■Girl HolicU  
□エビ 2005/07/21(Thu)


Holic‐ 名詞の後について。 「〜中毒」 の意。 その温かさと その心地よさと その淫らさと その優しさ。 どうしたって 抜け出せない。 どうしたって やめられない。 ‥‥‥ Girl HolicU‐
道は空いていて。 私と彼を乗せたタクシーは アキのいる店からどんどん遠ざかっていく。 ‥‥ カバンの上に手を置き。 中に入っている携帯の震えに 指先の神経を研ぎ澄ます。 ‥‥ 私の不在に気付いたアキから 電話があるかもしれない。 着信を待っているのか 着信が恐いのかー 小さな震えを 自分の身体に感じた。 ‥‥ 窓から流れる夜景を こんなに虚しく思ったことはない。 鳴らない電話、 今から自分がしようとしていること。 ‥‥ 情けなさと 後悔と。 それだけじゃなく ‥‥ ‥‥ 私は本当にアキが好きなんだと 痛感させられた。 頭をよぎるのは。 いつも私のそばにあった アキの笑顔。 幸せすぎたあの海での 二人の笑い声。 「サキ‥」 「アキ‥」 ごめん‥‥ アキ。 私 あなたを好きになりすぎちゃったよ。 どうしていいのか わからない。 好きになりすぎるのは ‥‥ 恐いの。 私きっとあなたを傷つける。 だからもう‥ 私をやめた方がいい。 ‥‥ 私の頬を伝うのは 傲慢と自己陶酔に満ちた涙。 泣いている自分が たまらなく嫌だった。 その時ー キキー‥ タクシーが止まり 「着いたよ、サキちゃん」 サトシ君が私を呼ぶ声と。 ーブルブル‥ ‥‥っ カバンの中で震えだした 私の携帯。 「どうしたの?降りて?」 私の目の前にいる サトシ君と。 ーブルブルブル‥ どこかで私を呼ぶ アキからの電話。 ‥‥‥ ‥‥キ 『サキ』 『サキー』 『あほサキ』 『サキブー』 『サーキっ』 『サキ?』 『サキ‥?』 私を呼ぶ時の アキの声を思いだす。 いつも私を見てくれて いつも私を笑わせてくた。 私の 大切な人‥‥ アキ‥ごめん‥ 私の感情が 涙という水分になって 一気に溢れ出した。
‥っ ‥っ アキ‥ 激しい嗚咽が私を襲い 息をするのも苦しかった。 ‥っ‥ ‥‥っく タクシーの運転手とサトシ君は。 「どうしたの?」 「大丈夫ですか?」 顔を手で覆った私にー 心配そうに声をかけた。 でも 私の涙は。 顔を上げることも 立ち上がってこの場を去ることも。 許してはくれない。 ‥‥っ ‥しい ‥苦‥しいよ‥ ごめん ごめん‥アキ ‥‥ あなたに逢いたい。 ‥‥っ 「お客さあん、困りま‥」 運転手が見かねて私の肩を掴んだ時ー ブーン‥ 私が乗っていたタクシーの背後から 強い光が差した。 それは 別のタクシーの ライトの光。 バタンー 後ろで停車したタクシーのドアが開く音が聞こえてきて。 ‥‥ 一瞬の出来事だった。 こちらに近づいてくる小さな足音。 「あれ?君確かさっきの店にいた‥」 サトシ君の驚いた声。 そして。 ふわっと 顔を押さえていた私の腕が 誰かにつかまれた。 ‥‥なぜだろう 後ろに あの眩しい光を感じた時から。 ‥‥ わかっていた。 アキが 来てくれたって。 ‥‥ わかってた‥ 涙で濡れた手を開き 顔を上げる。 「‥‥」 そこにあったのは。 私が待ち望んだ 愛されているという実感をくれるー アキの目。 「サキ‥」 アキの声。 「探したで‥」 手をいっぱいに伸ばして掴みたかったー アキの手。 「‥‥キ‥」 涙が また溢れた。 安堵 不安 安堵 不安‥ 安堵。 人の涙は。 こんなにも簡単に 色んな感情をひとまとめにしてしまう。 「行くで‥」 アキに腕を取られ タクシーから降りるように促される。 さっきは立つこともできなかったのにー アキの華奢な腕の力は。 私の身体を 不思議なほど軽くしてくれた。
