■8275 Everytime  
□投稿者/ 菜々子 (1回)-(2005/03/26(Sat) 12:29:23) 

忘れかけていた歌や言葉たちは 春の優しい風にのって舞い戻る。 愛しい人の香りや表情が 鮮明に蘇るのは何故だろう since いつからだろう こんなにこんなに"愛"というものを知ったのは。 いつからだろう "愛しい"だなんて思うようになったは。 (携帯)
■8276 / inTopicNo.2)  1 □投稿者/ 菜々子 一般♪(2回)-(2005/03/26(Sat) 12:30:43) 「ただいまー」 鍵を開けて、少し疲れた声で言ってみる。 誰もいない部屋からは返事が返ってくるわけではないけど。 わかってても言いたくなるんだよね。 いつもより風が強くて、綺麗な雪も荒々しく見えていた今日は 冬の寒さ以外にも、何か他の、冷たさのようなものがある気がした。 部屋の電気をつけると 殺風景な様子が現われて、余計に冷たく感じてしまう。 チャラチャラと指で鍵を回していたら、鼻歌が自然と流れる。 ♪ 何かいい気分。 そのまま、コーヒーでもいれようかと思った。 〜♪ 鞄の中が騒がしくなる。 あっ‥電話? 鍵をテーブルに置き すぐに鞄の中をあさってみるが、 焦っているとなかなか見つけだすことが出来ない。 やばっ切れちゃう! 〜♪――‥ 「あっ。」 手探りでやっと見つけたのに。 切れちゃった。 「チェッ。」 静かになった携帯を開き、着信履歴を見てみる。 少しだけの期待が、私の胸を襲う。 けれど、 あぁ、また‥か。 ―非通知設定― うまい具合に期待が裏切られてしまう。 誰なんだろう。前からあったけど、最近は特に多いな。 「ストーカーかな?」 そんなことを呟いてみるが、本当は大して気にしていない。 だからそのまま鞄ごとソファに放り投げる。 何期待してんだろー。 なんとなく、そんな自分に嫌気がさした。 もう自分の心の中は整理したはずなのに。 ちゃんと受けとめられたはずなのに。 どうして私は。
■8277 / inTopicNo.3)  2 □投稿者/ 菜々子 一般♪(3回)-(2005/03/26(Sat) 12:32:05) 「ちょっと、、柚羅さーん?」 「えっ?」 可愛らしい女性の声でハッとする。 あっ‥今仕事中だっけ。 忘れてた。 「ほら、全然進んでないじゃないですか。もう。」 休憩のお茶を運びにきた亜紀は、 頬を膨らまし、何だか怒ってるみたいだ。 そのまま私の横に腰を下ろしハサミを手に取り、 綺麗な色画用紙を切り始める。 「まさか、明日お遊戯会だってこと忘れてませんよね‥?」 それでもまだうわの空の私に、恐る恐る亜紀は聞いた。 「あっ‥。」 忘れてた。 お茶を飲もうとした手を、パチッと叩かれる。 「もう、休憩なしですよ!何か‥最近柚羅さんおかしいですよ。」 いきなり叩かれたもんだから‥びっくりした。 確かに、変かもな。 けどソレは。 「何でもないよ。工作が苦手なだけ。」 「‥嫌味ですか?」 私より工作が苦手な亜紀はまた頬を膨らます。 「あっ‥」 思わず笑ってしまった。 先程まで綺麗な長方形だった色画用紙は、 うさぎだか、くまだか、犬だか、 ‥わけのかわらない、不思議な形を作っていた。 「あぁ‥ごめん‥」 必死に笑いを堪えてみせるが、亜紀はまた頬を膨らます。 「いいんです、子供たちはわかってくれるんだから。」 そう言うと亜紀は怒ったように顔を背けた。 「あっでもこの間亜紀が作った‥キリンだっけ? あれ優太君に馬って言われてたよね。」 言った瞬間、亜紀にギロッと睨まれる。 でも負けない。 「あんなに特徴的な動物なのにね。」 「―‥もう!」 堪り兼ねた亜紀が大声を出した途端、 お昼寝中の子供たちがモソモソと動き始める。 「亜紀先生静かにしてくださーい。」 わざとらしく言ったら、 亜紀はまた頬を膨らませた。 亜紀のせいだ。 亜紀のせいだ。 亜紀のせいなんだ。
■8278 / inTopicNo.4)  3 □投稿者/ 菜々子 一般♪(4回)-(2005/03/26(Sat) 12:34:15) 柚羅さん‥ また考え事してる。 お昼寝の布団をテキパキと片付けているけれど、 何だか、背中が小さく見える。 何かあったのかなぁ‥。 「あきせんせェー」 ぼんやりそんな事を考えていたら、 泣きながら千尋ちゃんがエプロンの裾を引っ張ってきた。 「んっ?どうしたの?」 すぐに私はしゃがみこみ、千尋ちゃんと視線の位置を合わせる。 「ゆうたくんがぁ‥」 そう言うと千尋ちゃんは、ヒクッと喉をならし、 大きな声で泣きだした。 あまりの泣き声の大きさに、柚羅さんがコチラを振り返る。 「大丈夫です。」と私は目で伝えて、泣きじゃくる千尋ちゃんを抱えあげた。 「‥っ――。」 また優太君にいじわるされちゃったんだね。 優しい声でそう言ってあげると、 千尋ちゃんは、少しづつ、少しづつ、おとなしくなる。 「大丈夫。先生が守ってあげるからね。」 頭をポンポンと撫でてあげると、 千尋ちゃんは、安心しきったような笑顔を見せた。 可愛いなぁ‥。 こんなに自分の気持ちを素直に出せるのは、 子供の特権だな。って思った。 自分が素直になれない分。 私は子供にソレを求めているんだろう。 だからこの仕事を始めたんだ。 あっ、そうだ‥! 千尋ちゃんを下ろしてあげて、 大丈夫だよ、って言った。 逃げ回る優太君を必死で追い掛けて、 やっと捕まえた。 「優太君っ‥足早い‥」 抱き上げて肩で息をしながら私が言うと。 「おめーがおそいんだよ。」 おめーって‥。 しかも図星じゃん。 でも一応、私あなたの先生なんですけど。 まだ4歳のくせに‥ くーっ生意気――。
■8279 / inTopicNo.5)  4 □投稿者/ 菜々子 一般♪(5回)-(2005/03/26(Sat) 12:35:56) 「そんな言葉使わないでくださいー。 先生は優太君より力、強いですから。」 そう言って抱き上げた優太君をギュッと抱き締める。 ちょっと強めに。 優太君はジタバタと腕の中でもがいているけど、 動けないみたい。 「ねっ?強いでしょ?」 「――ッ!はなせよ!」 「ちゃんと千尋ちゃんに謝るって約束したら離してあげる。 優太君はココで一番のお兄さんなんだから、優しくしてあげなきゃ。」 またギュッてすると、優太君はやっと観念したみたいで。 「わかったから、はなせよ!」 だから離してあげた。 背中をポンポンと押してあげると、素直に千尋ちゃんの元へと向かう。 「ごめん。」 そっけなくそれだけ言うと、逃げていってしまった。 恥ずかしがり屋さんなんだよね。 それは千尋ちゃんもきちんと理解してるみたいで、 逃げていった優太君を追い掛けて、 「ゆるしてあげるよ」って笑顔で言っていた。 子供なのに大人より大人なんだ。 すごいなぁ‥。 あっ‥!感心してる場合じゃなかった。 「柚羅さん!」 振り返って、柚羅さんに声をかける。 けれど‥ 私が呼ぶ前から。 柚羅さんは冷たいような、淋しいような瞳で 私を見つめていた。
