■外伝 第11章 1 
□投稿者/ 昴 2008/05/05(Mon)


前任のメイド長であるマキさんの指導を受けて1年 四季折々の 様々な行事のこと等の引き継ぎを終えて 清々しいほどあざやかにマキさんはこのお屋敷を去って行った 【引き際の美しさ】と言う いずれ私にも訪れる課題を 最後の最後に与えられた気がした 研修期間が終わろうとしていた或る日 病床の父のもとへ呼ばれた 父に逢うのはご主人様にお世話になって以来初めてだった 『久しぶりだな。元気にしていたのか?』 「ご無沙汰してます そっちこそどうなの?」 現代の医学では治せない病気で余命は僅かだと言う話だった 『お前に話さなければいけないことがあるのに お前に会わせる顔がなくてな』 『ずっとお前に申し訳なくてな』 病気のせいだろうか? 十数年振りに会う父は随分と気弱に涙もろくなっていた 「私の方こそごめんなさい ああやって飛び出した手前かな? なんか敷居が高くてね」 あの頃にはこの人達を怒り恨みもしたけれど 今はもうそんな感情もない 「それより何なの?話しって」 この人の心残りを聞いてあげることが きっと最初で最後の親孝行になるんだろう 『それなんだがな あのお方はお前を使って儂(わし)に復讐をしていらしたかもしれないんだ』 記事No.17833 のレス / 返信ページ / 関連記事表示 削除チェック/ ■20942  外伝 11章2 □投稿者/ 昴 -(2008/06/23(Mon) 01:54:18) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 『あれはまだ儂の会社の景気が良かった頃なんだが まだ母さんにも出会ってない頃だ あのお方の若い頃はそれは綺麗でな 儂も若気の至りだったんだろう あのお方と一夜限りでもと策を労したんだ 商談を装ってな お前が心配するようなことは何もない あのお方に勘づかれて逃げられてしまったからな それからもあのお方の会社と取引は続いたんだが 取引の度に儂を蔑むような目で見られて 強気な数字を提示されたよ 吸収合併の話の時にお前をと望まれて 儂にはもうそれに抗う力などなかった 儂のただの邪推だといいんだかな お前の人生を台無しにしてしまったな すまない 許してくれとは言えんが』 話を聞いても私は確信していた 本人の言う通りにただの邪推だと それに私は私の人生を台無しにされたなんて思っていない 「大丈夫よ心配ないわ 私 この生き方に後悔なんかしてないから 愛純様に出逢って 愛純様を支えて生きて行けることを幸せだと思ってるから 父さんありがとう 私に生を与えてくれて 私に愛純様と出逢わせてくれて 嫌味で言ってるんじゃないのよ 本当に心からそう思っているの 愛純様を愛しているのよ私」
■21058  外伝 11章3 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:15:17) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 父に会いに行って数日後 父はこの世を去った 長年の重荷を下ろした後のような穏やかな最期だったと聞いている 十数年離れていたせいか感慨はあまりなかった 私にはしなければならないことがある 後ろなんて振り向いてはいられない 日々の生活の中で 全てのことに愛純様を最優先にして ただ愛純様を最優先にして そして十余年経った その日 私は病床のご隠居様(薫様)のもとに呼ばれた 『ごめんなさいネ真実 こんなところに呼び付けて どうしても貴女に話しておきたいことがあったの』 なんでしょうか?と近付いたご隠居様は出逢った頃よりも 一回りも二回りも小さく感じた 『今更なんだけどね 貴女、今の生き方に後悔はない?』 本当に今更だと心の中で思ったけど 真っ直ぐに真摯な瞳で微笑む 「もちろん 何の後悔もありません ただ一つ気掛りがございますので 宜しければお聞かせ頂くと嬉しいのですが」 ご隠居様は眼差しで頷かれた 「以前 まだ私の父が母と出逢っていない頃 ご隠居様に父が邪な事を企てたことがあって そのことがご隠居様が私をお選びになられたことの一因ではないかと 亡くなった父が最後に申しておりましたので」 あの時は父の話をただの邪推だと一蹴したけれど 聞いてしまえば気にならなかったと言えば嘘になる
