☆ガールズラブ、百合、ビアンのとっても素敵な小説がい〜っぱい☆
■TIME ∞ LAG -V- □投稿者/ Y 2007/08/07(Tue)
■20580 / inTopicNo.7) - 124 - □投稿者/ Y 一般♪(2回)-(2008/02/19(Tue) 17:34:15) 翌朝 部員達とおはよう、と挨拶を交わす美帆の顔色は優れなかった。 いつも通りストレッチをこなす私にもフラフラと走り寄ってきて 力のない笑顔でおはようと笑い、ほどけかけていた私のバッシュの紐を結んでくれた。 『はよ、ありがと。 顔色悪いな…寝られへんかったんか?』 ストレッチを続けながら 美帆の顔も見ずにそう言うと 「え…っ……ぅん。 今日……言うつもりやけん色々考えよったら寝れんやった。。」 『そか。 ま…色々無理しなや?』 そう言うと、奏音が私と美帆の名前を呼んで 朝練の開始時刻である事を告げた。 その日の朝練中 3on3で美帆がシュートして着地したと同時に、貧血で倒れそうになった所を 後にいた亜希が支えて2人で倒れ込み 美帆が頭を打たずに済んだ分、亜希が右足を傷めてしまった。 亜希を筆頭にマネージャー陣が2、3人寄ってきて、すぐに亜希の足に冷却スプレーをかけたりしたのだが どうやら傷めてしまったのはアキレス腱らしく、しばらく顔を苦痛に歪めて立てずにいた。 美帆はまだ意識が朦朧としたまま床に倒れ込んでいる とりあえず2人を保健室に、と指示すると 奏音ともう一人のマネージャーが亜希に肩を貸し 美帆を残り2人のマネージャーで持ち上げようとするも、持ち上がらずで 結局美帆は私がおぶって運んだ。 保健室で足の処置をしながら先生が 『とりあえずテーピングはしたから、このまま病院に行きなさい。』 と、言う それは、すなわち インターハイ試合に出場できない事を意味していた。 亜希は下を向いたまま少し黙って 『颯。』 と私の名前を静かに呼んだ。 亜希の斜め後ろに立っていた私が返事をすると 『今日任したけん…頼んだばい。』 「……はい。 どーにか決勝まで繋ぎますから。 安心してそれまで休んどいて下さい。」 がっくりと落ちた肩が 小刻みに震えていた。 その時 怪我の連絡が行った亜希の親御さんが保健室に迎えに来た。 亜希にそっくりな ボーイッシュでひょうきんな感じのお母さん 『も〜…あんたは何でいつもこ〜怪我ばっかするかね〜……。 もういい加減少しは落ち着きーよ!(笑)』
■20581 / inTopicNo.8) - 125 - □投稿者/ Y 一般♪(3回)-(2008/02/19(Tue) 18:33:56) 座っている亜也を見下してそう言うと ふと目線を上げ、私に気付き 『あらぁ〜お人形さんみたいやね〜♪ 初めまして、亜也の母です〜♪ こいつ面食いやけん、食べられんように気-つけり-ね-!!(笑)』 と、言って 一人大声で笑っている。 なんとなく この空気が読めないというか… 端から読む気がないあたりが、自分の母にシンクロしなくもない。 「ご挨拶が遅れてすみません。 私は亜也先輩と同じバスケ部で、2年の櫻井 颯といいます。 いつも亜也先輩にはお世話になってます。」 と、挨拶すると 亜也の母は一瞬キョトンとした後 『亜也!! 櫻井ちゃんのこの落ち着き用を見習いなさい!! あ〜お母さん恥ずかしか! ほらっ…行くばい!』 と、自分より少し背の高い娘に肩を貸して 保健室の出入り口に向かい 最後にクルっと振り返り 『じゃ〜ね〜櫻井ちゃん☆ これからも亜也をよろしくね〜♪』 と満面の笑みを浮かべて去って行った。 …………圧巻 まさかうちのおかんに似てる人がこんなに近くにおったなんて。 今度会わせてみよ、うちのおかんと。 さ、朝練戻って調子上げな… キャプテン不在の試合はなかなか際どいし。 『あら、目覚めた? 池田さんが助けてくれて、どうにか頭は打ってないみたいやけど…どっか痛い?』 私も保健室を出ようとした時 奥から先生の声が聞こえた。 あ…せや 美帆もおんねやった。 ベットに近寄ると 『颯ちん!』 と、起き上がろうとする美帆 私はその肩を支えて もう一度ゆっくり寝かせ 「試合勝ってくるから、ちょっと寝とき。」 そう言って 布団をかけ、足のあたりをぽんぽんと叩いて体育館に戻ろうとすると 『亜也先輩はどこ…っ……?』 今にも泣きそうな声が背後から聞こえた。 「念の為一応病院で診てもらってるけど、心配ないで。」 それから 私は自分にできる精一杯の笑顔で振り向き、今度は美帆の頭をぽんぽんと叩いて 「ほな、朝練戻るわ。」 と、小走りで保健室を出る 何も考えないようにして精神を集中させる。 いつもとは気合いが違うのを、自分でもひしひしと感じていた。 さぁ、始めよか
■20582 / inTopicNo.9) - 126 - □投稿者/ Y 一般♪(4回)-(2008/02/19(Tue) 20:10:53) これまで自分の欲でしかなかったバスケを 今は少なくとも 亜也の為、美帆の為 そして、私の帰りを待ってくれてるまなみの笑顔の為に 必ずこの試合を勝ち抜く意欲に溢れていた。 人に興味のなかった頃の私が見たら さぞ驚く事だろう なぜこうも変わった…いや、変われたのかは十分に理解しているつもりだ それは紛れもなく 愛を知ったから。 愛を教えてもらったから。 ホイッスルの音とともに 幼い頃から追いかけ続けてきたボールが高く上がる そのボールを掴み取り 私は無心で戦った。 試合終了のホイッスル音ではっと気が付くと 奏音が泣きながら走り寄ってきた。 『さくらぁ〜……。』 あ-……あかんかったんかな。 『ありがとう! 本当にすごかった!! 今日のさくらは怖い位すごかったよ!! こんなベスト4の試合見た事ないよ〜。。。』 今の私が知りたい事はひとつ… 「勝ったん?うちら。」 肩にかけられたタオルでびしょ濡れになった髪を拭きながら問う 『え…何言いよーと!? 点数見てみーよ!』 そう言って奏音の指が指した方向を見ると 56―0 目を疑った。 どんな試合だったかは全く覚えていないけど とにかく 私は約束を果たせたらしい。 気が抜けると 体にどっと疲れがきた そのまま床に寝転んで 顔にタオルをかけ 目を閉じて、ゆっくりと深呼吸をする。 奏音が「ドリンク持ってくるね」と走っていく音が遠ざかると同時に 激しい眠気に襲われて 私は、その眠気に身を委ねた。 目が覚めた時 今度は私が保健室のベットにいて 私を心配そうに覗き込む部員達の顔があった。 そこには足の治療を終えて戻ってきたらしい亜也もいて 『試合には間に合わんやったけど、話は嫌になる位皆に聞かされた!! さすがディゾンや〜!! 決勝までには復活してみせるけん、もう一試合頼んだばい?』 「おはようございます。」 そう言って起き上がり、あくびをしながら大きくのびをすると 『人の話聞いとるん!?(笑)』 と頭を小突かれた。
■20583 / inTopicNo.10) - 127 - □投稿者/ Y 一般♪(5回)-(2008/02/20(Wed) 00:46:18) 人の集中力というのは時として悍ましい らしい。 確かにこんなに頭と体を酷使した事はなかったかもしれない。 『ディゾン、お腹すいたやろ? ラーメンおごっちゃる♪』 という亜也のお誘いを丁重にお断りして、私はまなみの元へと急いだ。 病院に着くと 人工呼吸器も外れたという事で、また元の個室に移されていたまなみ。 ノックをして入ると、ハラハラした面持ちで私を見つめるまなみ。 そんなまなみに近寄って、頭を撫でながら 「大丈夫です。 勝ってきましたよ。」 と微笑むと 『知ってる。。 颯がミラクルプレーしたって奏音が興奮しながらメールしてきたよ?? あと、亜也の怪我と美帆の貧血の事も聞いて…… で……颯が倒れたって聞いて、私いても立ってもおられんくなって………学校行こうとしたけどダメって言われて…っ。 怖くて、不安で… 私ヨワムシやねぇ。。 でもっ…颯…っ…の顔見た…ら…っあ…安心……じだぁぁぁ〜。。』 と言い切ると 子供みたいに泣きじゃくるもんやから なんか…可愛いくて 笑ってもた。 「何を泣く事があるんですか。笑 普段使わない頭を使いすぎて眠くなったんで寝ただけですから、心配いらないですよ? ほら、こっち向いて。」 まなみのあごを持って顔を上げると、一瞬笑ったかと思えばまた顔をくちゃくちゃにしながら涙を流した。 私はそんなまなみの涙を拭って 体温を伝えるように、優しく優しくキスをした。 やっと落ち着いたのか、一度唇を離したまなみが幸せそうに笑って もう一度 自分からキスをしてきた。 いつも思う事。 スイッチが入った時のまなみのキスはエロい。 舌の使い方はもちろん 手の回し方 息遣い 合間合間で小さく漏れる声 全てが私の第六感を刺激する。 『先輩、待って。』 「先輩じゃない…。」 『まなみ、ちょっと待って。』 「いや…。」 どうしたんやろう 今日のまなみは いつに増して熱い。 『止まらんくなったらどないしてくれるんですか。』 するとまなみが私の手をとって、自分の左胸に当てた。 柔らかい感触のその奥でまなみの鼓動が激しく、早く動くのが分かった。
