけど どうしても拭う事のできない違和感は 慣れてないだけやんな。。 死んだ夫を一生愛し続けろなんて言わへんけど 今この瞬間に おかんがおとんを忘れている事に違いはないやろう。 私は、あの人とおとんの間に生まれたわけやから おとんの存在を忘れてる姿を見ていると、自分の存在をも忘れられているのではないか…とか、おかんの中では私も【過ぎ去った過去】として捉えられていそうな気がして 胸に刺さったトゲが 微妙にチクっと痛んだ。 どうでもいいなんて思われてない事は百も承知 不器用ながらも、あの人なりに精一杯の愛情を注いでくれてるんも分かってんねんで。 【大人】にならなあかんな、とは思う。 でもまだ 正直【大人】に憧れた事がない。 その場を凌ぐ為だけの口約束や 世間体を気にして、心とは裏腹に偽りの言葉を羅列する事に 一体何のメリットがあるのかさっぱり分かれへん。 社会で生き抜く為には必要だと言われればそこまでやけど それならば 私はもっと その上辺ごとにうまく騙される方法が知りたい。 何でもかんでも見抜けてしまうのは たまに、しんどい。
■20369 / inTopicNo.92)  - 119 - □投稿者/ Y 一般♪(13回)-(2007/12/13(Thu) 13:51:19) そんな事を考えながら しばらくその光景をぼ-っと見ていた 2人も、私が帰ってきた事に気付いていない その時 私の携帯が鳴って 『お〜チビ♪ いつ帰ってきたん?』 と、おかんが声をかけてきた。 私は「今。」とだけ応えると 『颯ちゃんこんばんは! おじゃましてます!』 と、まだ若干緊張で引きつったような笑顔で挨拶をしてくれた彼に 「こんばんは、ごゆっくり。」 と返し 携帯をポケットから取り出して、自室に戻った。 頭からベットに倒れ込むようにうつぶせになり 開いた携帯を見もせずに、耳に当てて通話ボタンを押す。 『はい。』 「さ〜くらっ!」 『んー?奏音か。』 「どうしたとぉ? 元気ないやん??」 『大丈夫やで。 ちょっと今日は色々あったから疲れただけ。 あ、電話してたやろ? どしてん?』 「うん! あんね、おばあちゃんの退院が決まったっちゃん♪」 『あーそーなん? 良かったなぁ。 もう大丈夫なん?』 「もうピンピンしすぎて大変ばぃ…(笑) でもバリ嬉しくてね、なんか颯に一番に話したかったと〜! これで部活もやめんでいーしね!」 『せやな。』 それからもペラペラと喋り続ける奏音に対し、適当な相槌を入れている間に… どうやら私は寝てしまったらしい。 部屋に来たおかんに起こされ、携帯の画面を見ると 電話は切れていて 新着メールが3件届いていた。 それを開いて見ようとすると 『そんなん後!!!』 と、おかんにリビングへと強引に引っ張られた。 どうよ。 と両手を腰に当てて、自慢気にテーブル脇に立つおかん。 テーブルの上には、パスタとちらし寿司と麻婆豆腐。。。 狙ってんのか ツっこんで欲しいんか。 私はそれよりも 妊娠したと分かった途端、急に大きくなり出したおかんのお腹の方に驚いている。 『すごいなぁ。』 「やろ!!!」 『早ない?』 「そうかぁ? 3時間かかってんねんで?(笑)」 『いや、お腹やねんけど。』 「そっちかーい!!! ちゃうやん、料理やん♪」 『すごいけど、どうせ作ったんは森田さんやろ?』 「もーバレてもた。 おもんなーい。」 と、ふてくされてテーブルにつくおかん いくつやねん。
■20376 / inTopicNo.95)  - 120 - □投稿者/ Y 一般♪(15回)-(2007/12/14(Fri) 02:21:49) キッチンで私達のやりとりをニコニコしながら眺めている森田さんに 『こんなんが社長やなんて、会社の先も思いやられますね。』 と言うと YesともNoとも言わず 変わらずにヘラヘラしながら 「どうぞ、良かったら食べて下さい。 かおりさんに、颯ちゃんは和洋中のどれが好きか聞いたら全部と言われたもんで…っ… なんだか取り留めのない感じになってしまいましたが。(苦笑)」 と、椅子を引いて着席を促される。 軽く会釈をして席に着くと 真向いに座っていたおかんが 『ほらチビ。 あったかい内に食べ。』 