■21059  外伝 11章4 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:16:53) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 「父もただの邪推だろうと申しておりましたし もちろん私もご隠居様のお傍にお仕えさせて頂いて ご隠居様のお人柄を存知上げておりますので 父の申します通りただの邪推だと信じておりますが」 ご隠居様は暫く記憶の糸を手繰っていらした 『ああ そう言えばそんなこともあったかしら? あまりハッキリとは印象にないわね ちょうどいい機会だわ 今日、話したいこととは そのことにも少しは関係のある話だから』 ご隠居様はベッドサイドのスイッチで上体を起こされた 『真実も知ってる通り 私は女性しか愛せないわ 心も躯も だから私が母から受け継いだ会社を 私の代で終わらせてしまうだろうって ずっと覚悟していたのよ だけど本当に愛する女性に出逢って 少しややこしい方法は取ったけれども その女性が私の子供を産んでくれた だからこそ花純と愛純の二人は 私にとってはかけがえのない人 何があっても守りたい存在なの 真実 貴女のお父様の会社に合併の話をしに行った時に お父様の机に飾られた貴女の写真を見て 写真の貴女の強い意志を感じさせる瞳を見て このコが娘の傍にいて ずっと娘を支えくれればいいのに そう願ったのよ』 ■21060  外伝 11章5 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:18:15) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 『だからいろんなことを貴女を通して 愛純に教えたかった 男性に触れられたことのない女性に 愛純に触れて欲しかった ただの親バカなのよ 笑ってくれていいわよ』 自嘲気味な微笑みを浮かべていらした 『貴女は私の期待以上だった 何よりも 心から愛純を愛してくれた ねぇ真実 これからも愛純の傍にいてやって』 確かにご隠居様には沢山のことの手ほどきを受けた 愛純様が誠さんと初めて旅行に発たれた時に 何もかも忘れさせて頂いて以来 ご隠居様が私に触れることはなかった それからは私の部屋にいらしても お茶を飲んでお話をして行かれるだけだった 愛純様のことをお話しさせて頂くと 目を細めて聞いていらして 愛純様を愛していらっしゃることを実感していた 「お任せ下さい 私の意志として ずっと愛純様に仕えさせて頂きます」 コンコン ご隠居様とのお話を終えようとした頃 『もうお話は済んだのかしら?』 奥様(花純様)が病室にいらした ご隠居様の微笑みは一層に柔らかくなられた 『ええ、ちょうど済んだところよ』 「お邪魔しました 失礼致しました」とお二人のいらした病室をあとにした
■21061  外伝 最終章1 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:19:46) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ いつまでも、ただの甘えん坊だと思っていたのに すっかり社長が板について来て 貴女がたまに見せる表情に 出逢った頃のお母様を思い出して 思わずドキッとする時があるのよ 貴女にはまだ内緒だけど ネっ♪愛純 貴女はちょうど出逢った頃のお母様と同じ年頃になった 高校に通っていた頃に行って以来 誠さんとの年に一度の旅行は 誠さんが嫁いだ今も ずっと変わらずに続いている それはきっとお互いの身内にとっては ただの年中行事だけど 誠さんのお子さんが あの財閥とあの銀行の中枢を担うようになり そして誠さんのお祖父様が亡くなり 誠さんのお父様が引退されて その株を受け継いだ誠さんは いつしか意図することなく 財界に大きな影響を与えるようになっていた そして、その誠さんと旅行に行くことが 私達の会社のステータスになり 株価が上がって業績は上がった それが誠さんの愛純への愛情表現だった あの財閥系の家庭に生まれて あの財閥系とあの銀行系が結び付く為の 政略結婚することが決められていた誠さんにとって 普段は良き妻賢き母を完璧に演じきり 一年のうちでほんの一週間しか自分に正直になれない誠さんの 多分精一杯の愛情表現だった 私は愛純の母として 誠さんには感謝している