■8295 / inTopicNo.8)  5 □投稿者/ 菜々子 一般♪(7回)-(2005/03/26(Sat) 21:58:09) 「柚羅さん‥?」 亜紀の声で、またハッとする。 「あっ‥どうした?」 無意識に 亜紀の姿に釘づけになっていた。 「あー今日飲みに行きません?」 二人の間に流れた気まずい空気。 亜紀はソレを晴らすかのように明るく言った。 「えっ何で?」 「いや、そんなあからさまに嫌な顔しないでくださいよ‥。」 亜紀が皮肉っぽく笑う。 「違う違う!亜紀から誘われるの初めてだから。ちょっと驚いたの。」 「本当ですか? 今日、私がココに来て一ヵ月記念日なんですよ。だから。」 背中をポンッて叩かれる。 「柚羅さんなら覚えてくれてると思ったのになぁ。」 優しい笑顔。 亜紀の笑顔って安心するんだよな。 「えっ早いねェ。もう一ヵ月か。」 本当早いなぁって思う。 「えぇ。だからパーティーしましょう?」 「パーティー?」 何故にパーティー‥? しかも二人で? でも亜紀らしいなって思ったから。 「うん、いいよ。」 快くOKした。 「良かった。じゃあまた後で‥☆」 そう言って亜紀は子供たちを集めた。 「はーい、集まってください。 今日は何の絵本がいいかな?」 子供たちは亜紀の前にチョコンと座り、見るからにワクワクしている。 私もまだ歩けない子供を二人、両腕に抱いて、 後ろの方に腰をおろした。 今日はアンパンマンか。 ってあれ?昨日もアンパンマンじゃなかった‥? まぁ飽きないんだろうね。みんなの目、キラキラ輝いているもん。 部屋に響く亜紀の声。 子供たちが最後まで黙って聞いていられる声。 優しい優しい声。 後輩なのに尊敬しちゃうよ。
■8296 / inTopicNo.9)  6 □投稿者/ 菜々子 一般♪(8回)-(2005/03/26(Sat) 21:59:43) 「んーっ。」 家に着いて一服。 亜紀が来るまであと一時間くらいかな‥? "終わったら迎えに行きますね。" 今日は亜紀が遅番で。 私の方が先にあがった。 働いているのは私と亜紀の二人だけ。 それと私たちを雇っくれている清水さん。 小さな小さな託児所だから。 その人数で十分だったりする。 けど正直しんどいなー。 だって亜紀が来るまで休みなんてなかったし。 毎日遅番だったんだよ? けどそれでも続けているのは。 清水さんの人柄と 子供たちの笑顔があるから。 「んーっ。」 なぁんてね。 そんな事、絶対に口にはしないけど。 感謝してますよ。 〜♪ 「おっ?」 電話。亜紀からだ。 「はいはい。」 <あっ柚羅さんですか?> 「えぇ、そうですとも。」 亜紀の声。 本当に優しいな。 <今から迎えに行きますよ?> 「えぇ、いいですとも。」 何か電話で会話って、久しぶりかも。 <ははっ、じゃあ行きますね。たぶん10分くらいで着きますから。> 亜紀の笑顔が頭に浮かぶ。 「あーい。」 電話を切って、 ふと思った。 こういう言葉にできないような気持ち。 すごく久しぶりだ。と。 私は一体、 亜紀に何を求めているのだろう。
■8297 / inTopicNo.10)  7 □投稿者/ 菜々子 一般♪(9回)-(2005/03/26(Sat) 22:01:25) 「柚羅さーん!」 亜紀が車の中から手を振ってる。 だから私も手を振る。 亜紀は、その可愛らしい外見に似付かわしくない、 大きな四駆の車に乗っている。 何で?って聞いたら、少し照れたように笑っただけで。 車はどんどん夜道を進んで行って、 どこかの駐車場に入る。 んっ‥? 亜紀はそこに車を入れると、 「着きましたよ。」 って笑顔で言った。 えっ?だってココ。 マンションの駐車場だよ? 「あれ?私の家じゃ不満でした?」 呆気にとられている私に、亜紀はからかうように言った。 「えっ!?あぁ、飲みに行くって言ったから、 てっきり飲み屋にでも行くのかと思ったよ。」 私はちょっと驚いた顔をしながら、亜紀に言った。 「そんなに驚かないでくださいよ。 飲み屋よりきっと楽しいはずですよ?」 亜紀は苦笑しながら、 器用に車を駐車場に収めた。 何か以外。 亜紀って運転下手そうなのにな。 うまいもんだ。 って‥! あたし亜紀の家に行くの? でも亜紀はもう車を下りていて。 「行きましょう?」 なんて笑顔で言うから。 私はついていくしかなかったんだ。
■8337 / inTopicNo.13)  8 □投稿者/ 菜々子 一般♪(11回)-(2005/03/28(Mon) 23:30:05) 自動ドアが開いて。 見るからに高級。 私が初めて見た機械の前に亜紀は立って、 何かボタン押してる。 慣れた足取りですたすたと歩いて行く亜紀に 私は戸惑いながらついていく。 「なんか柚羅さんがそんな顔しているのめずらしいですね。」 エレベーターの中で、 亜紀はクスクスと笑いながら言った。 そんなこと言われたって。 以外やら何やら。 普段はクールに決めている私だって、 驚きを隠せない。 いや、クールではないんだけど。 「どうぞ。」 部屋の前につき、亜紀は鍵を開け、私を中へと通す。 いやいや‥。 「‥何だコレ?」 部屋をちょっと進んだら 高級感のある部屋だな、って感じがしたのに。 その壁には、折り紙の鎖の輪。 あのカラフルなやつ。 いやいや‥。 「えっ?だってパーティーだって言ったじゃないですか。」 そう言うと、また亜紀は可愛い笑顔を見せた。 綺麗なガラスのテーブルの上には、 お菓子やお酒が入った袋が そりゃあもう。どっさりと置いてあった。 「今日は少し早く上がったんで、準備に気合い入れてみました。」 笑いながらながらクッションに手を伸ばし 「ココ、どうぞ。 ちょっと、着替えてきますね。」 そう言って隣の部屋に消えて行く。 私は言われたまま、クリーム色のクッションの上に座った。 すげェー。 私のおんぼろアパートとは全然違うな。 あっ管理人さんごめんなさいね。 不審者のように、キョロキョロとしていたら 「そんなに見ないでくださいよ。掃除していないんですからー。」 隣の部屋から戻ってきた亜紀が言った。 亜紀の方を振り向いたら、 またプゥーっと頬を膨らませていた。 けれど、昼間見るのとは違う。 いつもは二つ結びの髪が サラサラと流れていた。 ただそれだけなのに。 私はまた亜紀を見つめてしまっていた。
■8338 / inTopicNo.14)  9 □投稿者/ 菜々子 一般♪(12回)-(2005/03/28(Mon) 23:31:29) 「えっ?何かついてます?」 柚羅さんがまじまじと見つめてくるから。 ちょっとびっくり。 「あっ‥‥ うん‥‥目とか鼻とかついてるよ。」 そう言うと柚羅さんはクスクスと笑い始めた。 「もう!」 また昼間みたいな淋しい目をしていたくせに。 ちょっと心配しちゃったじゃないの。 「よーしっ飲みますよ!柚羅さん、何飲みます?」 「んー?じゃあビールでお願い。」 「はーい。」 ガサゴソと袋の中をあさって。 柚羅さんのために買ったビールを手に取る。 ‥。 ちょっと悩んで。 一気に五本取り出した。 両腕いっぱいに持ったそれを 柚羅さんの前においてみる。 「あぁ、ありがとう。って、、亜紀さん?」 優しく微笑んでいた顔が、少し困ったように変わる。 それが面白くて。 「えっ何ですか?」 わざとらしく言ってみる。 「いや、あたしはいいんだけどさ。 ‥おかしくなっても知らないよ?」 そう言って、意味深に妖しく笑う柚羅さんに 不覚にもドキッとしてしまった。 あー‥柚羅さんには口で勝てそうにないな。 すぐ柚羅さんの空気に呑まれちゃう。 「亜紀は何飲むの?」 一本目のビールに手をかけながら。 ―プシュ―っていい音。 「えーっと、あたしは‥」 そう言って、自分のために買っておいたものを探し出す。 「これっ♪」 それを取り出して、自分の前にドンっと置いた。 「って‥、それ。ジュースじゃん。」 呆れたように柚羅さんが言う。 「だって、お酒飲めませんもん。」 自信満々に言ったら、 また笑われてしまった。