と、パスタの皿を目の前に差し出す 「いただきます。」 一口食べたパスタは もう既に冷えていてパサパサやったけど 「おいしい…です。」 と言って おかんの隣に座った森田さんを見ると 子供みたいなあどけない笑顔で 『良かったぁぁ… 本当に安心しました!』 と言って、ちらし寿司と麻婆豆腐を並々に盛ってくれた。 正直、味はイマイチやし お腹もそない減ってないねんけど 自分の為に人が作ってくれた料理は 優しい味がする。 私は、初めて食べたまなみの手料理を思い出していた。 あれほど幸せな朝食は、生まれて初めてやったなぁ… まなみと迎える朝は どれも温もりに満ちていて 朝独特の白い光に照らされたまなみは いつもに増して綺麗やねん。 一通り食べ終り お礼と後片付けを済ませ コーヒーを入れて森田さんに出し おかんには、オレンジカモミールのハーブティーにしておいた 私も注いだコーヒーを持ってベランダに出て いつもの様に煙草を吸いながら いつも眺めている福岡タワーを見ていた。 うちから見えるのと 病院の屋上から見えるのでは 全く表情が違うタワー 真下にあるソフトクリーム屋さんが好きだと 前にまなみが言ってたっけ… 微かに聞こえる黄色い声の方に視線をずらすと 夜の海辺で花火をしている数人の若者がいて まだ気が早いやろ と思ったけど こっちに来た頃とは微妙に違う潮の香りと 夜でも生暖かくなってきた気温に もうすぐ夏が来るんやな…って知らされた。 風は相変わらず強い まなみはきっと今頃 ガタガタ揺れる窓の音に怯えてるんやろう。
■20379 / inTopicNo.96)  - 121 - □投稿者/ Y 一般♪(16回)-(2007/12/14(Fri) 03:17:10) リビングに戻ると ちょうど森田さんが帰る所で 『お邪魔しました。 コーヒー美味しかったです! ご馳走さまでした。』 と、深々と頭を下げられたので 「いえ、こちらこそご馳走さまでした。 つか、敬語やめて下さって結構ですよ? こんなガキにそんなん必要ないですから。」 と、返すと 照れながら 少し時間を置いて考えた後で 『じゃあ…… おやすみ、颯ちゃん。』 と言って玄関に向かった。 どうしようか迷ったけど 私も部屋に戻るついでに玄関まで見送りに行き 「気ぃつけて。」 と、腕を組んだまま左手を少し上げると 『どうもありがとう!』 と本日2度目にお目にかかる MAXの笑顔を浮かべた。 『あんたら なんや気持ち悪いわぁ。(笑)』 なんて言ってるおかんの顔も、嬉しさを隠す事はできないらしく 緩みっぱなしの状態。 秋には生まれてくる弟の為にも 幼い頃 私が誰にも言わず密かに憧れていた家庭像を ほんの少しずつでもいいから作っていってあげようと思う。 部屋に戻って さっき見られへんかったメールを開いた 【受信メール】 差出人:佐伯 美帆 件名 :(´∀`o)☆ 本文 :颯ちん!!! 今日はいっぱい美帆の話聞いてくれてありがとうッッ…m(T◇T;)m ばりスッキリできたし救われました。。 美帆ね、明日亜也先輩にもう会わないって言おうと思う。 まだまだ好きやけど、美帆も颯ちんとまなみ先輩みたいな純愛がしたいけんさ☆ ちゃんとバイバイできたら褒めてね(笑) 甘ったれ美帆ですが、マイペースにちょっとずつ大人になっていくけん懲りずに友達でおってね(`・ω・´)ノヨロシクッ☆彡 じゃあ明日ね♪ 絶対ベスト4入ろう!!!(やるの美帆じゃないけど☆笑) 一つ目は美帆からだった。 明日も試合やっけ? と返事をすると ばかちーんo(≧□≦)o!!!!! 通常朝練の後にうちの学校で試合ばい(笑) と、すぐに返信がきた。 そーなんや 知らんかった。 ま…いっか サンキュ、美帆。
