■11068 / inTopicNo.1) 紅茶 □投稿者/ 疾風 一般♪(1回)-(2005/07/20(Wed) 00:12:50)
彼女はいつだってわがままだ。私の意志なんてお構いなしで、強引で。 だけど私は、そんな彼女から離れるなんてことはできはしないのだ。 「ね、これおいしいから飲んでみて」 そう言われて差し出された紙パックに、私は疑いもせずに口をつけた。 3・2・1。 「まずっっ!!」 イチゴジャムをそのまま薄めたような味の紅茶に、思いっきり眉をしかめる。 「あ、やっぱり?」 ケロリとして私の手からパックを奪うと、どうしたものか、と悩みはじめた。 「やっぱり、もったいないから飲むべきよね」 私は眉をしかめたまま、頷かなかった。 「ね?」 同意を求める彼女。 いやな予感がした私は先手をうった。 「自分で飲んでよ」 「…そりゃまぁ、あたしが買ったんだし」 微妙にあいた間が気になる。 「それより、急がないと電車出ちゃうよ」 「そうね。そのためにはコレをなんとかしないとね」 …なんだかイヤな流れだ。「なんで?飲みながら行けばいいじゃん」 「急ぎながら飲むのはできないのよ」 「…じゃ、乗ってから飲めばいいじゃん」 「電車での飲食はしない主義なの」 「……。」 つまり、私に飲め、と。 「発車まであと六分。ここからだと急いでも四分。二分でコレを飲みきる。この500ミリリットルを」 ミリリットルをやけにはっきり発音して彼女は言った。 「二分あれば飲めるよ」 「あ、いいこと考えた」 私の意見をまるで無視して、彼女はストロベリーティーを口に含んだ。 そして私の腕を掴んでぐいっと引っ張る。 まさか。 …まもなくドアが閉まります。駆け込み乗車は… ドアが閉まる直前に滑り込んだ私たちは、肩で息をした。 「間に合ったね」 「……」 私は答えずに黙って彼女を見た。 それから走ったせいだけではなく赤くなった頬を押さえて、彼女から視線を外した。 見なくたって、彼女がどんな顔をしているのかわかる。 いつもの、あの余裕の微笑みで、私を見ているんだろう。 甘いストロベリーティーの味は、しばらく消えそうにない。 完