■8367 / inTopicNo.17)  10 □投稿者/ 菜々子 一般♪(14回)-(2005/03/29(Tue) 22:20:25) 「そう言えば、歓迎会の時も飲んでなかったもんなぁ?」 思い出すなぁ。 亜紀、異常にオドオドしてたっけ。 「あっはい。でもお付き合いの時は飲むんです。無理矢理。」 「えっじゃあ何で飲んでなかったの?」 そう言うと、亜紀は困ったように笑ったから。 「あぁ、清水さん、顔恐いもんね。」 悪いけど、清水さんのせいだと思った。 「いやっ‥清水さんはすごく優しかったんですけど‥。」 「んっ?」 「柚羅さんが‥」 あらあら私のせい? 「あっ怒んないでくださいよー。」 不思議がっている私の顔が、亜紀には怒っているように見えたらしい。 「怒らないよ?」 だから優しくそう言ってやる。 亜紀は"良かった"と言うふうに笑顔を見せて、 また話始めた。 「あのですね柚羅さん、初めすごく恐かったんです。しゃべってもくれないし、笑ってもくれないし‥。」 あーそっかそっか。 そう言えば私、人見知りだっけ。 「だからすすめられても、お酒飲める雰囲気じゃなくって‥。」 はー亜紀はそんなにまで緊張してたんだ。私のせいで。 一応、挨拶したはずなんだけどなー。やっぱり笑顔が必要だったか。 無愛想な自分。 頑張れっ。 「それに清水さんも柚羅さんも綺麗すぎて‥。」 「えっ?」 「間に入れませんっっ!て感じでした。」 そう言って亜紀は照れたように笑った。 綺麗って? 清水さんはわかるけど。 私も? 「照れるなぁ。ははっ。ありがとね。」 お酒のせいもあるかな。 何だか素直に嬉しいと思った。 「って柚羅さんペース早すぎません?」 あっ。亜紀に言われて気がついた。 ビール二本目、飲み終えそう。
■8368 / inTopicNo.18)  11 □投稿者/ 菜々子 一般♪(15回)-(2005/03/29(Tue) 22:21:47) 「明日に残さないでくださいよ?」 柚羅さんのことだから。 明日がお遊戯会なこと、また忘れていると思って。 「わかってるってー。」 そんな事言ってるけど、 普段は絶対見せない、 上機嫌の笑顔。 あー酔ってますよね? 絶対。 「明日はどのくらい集まるんだろーね。」 言いながら、三本目に突入する柚羅さん。 「いつもはどのくらいの人が来るんですか?」 お遊戯会は毎年一回。 だから私は経験したことがない。 「んーっ?前は、確か近所のおじいちゃん、おばあちゃんが10人くらい来てたよ。」 クビッと喉を鳴らし、少し考え込んでいる。 「あっ結構多いんですね。」 この託児所に子供を預けている親は、 何かと事情が多い。って前に清水さんが言ってた。 保育園とは違うから。 お遊戯会と言っても 親の参加は今までに一度もなかったらしい。 だから、子供好きの近所の人々が 毎年楽しみにしている 町内行事となった。らしい。 「亜紀は初めてなんだっけ?コレが結構楽しいんだよー。」 柚羅さんはフフンっと笑って見せる。 「でもあんまり練習とかしてないですよね?」 そうそう。 今日だって。 明日はお遊戯会だって言うのに、子供たちに特別な練習をさせたわけではない。 ただ飾りを作ったり、 柚羅さんが司会進行を考えていたりしていただけ。 「だから楽しいんだって。保育園と違うから。自由に気楽。それがウチのモットーだって、清水さんが言ってた。」 「何ですかソレ‥。」 「ははっ。子供たちのありのままの姿の方が、近所の人達には嬉しいみたいだよ。」 ほぉー。なるほど。 清水さんも考えるな。 「亜紀にもわかるさ。」 そう言って笑う柚羅さんは 本当に子供が好きなんですね。
■8429 / inTopicNo.19)  12 □投稿者/ 菜々子 一般♪(16回)-(2005/04/02(Sat) 23:21:42) 「あっうそ。もうこんな時間?」 二人でいろいろ話していたら、 時計は零時をまわっていた。 「んーっ?泊まっていってくださいよ〜」 自分だけ飲むのはつまらないから、一本だけ、亜紀に飲ませた。 まだ半分も飲んでいなくせに、亜紀の顔は真っ赤に染まっていて。 甘えるような声で言う。 「大丈夫。お風呂ちゃんと使えますよ?」 なんて言いながら、壁に取り付けてある機械をピッピッと押している。 「ほら、これでお風呂の準備OK☆」 「いやいや、泊まるって言ってないッスよ‥。」 「嫌ぁ!泊まるんです。」 ぶーっと顔を歪めた亜紀。 あぁ、飲ませたのは失敗だったか‥? 「ねぇー?柚羅さぁ〜ん」 「わかったわかった‥。」 必死に私の腕を掴み、懇願する亜紀に、 私はため息混じりに言った。 「やったぁ♪」 へへっ、と亜紀は可愛い笑顔を見せる。 そんな笑顔を見ると、私まで笑顔になってしまう。 「柚羅さんお先にどーぞっ。」 そう言って、バスルームを指差す亜紀。 その髪を優しく撫でて、私はバスルームへと向かった。 「ふぅーっ。」 暖かいお湯に浸かると、 ホッとするな。 お湯で顔をそっと撫で、髪をかき上げる。 あぁ、ダメだ。 黙っていれば黙っている程 亜紀の笑顔が頭を過る。 亜紀の存在が、 私の中で大きくなっていく。 ダメなんだ。 私はもう、 誰も愛したくなんかないのに。
■8589 / inTopicNo.20)  13 □投稿者/ 菜々子 一般♪(17回)-(2005/04/08(Fri) 19:56:01) 「あー気持ち良かったぁ♪」 「お帰りー」 濡れた髪を、タオルで拭きながら、 満足顔で亜紀が部屋へと入ってきた。 「やっぱり、ぬるめのお湯が好きだなぁ。」 お風呂上がりの亜紀に、 思わずドキッとしてしまう自分がいた。 私のあとに風呂に入り、 ゆうに50分は過ぎている。 ぬるめのお湯に、ゆっくりと浸かってきた模様。 「あっ‥また飲んでるんですか? もう終わりですよ!明日に残っちゃいますってー。」 私の右手にビールを見つけ、亜紀は呆れたように言い 飲みかけのビールを取り上げた。 もうほとんど入ってないけどね。 「もうっ。」 軽くなった缶を左右に揺らしながら、 亜紀は頬を膨らませた。 「んーっ、寝る!」 また飲んだら、すっかり眠くなってきた。 だから大きく背伸びをしながら勢いよく言うと。 「はいはい、ソコのベッドにどうぞ。」 クスクス笑いながら亜紀が寝室を指差す。 「んっ?」 「だからソコですって。」 ドアを開き、寝室に見えるのは、 セミダブルのベッド。 それ一つだけ。 「えっ。亜紀はどこで寝るの?」 ドレッサーの前で髪を乾かし始めた亜紀に、 振り返って私は聞いた。 「一緒に寝ます。」 そう言ってフッと笑った亜紀。 いやいや‥。 「先に寝てて大丈夫ですよ。」 戸惑う私に亜紀は笑顔で言う。 ダメだ‥。 亜紀の笑顔に惑わされる。 亜紀も酔ってるし。 私も酔ってる。 亜紀は特別な感情なんて、ないのだから。 もう投げやりな、そんな気持ちを、巧く隠しながら、 私は寝室へと足を踏み入れた。 ダテにクール、気取ってませんから。
■8590 / inTopicNo.21)  14 □投稿者/ 菜々子 一般♪(18回)-(2005/04/08(Fri) 19:58:06) やばっ‥柚羅さん怒ったかな? お酒って恐い。 調子にのりすぎちゃった。 ちょっとムッとしたような顔で、柚羅さんが寝室に向かったから。 そんな事を、考えてしまっていた。 でも。 乾いた髪を撫でながら、寝室へと足を踏み入れた。 柚羅さんは、フカフカの布団に顔を埋めて。 とっても可愛い笑顔を見せていた。 ‥良かった。怒ってないみたい。 「ゆーらさん♪」 だからそう言って近づいたら、 柚羅さんは怒ったような顔を見せて、 スグに外方を向いてしまった。 えぇー。 「ちょっ、何怒ってるんですか?」 あまりの豹変ぶりに驚き、 布団を上げながら、私は聞いた。 「知らないっ。寝るんでしょ?黙って入れば。」 んつ?柚羅さん‥。 ‥もしかしてイジけてる? 照れたような横顔と、照れたような声。 そうだと確信できたから。 ものすごく柚羅さんを愛しく感じた。 「柚羅さん‥。」 外方を向いた柚羅さんの隣。 そっと布団に入って。 後ろからギュッと抱き締めた。 「――!?」 柚羅さんの体が強ばって。 だけど私は自分の気持ちに逆らう事が出来なくて。 「亜紀、まだ酔ってるの?」 振り向きもせずに囁いた言葉。 「酔ってません。」 それを否定する。 伝えるはずではない言葉。 口に出してしまいそうで。 「先輩をからかったらイケナイよ?」 「からかってません。」 恋しくて、愛しくて。 「‥じゃあ‥何で―」 「――好きなんです。」 もう‥勢いだった。 言うつもりなんかなかったのに。 すぐに、後悔した。 どうして言ってしまったんだろう、と。 私の言葉に。 柚羅さんからは何の反応もなくて。 私は、言葉の代わりに。 柚羅さんを、もっと強く抱き締めた。 柚羅さん、お願いだから。 笑い飛ばしてよ。 黙ったままの柚羅さんの背中。 もっともっと強く抱き締めた。
