■11114 / inTopicNo.84)  Girl Holic34  
□投稿者/ エビ ベテラン(237回)-(2005/07/20(Wed) 20:57:01) 

「乾〜杯!!」 金曜日ー 仕事を終えた私達は。 メグミさんと もう一人会社の後輩の女の子と一緒に 居酒屋へやって来た。 広い畳の座敷に並んだテーブル。 女4人 男性も‥4人か。 彼らは年の頃25〜30歳くらいの面々 ごく普通の ネクタイをしめたサラリーマンらしき殿方達(古い) 「自己紹介しちゃう〜?」 ‥ノリはいいらしい。 「ケンでーす」 「アキラでーす」 「マサヒロでございます」 ‥何とかトリオかね、君達は(また古い) その後 「サトシです」 最後の一人が挨拶をして。 ‥‥ ふうん サトシ君、ね。 それはアキの元彼氏の名前と同じで‥ もちろん別人だけど。 ちらり‥ アキを盗み見る。 何も表情を変えることなく アキは生ビールに口をつけていた。 30分ほど経った頃ー 「席がえ〜!!」 誰かの大きなかけ声で 男の子達がお酒を持ってふらふらと立ち上がる。 「ここ、いいかな?」 隣に座っていた私とアキの間を指して言ったのは‥ サトシ君。 「あ、いいけど」 私が少し横にズレると サトシ君はありがと、とそこに座った。 ‥‥狭。 私、サトシ君、アキと座るにはちょっと窮屈で‥ 「狭いな。私向こう行く」 アキはジョッキを持って テーブルの反対側へ行ってしまった。 ‥‥ブー 何もそんな遠くに行かなくたって アキの近くにいたいのに‥。 ブーブー! 「飲もうよ?」 サトシ君に声をかけられ。 「あ、うん」 場を盛り下げるのはイヤだから 私もビールに口をつけた。 「名前なんだっけ?」 「‥サキです」 「サキちゃんかー。いくつ?」 「‥24です」 「若いなあ。かわいいね」 ‥‥ アキと付き合う前の私なら。 こんな会話にももうちょっと愛想よく対応できたかもしれないし こんな場だって少しは楽しめたかも。 でも‥ 今は。 ‥‥ 私の目はアキばかりを追ってしまう。 テーブルの対角に座るアキと その隣の男の子ばかりに 目がいってしまう。 ‥‥ 私の心が ざわつき出す。 (携帯)
■11115 / inTopicNo.85)  Girl Holic35 □投稿者/ エビ ベテラン(238回)-(2005/07/20(Wed) 21:01:33) アキの隣にはー ケン君。 背が高くて 身体も大きい 短髪のケン君が。 ‥‥ アキと楽しそうに話していて。 ‥‥ 「マジ?うそー」 「ほんまやでー」 ケン君はもちろん。 私には アキもとても楽しそうに見えた。 ‥‥ 真夏の激しいスコールの前の まっ黒な雨雲。 私の内部を覆い始める。 ‥‥ ざわざわと。 ちくちくと。 “心”なんて抽象的なものじゃなく ‥‥ リアルに 心臓が痛み出し。 何‥? 何で‥? アキ‥‥ 「サキちゃんはどんな仕事してるの?」 「家はどのへん?」 サトシ君の声もー 耳にはほとんど入ってこない。 私の目と耳は勝手に。 アキの方へと その神経を研ぎ澄まし。 「ははは〜」 聴かなければいいアキ達の笑い声や ‥‥ 楽しそうに話す二人の姿が目に入ってくる。 自分が 平衡を失っていくのがわかる。 ‥‥ へえ‥ 楽しそうなんだね、アキ。 嫌 何かすごい ‥‥ 嫌‥‥。 「‥ちゃん?」 「サキちゃん?どうしたの?」 サトシ君に顔をのぞきこまれて。 ‥‥あ 「‥ちょっと、ごめん」 私はトイレに向かう為 立ち上がった。 ‥この場には いたくない。 少なくとも 自分を落ち着かせたい。 サトシ君やメグミさんの後ろを通りー 出口近くの アキとケン君の横を通り過ぎる時。 私の耳に入ってきた二人の言葉がー 「そうなんだー、アキ?」 「んーほんまやで」 私から完全に 平衡を奪ってしまった。 “アキ” ‥‥ ‥何よ、それ。 ぐらぐら 自分の芯が揺らぐ。 ‥‥ だけど 私はすっと二人の横を通り過ぎて トイレに歩いた。 (携帯)