■20585 / inTopicNo.11) - 128 - □投稿者/ Y 一般♪(6回)-(2008/02/20(Wed) 02:02:12) 『こんなに激しく動かさないで下さい。 また発作が起きたら苦しいですよ…。』 そんな事を言いつつも 本当は、私も同じ位ドキドキしていた。 そして、自分と同じ様にまなみもドキドキしている事が 少しだけ、嬉しかったのも確かだ。 「もっと… どきどきしたい。 颯に…どきどきしたい。」 ずるいって。 私はまなみを抱き締めて頭を撫でながら 必死に理性を保つ為に自分の本能を抑えた。 『颯にね、頭撫でられるの好きっちゃん。 一番安心する。』 「じゃあ、一緒に住んだら毎晩撫でてあげますよ。」 『ケンカした日も?』 「毎日です。 なんなら、今ここで誓いますよ?」 『信じる。 颯は、嘘つかんもん。』 「ケンカ…するんですかね? 私達。」 『そう言えばした事ないね。(笑) 颯にはイラっとした事すらないなぁ… 颯は?実はイラっとしても我慢してる事とかある?』 「ないですね。 先輩はいつでも私の味方でいてくれてますから。」 『それはこっちの台詞やけん。 正直、入院してると誰にも会いたくない日があるっちゃけど… そんな時でも、颯にだけはいつでも会ぃたぃもん。』 「嬉しい事ゆ-てくれますね。」 『本当だよ?』 抱き合ったままで そんな話をした。 私の胸元で 『颯の匂いやぁ。』 と言って嬉しそうにしているまなみの体は 悔しくなる程にか細くなっていて まるで子供を抱き締めているようだった。 『さ、先輩 横になって。』 そう言ってベットに寝かせると 「え…もう帰ると……?」 と、子犬の様な目で私を見つめるまなみ。 『一回帰ってお弁当作ってきます。 なにが食べたいですか?』 すると目を輝かせて 「ほんとに?? やったぁ! 何でも食べたいけど。。。 じゃあね〜…美味しいスープが飲みたい♪ あとはお任せっ!」 と言って両手を広げた。 私はもう一度まなみを抱き締めて 「いい子で待っててください。」 と言うと、荷物を持ってドアへ向かう。 『颯…っ。』 振り返ると 不安そうな顔をしたまなみが 「寂しいけん、はよ帰って来てね?」 と手を振りながら言った。 はい、と微笑んでドアを出た途端……
■20586 / inTopicNo.12) - 129 - □投稿者/ Y 一般♪(7回)-(2008/02/20(Wed) 03:04:42) まなみの前で耐え抜いた涙が溢れた。 ドアからベットの距離で見たまなみは 元々華奢な体が 更に小さくなっていて 真っ白できれいだった滑らかな肌は 顔は青白くなり、腕には無数の注射痕が赤紫色に腫れ上がっていた。 一番辛いのは、まなみだ。 私が弱ってどうする 両手で頬を叩き、ふっと息を吐き出す。 帰り道 小さな男の子が私に走り寄ってきて 『オトシモノ。』 と、私に小さな紙を渡して走り去っていった。 折り曲げられた紙を開くと あいしてる そう書かれていた。 見覚えのない字だが 本当に私が落としたのならば きっとまなみがいつか鞄にでも入れておいたんだろう。 私はそれを今後なくさない様に、財布に大事にしまった。 家に着いて 消化にいい様、野菜を小さく刻んで入れたミネストローネを煮込みながら、柔らかくてすんなり食べれるであろうリゾットを作っていると 結希から電話がかかってきた。 『もしもし。』 「あ、もしもし颯ちゃん? おいら、ゆ-きやけど分かるかいな。」 『はい、分かりますよ。 こんにちは。』 「今日すごかったらしいや〜ん♪ 今、亜也と一緒におるんやけど、興奮しすぎとって手におえんよ(笑) おめでとう☆」 『ありがとうございます。』 「あ!!そんでね? さっき清水ちゃんに電話して、例の颯ちゃんが姉ちゃんの病室に泊まれんかどうかの話してみたっちゃん。 そしたらあっさりOKでたけん、是非今日と明日ごゆっくり〜♪ てな事で、姉ちゃんはまだ知らんけん宜しくちゃ〜ん!」 『ほんまですか?』 「うん、嘘ついてどーするとよ(笑) 今日頑張ったご褒美やね!!」 『あの…ほんまありがとうございます!』 電話を切って、適当に何着かの服を持ち 出来上がったスープとリゾットを魔法瓶の水筒に入れ 病院へと走って戻った。 ハァハァ…と息を切らし病室に入った私に 『早かったね? でも、そんなに急かしたつもりはなかったんやけど…ごめんね(笑)』 とケラケラ笑いながらベットから出て私に近寄るまなみ。
■20587 / inTopicNo.13) - 130 - □投稿者/ Y 一般♪(8回)-(2008/02/20(Wed) 03:48:57) 「あ…いや。 私が早く会いたかっただけです。 歩いて大丈夫なんですか?」 息を落ち着けながらそう問うと 「こんくらい大丈夫よ。 颯ってば、心配しすぎ!」 と、抱き付いてきた。 この週末が終わると7月に入る。 今年は暑くなるのが早くて、病院の中はもうほんのり冷房が効いていて 汗をかいた私の体に心地よく冷たい風が当たる。 私とまなみは2人掛けのボックスソファーが小さなテーブルを隔てて二つ置いてある双方に向かい合う様に座り まだ夕方の5時だが 昼食を食べなかったというまなみに、スープとリゾットを持ってきた紙皿に移して出した。 久し振りに食べる颯の料理だ♪ と、ウキウキしながら匂いを嗅ぐまなみ。 いただきます! と、手を合わせて それはもう美味しそうに完食してくれた。 『まだありますけど、後にしましょうね。 そんな急に沢山食べたら、胃がびっくりしてしまいますから。』 「うん! 颯っ…めっっっちゃ美味しかった!! 本当にありがとう☆ 一緒に住んでも、料理は颯が作ってね(笑)」 そんな事を言いながらこっちのソファーに移動して、私の方を向くようにチョコンと膝の上に座る。 『たまには作って下さいね。 私も先輩のポトフとか食べたいですから。』 膝の上に乗っても、まだ私より頭の位置が低いまなみの顔を覗き込むと 「ポトフ以外も作れるように練習せないかん(笑)」 といたずらに笑い 自分の作れる料理のレパートリーを指折り数えていた。 軽い重みを膝で感じて それをどうしても失いたくなくて 手放したくなくて 何も考えずに 【今】だけを感じたくて そのまま まなみを抱き上げ 『散歩に行きませんか。』 そう言って 驚いているまなみをしっかりと抱き直し そのまま いつか一緒に福岡タワーを見た屋上へと連れて行った。 『お姫様だっこ… こんな年なのに恥ずかしい。』 なんて言ってるまなみに 「まだ高校生じゃないですか。」 と突っ込むと 『それ…嫌味?』 と鼻をつままれた。 外はちょうど日が沈む頃で 夕焼けの街が嫌になる位に綺麗だった。 そして オレンジに染められた私の生きがいは 腕の中で静かに目を閉じていた。