■8651 / inTopicNo.26)  15 □投稿者/ 菜々子 一般♪(21回)-(2005/04/11(Mon) 22:39:54) 「んっ‥」 朝のほのかな光で目が覚める。 あっ亜紀の家に泊まったんだっけ。 いつもの目覚めとは違う風景に、一瞬戸惑い、記憶を辿った。 眠い目をこすりながら、ゆっくりとベッドから起き上がる。 「あっ柚羅さん。おはようございます。」 寝室のドアを開け、 まだボーッとしている私に、亜紀が言った。 可愛らしい水色のエプロン。 キッチンに立つ姿は、とても女性らしい。 眠い目をこすりながら、そんな事を思った。 「おはよう。」 そう言いながら、私は時計に目をやる。 ―7:25― 今日は二人とも早番。 お遊戯会の準備があるから。 8:30までに行かなきゃ、だな。 「顔洗っててください。もうすぐ、朝ご飯できますから。」 そう言って笑ってみせる亜紀。 フライパンの中からはジューっておいしそうな音。 亜紀‥。 洗面所で、顔を洗いながら。 亜紀に対する気持ちばかりが、私を締め付けた。 ねえ、亜紀。 昨日、私の背中にしがみついて。 泣いてたよね? 泣き腫らした目で。 無理に笑顔作って。 亜紀にそんな顔、似合わない。 だけど。 そうさせているのは私で。 勢い良く、お湯を顔にかける。 バシャバシャと、何度も何度も。 近場にあったタオルを手に取り、顔を拭いて。 よしっ。と気を引き締めながら、洗面所を後にした。
■8652 / inTopicNo.27)  16 □投稿者/ 菜々子 一般♪(22回)-(2005/04/11(Mon) 22:41:31) 「そこに座ってください。」 キッチンのすぐ横にあるテーブル。 言われたまま、その椅子に腰をかける。 「はい、どうぞー。」 差し出された目玉焼きやら、みそ汁やら。 うーん、いい匂い。 朝食を全てテーブルに並べ、亜紀も椅子へと腰をおろす。 亜紀が座ったのを確認してから、 「いただきます!」 おいしそうな料理を前に、少しはしゃぎながら私が言うと、 亜紀は笑いながら 「おあがりください。」 だって。 なんだか仕事場みたいで。 二人で目を合わせて笑った。 亜紀が先生で私が子供。だな。 どれから食べよっかな、と迷いながら、 やっぱりみそ汁から手をつけた。 ズーっとすすって。 「んーっ。うまい!」 初めて食べる、亜紀の手料理。 うん、本当にうまい。 朝は食べない派の私だけれど。 こりゃあ、箸が進む。 「良かった。ありがとうございます。」 亜紀が嬉しそうに笑ったから。 私も、それにつられて笑っていた。 いつも通りにしようとする亜紀。 だから、私もそうする。 ごめんね。 それしか出来ないんだ。
■8653 / inTopicNo.28)  17 □投稿者/ 菜々子 一般♪(23回)-(2005/04/11(Mon) 22:43:04) 「おっ?ラブラブ出勤?」 園について、敷地に入った途端。 清水さんのからかう声が飛んできた。 「うるさいですって。」 明るい茶色の髪を、風になびかせ。 煙草を口にくわえながら、 長く引っ張ったホースで、花に水やり中の清水さん。 いやいや‥。 「あぁ?朝の挨拶もなしか? 全く、何様なんだか。」 ブツブツとそう言う清水さんに向かって、 「おはようございます。」 と亜紀が笑顔で言う。 すると清水さんは満足気な顔で。 「よしよし。亜紀はいい子だね。それに比べて‥」 言いながら私に冷たい視線。 「何ですか‥」 呆れたように私が言うと。 「はい、柚羅さんコッチに来なさい。」 おー呼び出しだ。 「先行ってていいよ。」 私はそう言い、 クスクスと笑う亜紀の肩をポンッと叩いて、 先に園内へと向かわせた。 亜紀の後ろ姿を見送りながら、 「ふーん。」 とニヤニヤ笑っている。 「だから何ですか‥」 「いやぁ、くっついちゃったのかなぁーと思って。」 真っ白い煙を吐き出しながら、 楽しそうに笑っている。 「んなわけないでしょ。」 あきらかに、からかうような視線。 私は少しムッとして、わざと冷たく言い放った。 「だって昨日と服、同じじゃん?」 あーやっぱり鋭い。 でも教えてあげない。 「清水さんの期待しているような事は、何もありませんでしたよ?」 私はフッと笑ってみせた。 「へぇー。まぁいいけどね。」 あきらかに何か企んでいるような顔をしながら。 愛用の携帯灰皿で 煙草をもみ消している。 「ねぇ柚羅。」 と、清水さんはイキナリ真剣な顔をつきで。 「何ですか?」 聞き返した私の顔を覗き込む。 「一人で抱え込むんじゃないよ。」 そう言って私の頭を。 ポンポンと撫でた。 「何ですか‥。」 俯く私の頭。 あぁ‥まったく。 清水さんの鋭い目には。 何でも見抜かれてしまう。 まいったな。 今にも崩れてしまいそうな、自分がいた。
■8817 / inTopicNo.29)  18 □投稿者/ 菜々子 一般♪(24回)-(2005/04/17(Sun) 23:31:44) 「はぁーい。みんなココに集まってー。」 亜紀の声に反応し、 バラけていた子供たちがテクテクと歩き出す。 と、まだ8ヵ月の美有まで亜紀の元へと行こうとする。 「こらこら、あんたはココに居ていいんだよ。」 楽しそうにハイハイする美有の体を抱き上げて。 笑いながら言ってやると。 わかっているのか、いないのか。 美有もキャッキャッと笑いだす。 「今日はお遊戯会です。 人がいっぱい来るからね。みんないい子にしてくださいね。」 集まってきた子供たちに亜紀がそう言うと、 「「はぁーい」」 と元気な返事。 「よしっ。じゃあ体育館に行くよー!」 亜紀は立ち上がり、子供たちを2列に並ばせる。 「ほら、優太君は一番前だよ。」 年令順に並ばせるため、 優太が一番前になる。 けれど優太は。 「いやだっ!」 と、一際大きな声で叫び。 黙り込むかのように、身を固くした。 その声に驚く亜紀。 けれどすぐに冷静さを取り戻す。 「どうしたの?わがまま言わないで。ほら、ちゃんと並びなさい。」 そう言って優太の背中を押す。 「いやだっ!」 優太は亜紀の手を払い除け。 「こらっ優太君!」 「いやだいやだっ!!」 そのまま しゃがみ込んでいた亜紀の顔を 力いっぱい叩いた。 「優太っ!」 たまらず私が声をあげると。 優太はビクッと体を揺らす。 優太が普通じゃないのは。 見ればすぐに分かったはずなのに。 異常なまでに怯える優太を、 何故か私は許せなかった。
■8818 / inTopicNo.30)  19 □投稿者/ 菜々子 一般♪(25回)-(2005/04/17(Sun) 23:33:13) 「柚羅さん!私、大丈夫ですから。」 柚羅さんの目。 止めなきゃいけないと思った。 「私、大丈夫ですから。」 だからもう一度。 ゆっくり、強く。 「あっ‥」 「優太君は、私が見ておきますから。」 ねっ。と笑ってあげる。 「分かった‥あたしが子供たち連れていくね。」 俯きながら柚羅さんは言う。 そのまま立ち上がり、 「亜紀‥ごめんね。」 教室を出る時、小さく私に謝った。 何だか。 その言葉には、たくさんの意味が含まれているようで。 少しだけ、困ってしまった。 優太君と二人だけの。 静かな教室。 「どうしたの?」 その隣にそっと座って、 震える肩を抱き締める。 「おうちで何かあった?」 静かに。静かに。 優太君は涙を流していて。 「みん‥っな‥」 震える声を。 必死に絞りだす。 「みんな、どうしたの?」 私は出来るだけ、優しく。 優太君の信号を受けとめる。 「おれっのこ‥と‥きらいなんだ‥っ」 溢れだす涙を。 そっと拭ってあげて。 深く深く傷ついている心。 ソレを痛い程、感じとることが出来た。 「誰も。優太君の事嫌いじゃないよ。」 きっと。鋭いトゲが彼の心には刺さっている。 自分の子供すら愛せない親を。 私は知っているから。 「先生も、優太君、大好きだよ。」 自分の出来る事をしてあげたい。 "愛されること"を。 教えてあげたい。 「‥っ――」 泣きじゃくる優太君を、 ギュっと抱き締めて。 ただ、一緒に泣いた。