■11116 / inTopicNo.86)  Girl Holic36 □投稿者/ エビ ベテラン(239回)-(2005/07/20(Wed) 21:06:01) 化粧室の大きな鏡の前に立ちー 映し出された自分の顔を見る。 ‥ひどい顔。 顔の筋肉が緊張していているのが 哀しい程にわかる。 ‥‥ “アキ” 今日会ったばかりのあの男の子は 私の恋人をそう呼んでた。 なんで‥ わけわかんない なんでよ なんで‥? 一人になっても 冷静さは戻らず。 ‥嫉妬? 嫉妬なんかよりもっと汚く思えた。 なんて言い表せばいいのかわからない‥ そんな真っ黒な感情がー 私を支配していく。 ‥‥ 男の子の前だって アキのいつものドライさは何も変わらない。 でも‥ さっきのアキは ‥‥ 私が知らない 女の人のように見えた。 男性の対である 女性。 ケン君の隣にいるアキが 私にはそう見えて‥。 “疎外感” アキの恋人であるはずの自分が たまらなく疎外されているように感じて。 嫌だった‥‥ 5分ほどだろうかー 鏡の前にいた。 ここに来たのは 一人になりたかったから‥? 違う。 ‥アキに来て欲しかったから。 目を閉じて 足音を待つ。 アキは 来ない。 目を閉じ続ける。 アキが 来てくれるような気がする。 多分 それだけで 私は救われる。 今 アキが来てくれるだけでいい それだけで私は笑える。 ‥‥ ‥‥ かすかに 分厚い扉の向こうから聞こえてきた足音に。 私は顔を上げた。 ‥アキ? 涙の味がする。 ‥‥アキ? パタンー 「サキちゃん〜!楽しんでる?」 やって来たのは メグミさんだった。 ‥‥ ファンデーションを塗り直しながら 「サトシ君、サキちゃんのこと気にいってるみたいだね〜」 はしゃぐメグミさん。 ‥‥ どうでもいい。 「アキちゃんもさあ、ケン君といい感じだし」 ふふ、と笑うメグミさんの声は。 ‥‥ あまりにも非情で。 「‥先に戻ります」 今は何を言っても 虚しいだけ。 私はメグミさんを置いて アキ達がいる座敷に戻った。 (携帯)
■11117 / inTopicNo.87)  Girl Holic37 □投稿者/ エビ ベテラン(240回)-(2005/07/20(Wed) 21:10:29) ちょっとした 賭けだった。 それはアキを信じ 自分を保つための 賭けー 私がもう一度みんながいるあの席に戻った時 アキがあの男の子の隣にいなければ。 或いは アキが私の方を見て笑ってくれるならば。 “何を心配してんねん、アホサキ” あの笑顔で 私の心を覆う雨雲を払ってくれるなら‥ 今夜私の中に生まれたこの汚い感情を すべてリセットしよう。 そして今夜はアキか私の家で 二人だけで過ごそう。 私はアキを 失いたくはない‥。 でももしー アキの隣に今も彼がいるならば。 私のことを見てくれなかったならば。 その時は その時は‥‥ 後から考えればー 私にとって分の悪い賭けだった。 アキが誰の隣に座っていて 私に目を向けるか否かー そんな偶然に満ちた分の悪い賭けを どうして自分に課したのか‥? ー愛されている実感が 欲しかったから。 マイナス思考で固まった私の身体。 愛されているはずの実感はとても希薄で 不安ばかりがリアルに私を襲う。 そんな私を救ってくれるのは。 私が望む アキの具体的なアクションだけだった。 ‥‥ トイレから戻り 座敷のふすまを開けた。 へ‥え‥ バカみたい。 私 バカみたい‥ アキと彼は 隣同士に座っていて。 互いの携帯を近づけ 「メアドは‥」 「また連絡するよ」 喧噪の中 入ってきた私に目を遣ることもなく 二人で楽しそうに会話を続けていた。 ‥‥ 結構 限界かな私。 あー‥ どうしよう 泣きたい。 「サキちゃん?大丈夫?」 「‥‥」 私に声をかけたのは サトシ君で。 「ねえ、二人で抜けない?」 「‥‥」 慣れた様子で私を誘ってきたのは サトシ君で。 「オレん家、行こうよ」 「‥‥」 低い声で私に囁いたのは サトシ君で。 ‥‥‥ ‥‥ 「いいよ。」 そう答えたのは 私だった。 (携帯)
