■歴女の受難 □hime
開発室の春奈から手伝ってくれないかと言われて気楽にOKしたんだけど、結構大変な仕事らしい。 開発室の「絶対秘密」って赤字で書かれた部屋に入ると、様々なよくわからない機械やメーターに埋もれた中に、細長い卵のようなカプセルがあった。 全身体験型の「ヴァーチャル・ヒストリー・メーカー」ってゲーム機らしい。 カプセルの中には濃い塩水が入ってて、そこに裸になってぷかぷか浮かぶ。 蓋を閉めるとただの暗黒。 手足は浮遊状態ですべての刺激が消えてしまう。 そこに特殊な電波で脳波を直接刺激すると、用意されたストーリーをまさに自分がそこにいるかのように体験できるんだという。 で、このゲームの醍醐味は、自分自身が歴史上の実在の人物になりきることができるってこと、だと春奈は熱く熱く語るんだけど…… 「で、なんで私が適任なの?」 「だって、由芽ちゃんって、歴女じゃない。 こちら側が用意できるのは大まかなプロットやストーリーだけであって、本人の知識以上の発展はないわ。 これまでの被験者は歴史のシロウトばっかりだったから、用意されたストーリーを変えることなく安全にこっちの世界に帰って来れたの。 でも本当に歴史に詳しい人がここに入ったらどうなるか、まだ試せてないんだよね。お願い、やってみて」 上司の命令でもあるし、仕方なく水着に着替え、カプセルに入ってみた。 すぐに扉は閉められ、暗黒になった、と思った瞬間だった。 私はバスチーユ監獄にいた。 名前はジェスティーヌ、この間まで貴族の娘。 他の女囚と同じように裸で石の壁の前に立たされているのだった。 灯りは天井と壁からの陽の光のみで、女達の白い裸が亡霊のように浮き上がっていた。 私の足首には鉄の足かせが重く、いくつもの傷を作っていた。 気がつけば全身には鞭のあとがあり、焼けるように痛かった。 看守のロジーヌが若い女の子を私たちの前に引きずり出した。 ロジーヌは体重150キロはあろうかというデブで、カバそっくりの年増だった。 「おい、ここで身体を隠すのは?」 ロジーヌがスザンヌに聞いた。 ベテランのスザンヌは女囚でありながらロジーヌの女で、牢名主的な存在だった。 「御法度だよ。脱獄用の道具を隠してるかもしれないからね」 「だよね。ところがこの小娘ときたら……」 「ご、誤解です、そんな」 女の子は泣いて抗弁したけれど、おそらく無駄だろう。 泣けば泣くほどロジーヌやスザンヌの劣情を刺激するだけだ。 こういうときは素直に罪を認め、ギロチンにかけてもらうのが一番なのだ。 この時代、美しく生まれついた貴族は、その美しさという罪の故に、人間の最も醜い劣情の生け贄となる運命なのだ。 「この草むらの中に隠してるんだろ。ほら、手をどけてみろ」 「い、いやです、そんな」 「隠すのは、そこに道具を隠してるからだろ」 かわいそうに、新入りの貴族の娘なんだろう。 少し前まで着飾って高級なサロンに出入りしてたろうに、今や丸裸に剥かれて最底辺の女の慰みものだ。 この女の子の受難が一刻も早く終わることを祈らずにはいられない。 けれど、それは無駄な祈りというものだ。 もはやロジーヌやスザンヌはこの子を獲物として扱っている。 「はやく手を頭の上にやるんだ」 女の子は泣きじゃくりながらいうとおりにした。 端正な乳首と黄金の絹玉のような縮れ毛が現れた。 「中も、もちろん検査するんだろうな」 とスザンヌがけしかける。 「もちろんだよ。奥の奥まで……な。ほら、脚を開いて、ケツをこっちに向けな」 「で、出来ません、そんなこと」 「仕方ないな、ほら」 ロジーヌが目配せすると、スザンヌや、そのほかの手下たちが女の子を押さえつけた。 女の子はテーブルを抱くような形に拘束された。 こちらからは女の子の最も隠したい部分が丸見えになっていた。 「さて、まずは女の隠れたポケットの中を検査しようかね」 キャァァア、と女の子の絹を裂くような声が上がった。 女の子はロジーヌが検査と称する拷問を続ける間、ずっと叫び、許しを請い続けた。 そこにいたならず者以外、皆、この苦しみが一刻も早く去ることを願っていた。 検査を終えたロジーヌの手は肘まで血まみれになっていた。 「もう一つ穴があるだろ、女と男共通の」とスザンヌが言った。 「私ゃ、クソまみれはイヤなんだよ。あんたはそっちが趣味だろ、あんたに任す」 「ありがとよ。久しぶりにケツを破られて死ぬ若い女の声が聞けるよ」 スザンヌの期待に反し、女の子は責めそのものでは死なず、そこに拘束されたまま二日間生死の境を彷徨って、恐ろしい形相のまま亡くなった。 引きずり出された子宮と腸にハエがたかり、耐えがたい腐臭を発していた。 ちょっとまって、何か変よ。 と思った瞬間、カプセルの扉が開けられ、私はこの世界に戻ってきた。(今回はハードにいくよ。心臓の弱い子は読まないで)