■8978 / inTopicNo.35)  20 □投稿者/ 菜々子 一般♪(28回)-(2005/04/24(Sun) 21:51:34) 「亜紀、亜紀っ!」 誰かの声に。 「‥んっ?」 まだ重い瞼を、ゆっくりと開く。 あっ。今、仕事中! ガバッと起き上がろうとするが、 腕の中でスヤスヤ眠る優太君に気付き、また後ろに倒れそうになった。 「亜紀先生はこんなに堂々とサボりですか。」 目の前に居たのは清水さんで。 あぁ、怒ってる‥。 「言い訳してごらん。」 明らかに怒りを含む声に、話す前から威圧されて。 「あっ‥えっと‥。」 言葉につまる。 優太君をなだめて、 お遊戯会に途中参加。 の、つもりだったのに。 泣き疲れて眠る優太君を見てたら、 いつのまにか私も寝てしまった。 不覚‥。 「すみませんでした!」 私は優太君を抱えたまま立ち上がり、 深く頭を下げる。 けれど‥清水さんから返事はない。 恐る恐る、目だけを清水さんへと向けると。 からかうように笑ってた。 「‥?」 「柚羅から聞いたよ。大丈夫、怒ってないから。」 そう言って優しく微笑む。 清水さんは、美人で。 でも冷たいような、そんな雰囲気があって。 だからその微笑みは、ものすごく魅力的に感じた。 「お疲れさん。」 私の頭をポンポンと撫でて、優太君を抱き寄せる。 「あっ、ありがとうございます!」 私はもう一度、深く頭を下げた。 「いいえ。じゃあ後片付けいってらっしゃい。」 笑いながら、私に軽く手を振る。 えっ?後片付け‥? うそ。お遊戯会終わったの‥? 「あんまり気持ち良さそうに寝てるもんだからさ。起こせなかったよ。」 クスクスと笑う清水さんを見て。 この人はこーゆー人なんだって。 私が楽しみにしてたの知ってるくせに。 あぁ‥イジワル。 「来年もあるさ♪」 と。来年も私がいることを前提に。 あくまでも前向きな清水さんに。 半分呆れながら、 どこか安心したような。 気が楽になる、そんな暖かい感情に包まれた。
■8979 / inTopicNo.36)  21 □投稿者/ 菜々子 一般♪(29回)-(2005/04/24(Sun) 21:54:05) 「あきせんせいーゆうたくんは?」 体育館についた私に、 子どもたちが聞いてきた。 「優太君ね、ちょっとお熱があるみたいだから、教室で休んでるの。」 そう言うと、子どもたちが騒めく。 「大丈夫だよ。大丈夫。」 そう笑顔で言ってあげると、みんなも安心したようで。 散らばっていたカラフルな紙吹雪きを、 一枚ずつ拾い集め始めた。 「亜紀‥大丈夫だった‥?」 誰よりも不安そうな顔で聞いてきたのは。 柚羅さんで。 「大丈夫‥ではないと思います。何かあったみたいです。」 二人で小さな体育館の隅っこに移動して。 「ごめん亜紀。私のせいで‥」 柚羅さんは本当に申し訳なさそうな顔を見せる。 「んっ?私は大丈夫ですよ?」 こんな柚羅さんは初めて見て。 どんな言葉をかければ良いのかわからなかった。 「あっ、じゃあ今度ご飯連れて行ってくださいよ♪柚羅さんのおごりで♪」 だから私は精一杯明るくするだけ。 柚羅さんのモヤモヤを、少しでも晴らしたい。 「んっ‥わかった。」 うそっぽい笑顔。 けど笑おうとしてるだけ、いいのかな。 「せんせいーおわったよー!」 絶妙なタイミングで。 お片付けも終わったみたい。 「よーしっ!じゃあ教室に戻りますよ!」 小さな体育館いっぱいに響く声で私は言った。 何だか、昨夜のことなんて。 悩み込む余裕もなくって。 いいのか、わるいのか。 悲劇のヒロインにはなれなかった‥な。
■9158 / inTopicNo.37)  22 □投稿者/ 菜々子 一般♪(30回)-(2005/04/30(Sat) 23:24:42) 「あー今日も終わるーっ。」 清水さんが大声をあげながら、腕を上に伸ばす。 「うるさいですって。」 柚羅さんは冷めた声で。 いつもの柚羅さんだ。と思って、少し嬉しくなった。 清水さんも気付いたみたいで。 笑いながら柚羅さんを見つめる。 「‥?」 不思議そうに首をかしげる柚羅さん。 清水さんはまた、笑いながら、延長保育の名簿を手に取った。 「おっ。今日は優太だけだな。」 ノートに目を運ばせながら、 煙草のBOXを胸ポケットから取り出そうと。 「ココ‥禁煙ですけど?」 すかさず柚羅さんが口を出す。 「お」っと清水さんは柚羅さんを見つめて。 「あーやっぱりダメか。」 残念そうに笑った。 「当たり前でしょ。」 柚羅さんも呆れたように笑っていて、 私も二人を見ながら笑っていた。 "んー"と清水さんは少し考え込んで。 「よし。あんた達、もう上がっていいよ。」 思いもよらなかった事を口にした。 「えっ?」 「優太一人なら、私だけで平気だし。それに今日一緒にきたでしょ?」 清水さんは「うん、うん。」と一人で勝手に頷きながら。 私は、てっきり。 遅番同士、仲良しの清水さんが送ってあげると思っていたから。 予想外――少し戸惑った。 「じゃあ上がろっか。」 立ち上がり、そう言う柚羅さん。 柚羅さんは何も思っていないみたいで。 私は。 また二人きりになるのは。 少しツライものがある気がした。 先に出ていった柚羅さんの背中。 面白そうな清水さんの視線。 清水さんに。 仕組まれた。な。
■9159 / inTopicNo.38)  23 □投稿者/ 菜々子 一般♪(31回)-(2005/04/30(Sat) 23:26:22) 「何か聞きます?」 あまりにも静かな車内。 耐えきれなくなったのか、亜紀が聞いてきた。 「んー‥」 少しだけ、迷ったフリをしてみる。 本当は考えてなんかいない。 「柚羅さん?」 亜紀は本気なのかな。 あたしの事、好きって。 人の気持ちは。わからない。 「もう。柚羅さん!」 「‥んっ?」 あまりにも無関心な私に。 亜紀は少しだけ怒ってるみせる。 「ははっ。ごめんごめん。何でもいいよ。」 赤く光る信号。 亜紀はMDをかける。 私の家はまだ遠い。 英語‥洋楽か。 「‥私のせいですか?」 小さく流れるBGM。 透き通った綺麗な歌声を背に。 緊張したような亜紀の声が、車内に響いた。 「えっ。何が?」 本当はわかってる。 私が普通じゃない事でしょ。きっと。 「私のせいですか?」 亜紀は下を向いたまま。 ハンドルを強く握りしめて。 もう一度。私に聞いた。 そんなに聞かないで。 「‥‥。」 何も、答えられなくなる。 青に変わった信号で。 ゆっくりと、二人を乗せた車は走る。 重い沈黙と共に。
■9172 / inTopicNo.39)  24 □投稿者/ 菜々子 一般♪(32回)-(2005/05/01(Sun) 21:40:15) 「すみません。昨夜のことは‥忘れていいですから。」 その重苦しい空気を破ったのは亜紀で。 わざとらしく明るくしている声が。 あまりにも下手くそ。 うつむいた顔を上げて。 盗み見た亜紀の顔は。 今にも泣き出しそうだった。 違う。違う。違う。 亜紀のせいじゃない。 過去を断ち切れない。 私のせいなのに。 自分の気持ちすらわからない。 私のせいなのに。 「‥ごめんね。」 やっと吐き出せた言葉は。 たったソレだけだった。 再び訪れた、長い沈黙の中。 ただただ、流れる風景を目で追い掛けた。 「ありがとう。」 アパートの前で車は止まり。 言葉と一緒に、車を降りた。 「ご飯おごってくれるの、忘れないでくださいね?」 そう言いながら笑う亜紀。 「んっ‥わかってる。」 私も笑ったつもりなのに。 どうしてだろ。 上手く笑えない。 「じゃあ、また明日。」 ドアを閉め。窓越しに見た亜紀の顔には。 "嫌いにならないで"と 痛い程書いてあって。 走り去る車を見つめながら。 馬鹿な自分を悔やんだ。
