■18565 / 10年間 -プロローグ-  
□投稿者/ sakura (2007/04/09(Mon) 03:08:59) 

・・・確かに。 元々、どちらかといえば、女の子の方が好きだった。 最初にテレビであこがれた芸能人は、たしか幼稚園の時。 しかも、あの、白いドでかい羽を広げて日本語で歌う外国人(笑) 男の子に恋をしたような気もする。 確か、小学校2年生の時。初めてチョコを渡した。 でも、周りにつられて。なんとなく、自分もそうしなきゃ!・・・みたいな。 どうしようもなく目がいってしょうがなかったのは、小学校4年生の時。 音楽の先生にヒトメボレした。 ものすごい厚化粧のオバチャン(笑) でも、「先生のことがとっても好きです」という手紙を 誰もいない早朝、職員用の下駄箱につっこんだ。 ・・・なんつ〜アグレッシブな小学生(笑) 授業中、それぞれがリコーダーをピーヒョロ吹いていると、先生があたしに耳打ちした。 「放課後、音楽室においで♪」 そんで、先生から、なにやらラブレター(?)のお返事(??)をもらった。 大人になっても、先生とは今でも会っている。 いかがわしい関係は一切ない(苦笑)。 中学生になって、またしても音楽の先生にヒトメボレ。しかも当時28歳♪ その先生に会いたいがために、合唱部に入部した。 結局、私を音大の附属高校に進学させるやらなにやらで、その先生とは完璧な 「師弟関係」に。恋もへったくれもなくなった。 中学3年の時に、初めて男の子と付き合ったけど、何となく冷めてたし、すぐに 飽きてしまった。 音楽の道には進まないことを決意したとたん、美人な音楽教師とも疎遠に。 彼女は今は2児の母という噂をきいた。 高校に入ってまもなく、「大人の男」というのと付き合ってみた。 数学の先生だった。なぜにまたしても教師(笑) 高校2年生にして、初体験というものを済ませた。 「ふ〜ん・・・こんなもんか・・・」と思った。 その頃、女の子の後輩に告白され、なんとなくイチャイチャすることになった。 初めて誰かといることが楽しい!と思えた。 女の子の唇はやわらかかった。くすぐったかった。 でも、抱きしめて、軽くキスをするだけ。ただそれだけで楽しかった。 結局、ものすご〜〜く遠い大学に進学することになって、その子ともそれっきり。 結構、恋愛経験は、それなりに場数を踏んでいる。 そう思っていた。 大学生になるまでは。 人を好きになることの「苦しさ」を知らなかった。 大学生になるまでは。 たった一人で、初めて訪れたこの場所で。 思春期から大人になっていく真っ最中の時の流れのなかで。 まぶしい緑の大地で。 真っ白な冷たい風のなかで。 おだやかな青い凪の前で。 出逢ってしまった。 ひとつにとけてしまいたいと狂おしく思うほど 心の底から愛する人に。
■18566 / inTopicNo.2)  10年間 -19の春- □投稿者/ sakura @ 一般♪(2回)-(2007/04/09(Mon) 09:17:33) アタシ・・・斉藤亜紀。 この春から、北斗大学医療福祉学部の新入生♪ ちっちゃい頃から、いっつも病気ばっかりしてた。 だから、病気の人の力になりたいっ!って思ってた。 さすがに病弱すぎて、医学部も看護学部も歯学部も薬学部も「体力的に無理」 ってみんなにキッパリ言われ(泣)。 いろいろ考えて、「医療ソーシャルワーカー」という職業を目指そう!って決めた。 そんなわけで、むちゃくちゃ難関といわれるこの大学に来た! ヒャッホ〜!!がんばったじゃんっ!アタシ! 実家から電車→モノレール→飛行機→電車→で1人暮らし。 ある意味「海外」だよね、ココ(笑) まぁ、初めての1人暮らしは不安もいっぱいだけど、なんとなく開放感に満ち溢 れていて、期待と不安とがグルグルする毎日。 とりあえず、夢を叶えよう!!って一生懸命勉強してみたりなんかして。 大学生になってから1ヶ月くらいたった頃。 札幌は「一番過ごしやすい」季節らしい。(道民じゃないから、よくわかんない) 「斉藤さ〜ん」 大学のやたら長い廊下の奥で、誰かがアタシを呼ぶ。 「ほえ?吉野先生?」 