■20589 / inTopicNo.15) - 131 - □投稿者/ Y 一般♪(10回)-(2008/02/20(Wed) 04:37:33) そのままいたのは 2、30分だっただろうか。 蒸し暑い位だが、少し風が強くて まなみが着ていたのが薄手のパジャマだったので、病室に戻る事にした。 腕は ビックリする位に全く疲れていなかった。 動こうとした、その時 『連れてきてくれてありがとう。』 と、まなみが私の首に絡められた腕に力を入れた。 「綺麗でしたね。」 そのまま まなみのおでこにキス。 すると まなみが私の首筋にキス。 一瞬力が抜けそうになり、危うくまなみを落としそうになった。 『先輩、危ない。』 「だってしたかったんやもん。」 反則の上目遣いで見上げられると さっき抑えたばかりの欲望が、また私の頭をチラつき出す。 病室に戻っても 窓際に立ちながらまだ夕日を眺めているまなみに後ろから腕を回し まなみは回された私の腕を両手で握る。 まなみの頭の高さは ちょうど私のあごの高さで 頭にあごを乗せていると、まなみが 『颯、また背が伸びたっちゃない?』 と、前を向きながら穏やかな声で言った。 「そ-かも分かりませんね。 伸び盛りなんで。」 と言って、今度は私が後ろからまなみの首筋にキスをした。 まなみの体がビクン…と動いて 私の腕に頭を寄せる 私はもう一度 今度はなぞる様に細くて長い首筋を舐めた。 甘い吐息が漏れる 耳たぶを軽く噛んでみると 吐息は声に変わった。 そのまま手をまなみの柔らかい胸に移動すると、さっきよりも強く心臓が高鳴っていた。 『苦しくなりそうになったら、絶対に言って下さい。 いいですか?』 耳元でそう言うと まなみはもうそれだけでも感じてしまう状態で、やっとの事で首を縦に2回振った。 首や耳を愛撫しながら 胸に置いていた手をゆっくりと動かす その内まなみは立っていられなくなり また抱きかかえて さっきのソファーへと運ぶ 今度は正面から 鎖骨や手の指などを愛撫 まなみの息が上がってくると クールダウンの為に 濃厚で愛の溢れるキスをした パジャマのボタンを一つ、二つ…外していき 現れた綺麗な体に 挨拶代わりの軽いキスを重ねていく。
■20590 / inTopicNo.16) - 132 - □投稿者/ Y 一般♪(11回)-(2008/02/20(Wed) 05:08:05) ここは病院 いつ誰が入ってこようが不思議ではない。 ましてや 今はまだ消灯の時間にもなっていなければ 面会の時間だって過ぎてはいない でも、私達は止められなかった。 久し振りに感じるお互いのありのままの体温が、常識など打破って そのスリルさえも快感に感じてしまえる程だった。 何度まなみが頂に達したのかは分からない。 十分すぎるほど愛し合った2人は、冷房が効いた部屋でも汗をぐっしょりかいていた。 まなみは放心状態で私にもたれかかり、幸せな時間の余韻に浸っている 『ちょっと待ってて下さいね。』 まなみの新しい替えのパジャマと、お湯で濡らしたタオルを持ってソファーに戻ると まなみは満たされた顔で眠っていた。 起こすのは可哀相だが、汗をかいたままの状態で冷房に当たって風邪をひかれては困るので 温かいタオルで体を拭いて、パジャマを着替えさせた。 幸い、起こさずに済んだようだ ベットに運んで布団をかける。 テーブルの上には、屋上に行っていた間に運ばれてきたのであろう カピカピになった病院の夕食と薬が置いてある…… 食事はともかく 薬は飲ませなあかんよな。。。 とても気持ち良さげに眠るまなみの寝顔と薬を何度か見比べて やはり一瞬だけでも起こして薬を飲ませる事にした。 『先輩。 ……せ-んぱい。 まなみ。』 うっすらと目を開けたまなみが私の顔を見てガバっと起きる。 「私…ごめ…っ…… 寝ちゃった!! せっかく颯と一緒にいれる大事な時間やのにぃ………。」 そう言って俯くまなみに 『そりゃあれだけ疲れる事すれば眠くもなりますよ。』 と声を掛けると 「ちょ……っ…! 颯のバカぁ………。」 と、耳を真っ赤にし 両手で顔を覆っていた。 『先輩、薬飲んで下さい。 食後30分以内て書いてますから… なんかちょっと口にできますか?』 「颯のゴハン。。」 『はい。 じゃあちょっと待ってて下さいね、用意しますから。』 さすが魔法瓶 まだ湯気が立つ程に全然熱いままのスープとリゾットを病院食の隣に置く 『どうぞ。 熱いから気を付けて下さいね。』 「一日ニ食も颯のゴハンなんて幸せすぎ!」
■20591 / inTopicNo.17) - 133 - □投稿者/ Y 一般♪(12回)-(2008/02/20(Wed) 05:43:12) そんな事を言う割に 一向に手を付けようとしないまなみ。 不思議に思って まなみの顔を見てみると 私と目が合うなり にっこり笑って 口を開き、あ-んと言って甘えてきた。 『先輩…。 お姫様だっこなんて恥ずかしい…とかゆ-てませんでしたっけ?』 「ん〜…だって。 あんな事した後ってなんか甘えたくなるっちゃもん。。 一回だけ!……ね?」 『そんなもんなんですか?笑』 「そんなもんやでぇ〜(笑)」 ムリヤリ真似た関西弁は、妙にうさん臭かったけど やけに可愛くて 『はい、口開けて下さい。』 「やった♪」 やってもた 完敗ですわ。 こんな姿 おかんやこのみが見たら目を丸くして固まってしまうやろう。 いや、むしろ 過去の自分が見てもきっと信じてもらえへんやろうな。 そんな事を考えながら、気付けば結局最後まで食べさせてあげた激甘な私 人間ここまで変われるもんやねんな。 突然ふっと漏らした笑いに まなみが 「颯、気持ち悪いよ(笑)」 と突っ込む 『自分でも気持ち悪いです。』 と答えて薬を渡す。 まなみはそれを受け取って飲むと 私があげた腕時計で時間を確認して 『もう時間だ。。』 と寂しそうに呟く。 「そうですね。 そろそろ時間ですね。」 と言ってあっさりと立ち上がる私に 『私ばっかり寂しいみたい……。』 と頬をふくらます。 私は微笑んで 簡易ベットを取り出す え………? と驚くまなみに 『二日間ここにいますよ。』 と告げると 「なんで!?」 と状況を飲み込めないまなみがセッティングした簡易ベットに飛び乗ってくる。 いきさつを説明すると 『嘘じゃないよね?! もう私…死んでもいい!!』 とか言いながら抱き付いてきて 「そんな事ゆ-なら、私帰りますよ。」 という私のイジワルに 『嘘っ…!! 嬉しすぎて寿命が10年延びた!!』 と焦って弁解していた。 その夜まなみは 興奮からか、なかなか寝付かず 狭いね〜…なんて言いながらもずっと簡易ベットから出ずにくっついていた。 やっと寝息が聞こえてきた後 私も久し振りにまなみを抱き締めて眠れる幸せをかみ締めながら穏やかな眠りについた。
■20597 / inTopicNo.20) - 134 - □投稿者/ Y 一般♪(14回)-(2008/02/21(Thu) 17:43:24) 3時間ほどで目が覚めた私は まなみをベットに移して、簡易ベットをしまい 一服しに屋上へと向かった。 携帯の電源を入れると、留守電が入っていた。 内容はおかんからで 一言だけのシンプルな伝言だった 【どこいてんの〜?】 そうや おかんに何も言わんと来てたんやった。 時間を確認すると、まだ朝の5時 メールにしとこ 【送信メール】 宛先:おかん 件名:無題 本文:ごめん。 この週末は泊まり込みでまなみの病院におるわ。 一応○○病院やから。 ―送信完了― 煙草に火をつけて 思いっきり吸い込む。 ゆっくりと吐き出した白い煙が、晴れ渡った空に消えていく。 朝独特の匂いと 忙しく鳴きながら飛び回る鳥の声 金色に輝く太陽の光が徐々に強くなるのを ただぼーっと眺めながら 最高においしい煙草を味わった。 部屋に戻ると スヤスヤと眠る愛しい人がいて しばらく眺めていると ヘラっと笑った。 何の夢見てるんやろ… 不思議 こうやって見ていると まなみがいなくなってしまうかもしれない…なんていう不安など 全く考える事ができない。 私の根拠のない自信は、昔から突拍子もなく現れては現実化されていく。 今もそう まなみは絶対死なない、という自信がふつふつと心に湧いてきて きっとそうなるであろう未来を信じる事が出来る。 もちろん 根拠なんてこれっぽっちもないけどね。 それにしても 綺麗な顔立ちやな… 寝てるだけなのに どことなく色気が漂う感じなんかが いつもはすっかり忘れている4つの歳の差を思い出させる。 まなみは、時々その事を気にしてはため息なんてついて大袈裟に落ち込んだりしてるけど 私はこの歳の差を 二人にとっての枷だと感じた事は一度もない。 頬にそっと触れてみる 温かい。 安心しや…まなみ 怖いもんなんて 私が全部とっぱらったげるから。 静かに目を開けたまなみが、頬に当てられた私の手を握ってこう問う 『颯……眠れんやったと?』 「すごく安眠できましたよ。」 『私も。 ここは病院で、私は病気だって事… 忘れられた。』