■9200 / inTopicNo.40)  25 □投稿者/ 菜々子 一般♪(33回)-(2005/05/02(Mon) 21:14:28) 古びた外階段。 コツコツという音が。 おかしなくらい響く。 部屋の前で、鍵を取り出す。けれど、 「おっ?」 鍵、開いてる。 何だ?と、少し不審に思いながら。 思い切って開けてみる。 「おかえりー☆」 と、開いた扉の向こうからは聞き慣れた声。 「‥あっ。来てたの?」 声の主の姿を確認して。 後ろ手にドアを閉める。 「うん☆」 「鍵‥渡してたっけ?」 部屋に居たのは郁で。 けど、部屋が開いてたのには驚いた。 「ひどーい。"いつでも来ていいよ"って言ってたじゃーん。」 郁は少し大袈裟に。 でも嬉しそうに言った。 「あー覚えてないや。」 たぶん酔っていたんだろう。 不用心な自分に少し驚いた。 変な癖は直さなきゃ、な。 少しだけ考えてから。 「‥脱ぎなよ。」 鞄をソファに放り投げ。 襟元を緩めながら、笑顔の郁に言う。 「えっ?」 郁はキョトン、とした顔を見せ。 「そのために来たんでしょ?」 知らず知らず、冷たくなる自分の言葉。 「何か‥今日のお姉さん恐い‥。」 郁は、今にも泣きそうに顔を歪めた。 「嫌だったら帰ればいい。」 酔ってるわけじゃない。 今は優しく、なんて気分じゃない。 「どうするの?」 傍にあった椅子に腰をかけて、足を組む。 郁はその可愛らしい顔を真っ赤に染めて。 戸惑いながら薄いブラウスに手をかけた。 「いい娘だね。」 そう笑いかけてやると、一層、頬を赤く染める。 次々と、順序よく。 郁は服を脱ぎ捨てる。 「全部‥だよ。」 下着に手をかけ、躊躇している郁に私は言った。 「できないよ‥っ」 恥ずかしさのせいか、郁は下を向いたままで。 「‥おいで。」 私は両手を伸ばし。 私の言葉に恐る恐る歩み寄る郁を、 腕いっぱいに抱き締めた。 「お姉さん‥?」 今は。 人肌が恋しい。 郁の体温が私に伝わってくるのを、 すごくすごく不思議に感じた。 そのまま郁を床に押し倒し。 自分勝手に 身体を重ねた。
■9233 / inTopicNo.41)  26 □投稿者/ 菜々子 一般♪(34回)-(2005/05/04(Wed) 21:43:33) ベッドに移動して。 力尽きるまでに、郁を抱いた。 「ねェお姉さん。」 時間が流れて。 二人でゆっくりと天井を見上げていた時。 「んっ?」 郁は。"特等席"だと言い張る私の腕の中で。 「郁以外にも、女、いるでしょ。」 無邪気な笑顔でそう言う。 「‥恋人は、作らない。」 まぁ適当に。 「それじゃあ答えになってないよー。」 何が楽しいのか、郁は笑いながら。 ゴロン、と私側へ頭を寄せる。 「郁はね。今は、ソレでもいいの。お姉さんと一緒にいられればいいの。」 クスクスと私の髪を触りながら。 「そっか。」 郁につられて私も笑う。 何だか、本当に子どもみたいな娘だな、って思ったりして。 「お姉さんね。前の郁みたいなんだよ。 だから、ゆっくり待つの☆」 「前の郁?」 そりゃヤバイだろ。 周りにはそんな風に見えるのか、と 私は少し困りながら笑った。 「何かね。淋しそうな目、してるよ。」 郁はその澄んだ目で私を見つめて。 そんな事はないはずだと、自分では思っているのに。 まるで図星をつかれたように、私は黙り込んでしまった。 「お姉さんが郁を救ってくれたから。 今度は郁が、お姉さんのために何かしてあげたいんだ♪」 照れたように笑いながら、私の胸に顔をうずめる。 「こらっ。」 からかうように頭つつくと、 郁は幸せそうな笑顔を見せる。 そんな風に 素直に甘えられる郁が、すごく羨ましく思えた。
■9265 / inTopicNo.44)  27 □投稿者/ 菜々子 一般♪(36回)-(2005/05/05(Thu) 22:50:44) 郁と出会ったのは一年以上も前の話。 どこから見ても"家出少女"だった彼女。 大きなボストンバックを持って。橋の上に。 何となく声をかけた。 またいつものように、身体だけの関係を探し求めていたから。 「ねェ」 私の声に振り向いた、郁の瞳は。 凍えてしまいそうなくらい、冷たくて。 正直、放っておけば、今にも飛び降りてしまいそうだった。 詳しい事は今でもわからない。 ただ 「とりあえず、私と遊んでみなよ。」 なんて適当な事言って。 無反応な郁の隣に。 黙って居座っていた。 何度か二人で食事して。 何度か二人で会話した。 私がしたのはソレだけだったけど。 郁の瞳に光が見えた。 ‥不思議と、私達は仲を深めた。 でもやっぱり。 どこかで距離を置いてしまう私がいて。 郁とは身体だけの関係のまま。 郁の気持ちをいつも避けてきた、自分勝手な私。 亜紀の知らない私。 「んー?」 いつのまにか寝てしまった郁の髪を触りながら。 「あっ起こした?いいよ。寝てて。」 今の郁と昔の郁を比べた。 笑いかける私の言葉に、安心したような笑顔を見せて。 再び眠りにつく。 「何やってんだろ‥」 郁の幸せそうな寝顔を見ながら、一人呟く。 今までは、郁を一番大切に思っていたのに。 踏み切れない私を。 黙って待っていてくれる、この娘を。 身体だけの関係と言いながら。 私を癒してくれる、この娘を。 「ダメじゃん。」 どうして‥亜紀の姿が浮かぶのだろう。
■9381 / inTopicNo.47)  28 □投稿者/ 菜々子 一般♪(38回)-(2005/05/10(Tue) 00:00:54) いや!どこにいくの? 置いていかないで。 亜紀がいいこじゃないから? だからママはとおくへ行くの? 「亜紀が一番だ」って。 いっぱい抱きしめてくれたじゃない。 ねェ、どうして。 どうして行っちゃうの? こわいよ。いかないで。 いかないで、ママ―― 鳴り響く雷。目が覚めた。 激しい雨が窓をうつ。 「は‥っ。」 嫌だ。嫌な夢。 呼吸が荒くなってる。 冷や汗のせいで、髪の毛が額にはりつく。 「こわい‥。」 雷の音が。 違う。こわい。 何が?わからない。 下が伝わってくるような。低い音。 耳を塞いだ。 嫌だ。 布団にくるまった。 聞きたくない。 思い出したくない。 忘れかけていたのに。 「何でよ‥っ」 どうして、余計なことばかり。 助けて、こわい――
■9382 / inTopicNo.48)  29 □投稿者/ 菜々子 一般♪(39回)-(2005/05/10(Tue) 00:02:21) 「すご‥っ。」 あまりの音に、思わず目が覚めた。 暗い部屋がピカッと光って、 激しい音が鳴り響く。 「やっ‥こわいよぉ‥」 郁もさすがに起きた様で。 弱々しい声で私にしがみつく。 「大丈夫、もう少ししたら鳴り止むよ。きっと。」 やわらかな髪をそっと撫でながら、震える郁を腕に抱く。 「平気?」 「ん‥っ。」 臆病な郁。 音が鳴るたびビクッと体を震わせる。 「お姉さん‥」 その言葉を遮り、返事をする。 「いいよ。郁が寝るまでこうしてる。」 「‥ありがとう。」 少しの笑顔。けれど涙目。 怯えてる。 郁を抱く腕に力を入れた。 でも‥。 「コレはあたしでも恐いなぁ‥。」 苦笑。 普通じゃない、豪雨に雷。アパートが‥響く音で微妙に揺れる。 「壊れませんように‥」 なんて半分本気で。 ご機嫌斜めな空に願った。