私は開発室のスタッフに助けられながらカプセルを出た。 シャワーを浴びて着替えて戻ってくると、スタッフの女の子が聞いてきた。 「どうでした? 恐くなかったですか?」 「恐いも何も」と私は言った。「どうしてバスティーユに貴族の女囚がいるんですか? 歴史的におかしいでしょ」 「今度はバスティーユでしたか……」 「今度?」 「どうも開発者の妄念が紛れ込んでいるらしくて、どの時代、どんな事件に設定しても、開発者の影が出てきて、それはもう口に出せないくらい残虐な方法で殺されてるんです」 確かにそうだった。 「今回はどうでした?」 「とても口には出せません」 「でも、由芽さんは歴女だから、ものすごくリアリティのある世界だったんじゃないですか? 逆に恐かったでしょ」 確かにリアリティはものすごかった。 でも恐怖は感じなかった。 なぜだろう。 「あの妄念が消えない限り、ちょっとゲームとして売り出すのは無理なんです」 確かにそうだろう。 生きながら子宮や腸を引きずり出される光景を見るなど、あまりに…… 「実は、今日、開発者が来られてるんです。会ってみませんか」 「なんで、私が?」 「由芽さん、一昨年、社内報に『歴女の妄想』ってエッセイを書かれましたよね」 「ああ、あれ? バカみたいな……」 「あれにインスピレーションを受けて、このプログラムを開発したらしいんですよ、彼女」 は? という感じだった。 もし私が……だったら、という感じで、歴史上の有名人物を列挙しただけの、お粗末な文章だったのに。 そうか、それで私みたいなペーペーの一社員が開発室なんかに呼ばれたんだ。 「いいですよ。私でよければ」 「良かった。断られたらどうしようかと。こんどお酒でもおごりますね」 そう言ってスタッフの女の子は出て行った。 しばらくすると、入れ替わりに、バスティーユで殺された女の子が入って来た。 私は一瞬、あの腐った臓器の匂いを思い出して吐きそうになった。 「ごめんなさい」と女の子が言った。「気持ち悪い思いをさせたんでしょ」 私は何も言えなかった。 「私、特殊な体質で、母親が体験した……あ、母親はクロアチア人で、民族虐殺の現場にいたらしいんですよ。 その記憶を受け継いでいるらしくて、そのままじゃないんだけど、フラッシュバックみたいに甦るんです。 だから、プログラムの中に、その妄念が入り込んで、とんでもないことになってるらしくて……」 妖精、と言っても良いような美少女がポロポロと涙を流しながら言うのだった。 「私、今度はどんなやりかたで殺されてました?」 とても口には出来なかった。 「教えて下さい……私には大事なことなんです」 私は一部始終を告げた。 「やっぱり……私って、変態ですよね。そんな殺され方を望むなんて」 え? 「私の願望がそこに投影されてるんです。私、そうやって女達に性器をいじられて殺されたいんです、きっと」 女の子は声を上げて泣いた。 私は何とも言えなかった。 「あんなゲームが売り出されたら、私、生きていけません。お願いします、私のこの妄念を取り除いて下さい。 あなたしかいないんです、私にインスピレーションを与えてくれた由芽さんしか」 そう言って女の子は私に抱きついてきた。 ほのかに薔薇の香りがして、私は思わず女の子を抱きしめた。(続くよ。感想待ってるね)
気がつけば平原だった。 モンゴル人に襲われた私たちポーランド族は逃げて逃げてこの平原にまで来ていたのだった。 けれど騎馬に長けたモンゴル族にかなうわけもない。 男たちは皆殺しにされ、私とマリアだけが生き残って、モンゴル族の女の慰み者になっているのだった。 マリアは服を一枚ずつ剥がされ、最後に残った自分の手で、胸と、腰のわずかな草むらを隠していた。 モンゴルの女たちは大笑いしてマリアを押さえつけた。 そして地面の二本の杭に大の字に縛り付けた。 杭が高く立てられると、逆さまになったマリアの草むらからは紅い筋がへそに向かって流れた。 モンゴルの女は私に棒きれを投げて渡した。 通訳が言った。 「お前はあの女の家来だろう。しっかり守って見せろ」 私には意味がわからなかった。 けれど、私たちの頭の上を舞うカラスが急降下してきたとき、本能的にその棒を手に取った。 カラスは血の臭いに反応して集まってきていたのだ。 