タクシーを降り 私とアキが外に出た時。 ‥何だよー 「何だよ。ヤレると思ったのに‥」 サトシ君が つまらなさそうに吐き捨てた。 それを聴いたアキの顔は一瞬 凍り付いたように見えた。 ‥‥ アキは私の手を握ったまま。 10センチ以上背の高いサトシ君に 正面から向かい合う。 「‥‥‥」 鋭く。 これ以上ない冷たい目で 彼を睨みつけるアキ。 「な、何だよ‥」 彼はアキの目に 明らかに怯んだ様子を見せた。 「‥‥‥」 アキはすっくとそこに立ち 凍てつくような目を彼に向け続ける。 「そ、その女が。簡単についてきたんだよ!」 「‥‥」 「無理矢理連れてきたわけじゃねーし」 「‥‥‥」 「どうせ簡単にヤラせる女なんだろ?」 「‥‥」 「‥何なんだよオマエらは!」 「‥‥‥」 サトシ君の最後の質問にー それまで何も言わなかったアキの顔が ふっと柔らかくなった。 アキは私の肩をすっと抱き寄せると‥ 「私ら?恋人やで」 そう言って ニヤっと笑う。 ‥っ‥アキ? 「だからさ‥」 アキは再び尖った目を浮かべ 彼のネクタイをつかんだ。 「だからさ、私に黙ってサキ連れてったらあかん」 つかんだネクタイをくっと引き寄せ アキと彼の顔が近づく‥ 「‥‥わかったけ?」 アキの声に。 「‥‥」 完全に怯んだ彼の顔。 「‥連れて帰るで。サキは私が」 彼は コクっコク‥ 数度首を縦に振るだけだった。 パタンー アキが待たせていたタクシーに二人で乗り込んで すぐに車は走り出した。 ドラマのワンシーンの中に いるようだった。 でも この世界にハッピーエンドが約束されたシナリオなんか存在しないこともー 私はすぐに知らされた。 アキが私の頭を撫で “仕方ないなあ”と優しく笑う。 そんなバカな話は あるわけもなかった。 二人きりになっても。 アキは決して 私を見ようとはしなかった。
タクシーの中ー 私達に会話はない。 「‥‥」 「‥‥‥」 こんな状況の中でも アキが来てくれたことが私は嬉しかったんだろう。 さっきまでの涙は 嘘のように止まっていた。 「‥‥」 「‥‥‥」 黙られることは時として。 責めたてられるよりずっと辛い。 私が泣き崩れている方が アキは声をかけてくれたかな? そんなことも考えた。 タクシーの窓の下の小さな段差に肘をつき 外を見ているアキ。 うつむくだけの私。 ‥‥ 私はアキに 伝えなければいけないことがたくさんある。 ‥‥‥ 「‥アキ」 「‥‥」 「あの‥」 「‥‥‥」 「私ね‥」 「‥‥」 「アキ、聴いて‥」 お願い 聴いて‥。 アキが 窓の外に遣っていた目を私に向けた。 「‥‥」 そのアキの目を見て私は 言葉を失った。 冷たい 怒ってる 呆れてる ‥‥ そのどれでもない。 ー何の感情もない目。 アキが私を見る目は それだった。 それはただ ある事象を認識するためだけの 視覚器官の目。 私が大好きなアキの大きな瞳からは 温度が失われていた。 ‥‥ アキは私を 許してはくれない。 きっと ずっと‥‥ そんな予感が身体を縛る。 ‥や いや‥‥ 『ごめんなさい』 『許して欲しい』 『私はあなたが好き』 ‥‥ 何で‥ こんな安っぽい言葉しか出てこないんだろう。 「‥‥」 「‥‥」 私はアキを 失うの? 「‥着いたで」 アキが初めて口を開いたのはー 別れの時。 タクシーが私の家の前で止まり。 チッカチッカ‥ ハザードランプも 運転手も。 そして アキも。 私がこの車内から消えるのを 待っているように感じた。 ‥‥ タクシーを降りた私から アキの姿はすぐに見えなくなった。 ‥ああ あれだ。 多分これを ‥‥‥ 惨めっていうんだ。 ‥‥‥ ■11198 / inTopicNo.21)  Girl Holic44 □投稿者/ エビ 大御所(261回)-(2005/07/22(Fri) 22:14:07) アキと別れー 自分の部屋に続く階段を昇る私の身体は 鉛のように重い。 でも 頭の中はやけにクリアで。 取り乱す? 泣きわめく? そんなことはなく。 私の姿を 遠くからもうひとりの私が見ていてー 薄く笑っているような感じ。 “また繰り返しちゃったんだね” そう言って。 自分の愚かさを 私が笑う。 玄関の鍵を開け 部屋に入る。 昼間無人の私の部屋は。 7月の蒸し暑さをいっぱいにため込み 不快な湿気が肌にまとわりついた。 ‥‥‥ 終わっちゃった、 かな。 ‥当然か。 床に座り 自分の膝を抱く。 私 ひとりじゃダメなんだよね。 でも ふたりだからもっとダメになっちゃった‥‥。 正しい愛し方ー 理屈ではもうわかってるの。 傷つけ傷つくたび 何度も学んだの。 でも いつのまにか‥ 自分にブレーキが効かなくなる。 一度甘い毒の味を知ってしまったら それに身体が慣れてしまったら。 毒を抜くのは とても難しい。 ‥‥ 私の欠落した部分を埋めるように注がれた。 アキの ‥‥‥ ‥‥ 愛。 不思議だね アキと過ごした時間を思い出すと。 幸せな気持ちになれる‥ 短い時間でも。 私があなたに愛されたことは 真実だよね? ‥‥ あ‥ 何でかな。 私結構幸せな気持ちなのに ‥‥‥ また泣きたい。 ‥‥っ 素敵なあなたに こんな言葉しか見つからなくてごめんね? ‥‥ 好きよアキ 大好き。 大好きだった‥ その時ー 電気も付け忘れていた暗い部屋に。 ピンポ〜ン♪ 気の抜けたインターホンの音が響いて。 ‥‥ 玄関のドアの向こうから聞こえてきたのは。 「‥サキ助」 アキの声。 「外はめっちゃ暑いねんぞ。開けな火つけたるブツブツ‥」 意地悪で 優しい。 アキの声だった。
コトリ‥ 私とアキの前に置かれた 冷えたジンジャエールが入ったコップ。 「‥何でこの部屋こんな暑いねん」 アキが機嫌悪そうに言う。 「今クーラーつけたばっかりだから‥」 部屋に戻ってからしばらく 電気もつけず膝を抱えていた私だ。 「‥‥‥」 「‥‥」 短い沈黙の中ー 私はジンジャエールに口をつけた。 炭酸の小さな破裂がパチパチと起こり 乾いた唇を刺激して。 ‥少し痛い。 でも 甘さと清々しさのある味が喉を通ると‥ 美味しい。 痛みと甘さー 私がジンジャエールを好きな理由。 「‥‥‥」 「‥‥」 沈黙の中にも 透けて見えるのはー アキが 私にとても気を遣っているということだった。 ‥‥私には 優しくされる資格なんてないのに。 なんで‥? 「あのさ‥」 アキが口を開く。 「ハッキリせえへんのって嫌いやねん。ごっつモヤモヤする」 「うん‥」 「何でサキは今日あんなことしたんや?」 ‥‥ まっすぐ 直球。 アキらしい言葉。 何故私がサトシ君についていこうとしたかー ‥‥‥ アキが他の男の子と親しくしていて 下の名前で呼びあったり ‥‥してたから。 ‥‥‥。 自分でも改めて くだらない理由だなと思った。 でもあの時。 私を動かしたのは 確かにそんな“くだらない”理由だった。 「言葉を選ぶ必要なんてあらへん」 アキが私の目を ‥‥ 見る。 「サキが思ったこと。そのまま聴かせてくれたらええ」 「‥‥」 「サトシっちゅう‥あいつがタイプやったんか?」 「違う!」 ぷるぷる‥ 「やろなあ。パッとせんタイプや」 ‥確かに 「ヤサ男やし‥」 ‥ハイ 「ネクタイの趣味も悪い‥」 ‥ふ 「ふふ‥」 私は 何時間かぶりに笑った。 過度の甘えを与えられていることはわかっていた。 けれど アキの優しさが 私はやっぱり嬉しかった。
全てを アキに話した。 私が今夜感じたこと 私が今までしてきた恋愛。 私の 弱さ。 恥ずかしいというか 言葉にするとすごくみっともないなと感じたけれど。 「うん‥」 「そうか‥」 私の話を静かに聴いてくれるアキには 素直でありたいと思った。 受け止めて欲しいなんかじゃなくー 伝えることが大事だと思った。 「‥‥なの。」 私がすべてを話し終え。 二人でジンジャエールに口をつける。 やっぱりそれは 甘くて痛い味がした。 「サキ」 「‥ん?」 真剣な話をする時のアキの声は いつもハスキー。 「先に事実だけ言うで」 ‥何? 「ケンのことな」 ‥アキの口から聴く あの男の子の名前。 やっぱり少し胸が痛‥‥ 「ケンはな、私の小学校の時の同級生や」 ‥‥‥ へ? 「ケンが私よりチビやった頃。よう遊んだ」 ‥え ええっ? 「会うんは15年ぶりくらいやから最初は分からへんかったんやけど」 ちょ ちょっと待って‥ へ?