■20601 / inTopicNo.21) - 135 - □投稿者/ Y 一般♪(15回)-(2008/02/22(Fri) 03:22:05) 「先輩、もう少し寝といて下さい。 いくら寝てもちゃんと私ココにいますから。」 『時間が勿体ないけん寝たくなぃ……。』 ベット脇に座った私が きっと困った顔で笑ったのだろう 『はぁい。。。』 と言って 頭まで布団に潜り込むまなみ。 しばらくすると そっと目だけを出して 『1時間したら起こしてね…?』 と言うと 目を閉じてまた眠りについた さ…私ももう一眠りするかな。 ソファーに深々と座り 足も手も組んで ゆっくりと墜ちてくこの感じ…… もうすぐで現実世界を遮断する… という瞬間に トントン…… 『おはよ〜さん♪』 ノック音とともに 清水ナースの朝を告げる爽やかな声 手には朝食のトレーを持っていた。 「おはようございます。」 ソファーから立ち上がり、トレーを受け取ると 『なんね!? 櫻井さんそんな所で寝たんね?! 簡易ベットあるの分からんやった?(笑)』 「あ、いや。 さっきまで簡易ベットで寝かせていただいてました。 ソファーは二度寝です…苦笑 というか、宿泊許可本当にありがとうございました!」 『いやいや、許可出したんは先生やけん私はお礼言われる筋合いないよ! まなみちゃん、喜んどったやろ?』 「はい…想像以上にはしゃいでました。 昨晩も興奮してるのかずっと喋っていたんで、実はまだ彼女そんなに寝てないんです(笑)」 『私からしたらずっと喋っとーのはいつもと一緒やけどね!(笑) まなみちゃんは最初人見知りするタイプやけん、私以外のナースともなかなか打ち解けれんでねぇ。 私が周りのナースにまなみちゃんには櫻井さんの話ふってみ! って教えて、実行してみた所大正解(笑) ただお陰様で、普段は寝ても起きても櫻井さんとの惚気話★ 独身のナースがね、櫻井さんなら格好いいけん私も抱かれた〜い♪…なんて冗談で言った時なんか…まなみちゃん真に受けちゃってそりゃも〜大変やったんばい!!!』 そんなに毎日話に上がる程の話題性なんかないと思うねんけどな、私。 「なんか… すみません。(笑)」 すると 清水さんは笑いながら 『それまなみちゃん起きたら食べさせといて! あ、あと薬も忘れずに★』 と言って部屋を出た。 ………………… 「起きてるの知ってますよ、先輩。」
■20605 / inTopicNo.22) - 136 - □投稿者/ Y 一般♪(16回)-(2008/02/22(Fri) 04:25:31) 顔は出さずに 『やっぱり…?』 という小さく籠った声だけが聞こえる そっと布団をめくってみると 照れたような笑顔を見せて、起き上がった。 「ご飯、食べれそうですか?」 『んぅ〜…まだ入らんかな。。 ちょっと気持ち悪くて……。』 「え…大丈夫ですか?」 まなみの横に座り、背中を擦ると 頭を私の胸にコテン、と寄せて 『なんで好きな人の手って楽になるんやろう。。。 すごく楽……ありがとう。』 「朝飯前ですよ。」 『………ぷっ。 颯もそんな事言うんやね(笑)』 「あの…ボケたわけちゃうんで、そのスベッたフォローみたいなコメントやめてくれます?」 『ふふ。 あ〜幸せな朝……。』 しばらく擦っていると、大分気分も良くなった様で スープを少しと 果物を食べて、薬を飲んだまなみ。 えらいえらい、と頭を撫でると 一瞬 してやったり顔をした後に、くしゃっと笑った。 窓を開けると気持ち良い風が吹いてきて まなみを見ると 遠い目で空を眺めていた。 「先輩、散歩に行きましょう。」 歩くというまなみを半ば強引に車椅子に乗せ 病院の中庭へとやって来た。 『気持ちいぃぃぃ〜!! やっぱ外はよかね〜♪』 向日葵みたいな顔で笑うまなみ。 自販機で買ったコーヒーと苺ミルク 草の上に並んで座り やっぱり朝はこれでしょ、なんて言いながら幸福な時間を味わう。 まなみの膝に頭を乗せて寝転んでみる。 優しく頭を包み込んでくれる手 まなみの匂い ご機嫌そうに鼻歌を歌うまなみの澄んだ声が、たまらなく耳に心地良く響く。 「愛してる。」 この世界で一番優しい歌が途切れない様に 心の中でそう言うと 鼻歌を終えたまなみが 「私も愛してるよ、颯。」 と言って私の頬を撫でた。 究極の愛しい想いは 言葉なくしても伝わるもんなんや…… 「ありがとうございます。」 まなみを見上げると 笑顔のまんま 泣いていた。 きっとこの涙には幸せと不安がぎっしり詰まっていて どうした?と私が聞いた所で 言葉なんかじゃ説明できない心境だろう。 今はただ 何も言わず このまま抱き締められていよう。
■20606 / inTopicNo.23) - 137 - □投稿者/ Y 一般♪(17回)-(2008/02/22(Fri) 06:36:44) 『颯。』 「はい。」 『今、私の事考えてる?』 「はい。」 『私も、颯の事考えよるよ。』 「はい。」 『ねぇ…颯。』 「はい。」 『死にたくない。』 「…………うん。」 『足りない、時間。』 「うん。」 『颯が、違う誰かを愛したら嫌だ。』 「うん。」 『耐えれんよ。』 「うん。」 『苦しいね。』 「うん。」 『不公平やね。』 「うん。」 『ひどいよね。』 「うん。」 『怖いね。』 「うん。」 『離れたくないね。』 「うん。」 『颯…寂しい?』 「うん。」 『毎日思い出す?』 「うん。」 『絶対忘れない?』 「うん。」 『颯がおばあちゃんになったら、私が迎えに来るけんね。』 「うん。」 『それまで、絶対死んじゃいかんよ?』 「うん。」 『せめて……』 「うん。」 『せめて、もう女の子とは付き合わんで。』 「うん。」 『本当に?』 「うん。」 『私、最後の女ってやつ?』 「うん。」 『ハワイ行きたいね。』 「うん。」 『でも、しょうがないけん別府温泉でもいいや。』 「うん。」 『外出許可出たら行こうね。』 「うん。」 『約束。』 「うん。」 『颯ってバイクの免許とか持っとーと?』 「うん。」 『中免?』 「うん。」 『へぇ〜!初耳!! んじゃ、私のバイクあげるよ。』 「…うん?」 『イカツいよ(笑)』 「うん。」 『ビックリしたい?』 「うん。」 『私、そのバイク半年前に衝動買いしたんやけど…まだ乗った事ないっちゃん。』 「うん。」 『だってね。』 「うん。」 『私、バイクの免許持っとらんもん。』 「………うん。笑」 『今、バカにしたやろ?』 「うん。」 『やっぱり! でもい-もん、後ろ乗れれば♪』 「うん。」 『私以外の女の子乗っけたら呪うよ?』 「うん。」 『嘘だよ。(笑)』 「うん。」 『愛してる。』 「うん。」 『愛してる?』 「うん。」 『そろそろ黙って欲しいやろ?』 「うん。」 『じゃあ…黙らせてみて。』 「うん。」 『キス…… 上手になったね。』