■9419 / inTopicNo.49)  30 □投稿者/ 菜々子 一般♪(41回)-(2005/05/11(Wed) 22:37:29) 「おー」 何だったんだ。昨日の空。 見事なまでに気持ちのいい朝。 「んーっ☆」 本当、気持ちいい。 いや、考えなきゃいけないことはたくさんあるけど。 今はこの気持ち良さを満喫したい、とそう思った。 郁を起こさないように、起き上がり。 スヤスヤ眠る郁の頭を撫でる。 「ヨシヨシ。」 おとなしく寝てるな。 洗面所に移動して、顔を洗う。 「あー郁学校行くのかな。」 そういえば今日は平日だって、ふと思った。 「起こすべきか‥。」 いや、でも。制服とかないよな。 さぼりか? 「まぁいっか。」 なんて適当に。 歯磨きも済ませて、小さな台所に立つ。 「よしっ。」 と気合いを入れてから。 おにぎり作り。 炊きたてご飯じゃなくて申し訳ないが。 学校行く前はしっかり食べなきゃいけないからな。 解凍したての熱々ご飯と格闘しながら約10分。 やっとの思いで、出来たおにぎり。 中身はメジャーな梅干しで‥ってソレしかなかったんだけどね。 皿にのせ、ゆるくラップをかける。 「あぁー」 鍵、返してもらわなきゃ、だな。 どうしよ。 少しだけ悩んでから、郁宛てに手紙を書いた。 「これでイイかな‥」 もう一度読み返してから、二つに折った手紙を皿の下に置いた。 黒のTシャツにジーンズを穿いて。 上からパーカーを羽織る。 「いってきまぁーす。」 と、なるべく小声でそう言い、私は仕事場へとむかった。
■9420 / inTopicNo.50)  31 □投稿者/ 菜々子 一般♪(42回)-(2005/05/11(Wed) 22:39:12) 目覚めると、お姉さんの姿はもうなかった。 まだパッチリ開かない瞼をこすりながら起き上がり、 そのままベッドに座る。 「あっ。」 部屋を見渡して。 シルバーのサイドテーブルに、 おにぎりが置いてあるのを発見。 「わぁー☆」 手作りっぽい‥。 お姉さん‥作ってくれたんだ。 ソレは初めてのことで。 ものすごく嬉しくかった。 「いただきまーす☆」 テーブルの横に移動して、ラップのかかったおにぎりに手を伸ばす。 「おっ?」 お皿の下に紙切れを見つけてしまった。 手紙だ‥。 うそ‥。郁宛? 高鳴る胸を左手で押さえながら、 二つ折りの紙をゆっくりと開く。 "郁へ おにぎり、お腹が減っていたら食べてください。 食べたらちゃんと学校に行くこと。 あと合鍵は‥ 管理人さんに渡しておいてもらえるといいな。 ‥ごめんね。" スラスラと書かれている上手な文字。 やっぱり鍵は返さなきゃいけない、か。 でもいい。大丈夫。 少しだけ痛んだ胸をそっと撫でながら、 続きに目を向ける。 "P.S 昨日の質問の答え。 郁と出会ってから、他の女性を抱いたことはないよ。 じゃ、仕事行ってくる!" えっ? 自分の目を疑った。 いつもクールで。 いつも大切な事は話してくれなくて。 女性に慣れてるのも、 抱かれてすぐにわかった。 そのお姉さんが書いたの? ‥あふれる気持ちが押さえられない。 嬉しくて嬉しくてたまらない。 小さな紙切れを胸の前で。 大切に大切に握り締めた。
■9466 / inTopicNo.51)  32 □投稿者/ 菜々子 一般♪(43回)-(2005/05/14(Sat) 19:44:47) 「おはようございます。」 「おっ柚羅、早いね。おはよう。」 いつも通りの朝の風景。 清水さんが小さな庭で、花に水をやっている。 「今日は‥煙草ないんですね。」 なんて冗談混じりに言う。 照りつける太陽がまぶしい。 「あたしと煙草はセットかい。」 と、清水さんは困ったように笑いながら。 長いホースから出る水を止めた。 「ねェ、柚羅今日予定ある?」 「‥ないですけど?」 たぶん郁は帰っていると思うから。 「んじゃ、飲みに行こう。」 そう言うと一人で"うんうん"と頷く。 「へっ?何でッスか?」 いきなりの誘いに驚いた。 しかも行く気まんまんだし‥。 「嫌なの?あんたには言わなきゃいけない事、いっぱいあるんですけどー?」 その綺麗な顔で睨みをきかされると、恐い。 「‥わかりました。」 と返事をするしか出来なくなるんです。 私の返事に清水さんはご満悦の様子。 「あっあと、ちゃんと優太に謝れよ?」 思い出したようにそう言うと、ニカッと笑った。 白い歯がまぶしく光る。 「‥わかってます。」 苦笑せずにはいられなかった。 優太にはヒドイことをしたから。 心を落ち着かせる。 私は大人なんだから。と。 小さな子どもの繊細な心を、もう二度と傷つけない。 再び自分の心にそう誓い、私はその場を後にした。
■9467 / inTopicNo.52)  33 □投稿者/ 菜々子 一般♪(44回)-(2005/05/14(Sat) 19:52:58) 園について、教室に入っても。 優太にいつもの元気も生意気さもなかった。 その上、私とは目も合わせてくれない。 「ゆーたっ♪」 努めて明るく。 教室の隅でうずくまる優太に声をかける。 ‥やっぱり私を見てはくれない。 「昨日はごめんね。」 隣に座り込み、その小さな手をギュッと握った。 「‥。」 やっぱり答えてくれない。 「先生のこと、嫌いになったか‥な?」 覗き込むように、話し掛けると。 優太はソレを避ける。 「‥先生は優太が好きだから。嫌いなんかじゃないからね。」 素直だね。 私と話すことを嫌がっているのが、嫌というほど伝わってくる。 少々キツイ‥な。 「ごめんね。」 反応の無いままの優太の頭を撫でて、私は立ち上がる。 コレ以上、負担をかけたくないと思ったから。 「‥ほんとう?」 と、立ち上がった私の服の裾を優太が掴む。 「えっ?」 「ほんとうかよ?」 合った瞳が、震えていた。 私の答えを聞くことを、恐がっているかのようにも感じた。 「‥大好きだよ。本当に。」 その視線を合わせたまま、自分の気持ちを口にする。 不安にさせちゃったね。 ダメな先生だね。 「もーいーよ。許してやるよ!」 強きな態度。 けれど、俯く顔がほんのり赤く染まっている。 「‥許してくれるの?」 「そうだよ。」 「ほんとに?」 「そうだよ!」 やっぱり子どもは不思議だな。 けれど。気が、楽になる。そんな気分になって、笑みがこぼれた。 「ありがとう、優太。」 ありがとう。 嫌がる優太を無理矢理抱き締めて、高く抱げる。 初めて。優太は、私よりも大人なんだと感じた。 まったく‥。 その成長の速さには、驚かされてしまうよ。
■9485 / inTopicNo.53)  34 □投稿者/ 菜々子 一般♪(45回)-(2005/05/15(Sun) 22:21:46) 「おっ許してもらったか?」 ドアの向こうから、清水さんのからかう声が聞こえてきた。 「えぇ、まぁ一応。」 あえて素っ気なく。 本当は"良かった"と心から安心していたけど。 「顔、ニヤけてるけど?」 フッと鼻で笑われた。 すかさず私はムスッと顔を歪める。 「んな顔すんなって。でさ、気分いい所悪いんだけど‥」 「なんですか?」 「亜紀、今日休みだって。」 えっ‥? 亜紀の名前が出た途端、 ちっぽけな私の心が揺れた気がした。 「ってことで、最後まで宜しく。」 清水さんは困ったように笑うと、優しさに溢れた手を私の肩にかける。 「‥わかりました。」 「飲みに行くのは、そのあとで。」 ポンポンと二三度、肩を叩くと、そう言い残し教室を後にした。 風邪だ。きっと。 そう、自分に言い聞かせる。 休みなんて誰にでもあるだろう。 ‥けれど。昨夜見せた亜紀の悲しい笑顔。 思い出して。 胸が苦しくなるのは何故なんだろう。