(混乱) 「話してるうちなお互い思い出して。話がはずんだ」 ぽかーん‥‥ 「ちなみにケンはもうすぐ結婚しよる」 あ‥わ‥ 「結婚前に何をコンパ来てるねんって蹴り入れたった」 つまり‥ 「私とケンに何かあるわけなんかない。」 つまりそれは‥ つまり‥ 「杞憂、や」 ‥‥ ‥ですね。 「アホサキ」 その通りです‥ 「空回りマン」 返す言葉がありません‥(泣) うつむく私に 「ふっ‥」 アキの笑う声が聞こえてきて。 「‥‥‥」 笑わなくたって‥ いいじゃん。 「嫉妬、やな」 「‥‥」 「ジェラシーサキ」 「‥‥‥」 ふん。 「‥ぷっ」 「‥ふふふ」 恥ずかしさのあまり顔を上げられない私の顎に アキがそっと触れ。 私達は久しぶりにー 目を合わせて笑った。
「でもな‥」 アキにハスキー声が戻る。 「どんな理由があったとしても。あんなあてつけみたいなことする奴は」 ‥‥‥ “大っ嫌いや” アキはそう続けた。 「無意味に傷つけ合う必要なんてないやろ」 「‥‥」 「サキが取った行動は。私には理解できん」 そこまで言って アキは小さくため息を吐いた。 「‥‥‥」 穏やかな口調のアキのその言葉は どんなに激しく責めたてられるより厳しく。 言葉は見つからなかった。 「私がここに来たんは‥」 その時のアキは いつもより口数が多かったように思う。 「私がここに来たんはな‥」 その口数の多さは 「サキとこのまま終わるんは嫌やって。思ったからや‥」 アキの優しさで。 「簡単に終わらせるような関係やとは思いたくなかった」 アキの優しさだから‥。 私は 自分の情けなさと 自分の弱さが悔しくて悔しくて。 ‥‥っ 涙が出た。 「‥‥ごめん」 涙で言葉がつまる。 「ごめ‥‥」 なんでそんなに 優しいの‥? 私は 変わらなければいけない。 強く 強く強く。 強く強く強く そう思った。 「‥‥」 無言のアキ。 この人は。 私の気持ちを誰よりもわかっていて 私の欲しいものをいつだってわかってくれるから。 次にアキがどうするかー 私にはわかっていた。 「サキ‥」 アキは私の肩を引き寄せ 抱きしめる。 それは 私が一番して欲しいことだったから。 「サキ」 涙が溢れて溢れて 息が苦しい。 ぎゅっとー アキに抱きしめられ 暖かい温度に包まれた。 でも。 私は 変わるんだって決めたから 変わらなければいけないって思ったから。 ‥‥ アキの身体を 自分から離した。 強くなりたいー 私はあなたが 好きだから。 だから私は。 優しく甘いアキの腕を ふりほどいた。
「サキ?」 アキの腕をほどいた私の顔を 不思議そうに見るアキ。 「‥アキ、あのね」 顔を濡らす涙をふいて 正面からアキに向き合う。 もう‥ 後悔して泣いてばっかりの自分ではいたくない。 「アキ‥」 「ん?」 いつも優しく強い アキの声。 「私はアキが好き」 「‥‥‥」 「だから今は。甘やかさないで」 「サキ‥」 「あなたにずっと好きでいてもらいたいの」 「‥‥」 「自信を持って、あなたに愛されたいの」 「‥‥‥」 「だから私は。強くなりたい」 自分の意志を確認するように 言葉を伝えた。 もう 弱さを理由になんてしない。 大切な人を失って 涙と後悔しか残らないのはもうたくさん。 本当に好きな人を 絶対に失いたくない人を。 私は見つけたから。 変わりたいのー 「だから少し待って、アキ」 もう泣かない。 「びっくりするくらいいい女になって。アキのところに帰るから」 これは 本心。 「‥ふっ」 アキが頬を緩めた。 「さらにいい女に‥なるんや?」 アキはいたずらに ニヤっと笑う。 「そうだよ」 今度はあなたが私に 溺れちゃうくらいにね。 「それは‥悪くないなぁサキ」 「‥でしょ?アキ」 「‥‥」 「‥‥」 「‥ふっ」 「ふふ‥」 信じ合える関係って こんなに温かいんだ。 アキといて そう感じた。 「待つよ」 アキが顔を上げ 私に言う。 「待つ。サキが帰ってくんの」 ‥‥‥ ありがとう。 アキ‥ 「その間に浮気とかしたら‥許さないかんね?アキ」 アキの柔らかい頬をつねる。 「そんな余裕‥あるかいな」 アキはちょっとふてくされた顔で 「サキでいっぱいいっぱいやのに‥」 小さくつぶやいて。 ぽすっー 私の頭を軽く撫でた。 そのアキの手は。 どんなキスより どんなベッドでの行為より。 温かかった。