■20607 / inTopicNo.24) - 138 - □投稿者/ Y 一般♪(18回)-(2008/02/22(Fri) 07:26:28) いつの間にか もう太陽は高々と昇っていて 部屋に戻り 時計を見てみると もう11時を過ぎていて お腹が空いたので、病院の中にあるコンビニでサンドイッチを買ってきた。 もうすぐまなみにも昼食が運ばれてくるだろうから そしたら一緒に食べよう。 他愛もない会話を続けていると、部屋の扉がノックされた。 『は〜い。どうぞ?』 「お邪魔しま〜す! お〜まなみ〜♪ ご機嫌いかが〜?」 めっっっっさ 聞き覚えのある声 振り返ると そこにはおかんと森田さんの姿があった。 『颯ママ!! 来てくれたんや!!』 「はい、これお見舞いな〜♪ ど-せ病院食なんてまっずいやろうから、お昼ごはんにど〜ぞ。 ここのカツサンドはイケるで〜!!」 『わぁ〜ありがとう♪ 嬉しいね、颯!!』 「おかん今から仕事?」 『今日は検診してきたんや。』 「どこで?」 『ここでやんか。 まさかまなみが入院してる病院が同じやとは思わんかったわ〜! これから検診の度に顔出すからな♪』 「おかん通ってんのもここやってんや。 ど-なん?弟は順調?」 『毎日蹴られまくってるわ(笑) あんたん時は全く動かへんかったから初体験にビックリしてる! あ、せや。 まなみ、この人が私の新しい旦那さん♪』 「あ…颯から話は良く伺っていて、会いたいとずっと思ってました。 初めまして、早川 まなみです。」 『こちらこそお会いできて嬉しいです! 森田です!!』 「颯ママの事幸せにして下さいね? てか…颯の弟くん、もう7ヶ月やんね?! 予定日はいつ??」 『10月7日やで♪』 「10月かぁ〜! 見れるといいなぁ。。♪」 一瞬…… 部屋の空気の間が崩れる 「……あ…っ…ごめんなさい!!」 一番に口を割ったのはまなみ 『見れますよ。』 とだけ言った私に まなみは 「颯が見れるって言っとーけん、見れます♪」 と、2人に笑いかける。 そこからいくつかの取り留めのない会話をし、おかんと森田さんは笑顔でまたね〜、と帰って行った。
■20611 / inTopicNo.27) - 139 - □投稿者/ Y 一般♪(20回)-(2008/02/23(Sat) 05:55:48) 『気使わせちゃったな。。』 と軽くヘコんでいるまなみに 「あの人は少し位気を使う練習しなあかんから良いんです、人の親になんねんから。 でも先輩、一つだけ。 先輩は死なせません。 どんな未来を描いたっていいんです。 どんな希望を持ったっていいんです。 私が必ず叶えてみせますから。」 『もう人の親やんっ…! 確かになんか颯の方がお母さんっぽいけど(笑) 颯の言葉ってさ、温かいね。 私、本当に怖くなくなるんよ?』 固く、固く手を繋ごう いつか一つになれてしまうんじゃないかっていう位キツく。 そして おかんが持ってきたカツサンドを2人で食べながら 生まれてくる新しい命の話をした。 『颯に似てるかな?』 「ん-…どうでしょう。 ハーフじゃない訳やし、元々私は母親似じゃないですからね。」 『じゃあ似てないかな。(笑) 森田さん…優しそうな人やったね。』 「はい、おかんに絶対服従する日本犬って感じです。」 『そう言えば…犬顔やね。』 「顔ちゃいますよ。笑」 『颯…一人で寂しくない?』 「寂しいですよ。 一人だからじゃなくて、先輩がいてないからですけどね。」 『フランス人や…。』 「甘いですか?」 『うん、でも颯が言うと何故かいやらしくないというか…自然っちゃんね。』 「そりゃ本音ですからね。」 照れたのか 食べかけのカツサンドを一気に頬張るまなみ 案の定、噎せて 顔を真っ赤にしていた。 昼下がりの時間はゆっくりと流れて 部屋に差し込む暖かい光があたるソファーで話しているうちに いつの間にか2人して昼寝をしていた 肌寒くなって起きると 外は赤一色で 肩にもたれているまなみの顔に触れると、少し冷たくなっていた。 タオルケットを取りに行こうと、頭をそっと上げてみたが 目を覚ましたまなみが小さなあくびを漏らしながら 寝ぼけ眼で私の名前を呼ぶ 「ごめんなさい、起こしました? 体が冷えてたんでタオルケット持って来ようと思ったんですけど、どうせならベットに移動しましょうか。」 『くっついてたい。 それにもう、眠たくないよ?』 ふいに後から抱き付かれ 時間差でまなみのぬくもりと香りがやってくる。
■20612 / inTopicNo.28) - 140 - □投稿者/ Y 一般♪(21回)-(2008/02/24(Sun) 04:06:40) 背中から静かに ゆっくりと流れ込んでくる愛 部屋中が幸せで満ち足りているのが分かる 言葉なんていらない 例えば 目がみえなくなっても あなたの声が聞ければいい 例えば 耳が聞こえなくなっても あなたの顔が見えればいい もし どっちも失くしたとしても あなたと私がいればいい 触れられれば それでいい 本当にあなた以外なら 自分の何を失ってもいいんだ 「まなみ。」 『………ぇ? 今、まなみって……。』 「愛してる。」 『―……私も。 心から愛してる。』 私は振り返り 強く抱き締める。 その反動で 一つに縛っていた髪が解けて まなみは床に落ちたゴムを拾い 座って…と、私をベット脇の丸椅子に腰掛けさせたかと思うと いつかの様に 手櫛でまとめ上げてくれた。 ずっとずっと昔の様 『よし、できた♪』 「ありがとうございます。」 『いいなぁ〜…颯はオールバックが似合って。 私は富士額やし、おでこ広いしなぁ。』 ベットの上で不満気な顔を浮かべるまなみ 「オールバックって…。 先輩も似合いますよ。」 今度はまなみを丸椅子に座らせ 予備でいつも腕につけていたゴムで同じようにまとめてみる。 整った顔が良く見えて綺麗なのに なかなか目を見てくれないまなみに 「こっちもめっちゃ綺麗ですよ。」 と言うと 『嘘やぁ…。』 と更に俯く いつもの柔らかいフェミニンな感じもまなみによく似合っていて素敵だけど こういうクールな感じもそれはそれで本当に良い 肝心な時に口下手なのは辛い。 私は携帯を開き、カメラを起動させると 「笑って。」 と、まなみの横にならんでレンズを向けた カシャ… 撮れた写真を見ると そこには 慣れない堅い笑顔の私と 照れ笑いのまなみが 顔をくっつけていた。 「ほら、綺麗でしょう?」 『そうやかぁ…。 変じゃない?』 「全然。 本当に素敵です。」 『ん〜…颯がそう言ってくれるんやったらいっか♪』 「そうですよ。」 ここだけの話 まなみは気にしているけど、この広いおでこが私は大好きだったりする。
■20622 / inTopicNo.29) - 141 - □投稿者/ Y 一般♪(22回)-(2008/02/25(Mon) 17:04:39) 今日は昼間に 病院の夕食を抜いてもらう様に頼んでおいたので 病院近くのお弁当屋さんで買って来た そして それを例の屋上のベンチで食べた。 こんなに一日中喋っているのに なぜ話が尽きないのだろう。 私はまなみと出逢ってから既に、去年一年分以上の言葉を発しているだろう。 大阪の人間も熱いけど 九州の人間もかなり温かい ほんまに、素敵な所やと思う。 あまりに綺麗に浮かんだ三日月を見つけて 二人に訪れた心地良い静寂 ふいに私のパーカーの袖を掴んだまなみ その振動で 手に持っていた煙草の灰が落ちる 隣のまなみを見ると 袖を持ったまま 目を閉じている 「どうしました? 具合悪いですか?」 『ん-ん、全然平気。 なんか…なんでか自分でも良く分からんっちゃけど、颯が。。どっかに消えてしまいそうな気がしたと……。』 「私がですか?」 『うん……何故か今も嫌な予感みたいな感じで心臓がやけにドキドキしとって。。 怖い…。 どっこも行かんで… 颯…どっこも行かんでね……?』 そう話しながら まなみの手が小さく震え出し その内 体全体を激しい震えに襲われている 息も少し乱れ出して もはや一人では座っていられない状態に…… 私はまず まなみを膝に乗せてしっかりと抱き締め 背中を擦りながら深呼吸をする様に誘導した 「先輩、大丈夫ですからね。 私ここにいますから。 一緒に呼吸しましょう はい、ゆっくり息吸って… はい、全部吐いて… 上手ですね すぐ楽になりますからね。 もう一度ゆっくり息を吸って? 吐いて……。 もう一度… もう一度…。」 徐々に震えがおさまり 呼吸が整って 『颯……。』 と私を呼びながら ぐったりとしている 私は、焦る自分を必死に抑えつけて 出来るだけ穏やかな声でまなみに話しかけながら 抱いたまま立ち上がり、急いで病室へと戻った。 ベットに寝かせ ナースセンターに行って清水さんを探した。 ちょうど巡回から帰ってきた清水さんが私に気付き どうしたと…?と私の顔を覗き込むなり、事態を察知して こちらの返答も聞かずにまなみの病室へと走り出した。