■21062  外伝 最終章2 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:20:52) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 今も愛純に仕え 愛純を支えてくれている真実さん 真実さんの話を初めてお母様から聞かされた時は驚いたわ 『真っ直ぐで 強い意志を感じさせる瞳を持つ ちょうど愛純と同じ年頃の少女を見つけたのよ その少女の瞳を見て こういう娘(コ)に愛純の傍にいて 愛純を支えて欲しいと思ったの 無垢な娘(コ)だから 愛することのいろんなことを私自身が手ほどきしようと思うの そういうことをするけど 本当に手ほどきの意味合いだけで 愛しているのは花純だけだから 娘ほどの年齢(とし)の娘(コ)に心を移すなんてことは有り得ないから わかってくれるわよね?』 浮気を公認でしたいと言っているかのような あたふたとして いつもの凛としたお母様じゃないみたいで可愛かったのよ そんなに力説しなくても 何があっても ずっと変わらずに信じているのにね お母様からの愛をいつも感じているのだもの だから愛純が 初めて真実さんを屋敷に連れて来た時はすごく嬉しかったのよ だって私だけ真実さんに会ったことがないなんてつまらないのだもの あの日はあとではしゃぎ過ぎって お母様に叱られたわ
■21063  外伝 最終章3 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:21:45) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 真実さんで嬉しかったのは やっぱり愛純と同じ大学を目指してくれた時かなぁ 真実さんが真実さん自身の意志で 愛純の傍にいることを選んでくれた お母様から真実さんの決意を聞いた時に嬉しくて涙が溢れたわ あれからずっと 真実さんは真実さんの意志で愛純の傍にいてくれている きっとこれからも 愛純の傍で愛純を支えてくれる 私は愛純の母として 真実さんにも感謝している そして真実さんの前にメイド長をしていたマキさん 入ったばかりの何も知らない私にいろんなことを教えてくれた お母様と私を自然に 他のメイド達に反感を持たれないように 優しく取り持ってくれた 二人が愛を育むのを見守ってくれた 私はお母様のことを想ってさえいればいいように 屋敷のことを取り仕切ってくれた 他のメイド達も お母様の幸せを一番に考えてくれて だから私もお母様と一緒に ずっと幸せでいれた この屋敷に関わる全ての人に感謝している 記事No.17833 のレス / 返信ページ / 関連記事表示 削除チェック/ ■21064  外伝 最終章 最終回 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:22:58) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ そしてやっぱりお母様 お母様に巡り逢えて 本当に良かったわ 愛することの喜びと 愛されることの悦びを私に教えてくれた 生きていることの意味を教えてくれた 初めて出逢った日から 私にはお母様が全てだった お母様のことを想う感情は 海よりも深くあるのに 貴女に話したい お母様の思い出は山よりも高くあるのに 湧き上がる感情が多すぎて 上手く言葉にならないわ やっぱり あの人(お母様)は 私よりも年上だから 私よりも先に 逝ってしまった これからはのんびりと 貴女の行く末を見守って行くわ お母様の敷いたレールはもうないわ 貴女が貴女自身の意志で選んで行く道だもの 貴女の隣には どんな人が一緒にいるのかしら? ゆっくりでもいい しっかりと自分の選んだ道を歩んで行きなさい 自分を信じて 私は幸せだったわ あの人(お母様)や貴女(愛純)に逢えて       FIN 記事No.17833 のレス / 返信ページ / 関連記事表示 削除チェック/ ■21065  『あとがき』 □投稿者/ 昴 -(2008/08/10(Sun) 14:24:26) http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 2年3ヵ月の長きに渡り書き綴って参りました 『ご主人様と私』シリーズの終了です 最終章はもう少し話を膨らませたかったのですが 完結することを優先しました 今まで読んで下さった皆様 ご感想を寄せて下さった方々 そして最愛の彼女に出逢わせてくれたこの場所に 改めて御礼申し上げます ありがとうございました 辛口のご意見を下さった方のおかげで 完結に至りましたのでお礼を言うべきなんでしょうね ただ一度 最後まで見守ることを約束した方が完結されたなら そのお祝いにお邪魔させて頂きますが この『あとがき』を最後にこちらでの書き込みも終了させて頂きますので もしご感想を頂けますならHPの掲示板にお願いします http://id34.fm-p.jp/44/subarunchi/ 長い間、ありがとうございました 皆様のご健康を祈って すべての女性に幸せを         昴
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