「ちょっときなさ〜い」 ・・・今からお昼ご飯なんですけど・・・という言葉を飲み込んで、教授の部屋 にパタパタ駆けていく。 「あなた、精神科に興味ない?」・・・部屋に入るなりいきなり吉野教授が1枚の 書類をアタシにくれた。 「・・・は?せ、せいしんかデスか?」 書類には、『桜庭病院:デイケアのご案内』って書いてある。 デイケア・・・?なんだそれ? 「私の研究会にきてるスタッフがね、デイケア手伝ってくれる学生が欲しいって」 「で、で、で、・・・・・でいけあってなんデスか?」 「う〜ん・・・行けばわかるわよ♪とりあえず、行ってきてくれる?」 ・・・吉野教授・・・先輩から「超ゴーイングマイウェイな人」って聞いてた けど・・・こりゃ断るわけにはいかない雰囲気だなぁ・・・ 「わ、わかりまヒた。と、とりあえず行ってみますデス」としか言えないアタシ。 ・・・断ったら、なんとなく今後の学生生活に暗雲がたちこめそうな気がした(笑) そんなわけで、講義をいれてなかった水曜日。 汽車を乗り継いで、桜庭病院へ。 川沿いの静かなところにたつおっきな病院だった。 受付で「でいけあ」とやらをやっている場所へテクテク歩いていく。 ・・・どんだけ廊下長いんだ・・・この病院。 奥に奥に進んでいくと、中庭があって、その向かいに小さな建物があった。 《桜庭病院:デイケアルーム》 「ほへ〜〜〜。あったあった・・・。」 リースがかかっている白いドアを開けて、中を覗き込む。 「・・・あの〜・・・北斗大学からきましたぁ〜〜ボランティアの者ですが〜〜」 奥から、白衣をきた、ちっちゃな女の人がでてきた。 「・・・吉野教授の?」 ・・・なんかこの人、こえぇ・・・ 「は、はいっ!斉藤亜紀ですっ!よ、よろしくお願いしますっ」 慌てて頭をペコペコ下げてみる。・・・なんか怖いよぉ・・・ 白衣をきたちっちゃな女の人は「じゃ、こっちにきて」とヒトコト言って、 くるっと背を向けて、奥の部屋に入っていこうとする。 白衣着てるってことは、やっぱお医者さんなのかな?「こんにちわ♪」くらい 言ってくれてもよくない?こ、怖すぎる・・・ なんて思いながら中に入っていくと、ちっちゃな女の人がくるっとこっち向いた。 「ここの担当してます、精神科の永野睦月です。」 蛇ににらまれた蛙のように、冷や汗がタリタリ流れる。 「よ、よろしくお願いします・・・」 なんて愛想のない・・・精神科のお医者さんって、みんなこうなの? んも〜・・・早速辞めたくなってきた・・・ アタシと睦月の出会いは、本当に最悪だった。 でも、こうして、アタシと睦月は出会った。 リースがかかった白い扉を開けた瞬間から、アタシたちの運命は動き出した。
■18672 / inTopicNo.3)  10年間 -19の夏- □投稿者/ sakura @ 一般♪(3回)-(2007/04/17(Tue) 22:59:46) −19の夏− 桜庭病院のデイケアにアタシがボランティアとして通うようになって3ヶ月。 さすがに北海道といっても、やっぱし夏は暑いんだなぁ〜〜 駅から病院への道をテクテク歩いていく間にも、汗がつ〜っと流れていく。 「こ〜んにちわっ☆」 リースがかかった白いドアを開けると、いつものメンバーが黙々と作業をしている。 「あっ!!亜紀チャンだ〜!こんにちわ〜〜!」 最初は、「相手は『患者さん』なんだ」と思って、怖いやら緊張するわでオロオロしてたけど、もうだいぶ慣れてきた。 「ん〜っと・・・今日はコッチ、手伝いますねっ」 デイケアのことも、いろいろわかってきた。 ん〜・・・まぁ、ヒトコトでいうと「リハビリ」みたいなもん? 料理とか、工芸とか、みんなで運動したり、話し合いをしたり・・・ とにかく、いろんなことをやって、「社会生活」というものに慣れるのが目的だそうだ。 ・・・やっぱアタシ、わかってないかも・・・。 メンバーさんたちと一緒に皮細工をしていると、背後から聴きなれた声。 「・・・今日は私はこっちにいるから。」 でたっ!永野先生だ!! 永野先生は、ここの担当のドクターなんだけど、とにかくコワイ。 何かわかんないことを聞こうとしても「そんなのも知らないの?」的な目でジ〜〜っとこっちを見るだけ。 ・・・ううぅ・・・やっぱりこの先生、苦手だぁ。 