■20713 / inTopicNo.32) - 142 - □投稿者/ Y 一般♪(24回)-(2008/03/06(Thu) 20:21:57) 部屋に入り、手首を持って脈を取った清水さんは 小さく息をついて 私の方を振り返り 『大丈夫よ。 今は落ち着いて寝とるだけみたいやけん心配せんでよかよ。』 そう告げた後 念の為に血圧を測り、正常を確認すると 部屋を出て行った。 良かった…… 胸を撫で下ろしたはずなのに まだ頭に心臓があるかの様にバクバクいっている。 私はまなみに近付き ベットに腰掛けて そっと一回頭を撫でた 手が震えている 心も同じように震えている 私が猶予だと思っている【半年】なんてものは、あってないようなもので 冷静に考えれば 人間は皆 明日を迎えられる保証なんてないのに 少なくとも どこかであと半年は…なんて想いに固執して 今2人が置かれている状況を受け入れる事を拒んでいたんやろう。 それと同時に 病気になってからの数年間 ずっと一人で色んな葛藤と闘い続け 毎日…また一つ新しい朝を迎えられた喜びをかみ締めて生きてきたまなみを 私を必要だと言ってくれるまなみを 愛してくれるまなみを 今、この時を一緒に生きてくれているまなみを 本当の意味で支える事なんて、きっとできていなかったんだろう。 「ありがとう。」 顔を近付けて 唇が触れ合う寸前 まなみの息が私の顔にかかる 「……ありがとう、先輩。」 目は開けたまま 私達は重なる 唇から伝わる温度 柔らかい感触 甘い匂い 静かな息の音 あなた独特の味 五感全てがまなみで埋め尽されていく幸せ 『……ん…っ。』 うっすらと目を開いたまなみが 更にまたその目を細めて微笑んだ後 もう一度閉じる 唇を離すと 『もう終わり?』 大人びた声が聞こえたかと思うと 体の奥まで熱くなるキス 『私…どんぐらい寝とった?』 「ほんの少しですよ。」 『本当に?? ごめんね…今飲みよる薬、眠くなるっちゃん。。』 「私、先輩の寝顔見るの好きですよ。」 『…………… 寝込み襲うの好きですよ、の間違いやないと?笑』 「誰かさんがエロい顔してるからでしょ。」
■21151 / inTopicNo.39) - 143 - □投稿者/ Y 一般♪(2回)-(2008/10/08(Wed) 09:03:15) そんな軽いジョークを交わしながらも、私の心の中はまだ薄暗い雲がモヤモヤしていた あんな風に少しの乱れでもこんなに心が騒ぐ もっと…もっと強くならなきゃな。 『どうしたの?』 心配そうな顔で覗いてきたまなみに 「何でもありませんよ?」 と笑顔を返すと 『今日も颯のベットで一緒に寝たいなぁ…』 なんて言いながら恥ずかしそうに俯いたまなみの照れ笑いが、少しこのモヤモヤを鎮めてくれる。 でもさすがに昨日からまとまった睡眠を取れていないまなみの体が最優先。 「風邪ひくといけないんでね…先輩。 でも先輩が寝るまで必ず隣にいますから。」 まなみが必要に心配されるのを嫌がっている事は知っているけど、私はまだどこかで奇跡を信じていたりする。 万が一ドナーが見つかってくれたら…の時を考えても、これ以上体力を減らす様な事は避けたい。 そんな私の全ての感情を悟ったかの様に、まなみは私を静かに胸に抱き寄せ、穏やかな声で言った。 『颯がおってくれとるけん、私負ける気がせんよ? ありがとう。』 私は何も言わず 頷きもせず ただ大きく息を吸って、体中にまなみの匂いを流し込んだ。 そして、まなみが羽織っていた桜色の薄手のカーディガンを脱がせ、ベットに寝かせてから、自分もその脇に腰をかけてまなみの頭に軽く手を置いた。
■21152 / inTopicNo.40) - 144 - □投稿者/ Y 一般♪(3回)-(2008/10/08(Wed) 10:03:43) 二人の間に会話はない。 お互いがお互いの愛を感じて、その気持ち良い苦しさの中にいた。 いよいよ寝そうになったまなみの小さな頭が、私の膝に乗ってきて 綺麗な横顔と、細い首筋にドキっとした。 目を閉じたまま たった一言 『幸せな夢が見れそう。』 と、つぶやいたまなみは すぐに規則正しい寝息を立て始めた。 私はまだしばらく その小さな頭の重みと温度を感じながら 窓の外に白く浮かんだ下弦の月を眺めていた。 気がつくと朝で 下を向くと、寝る前と何も変わらず まなみの顔は膝に埋もれたままだった。 まだ深い眠りの中にいるまなみの頭をそっと持ち上げ、枕に戻して布団をかけ直し、一服する為に屋上へ向かう。 今日は少し風が強い ライターの火がなかなか点かずにいると 『あの、良かったらこれどうぞ。』 と、突然背後から声が聞こえて驚いた。 振り返ると、そこには同じ年位の女の子がライターを差し出して微笑んでいた。
■21155 / inTopicNo.43) - 145 - □投稿者/ Y 一般♪(5回)-(2008/10/08(Wed) 20:20:01) 足に大きなギブスをつけて、松葉杖で体を支えているその子に 「すみません、ありがとうございます。」 と言って借りたライターでタバコに火を点けて返すと 片方の脇で体重を支えていたからか、バランスを崩して倒れそうになったので とっさに手が出て すぐ後ろのベンチに座らせると、その子は 『こちらこそありがとうございます(笑) 私、本当にドジなんです。(笑)』 と、屈託のない笑顔で言った。 「いえ、とんでもないです。 大丈夫でしたか?」 と聞くと その笑顔のまま頷いた。 それから気にかけることもなく、ぼーっとしながらタバコを吸っていると、小さな声で 『あの…入院してるんですか?』 と聞こえてきた。 驚いて隣を見ると 『あっ、ごめんなさい。 急に話しかけて…。』 と言って、ペコペコと頭を下げている。
■21156 / inTopicNo.44) - 146 - □投稿者/ Y 一般♪(6回)-(2008/10/08(Wed) 21:01:20) 「あ、いえ。 私じゃないんですけど、恋人が。」 そう答えると 『そうだったんですか。 いや、毎日見るけん入院してるのかと思ってたんですけど、いつも私服やしなぁ…って不思議だったんです(笑) こんな綺麗な方の恋人さんなら、きっとその方も素敵な方なんでしょうね。』 「いやいや、私なんか何てことないですけどね。 恋人は確かに素敵な人です。」 『へぇ〜!!今度一緒にいる所チェックしてみます(笑) あ、私もこんなんですけど実は入院してるわけじゃないんですよ(笑)』 「そうやったんですか。 通院してはるんですか?」 『いや、子供が入院してて、その付き添いなんです。』 子供!? この子のかいな!? 「子供ですか…?? いくつの時産まはったんです??」 『えっと…この子がもう10歳やから、22の時に産んだかな。』 「……っ!? すいません、私同じ年位や思ってました(笑)」 逆にびっくりして目を丸くした彼女は 『じゃあ、お互い敬語やめよっか。』 と笑いながら言った。 それからぼちぼち話していると 気がつけば小一時間程経っていたので、それぞれの大切な人の元へ帰る事にした。
■21157 / inTopicNo.45) - 147 - □投稿者/ Y 一般♪(7回)-(2008/10/10(Fri) 11:23:42) 病室に戻ると、相変わらずにそこには愛しい寝顔があって 廊下では朝食を運ぶワゴンの音が少しずつ近づいてきていた。 「先輩?朝ですよ?」 ……ん…っ… うっすらと目を開けて私を確認したまなみは、寝ぼけ眼のまま両手を広げて名前を呼ぶ 『颯。』 私は引き寄せられる様にその小さな体を抱きしめたまま会話を楽しむ 「おはようございます。 よく眠れたみたいで安心しました。」 『うん、まだ起きたくなかったもん(笑)』 「すんません(笑) ご飯食べて薬飲んでからまた寝て下さいね。」 『んーん?もう寝らん。 すごい幸せな夢見よったけん起きたくなかったと。 でも、起きても同じ位幸せやけん。』 「そうやったんですか。」 『何の夢やったと?…とか聞かん所が颯やんね。(笑)』 「え?何でですか?」 『気になって聞くもん、私なら(笑)』 「そう言えば、先輩に何回か聞かれた様な気ぃします。 昨日何の夢見た?って。 人の見た夢ってそない気になります?」 『人の夢じゃないもん、颯の事は全部知りたいだけ。』 ふっ…… つい笑いがこぼれてしまう。 「先輩、ほんまに成人してはります?」 『ひどっ!!(笑) しかも今、鼻で笑ったやろ!?』 「可愛いなぁ…と。」 『なんか、からかわれとらん?私……(泣)』