■20393 / inTopicNo.99)  - 122 - □投稿者/ Y 一般♪(18回)-(2007/12/15(Sat) 00:19:56) 二つ目は大阪の友達から 【受信メール】 差出人:相原 このみ 件名 :ボンジュール。 本文 :ちょっとアンタ元気でやってんの!? メールぐらいしたらどやねん(*'へ'*) それはそうとな 今日心斎橋でアユムに会って、アンタがまだ忘れられへんって話を3時間も付き合わされたわ!!! うちの貴重な時間返して(笑) まぁお詫びは来月福岡に旅行行くからそん時泊めて☆ それで許したるわ(*^_^*)(笑) ほな気付いたら連絡ちょーだい! このみは、私の幼馴染みで ずっと一匹狼やった私を、行く先々の学校で馴染ませてくれた。 天真爛漫で人見知りを知らない性格は 男女問わず敵を作り憎く 世渡りが上手いとはこういう子の事を言うんやろう、って感じの子 【颯は強いから守ってくれそう♪】 なんて言いながら いつも金魚のフンみたいにくっついてきてたけど 結果、私を一人にせーへん為にそうしていてくれた事は 小学校の頃から気付いていた。 メールの返信をしようと考えて やっぱり電話をかける事にした。 夜も遅いから一瞬悩んだけど、久し振りに声が聞きたかったから。 プルルルル……… たった一回のコールで このみの甲高い声が鼓膜を破りそうな勢いで聞こえてきた。 『もっしも-し!!!!』 「もしもし。」 『なんやねん! 久々なのにそのテンションの低さは〜!!!!』 「普通やん。 あんたが一番よ-分かってると思うけど?」 『あ〜可愛くないわぁ。笑 相変わらず可愛くない!!!! うん、でも確かにこれが颯やわ。笑 元気してたん?』 「ま-ぼちぼちな。」 『……………っ…。 で、私には聞いてくれへんの?笑』 「だって、その声は紛れもなく元気やろ?」 『はいはい、元気です!!!!』 少し拗ねた様な声のまま、例のアユムという私の元彼に会った話をし出す。 『も〜颯の連絡先教えてってしつこかってんから〜……。 何度教えてその場を切り抜けよ-か思ったけど、絶対颯は嫌がると思ったから3時間かけて断ってんで!! このみめっちゃ偉いやろ? 感謝しや〜ほんま!!!』 「うん、ありがとう。 私いま付き合ってる彼女おるから助かったわ。」
■20413 / inTopicNo.100)  - 123 - □投稿者/ Y 一般♪(19回)-(2007/12/16(Sun) 16:44:10) 『良かった〜勝手に教えんと。。。 つか、彼女って(笑) 彼氏やろ!!(笑)』 「いや………? 彼女やけど。」 『………………へ? 女なん??』 「うん。 女やけど?」 『どっ…どゆ事やねん!? 颯…っ……女の子と付き合ってんの!?!?』 「せやけど。 驚き過ぎちゃう?」 『いやいやいやいや!! 驚くやろ!!!!』 「そか?」 『そうやわ!! あ〜……びっくりしたぁぁぁぁ。 けど別に颯やったらなんかそないびっくりもせ-へん様な…(笑) 昔っから女の子にもモテよったからね、この外人被れちゃんは。(笑)』 「かぶれゆ-か、ハーフやからな。」 『ハーフゆ-か、変人やけどね。』 「やかましわ。笑 いやでも、私ほんまに愛してんねん。 つか、今までの恋愛は別に私好きちゃうかったし。」 『それは知ってる。笑 初恋なんちゃうん? 颯がここまで言う位やし☆ 来月行く時会わして〜や♪』 「え-けど… まなみの調子良かったらな。」 『まなみちゃんゆ〜ねや(笑) 調子って? どっか悪いん??』 私は、福岡に来てから今までのいきさつを このみに全て話した。 そして それを聞いたこのみも全てを理解してくれた。 『このみにも出来る事あったらゆ-てね?』 「ん、さんきゅ。 で?来月誰と来るん?」 ええ奴やねんけど なんしか男癖の悪いこのみの事やから分かりきってはいたが、一応質問形式で話をふると 『えー聞きたい!? なんと彼氏〜♪』 と、予想通りの答えが返ってくる 【なんと】 もなにも…まんまやねんけど。 そっからこのみの惚気話を小一時間聞かされて 『あ!!彼氏から電話きたから切るわな♪ ほなまた連絡するわ〜!!!』 と、電話が切れた。 何一つ変わっていないこの性格だが やっぱり憎めない愛されキャラなのは、絶対に人の陰口を叩かないから。 このみは、人の良い所を見つける天才だ。 私は人の好き嫌いがハッキリしていて、それが思いっきり態度にも出てまうから 昔からそんなこのみを尊敬している。 まなみにも是非会わせたいと心から思う。
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