■9509 / inTopicNo.56)  35 □投稿者/ 菜々子 一般♪(47回)-(2005/05/16(Mon) 23:06:39) ‥お姉さん、遅いなぁ。 おにぎりを食べてからも、私はお姉さんの部屋に居た。 この幸せな気持ちで学校に行くのは、もったいない。そんな感じがしたから。 で、お姉さんの帰りを待っているわけだけど。 「遅いっっ!」 早く逢いたいのに。 逢って抱き締めてもらいたいのに。 お姉さんが帰ってくる気配はなくって。 「今日早番なはずじゃーん。何で帰ってこないんだよォ‥」 なんて一人でブツブツ。 「どーしよ。」 帰ろっかなぁ。 そう思い、バックに物をつめ始めた瞬間。 ―ブー― っと。古くさい音のインターホンがなった。 「あっ☆」 お姉さんが帰ってきた☆なんて疑いもせずに思い。 駆け足で玄関の扉を開ける。 「おかえり☆な‥‥さい?」 よーく考えて。 お姉さんだったら、鍵あるもんね。 わざわざインターホン鳴らしません。 と言うことに気付きました。 で、私の目の前に立っていたのは知らない女の人。 開けてしまってからでは、もうどうにもならない。 他人と話すのは苦手なのに。 「あれ‥ココ木村さんのお宅じゃありませんか?」 どうしよ‥。 どう対応すればイイのか分からない。 しかも‥美人だ。 ドアノブを握り締めたままの私の手。 開いた口が塞がらない。 「ねぇ?」 彼女は不思議そうに首を傾げる。 「あっはい!そうです!」 明らかに挙動不振な自分。 クスッと笑われてしまった。 「良かった。柚羅はいます?」 お姉さんを"柚羅"と呼ぶその女性は、 綺麗な長い茶髪に、綺麗な瞳。 筋の通った鼻と、形のいい唇。 「あっ‥まだ仕事で‥。」 「あら‥そう。」 おまけに声まで透き通っている。 彼女は残念そうにそう言うと、ジッと私を見つめた。 「?」 「あなたは?」 ‥どうしよう。 他人と話すのは苦手だ。
■9523 / inTopicNo.57)  36 □投稿者/ 菜々子 一般♪(48回)-(2005/05/17(Tue) 20:47:44) 「はーい。さよなら。」 最後の子のお迎えがきて、私は笑顔で手を振る。 一人足りないだけで、仕事の量はかなり増える。 「んーっ。」 疲れた方を自分の手で優しく揉む。 右・左・右。 「あー終わったー」 教室に戻ると、清水さんが床に寝転んでいた。 起きる気力もないのか、寝たままで。 「どうします?行きますか?」 見るからに、かなり体力を消耗した模様。 お疲れさまです。 「行きたいー!」 チラッと私のほうを見た彼女は、子どものようにジタバタし始める。 「わかったわかった。わかりましたから。 じゃあ行きましょう?」 少し呆気にとられたが、 思わず笑ってしまった。 清水さんは人を笑顔にするのが巧い。と改めて思う。 「でも疲れたー!」 「どっちですか‥」 「んー‥行く!」 まるで甘えてるみたい。 なんとなく、私との会話のやり取りを楽しんでいるようにも感じた。 変わった人。 「よっ。」 と、清水さんは起き上がり、ニコッと笑った。 「さて、行きますか☆」 そう言い、そそくさと教室を出る。 私はその後ろをついて歩く。 歩きながら。 話って何なのか‥。 予想はつくけど。 どうやって言葉にすればイイのか。 その答えを探していた。
■9537 / inTopicNo.58)  37 □投稿者/ 菜々子 一般♪(49回)-(2005/05/18(Wed) 20:13:37) 「あーえっと‥」 言葉につまる。 「あなたは?」なんて問に、どう答えればいいんだ。 ‥言葉が見つからない。 どうしたらいいのかわからずに、目の前の女性を見上げると。 彼女は薄らと笑みを浮かべていた。 「友達‥にしては歳が離れているわね。」 まるでからかうような視線。 「恋人、かしら?」 そう言って長い指を私の胸の真ん中へ立てると、 「当たりでしょ?」と言うような目をむける。 ドキッとした。 「‥違います。」 何にドキッとした? わからない。けれど答えは正しい。 「本当に?」 本当? ねェ‥あなたが私を、お姉さんの恋人だと思うのはどうして? どうしてそんな風に思うの? 「‥違います。」 そう。私は恋人じゃない。恋人ではない。 自分の声が、消え入りそう。弱々しく響いている。 「そうなの。」 彼女は困ったように笑うと、指をそっと撫でおろした。 前にお姉さんが言っていた事が頭をよぎる。 『一度だけ恋人がいた時があったよ。』 酔っ払ってた。 笑ったフリをしていた。 悲しい瞳をしていた。 何でこんなに綺麗なのに、恋人がいないんだろうって疑問だった。 「‥あなたは?」 一体誰なの? ダレナノ?
■9578 / inTopicNo.59)  38 □投稿者/ 菜々子 ちょと常連(50回)-(2005/05/20(Fri) 21:59:48) 「‥今暇?」 彼女はスッと息を吸い込むと、内緒話のように声を潜めた。 「えっ?」 「おなか、すいてない?」 半ば強引に私の腕を掴むと、耳元にその綺麗な形の唇を寄せる。 「ご飯食べに行きましょう?」 甘く、甘く囁かれた。 戸惑う自分。 返事もしないうちに彼女が私の背中を押した。 「準備して。」 ニコリと笑うと、扉の前で腕を組む。 チラっと時計を見てから。 「5分でね。」 「えっ?」 何だ、何だ。 私は「行く」と一言も言っていないのに。 けれど彼女は私を待っている。 「‥。」 少し悩んで。少し呆れた。 バックの中に、持ってきたものをつめ直し息を吸い込む。 サイドテーブルに置いたままの鍵を握り締めてから 「‥できました。」 扉のむこうの彼女に言った。 「もう?早いわね。じゃあ‥行きましょうか。」 少し微笑むと、歩き出した彼女。 私も玄関を出て、お姉さんの部屋の鍵をしめる。 ―ガチャ― 静かな闇に鍵音が響く。 夜の風はまだ冷たい。 駐車場に行く前に、管理人さんの部屋に寄った。 もちろん、鍵を返すために。 そんな私を、彼女は不思議そうに見つめていた。 不安。 好奇心。 不安。 二つの思いが私の胸をかき乱す。 けれど、黙っていたってどうにもならないから。 私は彼女の後ろを歩いて行った。
■9629 / inTopicNo.60)  39 □投稿者/ 菜々子 ちょと常連(51回)-(2005/05/22(Sun) 20:48:01) 「で、どうよ?」 「だから何がですか‥。」 さっきから、ずっとこの調子。 今日は清水さんの行きつけのバーで、いつもの居酒屋とは違った雰囲気。 カウンター席に、私と清水さんは並んで座っていた。 「あたしに隠し事する気?」 薄暗い、オレンジ色の照明が店内を照らす。 いまいち、彼女の表情が読み取れない。 「別に話すような事じゃないと‥。」 正直、何を話せばいいのかがわからないから。 「悩んでるくせに。」 だろ?みたいな目をしながら、淡い水色のカクテルを口に運ぶ。 「亜紀のこと、でしょ?」 そう言って首を右に傾けて見せる。 うーん―‥ 「まぁ‥はい。」 答えた笑顔がひきつってしまう。 「好きなの?」 ストレートな質問。 なんて答えればいいんだ。 戸惑い、答えられない私は目の前のグラスをつついた。 「まだ引きずってるんだ?」 疑問系。 しゃれた感じのBGMがやけに耳に響く。 覗き込むような清水さんの瞳とこの店の雰囲気が。 何故か私を切なくさせる。 「引きずっているつもりは無いんです。」 うん。と心の中で頷く。 自分の中では整理できたはずだから。 でも‥ 「携帯が鳴るたびに思い出しちゃうんですよ。」 来るはずがない電話。 わかっているのに。 そう言ってかわいた笑いをあげる。 ソレを見て清水さんは困ったように笑うと、 「まだ綾香の事が好き?」 またまたストレートに。 私は少し悩んでから、赤く光るグラスを口に運ぶ。 「‥よくわからないです。けど‥」 グラスを置き、小さく息を吸う。 「けど、何?」 「綾香を思い出すのは‥辛い。」 それが正直な気持ちで。 胸が、苦しくなる。 綾香を思い出すたびに、私の心は乱される。 私の愛しかった人。 綾香は もう何処にもいないから。 (携帯)
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