今の標的はマリアの草むらだった。 私はマリアを守ろうとカラスを追い払った。 その様がいかにも滑稽だったのだろう、モンゴルの女たちは手を打って笑い転げた。 最初の二三羽は防ぐことが出来た。 けれど、数が膨大になって来るともうダメだった。 そもそも草むらの位置が私の頭よりも遙かに高く、棒でも届くか届かないか。 それがわかっていて、モンゴルの女たちは見世物にしたのだ。 マリアは言葉にならない声で叫び続けた。 草むらはついに裂け、カラスたちのお目当てだった内臓がズルリと流れ出た。 血まみれになったマリアの顔にも容赦なくカラスは襲いかかり、目玉も食われた。 私は意味も無く棒を振り回しながら…… おかしい…… と思った瞬間、私は開発室にいた。 女の子は私の腕の中で泣きじゃくっていた。
「私、どんな殺され方してました?」 「今のは何?」 「脳波を同調したんです」 「そんなことが……」 「二人で同じ妄念を共有したはずなんですけど、それぞれの記憶とか知識とかに応じて内容は変わってくるんです。 私は、今は、高校の頃の同級生たちに逆さに縛られて……」 女の子は泣きじゃくった。 「傘であそこを突かれて突かれて、お腹が破れて……」 私は自分の妄念を話した。 「やっぱり……私って変態ですよね」 「ねえ、あなた、処女?」 「もちろんです」 「そういうこと、関係ないのかな」 「だって、私、男の人、全く駄目なんです。その意味でも変態なんです」 「私さ、実は自分のこと、バイセクシャルじゃないかと思ってるんだ。よかったら、私といろいろやってみない?」 「いいんですか? 私変態ですよ? いろんな意味で」 女の子の目が妖艶に光った。 「とりあえず……」 女の子は開発室のドアに「実験中、静かに」の札を下げ、しっかりと鍵をかけた。 そして白衣を脱ぎ、スーツを脱ぎ、下着だけになった。 下着もとり、椅子の上のスーツの下にそっと入れた。 信じられない美しさだった。 そしてそれを恥じるように胸と下を隠し、大理石の像のように立っていた。 私はたまらず女の子を抱き、唇を…… 風景が変わり、また草原だった。 頭の下に大地があった。 気付けば私はマリアで、二本の杭に大の字に、逆さに縛り付けられているのだった。 侍女は必死にカラスを追い払っていたが、無駄だった。 私の敏感な場所に激烈な痛みが走った。 ガシガシガシ、と続けざまにカラスが突いてくる。 信じられない痛みが連続してやってくる。 グズグズグズとカラスが入ってくるのもわかる。 痛い、苦しい…… 熱いものが流れ出したのがわかる。 目の前が真っ赤になる。 そして真っ暗になる。 目を突かれた。 顔もまたガシガシガシと突かれる。 痛い、死ぬほど痛い…… どうしてこんなにまでなって生きてるの…… 早く殺して…… 意識がなくなる……瞬間、私は戻ってきた。 女の子は私をゆっくりと引き離し、いかにも残忍そうな笑みを作った。 「みつけたわ、私のドッペルゲンガー。これで私は助かる」
女の子は私に唇を重ねてきた。 再び、私の敏感な部分に激烈な痛みが走った。 私の脚はV字の棒に縛り付けられ隠しようも守りようもない状態だった。 上半身はテーブルに縛り付けられて動けず、ただ、 「殺して下さい」と命乞いとは反対の言葉を漏らすだけだった。 もうこの責め苦は四日目に入っていた。 二週間以上塩を絶たれた羊はわずかな塩分を求めて私の天然の傷跡を舐め続ける。 最初の十分で粘膜ははぎ取られ、敏感な神経そのものがむき出しになる。 肉を切られる痛みを神経が感じる、骨を折られる痛みを神経が感じる、とかそういうのじゃない、神経そのものを少しずつそぎ取られる痛み…… 人体のなかで最も神経が集中するクリトリスを少しずつ、少しずつ、羊のザラッとした舌が舐め取っていく。 「殺して、早く殺して」 と決してかなえられることのない望みを叫びながら、この絶望的な激痛に耐えるしかない。 いきない、脚の付け根から電気のようなビリビリとした激痛が脳天に向かって走る。 大腿骨に付いた神経そのものに舌が触れたのだろう。 これまでとは桁の違う激痛に身体を反らせる。 もう性器は形も残っていないのだろう。 こんなの、女にしか思いつかない拷問だ。 もう一秒と耐えていられない。 けれど、決して楽になることはない。 しかも、これは、何かを吐かせようとしてやっているのではい。 純粋に苦しみを与えようとしているのだ。 群衆にとっての、この、たまらない娯楽は一日三十分に制限されている。 でなければ羊は二時間で性器のすべてを破壊し、犠牲者は出血多量で死んでしまうだろうから。 