■11100 / inTopicNo.1)  夏−2005−  
□投稿者/ 真希 一般♪(4回)-(2005/07/20(Wed) 17:47:22) 

何やってんだか、こんなの全然笑えない。 周りは笑ってくれるのに、私はぜーんぜん楽しくない。 水着ー! ーぃ。。。ひゅぅー!♪             っていい声で叫ぶね高校男児。その声だけなら個人的には好きだよ。 汗をかいた缶ビールやらから目を離して顔をあげると、真っ青な空に霞む飛行機雲。 夏なのに、あたしはぜんぜん飛べてない。 (やば。。レンタルビデオ屋さんの店員まで可愛く見えてきた・・。) 「返却は一週間後です。次の方どうぞ。」 (チョー愛想ね。可愛いのに。) ため息をついて夜の公園を歩く。 親にはだめって言われてるけど、ここを突っ切ると家までの近道。 「もう無理だよ。別れよ。。」 意外にも先に別れを口にしたのは、あたしの4つ年上の彼女だった。 ドラマのシーンに出てきそうな、夜明けが迫る薄暗い公園に二人ぼっち。 別れをつきつけられた可哀相なあたしは、そんな視聴者たちの期待を裏切って全然悲しくなかった。 「どう思う?」 「寂しいよ。」 即答したあたしに、彼女はふっと笑った。 「さようなら。」 彼女らしかった。 もっとあたしに言いたいこともたくさんあったはずなのに。 出会ったのは都内のイベント。 可愛くて、あたしの一目惚れだった。 でもあたしが彼女を想った以上に彼女もあたしの顔が好きだったみたいで。 二人は運命的なスピードで結ばれた。 そして1年後のおとといの夜、別れた。お互いが初めての『カノジョ』だった。 ヒロちゃん。もしもだけどね、 1年前のあの夜、 あたしは急に映画を借りたくなって、駅の改札手前で引き返す。 駅を出て、ほんとは帰り道とは逆方向のこの緩い坂を自転車をこいでビデオ屋に行くと、 広い店内でそのカウンターの隅に清楚なヒロちゃんが立っていてあたしに何気ない笑顔を向ける。 きっとあたしは一目でヒロちゃんの不思議な魅力に恋をして、もっともっと好きになっていたのかもしれない。 今のあたしは何を言いたいのかさっぱりわからない。 20になったばかりのあたしは、世間に言い訳したいくらい、どこが大人なの?と問いたいくらい。 その日は借りてきた香港映画。 もうすぐ家族で旅行に行くからお父さんに頼まれて言われたものを借りてきてあげた。 しばらくリビングで一緒に見てたけど、あんまりアジア物って見慣れてなくて、暇になって部屋に戻った。 携帯を見るとメールの着信ランプが光っていた。 あたしは電気もつけずにそのままベットに横になった。 「ここだよ。」 気がつくと、斜め後ろのパイプ椅子に腰掛けていた教育実習生の若い先生があたしの教科書を指差している。 あたしは慌てて指された箇所をマーカーでなぞる。 「ありがとう。」 若い先生はあたしに笑ってくれた。 休み時間はみんなを交えての、他愛もない会話しか出来ない。 いつもみんなに優しい先生。 「卒業旅行にね香港に行ったんだ。とっても夜景がきれくて、楽しかった。」 笑顔でそう話してた。 あたしは話を聞いてるふりをして、ずっと先生のまぶたとまつげだけ見てた。 特別美人ってわけじゃないのに、なんだか先生のこと好きになりそうだよって あの時は本気で思った。 たぶん、あの時は本気で好きだった。 「すごいキレイだろー。」 船上から香港島の夜景が見える。 「世界三大夜景の一つに選ばれてるくらいだからなぁ。」 今夜のお父さんは饒舌だ。さっき飲み屋で一杯ひっかけたせいもあるだろう。 隣で姉も感化されて、デジカメで何度もこの夜の夜景をトリミングしている。 お父さんは携帯を取り出した。 共働きの我が家で、今回唯一どうしてもの仕事でこれなかったお母さんはいま日本にいる。 「母さん、天気も良くてね、霧もない。子供達に見せれて良かったよ。ああ、あの頃のまんまだ。  まんまではないか、はは。でも、変わってないよ。きれいだ。」 お父さんは嬉しそうだった。 目じりを緩ませながら、楽しそうにお母さんと会話している。 よく見ると、頭の所々に白髪がうつって、昔見せてもらった写真より両親はずっと年をとっていた。 あたしは生暖かい風をうけながら、ただ対岸の街並みを見つめていた。 先生にとって『「とっても夜景がきれくて楽しかった。」香港』を 2年後のあたしは見つけようとしていた。 あの時、あたしも行きたいって懇願した場所に、あたしは今立っている。 別に、あの時以来あの先生をひきずってて忘れようと努めてきた失恋でもない。 思い返すと、ただ あたしはいろんな人にときめいて、冷めて、追いかけて、怖くなって、あたしを好いてくれる人と遊んで、 いま一番幸せって感じて、でも違って、自分に冷めて、どうしたいのかわからなくなって、その過程の中のひとりに先生もいた。 無数にちらばる恋愛の可能性のひとつに、あの時の思い出もあった。 海上に浮かび上がる赤や青や黄色や緑やイルミネーションの数にいつの間にか先生のことよりも、 いつの日かヒロちゃんと行った花火大会の花火の光を思い出していた。 ヒロちゃんとあたしの重なった汗ばんだ手。 あたしの中に在る思い出はそれしかない。 だってあたしは先生と二人で遊んだことすらない。 だからあの時の先生の感動に、一緒になって想いをはせることなんて最初から無理だったんだ。 ただ目を閉じてみると、昔の自分は色濃く鮮やかに笑っていた。 日本へ帰国後、あたしはずっと伸ばしていた髪を切った。 「すっきりしたじゃん!」 って言ってくれる友達もいれば、 「長い方が好きだった。」 なんて悪態ついてくれる友達もいる。。多少ショックだけど・・。。 でもめげない・・! 「今度いいイベントがあるよ!行くっしょ?!」 傷心しているはずのあたしを気遣って誘ってくれる優しい友達。 でも、やっぱり思った以上にあたしは打たれ強いみたい。 いま、正直なことを言うと、やっぱり好きな人はいない。 あたしには過去にそれだけ課題を残してきたから・・・。 素直じゃなく、あまのじゃくで、傷つくことが怖くて、好きになってもらえるとすぐ甘い方向に行きそうになっちゃう。 むくわれそうにない片想いは嫌いだ。辛いことは苦手だ。 でも、あたしだって本当に大好きな人と笑っていたいから。 たまにはひとりの時間も必要かもしれない。 大切ないまを今度は過去にしないように、あたしはあたしの心を信じようと思う。 大切なひとを今度は過去にしないように。 完