■21158 / inTopicNo.46) - 148 - □投稿者/ Y 一般♪(8回)-(2008/10/10(Fri) 11:59:21) 抱き合ったままやから顔こそ見えないものの まなみだけが奏でられる声が、耳元から私の芯まで響く。 今度は私をベッドに寝かせ、上に乗って胸の辺りに頭を置くまなみ さっきより少しだけ 抱き締める腕に力を入れると、私の服を掴むまなみの手にも同じく力が入る。 『一つになれればいいのに。』 「…………。」 『……変な事言ってごめんっ。』 「…………。」 『颯……?』 「ほんまです。 先輩、朝から一つになりたいだなんてよー言いませんわ。(笑)」 『そういう事じゃないけんっ!!!』 「はは。 分かってますよ?」 『じゃあ…… 何で黙ったと?』 「それはですね、ナースさんがご飯を運んで来てくれたからです。」 『え…っ!?』 勢い良く上体を起こしたまなみが見たのは、微笑んだ私の顔 そして、振り向くと ご飯のトレーを持ってニヤニヤしながら立っているナースさんの姿。 『まなみちゃん? まだ朝ですよ〜?(笑)』 「……っ…な…!! 何もしとらんもん!!」 『はいはい(笑) 幸せそうで何より。 このまま元気になろうね。 じゃ、お邪魔しました〜♪』
■21159 / inTopicNo.47) - 149 - □投稿者/ Y 一般♪(9回)-(2008/10/10(Fri) 14:48:06) ケラケラ笑いながら病室を後にするナースさんが扉を閉めた後、耳まで真っ赤にしているまなみが再び私の胸に顔を埋める。 『颯のバカ!! はよ言ってよぉ〜…(笑)』 私はまなみの頭をポンポンしながら 「えぇじゃないですか、悪い事してたんちゃいますし。 ほら、ご飯食べて下さい。」 『……は、はい。』 まなみは机に置かれたご飯を一口、二口程食べて箸を止めた 「どうしました?」 『ん?ううん。 幸せやなぁ……って。』 「……?」 『ねぇ、颯。』 「はい?」 『今日帰るんやんね…。』 「……はい。」 『寂しいな。』 「変わらず毎日来ますよ?」 『うん……うん。』 「呼ばれれば夜中でもまたこっそり来ますよ。」 『颯んちがいい。』 「外泊許可出たら来て下さい。」 『ワガママやろ、私。 こんな事言ったら颯が困る事分かっとるのに。』 「どこがワガママなんですか? 先輩、最後にいつワガママ言いました? 私はもっとワガママ言ってもらって構いませんよ? しんどかったら八つ当たりしたっていいんです。 私はそれを気を許してもらえてると解釈できます。」 『大人やね…颯は。 私なんかより全然大人。』 「大人とか子供とかじゃなくて、愛です。」 『うわ……どうしよ。』 「何がです?」 『幸せすぎる。』 「何よりですよ。」
■21164 / inTopicNo.50) - 150 - □投稿者/ Y 一般♪(11回)-(2008/10/21(Tue) 01:56:57) ほんの少し夏の匂いが混じった やわらかい風が窓から吹き込む。 いっそその風が 二人の気持ちをまなみの体に送り込んで奇跡を起こしてくれたらいいのに… 沈黙が続いていてもこんなに心地良いのは、二人がしっかり繋がっているおかげやろうな。 一分一秒を本当に大切に過ごして、帰り際にまなみはポツンと告げた 『ありがとう。』 その一言の中に入り混じった沢山の想いを、私は全て受け止めてこう答える 「こちらこそ、そばにいてくれてありがとうございます。」 まなみは微笑んで、エレベーターに乗り込んだ私に小さく手を振った。 「また明日。」 『うん、ずっと待っとるけん。』 扉が閉まり、エレベーターが動き出す 今頃肩を落として一人病室に戻るまなみの姿を思い浮かべたら、どこか心が狭くなる感じがして 少し…いや、かなり胸が痛んだ。 病院から家までの道のりを歩くのが、すごく久しぶりの様な気がして変な感覚に陥った頭を振って おもむろにポケットから取り出して電源を入れた携帯で、メールを送る 【送信メール】 宛先:早川 まなみ 件名:無題 本文: これからもどうか末永く先輩の一番近くにおらせて下さい。 ほんで、先輩も私の一番近くにいてて下さい。 まだ沢山行きたい所がある もっと色々したい事もある きっと出来る やってみせよう 負ける気がせーへんわ。 先輩、安心して 必ずあなたは私が守るから。
■21181 / inTopicNo.53) - 151 - □投稿者/ Y 一般♪(13回)-(2008/11/22(Sat) 03:45:14) 久しぶりに通る病院からの帰り道 今日はぼーっとしながらゆっくり歩いて帰ろうか。 遠くで少し気が早い蝉が鳴いていた 可哀想に あんた出てくるん早すぎて一人ぼっちやん 焦ってもええ事なんかないのに。 たった10日しかないんやろ? いくら鳴き叫んだって 友達にも 恋人にも 会われへんやん… ほな、せめて 私が覚えとくから。 そうやって生きた証として鳴いたあんたの声を。 だからさ そない生き急がんと、ちょっと休憩しながら鳴いて 1ヶ月生きや。 生きてや 帰り着くと やけに家が広く感じた。 病室が狭かったから? いや、ちゃうな まなみがいてないからや。 それと もう一つ そこにあったはずの物が、沢山消えていたから 荷物、もう運んだんや…―。 おかんの部屋を覗くと、ここに引っ越して来た時の何もない殺風景な部屋があった。 一人には慣れてる 音のない家にも あたたかみのない空気にも 慣れてるやんか。 何で今更 涙なんて出るんだろう。
■21208 / inTopicNo.56) - 152 - □投稿者/ Y 一般♪(15回)-(2008/12/28(Sun) 20:42:55) 家具も 家電も 服も 靴も この家には 生活していくのに必要なものは何だってある。 だけど ただ一つ 決定的なものが欠けていた。 それこそが 今の私が生きていく上で一番必要なものなのに。 それはまなみが教えてくれたもの 体と心で私にくれたもの あたたかみ。 それが、無い 一人で使うには広すぎるダイニングテーブルの上に 銀行の通帳とカードと印鑑 それと、短いメモが置いてあった。 そこには おかんと森田さんが住む新しい住所と電話番号が書かれていて 最後に 【いつでもおいでな。もちろん豪華なチビの部屋もあんで!】 と、記してあった。 新しい家は ここから歩いても15分程度の距離。 行こうと思えばいつだって行ける 特に今みたいな もの寂しい時に行くべきなんやろうけど…… どこかで そうはしない自分がいた。 おかんがヘコんだ時飲んでいた、あのワインをあけて あり合わせで簡単に作ったグラタンを食べた。 お風呂でテレビを付けたけど 内容は全く頭に入ってこなくて 早々に浴室を切り上げた。 なんや ずっと胸がそわそわして落ち着かない。 髪を乾かしていると 携帯が鳴った。 「もしもし。 どうしました?」 『ん? 何しよるんかなぁ…って思って。』 「お風呂入って、髪乾かしてましたよ。」 『そうなんや。 ……颯、寂しい。』 「そうですね。 私もです。 でも、先輩の声聞いたら落ち着いてきました。」 『それ、ズルい。』 「え?何がです?」 『それ、今私が言おうと思いよったのに。』 「あぁ…(笑) ズルいって…(笑)」 他愛もない会話を 小一時間ばかりして ベッドに入ると 安心して眠れた。 欲しかった あたたかみのある夢を見た。