極力、話さないようにしよう・・・アタラズサワラズっていうし・・・ 「さん・・・斉藤さん・・・ちょっと!斉藤さん!」 え?アタシ?ちょっとぼ〜っとしてたっ。。。 「はいっ?!何ですか??」・・・振り向いてギョっとした。 「・・・斉藤・・・さんでいいのよね?」 永野先生だった。 「は・・・はははっ・・・はいっ!そうででです!」 「・・・ちょっとこっち手伝ってほしいんだけど」 おわ〜〜〜!よりによって永野先生・・・まさか「イヤです」なんて言えるわけもなく(ToT) 「はいっ!わ、わ、わかりましたっ!」あわてて奥の部屋へ向かう永野先生を追いかける。 ・・・どうしてこんなに胃がいたいんだ?・・・はぁ。 デイケア室の奥に、小さな部屋があって、机と椅子が二つ、二人くらい座れそうなソファー、本棚が置いてある。 う〜ん・・・診察室みたいなカンジ?そういえば、ここ入るの初めてかも・・・ キョロキョロしていると、永野先生が「ちょっと!このダンボールおろすの手伝ってちょうだい!」と本棚の前に脚立を置いて登っている。 ・・・アタシ、「ちょっとっ」って名前じゃないんですけど・・・(−−;) それから1時間くらい、書類やらファイルやらの整理を手伝わされた。 なんかおしゃべりするわけでもなく、ただ黙々と。。。 汗はタラタラ出てくるし、なんか気まずい空気だし・・・最悪。 「これで終わり。もう、あっちに戻っていいわよ」 そ、それだけですかいっ!ちょっと〜・・・ 「ありがと☆」とか「ごくろうさま♪」とか言えないのか?この人! なんだか妙にぐったりしてデイケア室に戻ると、みんなでお茶を飲んで休憩中だった。 「むっちゃん先生にコキ使われた?」ナースの根本さんがクッキーをくれた。 「むっちゃんセンセイ??あ。永野先生ですかぁ?・・・・・」 「相当働かされたな。」メンバーさんたちが『かわいそうに』という目で同情してくれる。 「むっちゃん先生、学生にはホントに厳しいもんねぇ・・・。何人が去っていったことか・・・」 「ええぇ??学生キラーですかっ?!ど、ど〜しよ・・・」 「大丈夫だよ〜。亜紀ちゃんと先生は、案外気があうかもよっ☆」 メンバーさんたちもニコニコしながらうなづいている。 ・・・んなわけないじゃんよぉ・・・吉野教授の命令(?)じゃなかったら、とっくに逃げ出してるよぉ・・・ 麦茶をゴクっと飲んだら、また胃がキリキリした。 「斉藤さんっ!来週、朝早くからこられるかしら?」 背後で永野先生の声がした。 「うわわっ!あ、あさですか??た、たぶん、だいじょうぶだとおも・・・」 「じゃ、8時半に。カギはもう開いてる時間だから。」 永野先生はそういうと、デイケア室の白いドアから勢いよく出て行く。 「・・・・・」あたしは口をポカーンと開けてただそのドアを見つめていた。 「ぷっ。亜紀ちゃん、すっかり気に入られたなっ」根本ナースがアタシの方をポンポンと叩く。 そ・・・そんなぁ・・・。 アタシが教授から頼まれたのって、実は永野先生の助手?秘書?お手伝いサン? 頭がクラクラしてきた。 この胃が痛い日々、いったいいつまで続くんだろ〜〜! 暑さと緊張感と、胃の痛みと・・・なんだかいろいろで、疲れた。。。 やっぱ、あの先生、苦手だぁ・・・ つ〜か、ちょっとばかし美人だかなんだかしらないけど、何様なのよ!学生だからって、バイトできてるわけじゃないんだからっ!アゴで使うのやめてよね〜! んも〜〜〜!!!なんなの!あの人! いつまでこの「コキ使われ」が続くのか・・・と思うと、気が遠くなりそうだった。。。
■19146 / inTopicNo.4)  10年間 -19の秋- □投稿者/ sakura @ 一般♪(2回)-(2007/05/27(Sun) 03:34:46) −19の秋− 札幌の秋は短い。 なるほど、どうしてこっちじゃ10月に体育祭だの運動会だのしないのかわかった!!・・・既に寒いもんね(笑) 夏休みは実家でのんびりして、それから初めての試験が終わって、大学の講義も「後期」の日程に入っていた。 後期は木曜日が一日フリーになるように講義を組んでみた。・・・意外と1年生ってヒマかも・・・。 そんなわけで、桜庭病院に通うのも、木曜日に変更。 ・・・つ〜か、後期も永野先生にこき使われまくり決定?めげずについていくアタシも、たいしたもんだと思う。。。 吉野教授が、いったいぜんたい何をやらせようとしたのかはいまだにナゾ。 でも、相変わらず朝早くから桜庭病院に行って、永野先生のお手伝いからボランティアの一日ははじまる。 「これとこれの記録をこっちのシートに写して」 「これ、届けといて」 「ここ、片付けといてくれる?」 ・・・はあぁ。完全に「秘書」状態。。。 なんでこんなことしなくちゃなんないの〜〜???ってカンジの午前半日。 午後になると、メンバーさんたちとあれこれ作業をしたりするんだけど、お昼ご飯食べてるといつもため息がでてくる。 「亜紀ちゃん、大丈夫?なんかタマシイ抜けてるよ?」 メンバーさんたちが心配してくれる。 「・・・永野先生のお手伝いって、ホントに胃が痛いんですよ〜〜・・・なんか、いっそのこと『バイトにしてくれよっ!』ってカンジです・・・」 ちょっとグチグチいいながらおにぎりを食べてたら、根本ナースがコクコクうなづく。 「むっちゃん先生の秘書だもんねっ!亜紀ちゃん(笑)」 「なんでこんな目に・・・あうぅ。」 「でもさ〜、むっちゃん先生とこれだけ長いこと付き合わされる学生さんって、今までいなかったかも。」 「ええぇ??マジですかぁ?なんでアタシ・・・?」 「う〜ん・・・『使い勝手がいい』んでしょうね、たぶん。」 根本さんがなんとも言えない同情の目をアタシにくれる。 「それにしたって、永野先生、厳しすぎるんですよ〜!秘書ってか、奴隷??全然笑わないし、おしゃべりもしないし、午前中はいっつも胃がキリキリしますよ〜」 「・・・胃薬でも出しとく?」 背後から声がして、ギョッとした。 「なっ・・・なななっ・・・ながのせんせえぇぇ!」 おにぎりが鼻から出そうになった。 「今日から、午後はプログラムに参加してもらうわ。ちょうど木曜日だし。1時半になったら、ミーティングルームに一緒に入って。」 永野先生はそれだけ言うと、またしてもカツカツどこかへ行ってしまった。 「おぉっ!亜紀ちゃん、いよいよ訓練デビューかぁ。めずらしいねっ1年生で訓練にいれてもらえるなんて!」 「くんれん・・・なんですか?それ?」 一緒にお昼を食べていたメンバーさんがニコニコしながらアタシに教えてくれる。 「おもしろいよ〜!永野っちなんか『まるで別人』なんだからっ」 別人?よくわかんないまま、アタシの「訓練参加」は始まった。 ・・・なんぢゃ、これ?! どうも、リハビリの一種みたいなんだけど。 それより何より、目の前でニコニコ、元気よくペラペラしゃべってるあの医者、だれよっ?! これまで見たことのない永野先生だった。 目がすごくキラキラしてて、ものすごい大きな声でしゃべってる。 「今の雰囲気はすごくいいよっ!もっと笑ってごらん!」 「みんなはどう思う?」 「いい感じ!さっきの話し方より、だんぜんこっちの方がいいじゃないっ!ステキよっ!」 ・・・アタシはまたしてもあいた口がふさがらなかった。 訓練が終わって、アタシは永野先生あのちっちゃな診察室で二人きりになった。 「これから、斉藤さんには今の訓練に毎週入ってもらうから。」 「へっ?アタシがですか?」 「そう。とりあえずこれとこれ、これも読んでおきなさい。しっかり勉強するのよ。」 先生は重たい本をアタシにずっしり渡した。。。なんでこんな目に。。。 「が、がんばりますうぅぅ・・・」なんか、もう、泣きたくなってきた。。。 途方にくれるアタシをみて、永野先生はアタシの頭をくしゃっと撫でた。 「あなた、頑張り屋さんみたいだから。大丈夫よ。しっかり指導してあげる」 先生はそういうと、アタシの目をしっかり見つめて、笑った。 ・・・初めてアタシに見せてくれた笑顔。 さっき見た時みたいに、すごくキラキラした瞳だった。 思わず、アタシも「やってみますっ!」って勢いよく返事をして、笑った。 ・・・でも、次の瞬間、また胃が痛くなってきた。 ・・・このずっしりした本、全部読むの〜〜??? どうなるの?アタシの学生生活?
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