それはつまらない。 一日三十分に制限し、治療も施し、しっかりと栄養も与えて、一週間はなぶり抜かなければ…… それに、一度痛みを知った女は、二度目からは、責めの前から泣き叫び許しを請う。 その様がまた群衆にとってはたまらない娯楽なのだ。 羊が放され、ゆらゆらと血の臭いを求めて女のもとへ歩み寄る。 女が恐怖に叫ぶ様、舌が触れたときの絹を裂くような叫び…… まるで快楽に耐えるかのように引きつる脚、背、そして叫び声。 すべてが美しいものへの妬みを刺激して、たまらない快楽を与えるのだろう。 今日の責め苦、三十分が終わった。 包帯が巻かれ、無理矢理スープを飲まされる。 あと何日も生きて、この責め苦をたっぷりと味合わせるために。 普通なら、これほどの激痛に脳が耐えきれず、痛みは快楽へと変換されるはずなのだ。 だが、そんなことは群衆はみな知っている。 どれほどの苦痛を与えようと、犠牲者たちは最後には微笑みながら死んでいくことを。 そんなこと「魔女」には許されない。 最後まで苦しみながら…… 一月前から少しずつアヘンを吸わされ、快楽物質への耐性が出来た脳は、もはや快楽を感じない。 激痛は激痛のままだ。 何の救いもない。 唯一の救いは死だ。 そして、これが、美しく生まれついた女の運命なのだ。 「どう、わかった?」 私から唇を離して女の子は言った。 「私はこの運命を何千年も背負って生きてきたの。まだまだこんなもんじゃないわ。 美しく生まれるってことは女にとってリスクなの。あなたにそれをじっくりと教えてあげるわ」
「あなたの文章『歴女の妄想』読ませてもらったわ。自分が絶世の美女だったらどうするって、ひどく自分勝手な勝手な妄想」 私はいつのまにか、さっきと同じように縛られ、女の子に羞恥の中心を晒していた。 女の子は私のVの字になった脚越しに笑いながら、 「美人のここは、時と場合によっては民衆にさらされて、面白半分に破壊される運命にあるのよ、わかってる?」 女の子は私の敏感な芽を優しく摘んだ。 ビクン、と感じた。 ああああ、と声が出る。 思えば、こんなに優しい愛撫は初めてだ。 関係を持った男二人は、あきらかに愛がなかった。 私が感じているかどうかなんてお構いなしだった。 愛のある愛撫とはこれほど心地良いものなのか。 「私は理不尽に殺されてきた美しい女たちの残留思念よ。それがあなたの文章に反応したの。何を自分勝手なことを、って」 愛撫が荒々しいものにかわった。 指が入れられ、芽を潰すような愛撫になった。 内と外で、感じる。 声が出る。 「逝きなさい、何度でも」 言われるがまま、女の子の指を受け入れ、数え切れないほど逝った。 「可愛いわ。食べちゃいたい」 そう言って、女の子は私のそこに唇を当てた。 芽を甘く噛まれながら、信じられないほど長い舌が私の中を蹂躙した。 どんな技法を使えばこんなことが出来るのかわからない。 指がアナルにも入れられ、舌とアナルが薄い皮一枚隔てて絡み合い、得も言えぬ快楽のハーモニーを醸し出す。 逝って逝って逝きまくり、もう死ぬ、と思った。 あまりにも深い快楽に。 「さて」と女の子は起き上がった。 その手には巨大なノコギリがあった。 私はそれをある大学の人権センターみたいな所で見たことがあった。 そこには世界の拷問具が集められていたのだった。 これは女の犯罪者を文字通り股裂きにするノコギリで、実際に使われたものだと知ってゾッとしたのを憶えている。 これで切られても傷がおへそに達するくらいまでは生きていたという記述にもゾッとした。 「頭のてっぺんまで切られても、また再生してノコギリでひかれるの。永遠にね。私の運命はあなたの運命に変わったわ。これで消えていける。さよなら、私のドッペルゲンガー」 女の子の目から明らかに精気が失せた。 女の子は機械的な動きでノコギリを持ち上げた。 とても一人では持てない二人でひく道具なのに、軽々と持ち上げ、私のそこに当てた。 冷たい鉄の感触が…… カプセルのドアが開けられた。 「大丈夫ですか?」 開発室の担当者が言った。 「大丈夫じゃない。これはひどく危険な機械よ」 「やっぱり……」 担当者は残念そうに言った。 けれど数日経って、実用化のめどが立ったという知らせを貰った。 被験者の想念の中に出てきて色々悪さをしていた女の子が消えたというのだ。 心当たりはあったが、黙っていた。(終わり。感想待ってるね)
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