■21233 / inTopicNo.59) - 153 - □投稿者/ Y 一般♪(17回)-(2009/01/15(Thu) 18:49:14) 目覚ましが鳴る前に目が覚める様になったなんて 今までの自分じゃ考えられへん。 別に一人暮らしになったからって、気を張ってるわけじゃない ……というか そもそも、小さい頃からおかんに起こされた記憶なんてないしな。 それに ここんとこ、低血圧な私がこんなにも寝起きが良い事に 自分でも気持ち悪いな、なんて思う。 なんでかって? 理由は分かってる 待ち遠しい日が徐々に近づいて来てるから。 医者にも家族にも もう長くはないと覚悟をされていた彼女 でも、それを認めずに 絶対諦めなかった彼女が 2ヶ月ぶりに 外の世界へ、私の家へ帰って来てくれるから。 奇跡的な回復を見せたまなみに 勝利の女神が微笑んだ。 もちろん これが終わりなわけじゃない そんな事は 私もまなみも分かってるけど ただ、ただ、夢にまで見た日に違いはないから。 相変わらず毎日行っている病室での話題は、最近専ら 【どこに行きたい】 だの 【何が食べたい】 だの 願っていた未来への道筋上の事ばかり。 一時に比べたら 良く食べてくれるし 良く寝てくれる。 少しずつ顔色も良くなってきたし、2人とも浮かれずにはいられない。 不安は消えない ううん、ちゃうな 消さない。 病気であろうが なかろうが いつどうなるかなんて誰にも分からないのが命というものやから。 それなら 私に出来る事は、今のまなみを精一杯愛す事。 また今日が始まる また今日もまなみを大切にしよう また今日もまなみが愛してくれる事を感謝しよう 【送信メール】 宛先:早川 まなみ 題名:無題 本文: おはようございます。 今日も心の底から愛してます。
■21237 / inTopicNo.60) - 154 - □投稿者/ Y 一般♪(18回)-(2009/01/22(Thu) 15:41:48) 今日は学校が午前中だけやったから 病院に着いても、まだ面会時間になるまで少し時間があった。 まなみにもらった腕時計をぼんやり眺めながら、何をして時間をつぶそうかと考えていると 『こんにちは。』 突然 背後からぽん、と肩を叩かれた。 ……………… 約3秒間 頭フル回転 何か知ってるやん、ほら、思い出せ、私 「………あ、どうも。 足もう良いんですか?」 屋上で会った あの松葉杖をついてた子…いや、お姉さん。 『うん、おかげさまで♪ …てか今一緒忘れとったやろ!!!笑』 「……すみません。 覚えるの苦手なもので…。」 『あはは!!素直やね〜。 うん、素直は大事(笑) それより、また敬語使っとる! 敬語じゃなくていいとよ??』 「あ、ごめん。 ………なさい。 年上の人にはつい使ってまうんですよ。 恋人にもずっと敬語なんで……」 『そうと!? なんか意外!! それとさぁ、今更ながらお名前聞いてもいいかいな? 何て呼んだらいいか分からんけん(笑)』 「あ、颯です。」 『颯ちゃんか。 キレイな雰囲気に良く合っと-ねぇ! 私は桂子。 好きに呼んでい-けん?』 「はい。」 『あ、颯ちゃんは今日も面会やんね? でもまだ面会時間始まるまで少し時間あるよ?』 「そうなんですよね。 何しようかと思ってた所やったんです。」 『そか。 じゃあタバコでも吸いに行こっか?? とか、堂々と制服着た高校生を誘ってる私……どうょ?笑』 「……(笑) ありがたいです。」 タバコ3本分 私達は他愛もない話をして、あと10分で面会時間になるという時 申し訳なさそうに桂子さんがこう言った 『もうちょっとだけ、ここにいてもらっていい?』 「……はい。」 静寂の中で 4本目のタバコに火をつける カチっというライター音がやけに大きかった。
■21241 / inTopicNo.61) - 155 - □投稿者/ Y 一般♪(19回)-(2009/01/24(Sat) 00:49:28) 桂子さんは 何を話すでもなく 泣くわけでもなく ただ 東の空を眺めていた。 しばらくして 『よっし! ありがとう! 颯ちゃんはどうしたとか、なんでとか、聞かんったぃ(笑)』 「話したくない事やと申し訳ないんでね。」 『おっとな〜! 私の方が年下みたいやね。』 「いえいえ。 全然ですよ。」 『世界で大切な人が目の前で苦しんでるのに、な-んにも出来ないなんて… 不甲斐ないなぁ……。』 私は思い返していた。 まなみが発作を起こした時、私は何も出来なかった。 今の桂子さんの心境そのままだった。 以前、まなみに言われた言葉を思い出した。 「必要としてくれる人がそばにいてくれるから、頑張れる。」 『…え?』 桂子さんがうなだれていた頭を上げて聞き返す 「私の恋人はそう言ってくれました。 きっと桂子さんのお子さんもそうなんちゃいますかね。 お互いがお互いの為に、自分にできる精一杯で頑張ればそれでいいんやと思います。 桂子さんのお子さんも 私の恋人も 私達に求めているのは、病気を治す事じゃないんやと思います。 その代わり、心の苦しみを癒やす事は きっと私達にしか出来ない事やと思います。 私は、そう考える様にしました。」 しばらくの間があった後、桂子さんは目に涙をいっぱい溜めた目で笑ってみせた。 ちょうどてっぺんに上った太陽がその笑顔を照らして たまらずこぼれ落ちた涙が、キラキラ光っていた。 気付けばもう時間で 良い天気ですね、なんて言いながら 二人して大きく伸びをして 屋上を後にした。 『颯ちゃんの恋人さんは、まだまだ退院できそうもないと?』 「あ、実は来週の月曜日に退院できそうなんですよ。 しばらくは2日に一回通院が続きますけど。」 『そうなんや! 良かったねぇ〜! 颯ちゃんの看病のおかげやね!』 「何かしら力になれてたらいいんですけど。」 『ふふ…なってるよ、絶対。 幸せものやね〜、恋人さん。 じゃあ、退院する前に紹介してよ♪ 会ってみたいな、あんな素敵な事が言える恋人さん。』 「はい。 あ、じゃあ今一緒に病室行きます?」 『え?いいと? うん!いくいく!』 「是非ぜひ。 きっと喜びます。」
■21242 / inTopicNo.62) 小休憩 □投稿者/ Y 一般♪(20回)-(2009/01/24(Sat) 01:34:37) 1月ももう終わろうとしていますが、皆さん明けましておめでとうございます(#^-^#)(笑) 今年もTIME ∞ LAGともども、宜しくお願いします。 良かったら私のモチベーション維持の為にも、たま-にコメントいただけたら嬉しいです(笑) ではでは(・ω・)/ (携帯) 引用返信/返信 削除キー/ 編集削除 ■21244 / inTopicNo.63) NO TITLE ▲▼■ □投稿者/ 世羅 一般♪(1回)-(2009/01/24(Sat) 22:07:53) ご無沙汰しています 相変わらず、言葉がキラキラ やっぱり好きな文章です いつのまにやら、引き込まれて続きを楽しみにさせられる。 このワールド、大好きです 九州人のファンはずっと応援していますホ 楽しみにしています (携帯) 引用返信/返信 削除キー/ 編集削除 ■21249 / inTopicNo.64) 世羅さん♪ ▲▼■ □投稿者/ Y 一般♪(21回)-(2009/01/31(Sat) 00:52:42) お久しぶりです♪ ずっとお付き合い頂けて本当に有り難いです(ノ_・。) そしてこれからもワールドに入ってきてもらえたら嬉しいです★ まだまだ寒い日が続きますが、風邪などには気をつけて素敵な毎日をお過ごし下さいo(^-^)o (携帯) 引用返信/返信 削除キー/ 編集削除 ■21266 / inTopicNo.65) NO TITLE ▲▼■ □投稿者/ 小枝 一般♪(1回)-(2009/02/26(Thu) 00:55:53) この小説、温かくて好き。 続き楽しみに待ってます。 (携帯) 引用返信/返信 削除キー/ 編集削除 ■21401 / inTopicNo.66) Re[2]: - 155 - ▲▼■ □投稿者/ 優心 @ 一般♪(11回)-(2011/12/20(Tue) 04:04:25) TIME ∞LAGの続編見つけられてまた…寝ずに一気に読んでしまいましたw すうっと自然に読めてしまう。けど続編で泣いてしまいましたg 続編捜しは明日にして仕事に…!執筆大変でしょうか待ってます!
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