■11118 / inTopicNo.88)  Girl Holic38 □投稿者/ エビ ベテラン(241回)-(2005/07/20(Wed) 21:15:28) 「オレんち、ここからすぐだから」 「何か買ってく?コンビニ寄ろうか?サキちゃん」 タクシーの中で サトシ君がそわそわと私に話しかける。 それは 今までも何度か経験したことのある場面。 今からベッドへ向かうことで頭がいっぱいの 男の子の姿ー 彼の家に行こうとしている自分の弱さを差し置いて。 今、彼の頭の中が 私を抱くことでいっぱいだと思うと。 ‥‥ 少し笑えた。 自分が最低だという自覚は あった。 「二人で抜けようよ」 彼にそう誘われ。 「いいよ」 私は答えた。 彼が先に店を出て外で私を待ち。 10分経ったら私がそこへ行き 彼の家へ向かうー そんな陳腐なプランを 彼は私に耳打ちした。 みんなすぐに 私達がいないことに気が付くだろう。 ‥‥ アキも 気が付くだろう。 ‥‥ 気付いたアキは どう思うだろう? ー別に何とも思わないんじゃないか。 それが 私が出した答えだった。 サトシ君が店を出て10分間ー 私は何度もアキを見た。 ‥アキ アキは私を見ない。 ‥アキ アキは私を見ない。 それは意識的に私を避けるものではなかったと思う。 でも アキと目が合うことは 一度もなかった。 だから‥‥ 私はカバンを持ち 席を立った。 あの時ー アキが一度でも私を見てくれていたら。 笑いかけてくれたなら。 私は何食わぬ顔で サトシ君との約束を破っただろう。 何をバカなこと考えていたんだって アキに愛されていることを信じられただろう。 ‥‥ でも 10分は短すぎた。 「サキちゃん?トイレ?」 席を立った時 メグミさんに声をかけられたけれど。 「‥‥」 言葉を発すれば涙が溢れそうで。 小さく首を縦に振ることしか できなかった。 ねえアキ‥ 私達は‥ 友達? 恋人? 恋人なの? 仲のいい女友達が 好奇心から一線を越えてしまっただけ? わかんない 全然わかんない‥ (携帯)
■11119 / inTopicNo.89)  Girl Holic39 □投稿者/ エビ ベテラン(242回)-(2005/07/20(Wed) 21:20:06) ‥‥しないで。 男の人の前で 私の知らないアキの顔をしないで。 ‥‥ 私行くよ? 好きでもない男の子に抱かれにー 私 行くよ? ドクドク ドクドクと。 心臓は波を打ちー 私は店の出口に向かって歩きながら 背後に足音を探す。 アキが “どこ行くねん?” そう笑って私の手を引いてくれるのを待って。 ‥‥ その居酒屋は狭く。 私の独りよがりな幻想は幻想でしかなく。 私が店を出るまで アキが私の元に来ることはなかった。 ‥ウイーン 静かに開いた自動ドア。 そこには 私が来たのを見て嬉しそうに笑うサトシ君がいた。 もう 引き返せない気がした。 それは アキと私の関係の終わりも。 意味していた。 ‥‥ どんなに仲のよかった私とアキにも 互いに知ることのない部分があって。 ‥ああ そっか。 アキと知り合って一年余の間 私恋人がいなかったから。 アキは知らないんだ。 私が 愛されてないと ダメってこと。 愛されてるって思えないと ダメになってしまうこと。 いつも 過剰で歪んだ愛を求めては 壊れ続けた私の過去。 私は 求めるものを与えられることでしか 愛を信じられない 弱い人間だということ。 恋愛で壊れるたび 次は強くなろうと願った。 でも私‥ ‥‥ やっぱり変われてないみたい。 ‥情けないかな? アキは笑う? アキは怒る? そのどれでもいいからー 私を見捨てないで‥ アキ。 サトシ君が止めていたタクシーに 何も言わずに乗りこんだ。 彼の名前は。 “サトシ” それはかつてアキの恋人だった人と 同じ名前。 彼の名前がサトシでなければー 私のこんな醜いあてつけも 成立しなかったかもしれない。 ‥‥ 私はどうしてこんなに 汚いんだろう。
続く