それから私はー 頑張ってみた(と思う)。 “強くなる” “恋愛だけが全てじゃない大人の女になる” そう決めてみたものの‥ はて。 何からしたらいいんだ‥(迷) 思い返してみれば今までもー 恋愛をするたび 他のことにはまったく目が向かなくなる私だった。 恋人ができると付き合いが悪くなる女友達‥ それが私で(情けない) 『趣味は?』 と訊かれても。 うーん‥ 恋愛? それしか思い浮かばないのが私だった(情けなすぎる‥) 恋愛中毒だった私。 私にはー 相手を尊ぶ気持ちが欠けていたように思う。 アキがいつか言っていた。 『誰かに優しくすることはな、自分に優しくいる一番の方法なんやで』 あの言葉を思い出す。 無意味に傷つけ傷つかない為に 相手を尊ぶ気持ちを忘れないこと。 それには‥ 自分に余裕を持ち 恋愛をしている自分以外に 誇りを持つこと。 それが大切ー アキの 「待つよ」 その言葉を信じて。 私の毒抜き作業が始まった。 まずは‥ 連絡をご無沙汰にしていた長年の友達に連絡を取ろう。 『何よ急に。彼氏と別れたの?』 なんて言われちゃうだろうけど‥(トホホ) でも 恋人以外の人間関係を大切にすることは 大人としても肝要なこと。 あとは‥ ずっとサボっていた資格試験の勉強 もう一度始めよう。 それから‥ 忙しさにかまけてあんまり読まなくなった本。 大好きな本を読む時間を もっと持とう。 あとは‥ それから‥ 実際。 始めることは何でもよかったんじゃないかと思う。 趣味、友達、勉強‥ 恋人以外と向き合う時間が 私には必要だった。 その間アキとはー 相変わらず会社で隣同士。 何も変わらず 話したり 笑ったり‥。 変わったのは キスをしなくなったことくらい。 友達、親友、恋人‥ 曖昧な境界線に立つ私達だったけれど そんなことはどうでもよくなり。 アキが大切。 その気持ちが 大きくなっていった。
私の毒抜き期間も 3週間を過ぎたある日曜の夜ー 私は一人で家にいた。 資格試験の勉強にも疲れ 「んー‥」 ベッドに身体を伸ばす。 「‥‥」 天井を見ながら ‥何してるかな、アキ 枕を抱きしめる。 その時ー 〜〜♪♪♪ 私の大好きな歌の 個別着信メロディ。 これは‥ アキの歌っ!! 「もしもし、アキ?」 『‥‥』 「もしもーし」 『何でそんなに嬉しそうやねん』 受話器の向こうでアキが笑う。 「だって‥電話久しぶりだもん」 『せやなあ』 あ‥ アキの声 やっぱすごい好き。 とろーん‥(溶) トロけた私の耳に聞こえてきたのは。 『2週間後の連休、空けといてな』 アキからの唐突なお誘いで。 ‥ほ ほほほ?(嬉) 「‥デート?」 『ちゃう』 ムカ(怒) 「じゃあ何よ」 ブヒ(怒) 『旅行、や』 アキは短く そう言って。 「リョコ‥?」 『そ、旅に行くと書いて旅行』 ‥‥‥ はらはりはる‥ はれー!! 「い、行くっ行く!」 わっしょい!わっしょい! ※意味不明 『こないだ言うたやろ、ケンが結婚するって』 「うん」 『地元で結婚式するんやって』 ‥あ、だんだん読めてきたぞ♪ 『私も結婚式呼ばれたから行こうと思ってな‥』 で 私との旅行も兼ねたいとね? ぬふふ♪ 「いいよ、行く!行きたい!」 『ほんま?』 嬉しそうなアキの声。 「うん!」 (ぬ)ふふ‥ アキとケン君の地元ってことはー 「大阪かあ」 ナニワの街に夢を馳せていた私に アキが一言。 『あ?大阪ちゃうで』 ん? 『小学生の時に大阪に引っ越したんや、私』 では‥ 今回の旅先は。 イズコ? 『京都』 『私が生まれた場所』 『案内したる』 ニヤっと笑うアキの顔が透けるような 最後の言葉。 ‥きゃー// こうして私達の京都の旅が 突然決まったのでした。 ※本とに唐突だよ(笑)
続く